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6 耳をぐりゅぐりゅ

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「へぇやっぱりどこの部屋もつくりは同じなんだなぁ」
俺の部屋と全く同じ構造の部屋を見て感心する。カーテンやカーペットなど家具の配置が少し違うだけで、こうも雰囲気が変わるのか。
俺の部屋には榊が持ってきたよくわからない壺や花が置いてある。それとは対象的に水瀬の部屋はスッキリしていた。どうやら人数の関係で一人部屋らしい。

彼は部屋に着くなり俺をドアに勢いよくはりつけた。

「…っ」
ゴンと後頭部がドアに当たる。
水瀬は暗い顔をしている。

「み、ずせ…どうした?」

「約束が違う」

「え?」

「他の人から魔力もらわないって言ったよね?なのになんで冬からあいつの魔力を感じるんだよ」
水瀬が俺に詰め寄ってきた。
あいつって榊のことだよな。魔力は人によって匂いみたいに違いがあるらしい。

「いや、えっとそれは…いろいろあって…」
俺が弁解しようとしたその時、彼が俺の耳たぶにがぶりと噛み付いた。

「いだっっ」

「しかも朝からあそこにいたんでしょ?そんな膨大な魔力…。」

彼は目を伏せる。
そして俺の耳にゆっくりと舌を這わせた。

くちゅりと音がした。背中がゾクッとする。
「水瀬…ちょっとくすぐったいやめろっ」

水瀬はそのまま舌をゆっくりと耳の穴に差し込んできた。ヌルヌルとした舌の感触やぐりゅぐりゅとした音で頭がくらくらしてきた。

彼は耳にピッタリと唇をつけ囁く。
「耳からも魔力入るかな…」

「は、はいらない…っやめろってばっ…」
はいらなぃはいらなぃと俺が何度言っても彼は聞かずに耳を舐め続けた。

音や感覚がやけに腰にくる。
俺はそのまま腰を抜かして地面にぺたりと座り込んだ。それを追いかけるように彼もまた地面に膝をついた。

「だから、水瀬、 はいらないって!いい加減やめ…っ」

「大丈夫はいるよ こうやって奥まで舌を挿れて…」
っ…っ。み、右耳が…。

「奥の方にたっぷり唾液を出せば…」
こぽっと音がした。耳が熱くなる。
耳から頭へ直接温かいものがじわりと広がった。魔力だ。
頭がクラクラする。

俺は涙目で水瀬を見つめる。
「かわいい…冬 もっといれてあげようか」

「水瀬…もうやめて…」 
かわいいってなんだ!やばい耳が熱い…。

彼は俺が倒れるまで耳に魔力を注ぎ続けた。


やっと俺が昨日の怪我のこと、それを治療した際に魔力をもらったことを説明することができた。

「許せない…っ冬に怪我をさせるなんて」
それを聞いて彼はひどく腹を立てた。

「いや、彼も悪気はなかったんだと思うし別にいいんだけどな もう痛くないし」

「だめだよ 寮長に話しに行こう ちょうど俺の部屋開いてるしこっちに移動すればいいよ」
そう言って水瀬は俺を寮長室まで無理やり引っ張っていく。



水瀬は寮長に部屋の移動を訴えた。しかしそれは無理だとあしらわれてしまう。

「なぜですか」
彼が少し苛立ち抗議する。

「これは榊君のお父様からお願いされていることだからです」

「お願い…?」
お願いってなんだ…?
俺たちは顔を見合わせた。

「彼のお父様が息子をできるだけ価値観の合わない人間と同室にするようにとお願いされているのです。榊くんの成長を考えてのことでしょう。自分と全く異なる価値観の人と関わることは大切なことですよ」

でもなんで俺なんだ…?

「時雨くんは親の所得が学内で飛び抜けて低いので選ばさせていただきました」

「そんな理由??」

「初日に喧嘩をしたものの、今朝は一緒に訓練場で練習に励んでいたと聞きます。人間関係に衝突はつきものですよ」

「いや、でも…」
寮長はニコリと笑う。俺たちに反論の余地はなかった。


俺は気づいた。そういえばこの前榊は手から魔力俺に流してたよな?
あれ?魔力って体液でしか渡せないんじゃなかったのか。

そのことを水瀬に指摘したところ手から渡すことはできないと断られてしまった。

「俺は回復魔法つかえないから」
なんと。水瀬にもできないことがあったとは。

「だからって榊から魔力もらうのはだめだからね」
彼はムスッとした顔でそう言った。

ぎく。なんで思考がバレてるんだ。
いや、だってさ正直恥ずかしいんだよ。毎回キスするの…。何回もしてきたけどまだ慣れないし。

「な、なんでだめなんだよっ」

「冬の体に他のやつの魔力が混ざるのは嫌だから…。魔力弱いこと榊には言ってないんでしょ?」

そういうものなのか…。
俺が唸っていると

「このことは俺と冬の二人の秘密」
そう俺に耳打ちした。


それから毎日水瀬から魔力をもらった。主に授業の前と放課後。放課後は自主練習をするため必要なんだ。

この前榊にバカにされたのが悔しくて毎晩練習を重ねている。それに当初掲げていた、水瀬を抜かすという目標もまだまだ達成できていない。まぁその本人から魔力もらってるんだけどね!

空いた時間は水瀬とゲームしたり勉強したりした。うちの高校は、バイトが禁止されているが特待生なら寮もメシもすべて無料でもらえる。絶対に特待生から落ちるわけにはいかない。
かれこれ一ヶ月ほど彼と過ごしてきてわかったことがある。それはやつには欠点という欠点が見つからないということだ。
部屋はいつもきれいだし勉強だってほとんど俺が教えてもらっている状態だ。
しかしそんな水瀬にもうまくいかないことがあるらしい。

それは俺たちが寮の食堂へ向かう途中のことだった。二人で長い廊下を歩いていたところ後ろから勢いよく二人の男子生徒が水瀬の肩にぶつかってきた。

そいつらは、すみませんっすみませんっとヘラヘラ謝ったあとにコソコソなにか喋り笑いながら走っていった。
なんだあいつら。

水瀬の方をちらりと見る。悲しそうな顔をしていた。俺は尋ねる。

「あいつらお前の知り合い?」

「…クラスメイトだよ」

クラスメイトか。なんか嫌な感じの奴らだったな。




翌日、昨日のことが気になって2組まで見に行くと水瀬は教室の端の方でぽつんと本を読んでいた。案の定クラスで浮いていた。前に友達がいないと言っていたがそれは本当だったのか。
あいつはすげーいいやつなのに優秀イケメンだから嫉妬されたり、はれもの扱いされたりしがちなところがある。

「水瀬 柚木!」
教室のドア付近で俺は大声で水瀬を呼んだ。同姓の人がいたら紛らわしいからフルネームで。
彼は俺の声にはっとし勢いよくこちらを向いた。

そんな彼に俺はニコリと笑いかけ昼食に誘う。

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