25 / 39
第25話 狂気と
しおりを挟む
「ハハハ……!」
「何笑ってんだよ?」
「フッふふふ……! ゴフッ!」
ベチャッ。
「――えっ」
突然。
杖男が口から真紅の液体を吐き出した。
僕は思わず間抜けな声をあげて男を離してしまう。
「アヒャアヒャ!」
「クフフ!」
「ウヒッヒ!」
「キヒヒヒヒ!」
「な、なんだよ……!?」
小屋中が歓喜の絶叫に満ちる。
音だけ聞けば楽しいパーティーでも行っているのかと思うだろう。
しかし、実際は狂気の世界でしかない。
「アヒャヒャヒャグボァ!」
やがて、笑い声をあげていた男達は、スライムのような赤黒いドロっとした塊を吐き出して動かなくなった。
小屋に静寂が訪れる。
僕は身体を動かす事も出来ずに放心していた。
「…………」
三十秒か三十分か、どれくらいの時間が流れていたのかすら分からないが、
とにかく僕は気を取り戻した。
「……死んでる……」
赤を吐いた杖男の胸元に手を当てる。
……ローブに染みた液体には触れないようにだ。
心臓があるはずの場所を触ったのにも関わらずなんの鼓動も感じない。
「……捕まって良いように使われるくらいなら、
喜んで死んでやるってことかよ……?」
一体どんな心ならばそこまでやれるんだ?
……理解できないよ。
ガタッ!
「……!」
「……ん? おい! お前!」
静かだった小屋に物音がしたので、反射的にそちらを見る。
そこにはまだ生きている一人のローブ男が小屋から出ていこうとしていた。
「待てよ!」
ガシッ!
僕はそいつの方を掴んで引き止める。
彼が振り返ると、フードの部分が取れて赤くヒリついた額が見えた。
……そうか、こいつは僕が最初に倒した奴か。
「か、勘弁してくれよ……! 俺はただ人を困らせて金を稼ぐのが好きなただの小悪党なんだって! まさか組織がこんなイカれ集団だなんて想像してなかったんだよ!」
そう言えば、チェーンさんがホルシド教には愉快犯的な連中もいると言っていた。こいつみたいなのが、そうなのだろう。
「……だったら、僕と一緒に来い。
正直に全部話せば命くらいは助かるかもしれない」
「わ、分かった! 全部言うから……!」
僕は適当な事を言って彼を説得しようとする。
だが、その瞬間。
カッ!
「ッ!?」
男の首筋に魔法陣のような何かが浮かび上がって、紫の光を放った。
すると男は首に手を当てて掻きむしりだす。
「や、やめろ! なんだよこれ! 熱っ! 熱い! 熱ィイイイイイイイ!?」
ドンッ!
「うわっ!?」
錯乱した男に突き飛ばされて、僕は小屋の外に投げ出される。
思わず振り返るも、ドアが閉じてしまっており中の様子は伺えない。
「うわああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
ドゴォン!!!
ビチャア!
凄まじい爆発音がドア越しに聞こえた。
直後には何かが飛び散ってぶつかる音も。
「……冗談だと言ってくれよ」
たぶん……死んだ。
もし、あの男に突き飛ばされいなかったらどうなっていたのか……
いや、考えるのはよそう……
「……でも、手ぶらで帰る訳には……これも仕事なんだし……」
手がかりは全員死んでしまったし。
せめて、机上にあったあの地図くらいは持ち帰りたい。
読める状態かは分からないけどさ。
「……」
最初に入った時よりも、重い覚悟を決めてドアノブに手をかける。
「うっ……」
できるだけ嗅がないように息を止めて、
余計なものが見えないように目を細めたのにも関わらず、
凄惨な光景が僕の五感を刺激する……
「ゲホッゲホッ! うわっ……なんか踏んだ気がする。
洗っても……また履く気は起きないな」
それでも僕はなんとか手探りで地図を拾った。
あまり汚れておらず、幸いにも読めそうな状態だ。
……早く出よう、こんな所。
僕は地図を片手に小屋を飛び出し、逃げるように森を走った。
*
一連の様子を森の陰から見ていた二人組がいた。
もう察せられるだろうが、ジョージとデップだ。
「デップ君。そろそろ、坊ちゃんが何をしたかったのか察せましたか?」
「いえ、さっぱり……いつもと何が違うのか……」
「なら教えましょう。
おそらく坊ちゃんはファルス様の口利きを求めている。
今のはその為の仕事なのでしょうね」
「なるほど……?」
「そしてこのまま放っておいたら、きっと私達の仕事は終わる」
「……それじゃあ?」
「頃合いを見て坊ちゃんに会いましょう」
「分かりましたよ。ここまで来たら最後までお付き合いします」
「ありがとう。デップ」
(……それに、これは個人的な思いですが坊ちゃんの精神状態も心配です。
幾ら表面で狂人、いや自由人を気取っていても、彼は根の価値観が真っ当過ぎる。
あんな環境で育ったとは思えない程に。
きっとホルシド教を相手したのは相当なストレスが……)
「何笑ってんだよ?」
「フッふふふ……! ゴフッ!」
ベチャッ。
「――えっ」
突然。
杖男が口から真紅の液体を吐き出した。
僕は思わず間抜けな声をあげて男を離してしまう。
「アヒャアヒャ!」
「クフフ!」
「ウヒッヒ!」
「キヒヒヒヒ!」
「な、なんだよ……!?」
小屋中が歓喜の絶叫に満ちる。
音だけ聞けば楽しいパーティーでも行っているのかと思うだろう。
しかし、実際は狂気の世界でしかない。
「アヒャヒャヒャグボァ!」
やがて、笑い声をあげていた男達は、スライムのような赤黒いドロっとした塊を吐き出して動かなくなった。
小屋に静寂が訪れる。
僕は身体を動かす事も出来ずに放心していた。
「…………」
三十秒か三十分か、どれくらいの時間が流れていたのかすら分からないが、
とにかく僕は気を取り戻した。
「……死んでる……」
赤を吐いた杖男の胸元に手を当てる。
……ローブに染みた液体には触れないようにだ。
心臓があるはずの場所を触ったのにも関わらずなんの鼓動も感じない。
「……捕まって良いように使われるくらいなら、
喜んで死んでやるってことかよ……?」
一体どんな心ならばそこまでやれるんだ?
……理解できないよ。
ガタッ!
「……!」
「……ん? おい! お前!」
静かだった小屋に物音がしたので、反射的にそちらを見る。
そこにはまだ生きている一人のローブ男が小屋から出ていこうとしていた。
「待てよ!」
ガシッ!
僕はそいつの方を掴んで引き止める。
彼が振り返ると、フードの部分が取れて赤くヒリついた額が見えた。
……そうか、こいつは僕が最初に倒した奴か。
「か、勘弁してくれよ……! 俺はただ人を困らせて金を稼ぐのが好きなただの小悪党なんだって! まさか組織がこんなイカれ集団だなんて想像してなかったんだよ!」
そう言えば、チェーンさんがホルシド教には愉快犯的な連中もいると言っていた。こいつみたいなのが、そうなのだろう。
「……だったら、僕と一緒に来い。
正直に全部話せば命くらいは助かるかもしれない」
「わ、分かった! 全部言うから……!」
僕は適当な事を言って彼を説得しようとする。
だが、その瞬間。
カッ!
「ッ!?」
男の首筋に魔法陣のような何かが浮かび上がって、紫の光を放った。
すると男は首に手を当てて掻きむしりだす。
「や、やめろ! なんだよこれ! 熱っ! 熱い! 熱ィイイイイイイイ!?」
ドンッ!
「うわっ!?」
錯乱した男に突き飛ばされて、僕は小屋の外に投げ出される。
思わず振り返るも、ドアが閉じてしまっており中の様子は伺えない。
「うわああああああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」
ドゴォン!!!
ビチャア!
凄まじい爆発音がドア越しに聞こえた。
直後には何かが飛び散ってぶつかる音も。
「……冗談だと言ってくれよ」
たぶん……死んだ。
もし、あの男に突き飛ばされいなかったらどうなっていたのか……
いや、考えるのはよそう……
「……でも、手ぶらで帰る訳には……これも仕事なんだし……」
手がかりは全員死んでしまったし。
せめて、机上にあったあの地図くらいは持ち帰りたい。
読める状態かは分からないけどさ。
「……」
最初に入った時よりも、重い覚悟を決めてドアノブに手をかける。
「うっ……」
できるだけ嗅がないように息を止めて、
余計なものが見えないように目を細めたのにも関わらず、
凄惨な光景が僕の五感を刺激する……
「ゲホッゲホッ! うわっ……なんか踏んだ気がする。
洗っても……また履く気は起きないな」
それでも僕はなんとか手探りで地図を拾った。
あまり汚れておらず、幸いにも読めそうな状態だ。
……早く出よう、こんな所。
僕は地図を片手に小屋を飛び出し、逃げるように森を走った。
*
一連の様子を森の陰から見ていた二人組がいた。
もう察せられるだろうが、ジョージとデップだ。
「デップ君。そろそろ、坊ちゃんが何をしたかったのか察せましたか?」
「いえ、さっぱり……いつもと何が違うのか……」
「なら教えましょう。
おそらく坊ちゃんはファルス様の口利きを求めている。
今のはその為の仕事なのでしょうね」
「なるほど……?」
「そしてこのまま放っておいたら、きっと私達の仕事は終わる」
「……それじゃあ?」
「頃合いを見て坊ちゃんに会いましょう」
「分かりましたよ。ここまで来たら最後までお付き合いします」
「ありがとう。デップ」
(……それに、これは個人的な思いですが坊ちゃんの精神状態も心配です。
幾ら表面で狂人、いや自由人を気取っていても、彼は根の価値観が真っ当過ぎる。
あんな環境で育ったとは思えない程に。
きっとホルシド教を相手したのは相当なストレスが……)
25
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!
果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。
次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった!
しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……?
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
カイムは、殺されないために努力することを決める。
そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る!
これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。
本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています
他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【コピペ】を授かった俺は異世界で最強。必要な物はコピペで好きなだけ増やし、敵の攻撃はカットで防ぐ。え?倒した相手のスキルももらえるんですか?
黄舞
ファンタジー
パソコンが出来ない上司のせいでコピーアンドペースト(コピペ)を教える毎日だった俺は、トラックに跳ねられて死んでしまった。
「いつになったらコピペ使えるようになるんだ―!!」
が俺の最後の言葉だった。
「あなたの願い叶えました。それでは次の人生を楽しんでください」
そういう女神が俺に与えたスキルは【コピペ(カット機能付き)】
思わぬ事態に最初は戸惑っていた俺だが、そのスキルの有用性に気付き、いつのまにやら異世界で最強の存在になっていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる