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1 俺は勇者なんかじゃないのに!!
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さぁどうやってこの状況を回避すればいいのか。
俺は現在、テストと言う名の拷問を受けている。
「なぜこんなこともできないのだ!」
騎士長と呼ばれる大柄な男は、丸腰の俺に向かって魔法攻撃を容赦なくぶつけてきた。
「痛いっ痛いって!!だから、俺は勇者なんかじゃないんですってば!!やめっ」
剣の先から発せられる光の玉は、当たるととても痛い。まるで火傷したときみたいな痛みが体を襲う。
現に服のいろんなところが燃えてるし…。
騎士長はその熱い火の玉を今度は連続でバシバシ投げつけてきた。
「ひっ…わっわぁあ」
もうこんな訓練ごめんだ!
耐えられなくなった俺は背中を向けて逃げ出す。すると、背後から重い一撃をもろに食らってしまった。
「ぐはっ」
俺は潰れたカエルのように地面に顔面から突っ込んだ。
「うぅ…」
「殿下、こいつは本当に勇者なのですか?こんなんじゃ下級モンスターにも勝てませんよ」
騎士長が呆れて言う先には金髪青目の男、アーロン殿下がいる。
アーロン殿下はサラサラヘアに美しい顔立ちのthe王子様って感じの男。スラッとした筋肉質な体に、美しい声。文句のつけようがないイケメンだ。
「お前は私の召喚儀式に問題があったと言いたいのか?」
イケメン王子は騎士長を睨みつける。
「いや…しかし…」
アーロン殿下はこちらに歩み寄ると、服の裾が地面につくのも厭わずその場にしゃがんだ。そして地面に這いつくばう俺に回復魔法をかける。
彼が手をかざすだけで体が温かい魔力に包まれた。
「まだ力が覚醒されていないだけだろう。しっかりと鍛錬を積めば、いずれ伝説の勇者になるはずだ」
そう微笑みかける笑顔は天使のように美しい。
いや、こんな情けない姿を見せても全く失望しないなんて凄いことだと思うよ?部下を見捨てない、あんなすごくいい人だよ。
でも俺はこいつが大嫌いだ。いくら練習したって勇者になんてなれっこないのに。俺がこんな目にあってるのはこいつのせいなんだ。
事の発端は数日前…。
その日俺は、幼なじみの連と横断歩道を歩いていた。気温の高い日だったから、アイスをかじりながら連の後ろを歩いていた。
そしたらいきなり信号無視したトラックがこちらに向かって走ってきたんだ。
トラックはブレーキをかけることなく先を歩いていた幼なじみに突っ込んでいく。
危ないっ
そう思った俺は咄嗟に友人を歩道に突き飛ばした。
その代わりに自分が車にひかれてしまったんだ。ドジにも程がある。
それで目が覚めたらこの剣と魔法の異世界に飛ばされていたというわけだ。ここまではよくある異世界物語。
初めは驚いたけど、せっかく異世界に来たならのんびりスローライフ送ったりチート使って無双したりしたいじゃん。
俺を召喚した張本人アーロン殿下が、君は勇者だなんていうから凄い期待していた。
勇者なんてかっこいい!かわいいお姫様と結婚したり英雄なんて呼ばれたりして楽しい毎日を過ごせるのかなって。
ここに飛ばされて数日間は、勇者としての素質を調べるためにいろいろな訓練をした。
魔法適性を調べたり、剣術の練習をしたり…。でもそのどれにも才能がなかった。
国一番の魔法使いには魔力はないと断言されたし、剣術の訓練では大怪我しかけた。
つまり俺は元の世界の相葉 湊がそのまま飛ばされてしまったということ。チートなんてものはなく、スポーツすら大してうまくできないのに剣術なんてできるわけがない。
何が勇者だよ…。そして俺は一つの仮説にたどり着いた。
俺って勇者じゃないんじゃね?
だってよく考えたら、幼なじみを庇ってこの異世界に来てしまった。
もしかしなくても勇者は幼なじみの方だったのでは?彼はとても優秀な男だったから…。
容姿端麗、頭もいい、スポーツ万能。彼のほうがよっぽど勇者っぽい。
だから俺は何度も自分は勇者じゃないのだと殿下に伝えた。しかしこの男自分の非を認めようとしないのである。
「お願いします。元の世界に戻してください」
自分が勇者じゃない可能性が出てきた以上、もうあんな痛い訓練はゴメンだ。早く元の世界に戻りたい。
「力が覚醒して魔王を倒したらな」
「だから人間違いですって、多分幼なじみのほうが勇者なんですよ…」
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
それから一週間が経過した。俺はもう心身ともに疲弊しきっていた。寝る間も惜しんで魔法、剣術、勉強。でもどれも全くわからない。
毎日怖いおじさんに怒鳴られるわ叱られるわ叩かれるわ…。元の世界に戻りたいなぁ。多分連心配してるよな…。
「はぁ…仕方ない。こうなったら」
奥の手を使うしかないか。強行突破だ!
連日の疲れとストレスで半分やけくそになっていた俺はその日の夜、殿下の部屋を訪れた。
コンコンコン、コンコンコン。
いつもどおり木製のドアをノックすると殿下が開けてくれた。
「またお前か」
彼はおそらく寝る直前だったのだろう。セットされていないストレートの髪にラフな服装をしている。
「ちょっと話があります」
「元の世界に戻してほしいなんて泣き言は聞かないが?」
「ま、まぁとりあえずお茶でも飲みませんか?」
「…」
殿下はじーっとこちらを見つめている。
「ほら、寝る前に体温めましょ」
至極嫌そうな殿下の背中を押し、なんとか部屋に入ることができた。
彼の部屋は思ったよりも質素だ。王子の部屋なんだからもっと豪華な内装だと思っていたけど、本人曰くこのぐらいが落ち着くらしい。
勿論この部屋にはセキュリティ魔法がかけられている。普通なら夜に王子の部屋を訪れることなんて許されない。危険だしそもそも無礼だからな。
ではなぜ俺にそれができるのか。
それは殿下の部屋に度々こうして訪れていたからだ。つまり常連なんだ。
そう、昼間は時間がないから夜こうして直談判しにきていたんだ。
酒を飲ませたり、泣きながら説得したりといろいろ試したがそのどれもが失敗に終わった。
そうこうするうちに、いつの間にか友人というポジションになっていて部屋を訪れることが許されるようになった。正直わからずや王子と別に仲良くしたいわけではない。
早く元の世界に戻りたいだけだ。
俺はお茶を差し出す。ベッドに腰掛けたアーロン王子はなんの警戒もなくそれに口をつけた。
中に薬が入っているとも知らずに。
俺は現在、テストと言う名の拷問を受けている。
「なぜこんなこともできないのだ!」
騎士長と呼ばれる大柄な男は、丸腰の俺に向かって魔法攻撃を容赦なくぶつけてきた。
「痛いっ痛いって!!だから、俺は勇者なんかじゃないんですってば!!やめっ」
剣の先から発せられる光の玉は、当たるととても痛い。まるで火傷したときみたいな痛みが体を襲う。
現に服のいろんなところが燃えてるし…。
騎士長はその熱い火の玉を今度は連続でバシバシ投げつけてきた。
「ひっ…わっわぁあ」
もうこんな訓練ごめんだ!
耐えられなくなった俺は背中を向けて逃げ出す。すると、背後から重い一撃をもろに食らってしまった。
「ぐはっ」
俺は潰れたカエルのように地面に顔面から突っ込んだ。
「うぅ…」
「殿下、こいつは本当に勇者なのですか?こんなんじゃ下級モンスターにも勝てませんよ」
騎士長が呆れて言う先には金髪青目の男、アーロン殿下がいる。
アーロン殿下はサラサラヘアに美しい顔立ちのthe王子様って感じの男。スラッとした筋肉質な体に、美しい声。文句のつけようがないイケメンだ。
「お前は私の召喚儀式に問題があったと言いたいのか?」
イケメン王子は騎士長を睨みつける。
「いや…しかし…」
アーロン殿下はこちらに歩み寄ると、服の裾が地面につくのも厭わずその場にしゃがんだ。そして地面に這いつくばう俺に回復魔法をかける。
彼が手をかざすだけで体が温かい魔力に包まれた。
「まだ力が覚醒されていないだけだろう。しっかりと鍛錬を積めば、いずれ伝説の勇者になるはずだ」
そう微笑みかける笑顔は天使のように美しい。
いや、こんな情けない姿を見せても全く失望しないなんて凄いことだと思うよ?部下を見捨てない、あんなすごくいい人だよ。
でも俺はこいつが大嫌いだ。いくら練習したって勇者になんてなれっこないのに。俺がこんな目にあってるのはこいつのせいなんだ。
事の発端は数日前…。
その日俺は、幼なじみの連と横断歩道を歩いていた。気温の高い日だったから、アイスをかじりながら連の後ろを歩いていた。
そしたらいきなり信号無視したトラックがこちらに向かって走ってきたんだ。
トラックはブレーキをかけることなく先を歩いていた幼なじみに突っ込んでいく。
危ないっ
そう思った俺は咄嗟に友人を歩道に突き飛ばした。
その代わりに自分が車にひかれてしまったんだ。ドジにも程がある。
それで目が覚めたらこの剣と魔法の異世界に飛ばされていたというわけだ。ここまではよくある異世界物語。
初めは驚いたけど、せっかく異世界に来たならのんびりスローライフ送ったりチート使って無双したりしたいじゃん。
俺を召喚した張本人アーロン殿下が、君は勇者だなんていうから凄い期待していた。
勇者なんてかっこいい!かわいいお姫様と結婚したり英雄なんて呼ばれたりして楽しい毎日を過ごせるのかなって。
ここに飛ばされて数日間は、勇者としての素質を調べるためにいろいろな訓練をした。
魔法適性を調べたり、剣術の練習をしたり…。でもそのどれにも才能がなかった。
国一番の魔法使いには魔力はないと断言されたし、剣術の訓練では大怪我しかけた。
つまり俺は元の世界の相葉 湊がそのまま飛ばされてしまったということ。チートなんてものはなく、スポーツすら大してうまくできないのに剣術なんてできるわけがない。
何が勇者だよ…。そして俺は一つの仮説にたどり着いた。
俺って勇者じゃないんじゃね?
だってよく考えたら、幼なじみを庇ってこの異世界に来てしまった。
もしかしなくても勇者は幼なじみの方だったのでは?彼はとても優秀な男だったから…。
容姿端麗、頭もいい、スポーツ万能。彼のほうがよっぽど勇者っぽい。
だから俺は何度も自分は勇者じゃないのだと殿下に伝えた。しかしこの男自分の非を認めようとしないのである。
「お願いします。元の世界に戻してください」
自分が勇者じゃない可能性が出てきた以上、もうあんな痛い訓練はゴメンだ。早く元の世界に戻りたい。
「力が覚醒して魔王を倒したらな」
「だから人間違いですって、多分幼なじみのほうが勇者なんですよ…」
何度このやり取りを繰り返しただろうか。
それから一週間が経過した。俺はもう心身ともに疲弊しきっていた。寝る間も惜しんで魔法、剣術、勉強。でもどれも全くわからない。
毎日怖いおじさんに怒鳴られるわ叱られるわ叩かれるわ…。元の世界に戻りたいなぁ。多分連心配してるよな…。
「はぁ…仕方ない。こうなったら」
奥の手を使うしかないか。強行突破だ!
連日の疲れとストレスで半分やけくそになっていた俺はその日の夜、殿下の部屋を訪れた。
コンコンコン、コンコンコン。
いつもどおり木製のドアをノックすると殿下が開けてくれた。
「またお前か」
彼はおそらく寝る直前だったのだろう。セットされていないストレートの髪にラフな服装をしている。
「ちょっと話があります」
「元の世界に戻してほしいなんて泣き言は聞かないが?」
「ま、まぁとりあえずお茶でも飲みませんか?」
「…」
殿下はじーっとこちらを見つめている。
「ほら、寝る前に体温めましょ」
至極嫌そうな殿下の背中を押し、なんとか部屋に入ることができた。
彼の部屋は思ったよりも質素だ。王子の部屋なんだからもっと豪華な内装だと思っていたけど、本人曰くこのぐらいが落ち着くらしい。
勿論この部屋にはセキュリティ魔法がかけられている。普通なら夜に王子の部屋を訪れることなんて許されない。危険だしそもそも無礼だからな。
ではなぜ俺にそれができるのか。
それは殿下の部屋に度々こうして訪れていたからだ。つまり常連なんだ。
そう、昼間は時間がないから夜こうして直談判しにきていたんだ。
酒を飲ませたり、泣きながら説得したりといろいろ試したがそのどれもが失敗に終わった。
そうこうするうちに、いつの間にか友人というポジションになっていて部屋を訪れることが許されるようになった。正直わからずや王子と別に仲良くしたいわけではない。
早く元の世界に戻りたいだけだ。
俺はお茶を差し出す。ベッドに腰掛けたアーロン王子はなんの警戒もなくそれに口をつけた。
中に薬が入っているとも知らずに。
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