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2章3 逃亡
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「ちょっとやばいってええ!!」
普通ならこの高さから落ちたら即死だろう。下を見ると木々が豆粒のように小さく見える。
俺たちは、ふわっと一瞬体が浮いてそれから一気に落下していった。
「くそっ」
上を見上げると殿下が悔しそうにこちらを見ていた。
殿下…ごめんなさい。
そしてスタッと華麗に着地を決めると勇者はすぐさま走り出した。
「れ、連…でもこれからどうするんだよ」
「うーん困ったね…あの様子だと説得しても無理そうだし」
「だよなぁ…」
「とりあえず捕まる前にここを離れよう」
勇者は風のようなスピードでビュンビュン走る。あっという間にお城の門が見えてきた。
「勇者様ぁぁ!!」
すると遠くから連を呼ぶ声がする。顔をあげると、城の入口、つまり門のあたりに人影が見えた。あのピンク色の髪は…。
ミリアムお嬢様…?
彼女は満面の笑みでこちらにブンブン手をふっている。
「お早いお帰りで!」
そしてこちらに駆け寄ってきた。
「ミリアムさん昨日ぶりです」
この人と知り合いなのか…?
「連れ出すことに成功したのね。じゃ、例の件うまくやってくださいね」
例の件…?
「うん…」
ニコニコ嬉しそうなお嬢様とは反対に、幼馴染は微妙な顔をした。
「はい!これをそこの彼に」
そして彼女はポケットから魔法ポーションのようなものを取り出すと勇者のポケットにそれをねじ込んだ。
「ミリアムさん…でも流石に」
「何言ってるの?絶好のチャンスじゃない。ちゃんと回収してってよ」
回収?一体何の話をしているんだ…?
「あそこの山頂に私の別荘があるの。今は使用人もいないからそこを使っていいわ」
なんかよくわからないけど当分の間は彼女の別荘に見を隠せるってことか…?
「ミリアムさんありがとうございます!」
俺はとりあえずお礼を言っておくことにした。すると彼女はムスッとした顔でふんっと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。
朝もそうだったけど、やっぱり歓迎されていないようだ。こうも対応に差があるとなんか落ち込む。
「彼女は殿下が大好きだから…湊、それより早く別荘に行こうか」
幼馴染は彼女にお辞儀をすると俺を担いで風を切る速さで別荘へと向かった。
「これが別荘?!」
森に佇むそれはもはやお城のようだった。真っ白な壁に尖った屋根、庭には噴水なんかもある。手入れがよく行き届いている綺麗な建物だ。
連はもらったポーションにくくりつけてある鍵を使って別荘の中に入った。
そして入り口から一番近い部屋のドアを開ける。
中は豪華な寝室だった。
天蓋つきの大きなベッドが部屋の中心にあって、ランプや本棚など一通り揃っている。
「とりあえずこの部屋に強力な結界を張っておくね」
「あぁ…ありがとう」
「これでこの部屋には誰も入れないし王子にバレることもない」
しばらく見ないうちに幼馴染は立派になったものだ。つい最近まで一緒に高校に通っていたのが懐かしい。
「なんかいろいろごめんな…魔王退治も大変だっただろ?」
「なんで湊が謝るの?そんなに苦行じゃなかったよ。それよりまたあえてよかった…」
連は泣きそうな顔で微笑んだ。
「え…?」
「ほら僕トラックに轢かれそうになったでしょ?それで湊が僕を突き飛ばした」
「あぁ」
そんなこともあったな。そうだ、それでこの世界に来てしまったんだっけ。
「あれから君の姿がなくなってすごくすごく心配したんだ。まさか異世界に飛ばされたなんて思ってもみなかったよ」
「そうだな…俺もびっくりした。早く帰れるといいんだけど…」
「また湊と一緒に学校に通いたい」
「そうだな…」
本当に大変なことになってしまった。さてこれからどうしようか…。そういえば、
「そういえば連、ミリアム令嬢と知り合いだったんだな」
なんか俺のよくわからない話をしていたけど結局なんだったんだろうか。
「あーうん、昨日たまたま出会ってね…」
なんとなく幼馴染の歯切れが悪い。
「そのポーションは何なの?」
俺は彼が手に持っているフラスコ瓶のようなものを指さした。
「これ?これは湊が飲むために作ってくれたものなんだけど…」
「俺が?なんで?」
「いや、飲みたくなかったら飲まなくてもいい」
「??」
いまいち会話が噛み合わない。そういえば朝毒薬作って殺してやるとか言ってたような…。
「え、もしかして毒薬?!」
「違う。きっと安全なものだよ」
そういって彼はポーションを一口飲んだ。
「え、本当に大丈夫なのか…?」
「うん、ほらへいき」
見たところ問題はなさそうだ。
彼女は魔法ポーションを作る天才とか言ってたからもしかしたらこれは元の世界に戻るための秘薬とか…?
俺は部屋の奥にあるソファに腰掛け、ポーションを観察してみた。フラスコのような瓶に入ったそれはピンク色のドロドロした液体だ。お世辞にも美味しそうとは言い難い。
「で?これは結局なんの薬なの」
連も隣に腰掛けた。
「んー…。湊は飲んでくれないの?」
「へ…?」
なんか様子が変…?いつもより距離が近い気がするし顔が赤い。やっぱり良くないものなんじゃ…。
彼は俺が持っていたポーションを取り上げると、ビンのフタを抜いた。
そしてあろうことか中の液体をすべて飲んでしまった。
「えっちょっ…んんっ?!」
その瞬間、彼は俺の顎を掴み深く口づけをしてきた。
「ぁ…んんんん」
どくどくと彼の口からピンクの液体が口内に入ってくる。
「んんんんっ」
口をふさがれているからうまく呼吸ができない。溢れた液体が口の端から首につたった。
結局、息が苦しくなってそれをすべて飲み込んでしまった。
「…ぷはっ。れ…ん…っ」
ちゅくっ。彼は俺の後ろ髪を掴むと再度唇を重ねる。にゅるにゅるした舌が入ってきて気持ちいい。
あれ頭がボーッとする。体が熱い。連ってこんなにかっこよかったっけ…?
改めて見ると彼はものすごいイケメンだ。
「湊…すき」
朦朧とする頭で彼を見つめる。彼の瞳の中にはピンクのハートがプカプカと浮かんでいた。
なんか…。連が。
「れん…だいすき!」
理性を手放した俺は彼に思い切り抱きついた。好き好き好き…大好き。
なんでかわからないけどとても好きだ。
普通ならこの高さから落ちたら即死だろう。下を見ると木々が豆粒のように小さく見える。
俺たちは、ふわっと一瞬体が浮いてそれから一気に落下していった。
「くそっ」
上を見上げると殿下が悔しそうにこちらを見ていた。
殿下…ごめんなさい。
そしてスタッと華麗に着地を決めると勇者はすぐさま走り出した。
「れ、連…でもこれからどうするんだよ」
「うーん困ったね…あの様子だと説得しても無理そうだし」
「だよなぁ…」
「とりあえず捕まる前にここを離れよう」
勇者は風のようなスピードでビュンビュン走る。あっという間にお城の門が見えてきた。
「勇者様ぁぁ!!」
すると遠くから連を呼ぶ声がする。顔をあげると、城の入口、つまり門のあたりに人影が見えた。あのピンク色の髪は…。
ミリアムお嬢様…?
彼女は満面の笑みでこちらにブンブン手をふっている。
「お早いお帰りで!」
そしてこちらに駆け寄ってきた。
「ミリアムさん昨日ぶりです」
この人と知り合いなのか…?
「連れ出すことに成功したのね。じゃ、例の件うまくやってくださいね」
例の件…?
「うん…」
ニコニコ嬉しそうなお嬢様とは反対に、幼馴染は微妙な顔をした。
「はい!これをそこの彼に」
そして彼女はポケットから魔法ポーションのようなものを取り出すと勇者のポケットにそれをねじ込んだ。
「ミリアムさん…でも流石に」
「何言ってるの?絶好のチャンスじゃない。ちゃんと回収してってよ」
回収?一体何の話をしているんだ…?
「あそこの山頂に私の別荘があるの。今は使用人もいないからそこを使っていいわ」
なんかよくわからないけど当分の間は彼女の別荘に見を隠せるってことか…?
「ミリアムさんありがとうございます!」
俺はとりあえずお礼を言っておくことにした。すると彼女はムスッとした顔でふんっと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。
朝もそうだったけど、やっぱり歓迎されていないようだ。こうも対応に差があるとなんか落ち込む。
「彼女は殿下が大好きだから…湊、それより早く別荘に行こうか」
幼馴染は彼女にお辞儀をすると俺を担いで風を切る速さで別荘へと向かった。
「これが別荘?!」
森に佇むそれはもはやお城のようだった。真っ白な壁に尖った屋根、庭には噴水なんかもある。手入れがよく行き届いている綺麗な建物だ。
連はもらったポーションにくくりつけてある鍵を使って別荘の中に入った。
そして入り口から一番近い部屋のドアを開ける。
中は豪華な寝室だった。
天蓋つきの大きなベッドが部屋の中心にあって、ランプや本棚など一通り揃っている。
「とりあえずこの部屋に強力な結界を張っておくね」
「あぁ…ありがとう」
「これでこの部屋には誰も入れないし王子にバレることもない」
しばらく見ないうちに幼馴染は立派になったものだ。つい最近まで一緒に高校に通っていたのが懐かしい。
「なんかいろいろごめんな…魔王退治も大変だっただろ?」
「なんで湊が謝るの?そんなに苦行じゃなかったよ。それよりまたあえてよかった…」
連は泣きそうな顔で微笑んだ。
「え…?」
「ほら僕トラックに轢かれそうになったでしょ?それで湊が僕を突き飛ばした」
「あぁ」
そんなこともあったな。そうだ、それでこの世界に来てしまったんだっけ。
「あれから君の姿がなくなってすごくすごく心配したんだ。まさか異世界に飛ばされたなんて思ってもみなかったよ」
「そうだな…俺もびっくりした。早く帰れるといいんだけど…」
「また湊と一緒に学校に通いたい」
「そうだな…」
本当に大変なことになってしまった。さてこれからどうしようか…。そういえば、
「そういえば連、ミリアム令嬢と知り合いだったんだな」
なんか俺のよくわからない話をしていたけど結局なんだったんだろうか。
「あーうん、昨日たまたま出会ってね…」
なんとなく幼馴染の歯切れが悪い。
「そのポーションは何なの?」
俺は彼が手に持っているフラスコ瓶のようなものを指さした。
「これ?これは湊が飲むために作ってくれたものなんだけど…」
「俺が?なんで?」
「いや、飲みたくなかったら飲まなくてもいい」
「??」
いまいち会話が噛み合わない。そういえば朝毒薬作って殺してやるとか言ってたような…。
「え、もしかして毒薬?!」
「違う。きっと安全なものだよ」
そういって彼はポーションを一口飲んだ。
「え、本当に大丈夫なのか…?」
「うん、ほらへいき」
見たところ問題はなさそうだ。
彼女は魔法ポーションを作る天才とか言ってたからもしかしたらこれは元の世界に戻るための秘薬とか…?
俺は部屋の奥にあるソファに腰掛け、ポーションを観察してみた。フラスコのような瓶に入ったそれはピンク色のドロドロした液体だ。お世辞にも美味しそうとは言い難い。
「で?これは結局なんの薬なの」
連も隣に腰掛けた。
「んー…。湊は飲んでくれないの?」
「へ…?」
なんか様子が変…?いつもより距離が近い気がするし顔が赤い。やっぱり良くないものなんじゃ…。
彼は俺が持っていたポーションを取り上げると、ビンのフタを抜いた。
そしてあろうことか中の液体をすべて飲んでしまった。
「えっちょっ…んんっ?!」
その瞬間、彼は俺の顎を掴み深く口づけをしてきた。
「ぁ…んんんん」
どくどくと彼の口からピンクの液体が口内に入ってくる。
「んんんんっ」
口をふさがれているからうまく呼吸ができない。溢れた液体が口の端から首につたった。
結局、息が苦しくなってそれをすべて飲み込んでしまった。
「…ぷはっ。れ…ん…っ」
ちゅくっ。彼は俺の後ろ髪を掴むと再度唇を重ねる。にゅるにゅるした舌が入ってきて気持ちいい。
あれ頭がボーッとする。体が熱い。連ってこんなにかっこよかったっけ…?
改めて見ると彼はものすごいイケメンだ。
「湊…すき」
朦朧とする頭で彼を見つめる。彼の瞳の中にはピンクのハートがプカプカと浮かんでいた。
なんか…。連が。
「れん…だいすき!」
理性を手放した俺は彼に思い切り抱きついた。好き好き好き…大好き。
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