ゲーム世界の悪役貴族に転生したけど、原作は無視して自由人キャラになります

芽春

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第13話 遺された

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ギィィ……!

「お邪魔しまーす……」
「誰もいない?」
「そりゃまあ、廃屋だし」

廃屋の中はダンジョンのように真っ暗で、湿った埃とカビの匂いがする。
特に散らかった様子は無く、本当に人だけ消えてしまったという感じだ。

「一人で住んでたって聞いてたけど……それにしては広いな」
「私こんな大きい家に入るの初めて」

アシュリーがそう言うが、少し大袈裟な気がする。
あくまで普通の一戸建てレベルだ。

「『着火』」
「お、明るい。けどダンジョンとは違うから燃やさないよう気をつけて」

アシュリーが明かりを提供してくれたので、進みだす。
目の前に階段が見えるが、とりあえず一階を回ろう。

「ここは……リビングかな? やっぱり誰もいないや」
「こっちは……台所」

それなりの大きさのダイニングテーブルがあるが、
一つしかない椅子が物悲しさを醸し出す。
まあ真隣が共同墓地の家に遊びに来たり住んだりする物好きはそうそう居ないよな。

「ケホッ……!」
「どうした?」
「お鍋があったから蓋を開けてみた。
……中身がそのまま残ってた」
「閉じときな」
「……うん」
「他には何も無い?」
「無い」
「じゃあ別の場所に行こうか」

僕達は引き返して、リビングを抜けた。
……おや?  さっきは気づかなかったけど階段の横に扉がある。

「ここは……」

開いてみると、倉庫の様なスペースだ。

「スコップに雑巾やら桶やら……お墓の手入れ道具をしまってたんだな」
「……」

全体的に使い古されている。
きっと物を大事にする人だったんだな。
……くそっ、なんだか湿っぽい気分になってきた。

こういう時も表面上は明るく振る舞うのが
僕の理想なんだからしっかりしないと!

「ここにも役立ちそうな物とか手がかりは無し。次行こっか」
「うん……」

もう一階の探索は終わってしまったな。
次は二階か。

ギィィ……

二階に続く階段を登っていく。

「気分が優れないみたいだね?」

俯いたままのアシュリーに声をかける。
彼女表情は硬いけど……普通に感情豊かだよな。

「知らない人でも……居なくなったのは寂しい」
「ああ」
「さっき遺された物達を見たら急に実感が……」
「……身辺整理する暇もなく死んじゃったみたいだからね。
でも、もう居ない人に気を回し過ぎるのは良くないよ。
僕達は元気に生きなきゃいけないんだし」

……きっと、前世での僕の知り合い達は気に病まず生きてるだろう。
薄情な連中だったし。だけど、それくらいがちょうどいい。
もう取り返せないモノに思いを馳せても疲れるだけだ。

「そう……だね……でも、もし私が消える時は、
私みたいな人が心を痛めないよう綺麗にしておきたい」

「……やめな。そんな不吉な話するの」



二階に上がると、扉は左右二つあった。
ギィィ……バタンッ。
とりあえず右の部屋に入る。

「ここは……」

書斎だな。
壁が本棚で埋まっており、奥には小さな机と椅子。

机には溶けかけのロウソクが置かれていて、
あれに火を灯して本を読んでいた事が想像出来る。

「一人暮らしだったようだし、読書は数少ない楽しみだったんだろうな……」
「……私は机周りを調べる。リバティーは本棚をお願い」
「分かった」

アシュリーが机の引き出し等を漁り、僕は本棚をざっと調べてみる。
一冊一冊取り出してパラパラめくってみたり、本棚の奥を覗いて見たり。

うーん、何もねぇ。
銃とか薬物とかが、本をくり抜かれて隠されてたら面白いのに。
もしくは本棚の奥に隠し金庫のスイッチ。

「ん……おや?  これは……」

そんなくだらない事を考えていると、一冊の本が目に止まった。
タイトルは「光の魔導書Lv1」良く使っていたのか、他の本と比べてもボロボロだ。けれど、読めないほどじゃない。

「ふーん……」

魔導書。エタブレでは、適正の無い呪文もある程度使用出来るようにする
アクセサリー枠の装備だった。

もっとも、わざわざ魔導書を装備させるくらいなら
最初からその呪文が使えるキャラをパーティに入れる方が良い。

僕は使った事なかったなぁ……
そういや、弱キャラ単騎攻略とかいう縛りプレイを動画にしてた人が使っててバズってたっけ。

「懐かしい……あの人の動画良かったなぁ。レベル上げポイントまとめ動画には世話になった……」
「なにか見つかった?」
「うぉぉ!?  アシュリー、ビックリさせないでくれ」
「……むしろ私の方がビックリした」

後ろを振り返ると、アシュリーが一冊の日記帳を手にしていた。

「えっと、そうだね。僕は魔導書を見つけたくらいで他は……それは日記帳?」
「うん。鍵付きの引き出しに入ってた」
「鍵はどうした?」
「……壊れてた」

そう言われて引き出しの方をみると、
当たり前かのように開かれている。

「まあ、一人だし防犯なんて意識しなかっただろうな……
で、その日記どうするの?」
「読む」
「まぁ……賛成かな」

そりゃそうだ。
家主の日記だもの、ここがアンデッドまみれになった原因か、そのヒントくらいは載っていてもおかしくない。

「……」

アシュリーが僕にも見えるよう日記を開く、
しかし明かりが無いので細かい文字が読みにくい。

「……『着』」「『光』」
パッと。僕の指先に光が灯った。

「……そっか、魔導書」
「やっぱり使えるようになるんだ……!」

僕の胸に喜びが満ちた。
回復魔法と補助魔法以外の、第三の選択肢が生まれるのはこんなに嬉しいのか。

「私もそこまで詳しくないけど、魔導書から手を離しちゃうと魔法は解除されちゃうはずだから気をつけて」
「うん、ありがとう。割り込んで唱えてごめんね。一刻も早く試したくてさ」

限定的とはいえ、魔導書が有れば色々と幅が広がるんだな。
今度自分で買ってみるのもいいかもしれない。
僕は魔導書を棚に戻そうと……

「持ってかないの?」

「えっいや、たぶん遺品だし。僕の持ってくもんじゃないでしょ」

「……リバティーって時々真面目になるよね。
冒険者がこういう依頼で見つけたものは、ある程度なら持ち帰っても許される。
それが暗黙の了解」

「う、うーん……ダンジョンの宝箱とか魔物の素材ならともかくなぁ」

「もしそのまま置いていったとしてもどうせ処分されるだけ。
きっとリバティーが使ってあげた方が本も遺した人も喜ぶ」

「まあ、そこまで言うなら」

僕は魔導書を懐にしまう。

「……『着火』」

改めてアシュリーが明かりを灯し、日記を読み始める。

「毎日毎日マメに書かれてるけど……どれも大した内容じゃないね」

今日は飯が上手く作れただの、いつもより墓の掃除を手間取っただの。
毒にも薬にもならない情報ばかりだ。
……そう思っていたら。

「……これ」
「えっとなになに……
『知らない奴が墓に手を合わせていた。
格好からして教会の奴らでは無いだろう。
もの好きも居るもんだな』」

これだけじゃヒントにはならなそうだけど……
僕はページをめくる。

『昨日と同じ奴が仲間を引き連れてきた。てっきり墓荒らしかと思ったが何もせず帰った。なんなんだ?』

さらにめくる。

『気づくのが遅かった……きっとあいつらの目的はここを実験場にする事なんだ。早く誰かに知らせなければ。明日の朝家を出る』

さらにめくると、白紙だった。

「……この人が無事家を出たのなら、連絡が途絶えるはずが無い」
「つまり……」

結論は一つだ。
しかし、僕達はそれを言葉にするのが恐ろしくて、何も言えなかった。
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