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第25話 狂気と
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「ハハハ……!」
「何笑ってんだよ?」
「フッふふふ……! ゴフッ!」
ベチャッ。
「――えっ」
突然。
杖男が口から真紅の液体を吐き出した。
僕は思わず間抜けな声をあげて男を離してしまう。
「アヒャアヒャ!」
「クフフ!」
「ウヒッヒ!」
「キヒヒヒヒ!」
「な、なんだよ……!?」
小屋中が歓喜の絶叫に満ちる。
音だけ聞けば楽しいパーティーでも行っているのかと思うだろう。
しかし、実際は狂気の世界でしかない。
「アヒャヒャヒャグボァ!」
やがて、笑い声をあげていた男達は、スライムのような赤黒いドロっとした塊を吐き出して動かなくなった。
小屋に静寂が訪れる。
僕は身体を動かす事も出来ずに放心していた。
「…………」
三十秒か三十分か、どれくらいの時間が流れていたのかすら分からないが、
とにかく僕は気を取り戻した。
「……死んでる……」
赤を吐いた杖男の胸元に手を当てる。
……ローブに染みた液体には触れないようにだ。
心臓があるはずの場所を触ったのにも関わらずなんの鼓動も感じない。
「……捕まって良いように使われるくらいなら、
喜んで死んでやるってことかよ……?」
一体どんな心ならばそこまでやれるんだ?
……理解できないよ。
ガタッ!
「……!」
「……ん? おい! お前!」
静かだった小屋に物音がしたので、反射的にそちらを見る。
そこにはまだ生きている一人のローブ男が小屋から出ていこうとしていた。
「待てよ!」
ガシッ!
僕はそいつの方を掴んで引き止める。
彼が振り返ると、フードの部分が取れて赤くヒリついた額が見えた。
……そうか、こいつは僕が最初に倒した奴か。
「か、勘弁してくれよ……! 俺はただ人を困らせて金を稼ぐのが好きなただの小悪党なんだって! まさか組織がこんなイカれ集団だなんて想像してなかったんだよ!」
そう言えば、チェーンさんがホルシド教には愉快犯的な連中もいると言っていた。こいつみたいなのが、そうなのだろう。
「……だったら、僕と一緒に来い。
正直に全部話せば命くらいは助かるかもしれない」
「わ、分かった! 全部言うから……!」
僕は適当な事を言って彼を説得しようとする。
だが、その瞬間。
カッ!
「ッ!?」
男の首筋に魔法陣のような何かが浮かび上がって、紫の光を放った。
すると男は首に手を当てて掻きむしりだす。
「や、やめろ! なんだよこれ! 熱っ! 熱い! 熱ィイイイイイイイ!?」
ドンッ!
「うわっ!?」
錯乱した男に突き飛ばされて、僕は小屋の外に投げ出される。
思わず振り返るも、ドアが閉じてしまっており中の様子は伺えない。
「うわああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
ドゴォン!!!
ビチャア!
凄まじい爆発音がドア越しに聞こえた。
直後には何かが飛び散ってぶつかる音も。
「……冗談だと言ってくれよ」
たぶん……死んだ。
もし、あの男に突き飛ばされいなかったらどうなっていたのか……
いや、考えるのはよそう……
「……でも、手ぶらで帰る訳には……これも仕事なんだし……」
手がかりは全員死んでしまったし。
せめて、机上にあったあの地図くらいは持ち帰りたい。
読める状態かは分からないけどさ。
「……」
最初に入った時よりも、重い覚悟を決めてドアノブに手をかける。
「うっ……」
できるだけ嗅がないように息を止めて、
余計なものが見えないように目を細めたのにも関わらず、
凄惨な光景が僕の五感を刺激する……
「ゲホッゲホッ! うわっ……なんか踏んだ気がする。
洗っても……また履く気は起きないな」
それでも僕はなんとか手探りで地図を拾った。
あまり汚れておらず、幸いにも読めそうな状態だ。
……早く出よう、こんな所。
僕は地図を片手に小屋を飛び出し、逃げるように森を走った。
*
一連の様子を森の陰から見ていた二人組がいた。
もう察せられるだろうが、ジョージとデップだ。
「デップ君。そろそろ、坊ちゃんが何をしたかったのか察せましたか?」
「いえ、さっぱり……いつもと何が違うのか……」
「なら教えましょう。
おそらく坊ちゃんはファルス様の口利きを求めている。
今のはその為の仕事なのでしょうね」
「なるほど……?」
「そしてこのまま放っておいたら、きっと私達の仕事は終わる」
「……それじゃあ?」
「頃合いを見て坊ちゃんに会いましょう」
「分かりましたよ。ここまで来たら最後までお付き合いします」
「ありがとう。デップ」
(……それに、これは個人的な思いですが坊ちゃんの精神状態も心配です。
幾ら表面で狂人、いや自由人を気取っていても、彼は根の価値観が真っ当過ぎる。
あんな環境で育ったとは思えない程に。
きっとホルシド教を相手したのは相当なストレスが……)
「何笑ってんだよ?」
「フッふふふ……! ゴフッ!」
ベチャッ。
「――えっ」
突然。
杖男が口から真紅の液体を吐き出した。
僕は思わず間抜けな声をあげて男を離してしまう。
「アヒャアヒャ!」
「クフフ!」
「ウヒッヒ!」
「キヒヒヒヒ!」
「な、なんだよ……!?」
小屋中が歓喜の絶叫に満ちる。
音だけ聞けば楽しいパーティーでも行っているのかと思うだろう。
しかし、実際は狂気の世界でしかない。
「アヒャヒャヒャグボァ!」
やがて、笑い声をあげていた男達は、スライムのような赤黒いドロっとした塊を吐き出して動かなくなった。
小屋に静寂が訪れる。
僕は身体を動かす事も出来ずに放心していた。
「…………」
三十秒か三十分か、どれくらいの時間が流れていたのかすら分からないが、
とにかく僕は気を取り戻した。
「……死んでる……」
赤を吐いた杖男の胸元に手を当てる。
……ローブに染みた液体には触れないようにだ。
心臓があるはずの場所を触ったのにも関わらずなんの鼓動も感じない。
「……捕まって良いように使われるくらいなら、
喜んで死んでやるってことかよ……?」
一体どんな心ならばそこまでやれるんだ?
……理解できないよ。
ガタッ!
「……!」
「……ん? おい! お前!」
静かだった小屋に物音がしたので、反射的にそちらを見る。
そこにはまだ生きている一人のローブ男が小屋から出ていこうとしていた。
「待てよ!」
ガシッ!
僕はそいつの方を掴んで引き止める。
彼が振り返ると、フードの部分が取れて赤くヒリついた額が見えた。
……そうか、こいつは僕が最初に倒した奴か。
「か、勘弁してくれよ……! 俺はただ人を困らせて金を稼ぐのが好きなただの小悪党なんだって! まさか組織がこんなイカれ集団だなんて想像してなかったんだよ!」
そう言えば、チェーンさんがホルシド教には愉快犯的な連中もいると言っていた。こいつみたいなのが、そうなのだろう。
「……だったら、僕と一緒に来い。
正直に全部話せば命くらいは助かるかもしれない」
「わ、分かった! 全部言うから……!」
僕は適当な事を言って彼を説得しようとする。
だが、その瞬間。
カッ!
「ッ!?」
男の首筋に魔法陣のような何かが浮かび上がって、紫の光を放った。
すると男は首に手を当てて掻きむしりだす。
「や、やめろ! なんだよこれ! 熱っ! 熱い! 熱ィイイイイイイイ!?」
ドンッ!
「うわっ!?」
錯乱した男に突き飛ばされて、僕は小屋の外に投げ出される。
思わず振り返るも、ドアが閉じてしまっており中の様子は伺えない。
「うわああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
ドゴォン!!!
ビチャア!
凄まじい爆発音がドア越しに聞こえた。
直後には何かが飛び散ってぶつかる音も。
「……冗談だと言ってくれよ」
たぶん……死んだ。
もし、あの男に突き飛ばされいなかったらどうなっていたのか……
いや、考えるのはよそう……
「……でも、手ぶらで帰る訳には……これも仕事なんだし……」
手がかりは全員死んでしまったし。
せめて、机上にあったあの地図くらいは持ち帰りたい。
読める状態かは分からないけどさ。
「……」
最初に入った時よりも、重い覚悟を決めてドアノブに手をかける。
「うっ……」
できるだけ嗅がないように息を止めて、
余計なものが見えないように目を細めたのにも関わらず、
凄惨な光景が僕の五感を刺激する……
「ゲホッゲホッ! うわっ……なんか踏んだ気がする。
洗っても……また履く気は起きないな」
それでも僕はなんとか手探りで地図を拾った。
あまり汚れておらず、幸いにも読めそうな状態だ。
……早く出よう、こんな所。
僕は地図を片手に小屋を飛び出し、逃げるように森を走った。
*
一連の様子を森の陰から見ていた二人組がいた。
もう察せられるだろうが、ジョージとデップだ。
「デップ君。そろそろ、坊ちゃんが何をしたかったのか察せましたか?」
「いえ、さっぱり……いつもと何が違うのか……」
「なら教えましょう。
おそらく坊ちゃんはファルス様の口利きを求めている。
今のはその為の仕事なのでしょうね」
「なるほど……?」
「そしてこのまま放っておいたら、きっと私達の仕事は終わる」
「……それじゃあ?」
「頃合いを見て坊ちゃんに会いましょう」
「分かりましたよ。ここまで来たら最後までお付き合いします」
「ありがとう。デップ」
(……それに、これは個人的な思いですが坊ちゃんの精神状態も心配です。
幾ら表面で狂人、いや自由人を気取っていても、彼は根の価値観が真っ当過ぎる。
あんな環境で育ったとは思えない程に。
きっとホルシド教を相手したのは相当なストレスが……)
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