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第21話 盗み聞き
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「1、2、3、4部屋だけか」
ブラックライトが一階しかない平屋だったのは運が良かった。
もし二階以降が目的の部屋なら、どっかの探偵のように
パルクールを駆使しなきゃいけなくなるからね……
「静かに……出来るだけ」
宿屋の外周を回って、窓から中の様子を見てみよう。
少しでも足音を抑える為に屈んで歩いていると、通行人の視線が時折突き刺さってくる。
だが、トラブルを避けたいのか、それともこの辺じゃ珍しい事では無いのか、誰も追求はしてこない。
「さてとこの部屋は……」
心臓がバクバクしている。
バレないよう、ほんの少しだけ顔を出して窓の向こうを見た。
「ヒヒヒ……」
中ではモヒカンヘアーの男が笑いながらナイフを舐めている。
いわゆるナイフペロペロするタイプの殺人鬼だ。
実在したんだ……あんなのが泊まってるこの宿大丈夫か?
「とりあえずここはハズレ……次だ次……」
身を屈め、窓から身体が見えないように進む。
一……二……三と慎重に歩みを進めると、なんとか次の窓にたどり着けた。
「よし、ここは……」
次こそはと、ゆっくり頭を上げる。
「……チェックメイトです」
「甘いですねぇジョージさん。僕にはまだこんな手が残ってるのに」
「……おっと、ではこれならどうでしょうか?」
「何ィ!?」
よし、大当たり!
中ではジョージとデップの二人がチェス? を繰り広げていた。
なんか想像より暇そうだな、あいつら。
「よし……安宿だからか、壁がペラッペラに薄くて会話がバッチリ聞こえる」
僕の居場所を彼らから誤魔化せるのは三時間くらいだろう……
つまり、こうしていられる時間も三時間程度。
……その間に何か有用な事が聞ければ良いんだけど。
僕は耳を壁に押し当て、聞き耳をたて続けた。
*
「そろそろ身体が痛くなってきたな……」
息を潜め続けて二時間。
聞こえてくる声や見える様子は、取るに足らない内容ばかりだ。
「……しかし、ジョージさん。俺達いつまでこんな事してればいいんですかね?」
雑談の流れで、デップがジョージに尋ねる。
「さあ。それは分かりませんよ。終わるとすればアローン坊ちゃんが捕まるか、
リードお嬢様が飽きるか……いや、どちらも有り得なさそうですね」
僕が捕まるのは論外だし、リードも執念深い性格だからな……
ジョージの言う通り、どっちも有り得ないな。
「はあ……この仕事はしばらく終わらないって事ですか。
トレーニ様とジョージさんに勧誘された時はこんな事になるなんて思わなかったな……そういえばあの方はこの事をご存知なんですかね?」
久々に父の名前を聞いたな。
「知らないでしょうね。
……あの方は無駄を嫌う人ですし、私達にこんな事をさせているのを知ったとしたら、直ぐに辞めさせますよ。『リード、あんな駄犬に構っている暇があるのか? お前には為すべき事があるだろう』こんな風に言ってね」
ジョージが声色を一段と低くし、トレーニの声真似をしてみせるとデップは手を叩いて笑いだす。
「アハハ! 今の声真似凄い上手でしたよ!」
なるほど。
声真似のくだりはどうでもいいけど、確かにジョージの言う通りだ。
父が無駄を嫌うのは、実子ではあるが世継ぎではない僕を育児放棄していたことから良く分かってる。
……自分で言ってて悲しくなってきた。
ええい! 捨てた家の事なんか気にするな自分!
ようは、何とかして僕の父親にリードの行動を告げ口出来ればいい。
そうすれば、彼女が僕を追跡するような真似はしなく、いや、出来なくなるだろう。
「ただ、どうやって伝えようかな?」
考える。自分で家を飛び出した上に、元から駄犬扱いされてるくらいだから
普通に帰った所で直接相手はしてくれなさそうだし……
「うーん……手紙でも書くか?」
僕の名義で書いたら実家に戻る為の嘆願書か何かと勘違いされそうだな……
他に適当な偽名を使うか?
いや、どちらにせよほとんど読まれずにゴミ箱行きは免れなれなさそうだ。
何か上手い方法はないものか……
「……そうだ!」
いい事を思いついた。
僕が書くのが駄目なら、他の誰かに書いてもらえばいい。
一応、心当たりなら有る。
望みは薄い作戦だけど……試してみる価値は有るはずだ。
「そうと決まれば早速明日の朝からやってみるか……今日は備えて休もう」
僕は初めての諜報活動を終え、静かに裏路地から去るのだった。
ブラックライトが一階しかない平屋だったのは運が良かった。
もし二階以降が目的の部屋なら、どっかの探偵のように
パルクールを駆使しなきゃいけなくなるからね……
「静かに……出来るだけ」
宿屋の外周を回って、窓から中の様子を見てみよう。
少しでも足音を抑える為に屈んで歩いていると、通行人の視線が時折突き刺さってくる。
だが、トラブルを避けたいのか、それともこの辺じゃ珍しい事では無いのか、誰も追求はしてこない。
「さてとこの部屋は……」
心臓がバクバクしている。
バレないよう、ほんの少しだけ顔を出して窓の向こうを見た。
「ヒヒヒ……」
中ではモヒカンヘアーの男が笑いながらナイフを舐めている。
いわゆるナイフペロペロするタイプの殺人鬼だ。
実在したんだ……あんなのが泊まってるこの宿大丈夫か?
「とりあえずここはハズレ……次だ次……」
身を屈め、窓から身体が見えないように進む。
一……二……三と慎重に歩みを進めると、なんとか次の窓にたどり着けた。
「よし、ここは……」
次こそはと、ゆっくり頭を上げる。
「……チェックメイトです」
「甘いですねぇジョージさん。僕にはまだこんな手が残ってるのに」
「……おっと、ではこれならどうでしょうか?」
「何ィ!?」
よし、大当たり!
中ではジョージとデップの二人がチェス? を繰り広げていた。
なんか想像より暇そうだな、あいつら。
「よし……安宿だからか、壁がペラッペラに薄くて会話がバッチリ聞こえる」
僕の居場所を彼らから誤魔化せるのは三時間くらいだろう……
つまり、こうしていられる時間も三時間程度。
……その間に何か有用な事が聞ければ良いんだけど。
僕は耳を壁に押し当て、聞き耳をたて続けた。
*
「そろそろ身体が痛くなってきたな……」
息を潜め続けて二時間。
聞こえてくる声や見える様子は、取るに足らない内容ばかりだ。
「……しかし、ジョージさん。俺達いつまでこんな事してればいいんですかね?」
雑談の流れで、デップがジョージに尋ねる。
「さあ。それは分かりませんよ。終わるとすればアローン坊ちゃんが捕まるか、
リードお嬢様が飽きるか……いや、どちらも有り得なさそうですね」
僕が捕まるのは論外だし、リードも執念深い性格だからな……
ジョージの言う通り、どっちも有り得ないな。
「はあ……この仕事はしばらく終わらないって事ですか。
トレーニ様とジョージさんに勧誘された時はこんな事になるなんて思わなかったな……そういえばあの方はこの事をご存知なんですかね?」
久々に父の名前を聞いたな。
「知らないでしょうね。
……あの方は無駄を嫌う人ですし、私達にこんな事をさせているのを知ったとしたら、直ぐに辞めさせますよ。『リード、あんな駄犬に構っている暇があるのか? お前には為すべき事があるだろう』こんな風に言ってね」
ジョージが声色を一段と低くし、トレーニの声真似をしてみせるとデップは手を叩いて笑いだす。
「アハハ! 今の声真似凄い上手でしたよ!」
なるほど。
声真似のくだりはどうでもいいけど、確かにジョージの言う通りだ。
父が無駄を嫌うのは、実子ではあるが世継ぎではない僕を育児放棄していたことから良く分かってる。
……自分で言ってて悲しくなってきた。
ええい! 捨てた家の事なんか気にするな自分!
ようは、何とかして僕の父親にリードの行動を告げ口出来ればいい。
そうすれば、彼女が僕を追跡するような真似はしなく、いや、出来なくなるだろう。
「ただ、どうやって伝えようかな?」
考える。自分で家を飛び出した上に、元から駄犬扱いされてるくらいだから
普通に帰った所で直接相手はしてくれなさそうだし……
「うーん……手紙でも書くか?」
僕の名義で書いたら実家に戻る為の嘆願書か何かと勘違いされそうだな……
他に適当な偽名を使うか?
いや、どちらにせよほとんど読まれずにゴミ箱行きは免れなれなさそうだ。
何か上手い方法はないものか……
「……そうだ!」
いい事を思いついた。
僕が書くのが駄目なら、他の誰かに書いてもらえばいい。
一応、心当たりなら有る。
望みは薄い作戦だけど……試してみる価値は有るはずだ。
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