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1 あなたが望むもの

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あなたは魔法によって望むものすべてが叶うとしたら何を願うのだろうか。

お金持ちになる?王様になる?容姿を変える?

この国では魔法を使える人間は極めて少ない。幼い頃から優れた教育を受け、天性の才能を持った者でないと魔法使いになれないからだ。

俺の父親は魔法石会社の社長かつ魔法使い。魔法を使いこなす才能は俺にも遺伝した。

つまり、少年ノエルは家庭環境にも才能にも恵まれていたというわけだ。
父親譲りの高身長に、母親とよく似たきれいな顔立ち。

容姿の優れた才能のある社長令息。生まれてから金も権威も地位も容姿も全て与えられた存在。

昔から羨まれ褒められることが多かった。でも皆の瞳に映るのは俺自身ではなく俺が与えられたものだ。本当にすごいのは俺ではなく親。ノエルはそのことを十分理解していた。



魔法学校に入学してからは父の会社を手伝いながら、魔法を使ったバイトを何個か掛け持ちしていた。

そんなノエルには欲しい物がなにもない。すべてが与えられているからこそ目的も目標もしたいこともなにもなかった。
恋人だって欲しくはない。俺に近づいてくる人間はたいてい俺の外見や金、地位が目的のやつばかりだから。

「本当の俺を知ったら皆非難する癖に」

漆黒の髪に紅の瞳を持つ青年、ノエルはそう呟くと自身の髪を手で軽くすいた。
すると触れた場所からみるみる髪色がかわっていく。夜空のように暗い髪色は美しい金髪に。血液よりも真っ赤な瞳は透き通る空色に。

魔法使いノエルは今日も自分を偽る。

世間では黒髪に赤い瞳は不吉だと言われていたからだ。黒魔術を使うだとか天災を引き起こすだとか。なんの根拠もないただの言い伝えでしかないそれを人々は信じ恐れていた。

実際のところ、ほぼすべての魔法が使えるから黒魔術も使おうと思えば使える。でもそれは法律に違反することであり勿論今まで使ったことは一度たりともない。
黒魔術は人の心を支配する魔法だ。人々をコントロールし国を滅ぼす可能性があるから禁忌の魔法と呼ばれていた。

人の心になんて興味ない。そう思っていたはずなのに。







「なぁちょっと気になる店があるんだけどさ一緒に行ってくんね?」

授業が終わるや否や友人の数人が俺の机に集まってきた。

「店?」

「そう、王都中部にあるオーティファクトって店なんだけどさ」

オーティファクト…。聞いたことがあるようなないような。確か有名な酒場だった気がする。
バカ高い酒を美男美女が振る舞ってくれる店。成人しているとはいえ本来学生が足を踏み入れるべき場所ではない。

「そこって確か会員制のとこじゃなかったっけ?」

しかも一部の金持ちもしくはその知りあいでないと入れないところだった気がする。

「だからお前に頼んでるんだって!ほらお前の友達にB組のマーカスいるだろ。あいつそこの会員なんだよ。だから…」

なるほど、俺を利用してその店に入ろうということか。
たしかにマーカスは知り合いにいる。しかし特段仲がいいというわけではない。陽気で明るくお喋りなあいつは一緒にいると疲れるんだ。
そもそも俺は酒が好きじゃない。酒に溺れるぐらいなら魔法書を読み耽る方がよっぽど楽しく将来のためになる。

「悪いけど今日は図書館に行く用事があるから」

俺はやんわりと断るが彼らはなかなか引かず、

「そこをなんとか…!」

このとおりだと頭を下げられてしまう。

「無理」

「今度レポート代わりにやってやるから」
「今度可愛い女の子紹介するから…!」
「限定のシュークリーム買ってくるよ」

友人の間をくぐり抜けるように教室のドアへと向かったその時、

「その店異世界人も働いてるらしいぜ」

その一言に立ち止まった。

「異世界人…?」

「そ、そう!美男美女だけじゃなく珍しい人、例えば獣人とか異世界人も働いてるって噂になってんだよ」 

異世界人とはその名の通り別の世界からやってきた人間を指す。たまに時空の割れ目から落ちてくるのだ。本で読んだことはあるが、まだ本物を見たことはない。俺は異世界人という未知のワードに強く惹かれた。しばらく考えたあと、

「はぁ。わかったよ。マーカスに声かけてみる」

そう伝えると彼らは嬉しそうに飛び跳ねた。

「えっっ!!まじ?!ありがと!」

俺は後ろを振り返って続ける。







「あと…

 限定のシュークリームは食べたい」
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