上 下
29 / 39

第29話 ごめんなさい

しおりを挟む
アローンが屋敷にたどり着き、やるべき事をやっていた一方その頃。
アシュリーが入院している病院にて。

「……」

アシュリーはつまらなそうに病院の窓から景色を見ていた。
初めは新鮮に思えても、三日目ともなると飽きがきて退屈だ。

「今日は……リバティーはこないのかな」

もちろん、彼女は彼が昨日の約束を守る為に動いているのは理解っている。
しかし、それでも、寂しいものは寂しいのだ。

親代わりの村長とこんなに会わないのも初めてだ。
人と繋がりがないのはこんなにも辛いのか。
彼女がそんな事を思いながら過ごしている時だった。

「……ん?  定期検診がこない……」

時刻はとっくに昼を過ぎている。
毎日の検診が来ないのは初めてだ。

「それに……異様に静か……」

看護師が歩く音。医者が器具を使う音。
聞こえるはずのあらゆる音が聞こえない。
アシュリーは異変を感じつつも、足の怪我で動けない自分を歯がゆく思った。

「……誰か~」

小さい、いや、彼女なりに全力を振り絞った声が病院内に響く。
返事は……帰ってきた。

「どうもお久しぶりですねぇ」
「……!!!」

何故、どうしてよりにもよって彼なのだ。
アシュリーはそんな思いを口に出さないよう、必死に心に押しとどめた。

帰ってきたのは実に聞き覚えのある男の声だった。
彼は多くの部下を引き連れているが、
闇魔法「消音」により少しの物音も出していない。

さっきまでの異様な静けさも彼等が来ていたからか。
アシュリーは合点がいった。

「……ひ、さしぶり」

実際、アシュリーが彼に会うのは久しぶりだ。
確か……彼が、自分に歯向かった村人に暴力を振るおうとしたのを
庇った時以来である。

(おかげで拳に痣が出来てリバティーに問いただされたっけ)

彼女はそんな事を思っていた。

「想像より元気そうで何よりです」

その男……ソエラは彼女に作った微笑みをかける。

「えっと……うん。元気」
「そうでしょうねぇ。こんな所で呑気に寝てたら元気にもなりますよ」

嫌味たらっしくそう言った後、彼はギリギリ聞き取れる程度に声を抑えて、
「私は貴女のせいで休めていないのですがね」とつぶやく。

「……なんの用」

「儀式の"場"をこれ以上持たすことが出来ないのですよ。
そもそも、"場"を維持するのにどれだけのコストがかかっていると?  貴女は理解していますか?  していないでしょうねぇ。所詮田舎の……」

「……?」

ソエラの畳み掛けるような言葉にアシュリーは理解が追いついていない。

「つまり……私は何をすればいいの?」

まあ、彼女にとってはこの一方的な話し方も慣れたものだったので、
いつも通りの対応をする。

「とうとう貴女が"器"としての役目を果たす時が来たのですよ。
……なんですその顔は?  こういう時は喜ぶのが礼儀だろ……」

「……嬉しい」

アシュリーは曇った顔を無理やり引きつらせて笑みを浮かべた。

「それはよかった」

ソエラはそう言うと、
アシュリーの手を強くつかみベットから立たせようとする。

「っ……」
「どうした?  何故立たない……逆らうつもりか?    
……ああ、そういえば足を怪我していたのですね。

全く手間を取らせる……おい!  誰か担架を探しなさい!  
病院ですからどこかにあるはずです!」
「はい」

部下二人が指示を受けて探しにいく。
その事を確認すると、ソエラは再びアシュリーの方を向いた。

「村に帰りますよ。……ああ、ご心配なさらず。
退院に文句を言うような人達には永い眠りについて貰いましたから」
「……そんな」

この男はいつもそうだ。
自分が利を得る為なら他人を平気で踏みにじる。

「……わかった、いこう」

そんな奴に、逆らえない。
こうするしかない。
最も大切なものを人質にされてるから。

「それでいいのですよ。……はは、これで世界は理想に近づく……!
儀式が成功すれば私は更に上に……」

ソエラは自分の世界に酔ってぶつぶつと何かを呟きだす。
彼女はそんな様子を横目に、一つの作業を終わらせていた。

水魔法をウォーターカッターのように使い
「村に来ないで」と、病院の壁にメッセージを彫り込んだ。

普通なら壁が削れる音で全てバレるだろうが、「消音」により
声以外の全ての音は聞こえなくなる。

(ソエラから闇魔法について講釈されていた
知識がこんなとこで役に立つなんて……

君を巻き込まないように最後の抵抗はしたけど……
リバティー、約束守れそうになくてごめん)

アシュリーは抵抗も出来ずに持ち上げられ、
病院の備品だった担架に乗せられた。
ソエラの部下達がゆっくりと持ち上げる。

「何があっても、絶対に!  落とさないよう。
御神体を扱うかのような気持ちで臨みなさい」

アシュリーは村へと運ばれていく。
リバティーことアローンが病院にたどり着くのは、
ちょうど彼等が村への馬車に乗り込んだ時の事だった。



アシュリーの怪我とアローンの反応については10話「装備更新」を参照。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道~悪いな勇者、この物語の主役は俺なんだ~

萩鵜アキ
ファンタジー
 主人公はプロミネント・デスティニーという名作ゲームを完全攻略した途端に絶命。気がつくとゲームの中の悪役貴族エルヴィン・ファンケルベルクに転移していた。  エルヴィンは勇者を追い詰め、亡き者にしようと画策したことがバレ、処刑を命じられた。  享年16才。ゲームの中ではわりと序盤に死ぬ役割だ。  そんなエルヴィンに転生?  ふざけるな!  せっかく大好きなプロデニの世界に転移したんだから、寿命までこの世界を全力で楽しんでやる!  エルヴィンの中に転移したのは丁度初等部三年生の春のこと。今から処刑までは7年の猶予がある。  それまでに、ゲームの知識を駆使してデッドエンドを回避する!  こうして始まった処刑回避作戦であるが、エルヴィンの行動が静かな波紋となって広がっていく。  無自覚な行動により、いくつものフラグが立ったり折れたり、家臣の心を掌握したり過大な評価を受けたりしながら、ついに勇者と相まみえる。  果たしてエルヴィン・ファンケルベルクはバッドエンドを回避出来るのか……?

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...