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第三章 兄妹

第20話 お題目 VSイロウ

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……思い出した。
目の前のイロウの姿に俺は見覚えがある。

ゲームのサブイベントの一つで、
法定労働時間を超えた労働を強いられているという黒い噂の有る町役場に潜入して、諸悪の根源であるブラック上司イロウを倒すという物だ。

この町役場の外観に見覚えがあったのはその記憶のせいだった。

「クハハ……どうした、カロー?まさか早退等とゴミのような行為を望んだ訳ではあるまいな?」

「いえ……そう言う訳では」

イロウの声は威圧的で、まるで言葉で直接殴られているような感覚が
脳と胃に響く。カローもすっかり萎縮しているように見える、
モモに至っては完全に怯えていた。

「ひとつ、貴様に聞こう……仕事と家。どちらが大事だ?」

まるで面倒な彼女のような物言いをする野郎だな。
そう思いながらカローの方を見る。

ただでさえ白い顔が恐怖でより白くなっているようだ。
大丈夫か?

「…………僕は、家の方が大事です!」

「……なんだと?」

カローは力強くそう言い切る。

「家族を、不幸にしたくないから。
生きてて欲しいから僕は仕事をしているんです!」

頼りない身体に精神力が反比例しているのか、
この状況で彼はそう言ってのける。
正直ちょっと見直した。

「………………遺言はそれで良いか?」

瞬間、殺気にも近い圧が場を満たす。
そして次のタイミングにはイロウの右手の鞭がカロー目掛けて……

「危ない!」
ビシィ!
「ッ……!」

ギリギリのタイミングでカローを突き飛ばすようにして庇えた。
鞭は俺の背中に当たり、鋭い痛みが走る。

「君……ありがとう」
「礼は良いからモモを連れて病院なり家なりどっかに逃げろ!
このままここにいたらあんた殺されるかもしれないぞ!」
「…………分かった」

カローは悩んだようだが、覚悟を決めてモモに呼びかける。

「モモ!久しぶりに遊ぼうか!どっちが早く家に着けるか競走だ!」
「きょうそう……?わかった!」

モモは嬉しそうな顔をしながら外に飛び出して行った。

「本当に、すまない」
「こうなったのは俺の責任でもある。キッチリ片つけるからあんたは家族と自分の事だけ考えてろ!」

俺の言葉を受け取ったカローも外に出ていく、
イロウが彼を追いかけようとするが、俺はそれを防ぐようにして前に立つ。

「……どけ」
「断る」
「ふん、社会の事を知らないガキが馬鹿な真似をする……」
「仕事の事しか知らなそうなゴリラ野郎に言われたくねぇよ」
「なんだと……貴様……!」

イロウの額に青筋が立ち、俺に鞭を突き付けてくる。

「ふん!」
「……その程度?」

俺の顔を狙った鞭は左腕で難なくガードする。だが……

「ぬおお!」
「うおっ!?」

ガードしたと思ったのもつかの間、俺は胸ぐらから持ち上げられた。
何とか抵抗しようと蹴りを奴の胸に入れて見るが、
イロウは意に介さず俺を受付の向こう側に投げ捨てる。

「うおおおおぉ!」
ガシャン!
「うわあああああ!逃げろぉぉおおお!」

今まで静観を決め込んでいた職員たちも、
さすがに仕事中に人間を投げ込まれるのは効いたらしく
蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

一方、叩きつけられた俺は書類の束がクッションになり、
見た目程ダメージは大きく無かった。

「ふん……この程度の事で逃げおって……後で『教育』せねば……」
「痛たたた……町役場の職員の腕力じゃ無いだろ……」

前を見ると、イロウがノシノシと足音を立てながらこちらに近づいている。
早く起き上がらないと……

「時に、何故俺は早退や有給等の軟弱な行為が許せないか分かるか?」
「……知るか」
「チームの和が乱れるからだ、
たるんだ行為はチームにたるんだ雰囲気を生む
そうすると秩序が乱れてしまうだろう?
俺はそれが許せんのだよ」

「……だったら早退なんてしないでも良いように仕事量を減らすなりすれば良いだろ、ここの職員全員過労で死にそうな顔してたぞ?」
「それは駄目だ、仕事を減らせば利益が減る。それに仕事を消化出来なければ
俺の上からの評価が下がってしまう」

そう言い放つイロウは受付を乗り越え、俺の目の前に迫ろうとしていた。

「……なんだよ、秩序だの偉そうなお題目言っといて
結局金と自己保身かよ。オラッ!」

バサバサッ!

「何!?」

俺は目の前のイロウに向かって大量の書類をばら撒く、
書類は紙吹雪のように宙を舞って奴の視界を防ぐ。

「そしてこう!」
ザラザラッ!

次に、たまたま手元に有った画鋲ケースを投げつけた。
ばらまかれた画鋲は床に落ちて、まるでマキビシのようになる。

「……これは!画鋲?」
「その通りだよ!」
「!」

俺は状況を理解していない奴の
顔面目掛け、渾身の右ストレートを叩き込もうとする。

「ブワッハッハ!そんな大振りな攻撃が当たるか……うっ!」

そして奴が攻撃を避けようとした瞬間、俺の行動の意味を理解したようだ。

「クソ野郎がッ!」
バキィ!
「ブホッ!き、貴様……」

イロウは後ろに下がって避けようとした、だが、
画鋲のマキビシが彼の足に刺さった事で動きが一瞬止まった。
その一瞬は俺の拳を奴の鼻に届けるのに十分だった。

(やっぱり普段から弱い者いじめしかしない奴って弱いんだな。
まだエリトの方が手応え有ったぞ)

あっさりと致命的な一撃を受けて鼻血を出しているイロウを見て、
俺はそう思った。



ぶっちゃけるとノーティス君の思っている通り、
イロウはエリトよりはるかに弱いです。

主人公が強いのは良いけど異世界要素薄くね?と思ったら
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そう思ってる人が多いなら改善できるよう努力します。
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