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2章2 婚約者様
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目が覚めると朝になっていた。
ここは…。どうやら殿下の部屋らしい。窓の外を見ると青空が広がっていた。
しかし遠くの方の空は真っ黒だ。たしかあの辺に魔王城があるんだよな…。
するとコンコンコンとドアがノックされる音がする。
「は、はい!」
部屋に入ってきたのは黒いスカートに白いエプロンをつけたメイドさんだった。
「おはようございまぁーす…っ」
そばかすが素敵な彼女は手に紅茶を持っていた。
「あ…あの俺…!」
なんて説明すればいいんだ。
あわてて起き上がると腰がまだ少し痛い。
「王子様が、そろそろ湊様が起きる時間だろうと言っていたのでお茶を持ってきました。どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
ひとまずそれを受け取る。
「アーロン殿下はどこに?」
「お仕事です!でもそろそろ休憩時間かと~」
「そうなんですね。あの…連いや、勇者はどこに?」
確か昨日俺のことを探してくれていたはず。
「勇者様ですか?彼ならもう昨日の夜から魔王退治に出かけましたよ」
「え?!」
「勇者様本当に素敵ですよね。魔力値も国で一番なんだとか。剣術にも優れていて騎士長様べた褒めしてましたよ」
メイドさんは頬を赤く染めながらうっとりとそういった。
まじか…。連もあの訓練をしたのか。あの厳しいおじさんにしごかれた日々を思い出すだけで頭が痛くなる。
すごいなぁ連は。元の世界でもあいつはハイスペ男子だったけど異世界でも大活躍じゃん。
そんなことを考えながら紅茶を飲んでいると、廊下からバタバタと大きな足音がした。誰かがこっちに向かって走ってくる…?
「ちょっとぉお!!」
バンっと勢いよくドアを蹴って開けてきたのは、ピンク色の髪に水色のドレスを着た女性だった。自分と同じ10代後半に見える。
彼女はズカズカと部屋に侵入すると俺の元までやってきて胸ぐらをつかんだ。
「うわっ」
「へぇーあんたがねぇ…ふーん」
「な、なんですかいきなり」
「ふんっ私はミリアム!アーロン殿下の婚約者よ」
「婚約者…?」
「お嬢様…また勝手にお部屋に入って!湊様ごめんなさい」
「ちょっと離しなさいよっ」
そしてメイドさんが彼女を部屋から追い出そうとするとバタバタと暴れまくった。
「いい?私はね!ずーっと前から殿下のことが好きなの!それなのにいきなり現れたあんたに取られたら立場ないわよ。早く城から出ていってくれない?」
「いや実は俺も…」
「反対するなら毒薬飲ませて殺してやるんだからね!!」
「だから…」
「私こう見えてポーション作りの天才なんだからね!あんたなんてすぐ消せるんだから!!」
だから俺も元の世界に帰りたいんですってば!!
全く人の話を聞かない彼女は喚くだけ喚いて部屋から閉め出されてしまった。
「湊様気にしないでくださいね!ではまた何かあればお申し付けください」
そう言ってお嬢様(?)を連れてメイドは部屋を去っていった。
「はぁ…」
よくわからないけど多分、昨日王子が突然婚約宣言したことで俺のことをよく思わない人もいるのだろう。
どうしよう。このまま城にいたら色々厄介な出来事に巻き込まれかねない…。あの自称婚約者の彼女も俺にすごい殺意持ってたし。
「うーん…うーん」
とりあえず王子が帰ってくるまでになんとかしないと。まずは旅に出た連を探す?
勇者の彼なら王子を説得できるかもしれないし。
そんなことを思いながら部屋をぐるぐる歩き回っていると、バリンッッと何かが割れる音がした。
「うわぁぁ!!」
窓が割れたんだ。振り返ると案の定窓ガラスはバラバラに砕けており、そこから男性が一人部屋に入ってきた。
「え…え??え?」
ま、待ってくれ。ここ何階だと思ってるんだ。
男は顔をあげる。彼は俺がよく知る人物だった。
「連…」
そう、さっきから探していた幼馴染の勇者。
「湊…!!!!」
彼はこちらに駆け寄ると俺を強く抱きしめた。
「連無事だったのか!!魔王退治に行ったって言ってたけど」
「うん、さっきようやく倒し終わったところ。ほら」
彼が指差す窓の外に目をやると確かに遠くの黒い雲は、いつのまにか跡形もなく消え去っていた。
「すごい!!流石だ」
「それより早く帰ろう」
「でもどうやって…」
「それは…」
「無駄だ」
そのとき背後からよく通る声がした。振り返るとそこには王子が立っていた。彼はムスッとした表情で腕を組み、ドアに寄りかかっている。
「殿下…いつの間に…」
「ミナトが起きたと聞いたから様子を見に来たのだが…まさかこの部屋の結界を破るとは流石だな勇者」
「魔王は倒しました。はやく僕たちを元の世界に戻してくれませんか?」
幼馴染は俺と殿下の間に立ち、ポケットから魔獣の角のようなものを取り出すと王子の前に放り投げた。
あれってまさか魔王の角…?!ひぇ…。
「勇者のみを元の世界に戻すことはできるが、ミナトを連れて帰ることは許さない」
「なぜ?」
「彼は城に残って私と結婚するからだ」
「それに湊は同意したんですか?」
「れ、連…」
何やら険悪なムードになってきた。バチバチと睨み合いをする二人は今にも殴り合いの喧嘩をしそうで思わず仲裁に入った。
「ミナト、ここに残ってくれるな…?」
殿下は俺の目を見てそう尋ねる。
「…っ俺は…」
怯んじゃいけない。しっかり言わないと。
「俺は、元の世界に…帰ろうと思っています…ほら親も心配するし…それに…」
最後の方は消え入りそうな声になってしまった。だって殿下の表情がいつにもまして恐ろしいから…。
「ほう」
彼は明らかに不満そうな顔でそれだけ言った。
「だそうです。だからはやく…」
「この国でお前たちを元の世界に戻すことができるのは王子である私だけだ。ミナトとは少し話し合う必要がありそうだな」
「ひっ…っ」
これは確実に怒っている。目が完全に据わってるもん…。俺は一歩後ろに下がる。
すると連が俺をかばうように前に出た。
「僕はこの世界で一番強い勇者です。だから」
そして一瞬のうちに王子との距離を詰めると、窓ガラスの破片を彼の喉に突きつけた。
「あなたを脅すこともできます」
「…」
王子はそれでも顔色一つ変えず、連を冷たい目で見つめている。
やばいやばい。このまま喧嘩になったら本当にやばいことになりそうだ。殿下もこう見えてすごい魔法使いなんだ。王子と勇者が争ったら最悪人が死ぬかもしれない。
しばらく睨み合いが続き、先に沈黙を破ったのは勇者の方だった。
「はぁ、まぁいいです。あなたに頼らずとも元の世界に戻れる方法を探します。湊」
「ぅえ?!」
その瞬間、幼馴染は俺を抱き上げると、割れた窓から外に飛び出した。
ここは…。どうやら殿下の部屋らしい。窓の外を見ると青空が広がっていた。
しかし遠くの方の空は真っ黒だ。たしかあの辺に魔王城があるんだよな…。
するとコンコンコンとドアがノックされる音がする。
「は、はい!」
部屋に入ってきたのは黒いスカートに白いエプロンをつけたメイドさんだった。
「おはようございまぁーす…っ」
そばかすが素敵な彼女は手に紅茶を持っていた。
「あ…あの俺…!」
なんて説明すればいいんだ。
あわてて起き上がると腰がまだ少し痛い。
「王子様が、そろそろ湊様が起きる時間だろうと言っていたのでお茶を持ってきました。どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
ひとまずそれを受け取る。
「アーロン殿下はどこに?」
「お仕事です!でもそろそろ休憩時間かと~」
「そうなんですね。あの…連いや、勇者はどこに?」
確か昨日俺のことを探してくれていたはず。
「勇者様ですか?彼ならもう昨日の夜から魔王退治に出かけましたよ」
「え?!」
「勇者様本当に素敵ですよね。魔力値も国で一番なんだとか。剣術にも優れていて騎士長様べた褒めしてましたよ」
メイドさんは頬を赤く染めながらうっとりとそういった。
まじか…。連もあの訓練をしたのか。あの厳しいおじさんにしごかれた日々を思い出すだけで頭が痛くなる。
すごいなぁ連は。元の世界でもあいつはハイスペ男子だったけど異世界でも大活躍じゃん。
そんなことを考えながら紅茶を飲んでいると、廊下からバタバタと大きな足音がした。誰かがこっちに向かって走ってくる…?
「ちょっとぉお!!」
バンっと勢いよくドアを蹴って開けてきたのは、ピンク色の髪に水色のドレスを着た女性だった。自分と同じ10代後半に見える。
彼女はズカズカと部屋に侵入すると俺の元までやってきて胸ぐらをつかんだ。
「うわっ」
「へぇーあんたがねぇ…ふーん」
「な、なんですかいきなり」
「ふんっ私はミリアム!アーロン殿下の婚約者よ」
「婚約者…?」
「お嬢様…また勝手にお部屋に入って!湊様ごめんなさい」
「ちょっと離しなさいよっ」
そしてメイドさんが彼女を部屋から追い出そうとするとバタバタと暴れまくった。
「いい?私はね!ずーっと前から殿下のことが好きなの!それなのにいきなり現れたあんたに取られたら立場ないわよ。早く城から出ていってくれない?」
「いや実は俺も…」
「反対するなら毒薬飲ませて殺してやるんだからね!!」
「だから…」
「私こう見えてポーション作りの天才なんだからね!あんたなんてすぐ消せるんだから!!」
だから俺も元の世界に帰りたいんですってば!!
全く人の話を聞かない彼女は喚くだけ喚いて部屋から閉め出されてしまった。
「湊様気にしないでくださいね!ではまた何かあればお申し付けください」
そう言ってお嬢様(?)を連れてメイドは部屋を去っていった。
「はぁ…」
よくわからないけど多分、昨日王子が突然婚約宣言したことで俺のことをよく思わない人もいるのだろう。
どうしよう。このまま城にいたら色々厄介な出来事に巻き込まれかねない…。あの自称婚約者の彼女も俺にすごい殺意持ってたし。
「うーん…うーん」
とりあえず王子が帰ってくるまでになんとかしないと。まずは旅に出た連を探す?
勇者の彼なら王子を説得できるかもしれないし。
そんなことを思いながら部屋をぐるぐる歩き回っていると、バリンッッと何かが割れる音がした。
「うわぁぁ!!」
窓が割れたんだ。振り返ると案の定窓ガラスはバラバラに砕けており、そこから男性が一人部屋に入ってきた。
「え…え??え?」
ま、待ってくれ。ここ何階だと思ってるんだ。
男は顔をあげる。彼は俺がよく知る人物だった。
「連…」
そう、さっきから探していた幼馴染の勇者。
「湊…!!!!」
彼はこちらに駆け寄ると俺を強く抱きしめた。
「連無事だったのか!!魔王退治に行ったって言ってたけど」
「うん、さっきようやく倒し終わったところ。ほら」
彼が指差す窓の外に目をやると確かに遠くの黒い雲は、いつのまにか跡形もなく消え去っていた。
「すごい!!流石だ」
「それより早く帰ろう」
「でもどうやって…」
「それは…」
「無駄だ」
そのとき背後からよく通る声がした。振り返るとそこには王子が立っていた。彼はムスッとした表情で腕を組み、ドアに寄りかかっている。
「殿下…いつの間に…」
「ミナトが起きたと聞いたから様子を見に来たのだが…まさかこの部屋の結界を破るとは流石だな勇者」
「魔王は倒しました。はやく僕たちを元の世界に戻してくれませんか?」
幼馴染は俺と殿下の間に立ち、ポケットから魔獣の角のようなものを取り出すと王子の前に放り投げた。
あれってまさか魔王の角…?!ひぇ…。
「勇者のみを元の世界に戻すことはできるが、ミナトを連れて帰ることは許さない」
「なぜ?」
「彼は城に残って私と結婚するからだ」
「それに湊は同意したんですか?」
「れ、連…」
何やら険悪なムードになってきた。バチバチと睨み合いをする二人は今にも殴り合いの喧嘩をしそうで思わず仲裁に入った。
「ミナト、ここに残ってくれるな…?」
殿下は俺の目を見てそう尋ねる。
「…っ俺は…」
怯んじゃいけない。しっかり言わないと。
「俺は、元の世界に…帰ろうと思っています…ほら親も心配するし…それに…」
最後の方は消え入りそうな声になってしまった。だって殿下の表情がいつにもまして恐ろしいから…。
「ほう」
彼は明らかに不満そうな顔でそれだけ言った。
「だそうです。だからはやく…」
「この国でお前たちを元の世界に戻すことができるのは王子である私だけだ。ミナトとは少し話し合う必要がありそうだな」
「ひっ…っ」
これは確実に怒っている。目が完全に据わってるもん…。俺は一歩後ろに下がる。
すると連が俺をかばうように前に出た。
「僕はこの世界で一番強い勇者です。だから」
そして一瞬のうちに王子との距離を詰めると、窓ガラスの破片を彼の喉に突きつけた。
「あなたを脅すこともできます」
「…」
王子はそれでも顔色一つ変えず、連を冷たい目で見つめている。
やばいやばい。このまま喧嘩になったら本当にやばいことになりそうだ。殿下もこう見えてすごい魔法使いなんだ。王子と勇者が争ったら最悪人が死ぬかもしれない。
しばらく睨み合いが続き、先に沈黙を破ったのは勇者の方だった。
「はぁ、まぁいいです。あなたに頼らずとも元の世界に戻れる方法を探します。湊」
「ぅえ?!」
その瞬間、幼馴染は俺を抱き上げると、割れた窓から外に飛び出した。
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