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第31話 陰険眼鏡のクソ野郎が

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「はあ……はあ……!」

縮地を活用して全速力で道路を走って……森に入ってからまた走って……
僕は息を切らせながらなんとか村にたどり着いた。

「うっ、ゲホッゴホッゴホッ……!」

切れた息を整える。
一息付いて辺りを見回すと、視界はすっかり橙色に染まっていて、夕暮れ時だ。

思えば、今日は朝から今まで動きっぱなしだったな……どうも今日は忙しい日らしい……
流石に体力が……キツイな。

だけど止まってなんかいられない。
村の様子はどうだ……?

「……門番の人が居ない」

入口の静けさに反して、村中央の方が騒がしい。
行こう。



「皆の者!  時が来た!  今宵、敬虔なる邪神の使徒が降臨するのだ!」
「あいつは確かソエラとか言う……」

騒ぎは村の中央で起きていた。
演説用の台に乗ったソエラが何やら小難しい言葉を乱用している。

「そしてご覧頂こう!  彼女こそ、使徒の"器"なのだ!」
「……!  アシュリー……!」

ソエラが右手を振り上げると、信者達が神輿を担いで登場した。
そしてその上には……入院着のままのアシュリーが乗せられている。

どうも……彼女には意識が無いようだ。
薬でも盛られたのか?

「……何する気なんだアイツら!」

僕は信者と村人が混じった群衆を押しのけて前に出ようとした。

「待って下さい!」

だが、僕より先に前に出た人が居た。

「あれは……村長!」
「……どういうつもりだ」

ソエラが見下ろしながらそう言う。

「……お願いします。その子には、その子だけには手を出さないでくれ……!」
「……」
「生贄が必要なら私が変わります……!  だから、アシュリーだけは!」

村長が涙目で懇願する。
ソエラは冷たい目のままだ。

「お願いします……! どうか……!」

村長はとうとう四肢と額を地面につけ、土下座までした。

「村長……あんた本当に心の底からアシュリーの事を……」

僕が心を打たれていると、ソエラは台から降り、屈んで村長に目線を近づける。

「顔を上げて下さいよ」
「……ソエラさん!」

村長が顔をあげようとしたその瞬間のことだった。

ガシッ。
「……は?」

ソエラは村長の髪を掴んで持ち上げる。
そして……

ドスッ!
「ガホッ!!」
ドサッ。
「……!?」

その顔面を蹴り飛ばした。
村長は浮いて、背中から地面に落ちる。

「馬鹿が馬鹿な馬鹿らしい話をしやがって……貴重な時間を無駄にした」

ソエラは倒れた村長を一瞥すらせずに、台上に戻ろうとする。

「ダアアアアア!!!」
バキィッ!
「……ガッ。なんだ、貴様は……?」

そんな光景を見て、頭から煙が登りそうな程の怒りが
沸き上がった僕は気がついたら走っていて。

振り向いたソエラの右頬を思いっきり殴った。
奴は顔を抑えながら二、三歩下がる。

「お前……!  それは駄目だろ……!  人の心どこに捨ててきた!!」
「貴様は誰だと聞いている!  質問に応えろ!」

殴られてもなおコイツは食い下がり、自己主張をやめようとしない。
……ふざけた野郎だ。

「僕はリバティー!  アシュリーの友達だ!」
「……!  ああ、どこかで見た面だと思った……」
「リ、リバティー君……!?  どうしてここに……?」
「村長は下がってて!  話はこのクソ野郎をぶん殴ってからだ!!」

僕はソエラを力強く睨む。
……全身に力が入ってる感覚がする……
こんなに怒っているのは初めてかもしれない。

「お前には……色々と話して貰いたいな……何を企んでる?」

僕は棍棒を構えた。

「……この世界をより良くする為に。神よお力を……」
「訳わかんない事……言ってんじゃねぇ!」

うん、こいつにまともな話を期待しちゃあ駄目なんだな。
僕は真っ直ぐ向かって行く!

「うおおおおぉ!」
「……『黒爆』」

ソエラが口の中で小さく何かを呟くと、奴の手のひらから、
ふよふよと黒い球が飛び出す。

『黒弾』なら知ってる技だ。
僕は左に避けて……

バッ!!  ゴォン!!!
「!?」
フワッ。

凄まじい轟音と衝撃が響いたのを身体が認識した次の瞬間、
僕の体は爆発に吹っ飛ばされ、宙を舞っていた。
……まさか、今のは違う技だったのか?

ドサッ!
「さて……演出はこれくらいにして仕上げましょうか……ククッ……これでやっと俺はあいつらに……」
「リバティー君!」

柔らかい何かに落ちて……悲痛な村長の声が聞こえた気がした。



次回、ソエラの企みや正体についての種明かし。
そして次々回から一章最終決戦の始まりです。
応援よろしくお願いします。
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