オーセンスハート

大吟醸

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そんなにもあからさまでお約束な〝しゅちえーしょん〟  前編

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「うん、そうなんだよね。理屈ではそうなんだけど・・・」
「………」
「確かに追われてるのは、ボクだよ?」
「………」
「でも、でもね。考えてもみてよ、あんなところでボクに逢うキミの不運さも……ねぇ」
「………」
「………」
「………」
「………なんか言ってよ」
「―――――――っっっ!!!!!」

もはや限界だった。

「その不運連れて来た張本人がなに言ってやがるっ!!このどチビ!!」
「どチッ!?」
けっこうコンプレックスだったようだ。



これが5分後の世界。いわゆる現在。
結局、ドタバタに巻き込まれて否応無しに追われるはめになった一人のサマナーの青年は
自分より頭二つ分は小さい(多分)ソーサレスの少女を連れて逃げ回り、今は民家の路地に隠れていたのだが

「つか、なんだそれ!!なにが俺の不運さだっ、言うに事欠いて俺のせいだって!?」

追われている最中、四人のファイターに色々な罵声を浴びせられて青年はそれに憤りを感じていた。
『ロリコン』、という単語は青年にとって特に心に刺さった。

青年の怒りの矛先
12,3歳前後の可愛らしい少女は青い瑠璃色の大きな瞳を閉じ
「う~~ん」と悩ましげに唸ってみせる。

「それはまあ、ボクのせいだよ?70%ぐら、い、いえいえっ、ひゃくです!!
100%ボクです、ボクかな、ボクだよねっ」

グーを握ってそれにはぁ~、と息を掛ける青年に少女は慌てて訂正する。
その辺は子供だな、と青年は深いため息をしてもうこれ以上は追求しないことにした。

「で、つまるところ追われてるっていってたけど、どういう事だ?」
「えっとね、話すと長いんだけど、とりあえず…えと、キミっていうの呼びにくいから名前教えて、名前」
「………」

青年は訝しげに考え、

「俺は、カンナギ。宝皇院 巫(ほうおういん かんなぎ)だ」

少女はキョトンとする。
「え、と………かんぬき?」
「っ!!カンナギだ、カ・ン・ナ・ギ。……覚えにくいならナギでいい、仲間内からはそう呼ばれてる」
「あ、それなら覚えられる。ボクはニル、とりあえずはヨロシクね♪」

カンナギは再びため息を漏らす。

「あっ、ダメだよナギ君、ため息なんて。しあわせが逃げていくんだよ?もーっと不幸になるよ?」

(さっそく、『ナギ君』かい…)


ツッコミ所満載の言葉にカチンとくる。

「ハナから不幸だったみたいに言うな。そして話を脱線さすな」

ニルは口を尖らせて渋々と答える。

「はぁ~~~い。う~んとねぇ、追われてるのは誘拐されるんじゃなくって、単に『とられそう』だっただけなんだよね」
「……取られる?」

何を、と言おうとして、それよりも先に
「うん。ボクの〝ポセイドン〟を狙って来たんだよ、いまのひとたち」
「〝ぽせい・・・どん〟?」

言っていることの意味が分からなかった。
それを問いただそうとして、
「なにを言って―――――――」

「いたぞ!!こっちだっ」

野太い声に邪魔された。
「チッ……一つ所に留まり過ぎた。いくぞ……え~っと、ニル」

意外な声の掛け方にニルは豆鉄砲をくらった鳩よろしく驚いた顔をする。

「え……?いくって?」
「なに言ってんだ。なんか知らねぇが取られたくもねぇのに追われてんだろ?だったら俺んとこのアジト来い」
「え、えぇ!?ちょっ・・・ちょっと待ってよ、そんな・・・キミ関係ないのに」

月白のように日に焼けていない小さな両手を振って拒否するニル。
やけに露出の無いぶかぶかの服で精一杯に腕を振って
『いいからはやく逃げて』と困惑する少女にカンナギは、

「るさい、俺は『来るか?』って訊いてんじゃねぇ、『来い』って言ってんだ」
「え、あ、いやでも」
「あ″ぁ、もう!!」

痺れをきらし、カンナギは未だ左右に振り続けるニルの細い手首を掴んで引く。
「ふわぁっ!?」
「チィッ、仲間呼んでやがるな。まずい、街の中じゃ下手に派手なこたぁ出来ないな」
「あ、あの……キミ!!」
「あ?」
「なんで!?」

その質問の意味にカンナギは首だけ振り返る。
少女は今も困った表情で繰り返す。

「なんで!?・・・見ず知らずでしょ、ボクは。それなのにどうして助け―――――――」

「……バカ。ただ、〝あの時〟と同じだから見捨てるわけにいかないだけだ」

「えっ?なんて言ったの、今?」

聞き返してくる少女に、

「なんでもねぇよ、ば~か」
笑ってカンナギは答えた。

笑って
そしてその表情が瞬時に強張った。

「ヘヘヘッ、追い詰めたぜ」

目の前には重武装をしたファイターやレンジャーが十数人は立ちはだかっていた。
(やべっ……てっきり四人だけかと思ってた!!)

人気のいない広場に囲まれた状態で、怯えるニルを背にカンナギは焦った。
が、その一瞬の迷いが災いした。

群がりの中から先走った一人のファイターが飛び出した。
「ハハハ、ハッ、『〝じゅってんじんぎ〟の核石』いただきぃ!!」

そう叫んで
手に持つ凶刃が、迷うことなく振りかぶられる

(やば、避けられな―――――――)
カンナギの頭部めがけて一直線に落とされる片手剣よりはやく、

「あ、ちょーっちごっめんねぇ♪」

場違い極まりないテノールボイスと同時にドリフトターンして突っ込んでくるジープに
狂喜の顔のままのファイターが吹き飛ばされた。

そのいかにもボロい車も、乗っているカンナギと同年代の少女も、カンナギはよく知っていた。

「ミリノっ!?ナイス、助かった!!」
「もうっ、どこほっつき歩いてんのかと思ってたらなに騒動起こしてるのよ」

赤いロングヘアーの似合う少女・ミリノは待ち合わせの相手にそう批判した。

「言うな。こんなの甲斐性だろ、お互い」
ざわめく群がりに一瞥して、
「細かい説明はあと!!とにかく乗って。逃げるわよ!!!」

乗り込む二人の姿に
「ヤベーぞ逃げる気だ。いまのうちに―――――――」
乗り込むと同時にジープが3/4回転する。
「げぇっ、こっち向いた!?」

青ざめるファイター達にミリノはウィンクをして、
「ハァイ♪轢かれたくなかったら」
一気にペダルを踏み込んだ。
「そこ、どいてねっ♪」

猛進するジープ。
停める人間は、
「ひ、ヒィ・・・!!」
だれもいない。

こうして、砂漠の砂を撒き散らして、ジープは遥か彼方で陽炎に紛れて姿をくらました。
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