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3 キスはレモンの味

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帰りのホームルームまでにはある程度炎を操ることができるようになった。こうして指の先に軽く火を出してみることで体の残り魔力もわかるようになった。
火は時間とともに弱々しくなっていく。水瀬から魔力をもらったのが6限目の始まりぐらいだとして…一時間ぐらいか。
そのぐらいで魔力は切れるらしい。


帰りのホームルームが終わって早く帰ろうと昇降口に向かう。今日はとても疲れた。早く帰って寝たい。
すると2組の下駄箱に水瀬を見つけた。ちなみに俺は1組だ。

彼は靴を取り出そうと下駄箱の取手をつかむ。彼が下駄箱の蓋を開けると同時に、中から大量の手紙が湧き出てきた。

うわっ。

ピンクから水色、白、黄色カラフルな便箋が床に散らばった。彼はそれを面倒くさそうに拾い集めた。俺も彼のもとへと向かい手紙拾いを手伝う。

「冬…」

「うわっこれもこれも全部ファンレターラブレターじゃんすげー」

そう、これが中学の頃水瀬と距離をおいた理由だ。彼はこの通りとてつもなくモテる。そのため一緒にいると手紙やら弁当やらチョコやらを渡してほしいと頼まれるのだ。断れば陰口を言われたり怒鳴られたりする。
また、仲がいいというだけで金魚のフンだとか散々なことを言われたっけ…。だから中学では彼とは少し距離を置くことにしたのだ。クラスも3年間一緒になることはなかったため話す頻度はどんどん減った。

「まだ入学から一週間も経ってないのに相変わらずだな」
俺が苦笑しながら集めた手紙を手渡す。

「困ったよ…食べ物とかもあるどうしよ」
本当に困っている様子だった。
こんなにモテたら俺だったらめっちゃ喜ぶんだけどな。

「いらないなら俺に頂戴」
貧乏学生はいつも腹ペコなんだ。ニコリと手を差し出すがその手を軽く払われてしまった。


「それはだめ」
水瀬は拗ねたような表情をした。
やっぱだめか…。いいなぁ女子の手作りお菓子。


「それより…冬、体の方はなんともない?」
そうだ忘れてた。昔のノリで話しかけちゃったけど気まずい状況だった…っ。

「だ、大丈夫!なんともない!というかごめんなあんなこと頼んで…迷惑だよな これからは自分で何とかするから」
俺はその場をあとにしようと立ち上がる。

「別に嫌じゃないよ なんとかするって…もしかして他の人に頼むの…?」
声のトーンが少し落ちた。
嫌じゃないのか。それにしては不機嫌そうだけど。

「いや…あてはないけど」
「なら俺で良ければ協力させて」
彼は俺の方をじっと見つめている。こ、こいつ…いいやつだ。

「でもさ、お前になんもメリットないじゃん…」

それに対して彼はすこし食い気味で言った。
「なら昔みたいにこうやってまた話しかけてよ 俺、友達いないからさ」


「そ、そんなことでいいのか」

「うん冬とまた仲良くできるのすげーうれしい」
こ、こいつ…。天使か。

「わかったよろしくな!」


その瞬間頭がくらっとした。
あ、やばいこれ倒れるやつだ。頭ではわかっていても体は言うことを聞かない。貧血だろうか。
グラリと天井が見えて…
水瀬があわてて倒れる俺を抱きとめて…

そこから記憶がない。






目覚めるとベッドの上だった。白い天井にふかふかの布団…。ここは…。
保健室か。ベッド脇の椅子に座った水瀬が心配そうに俺のことを覗き込んできた。

「大丈夫?冬突然倒れたから」

「あぁごめん…多分疲れたんだと思う」
今日一日でいろんなことがあったからなぁ。

「ここまで運んできてくれたんだよな ありがと」
俺がお礼を言うとやさしく笑った。

「先生は?」

「先生は今職員会議らしいよ 放課後だからか他の生徒もいないみたい」

「そっか…」
ならこのまま帰るか。

「冬もしかして魔力切れなのかな?」
水瀬は顎に手を当ててうつむき考える仕草をした。そして、キスの効力は一時間ぐらいなのか…とボソッとつぶやく。

「魔力補充する?」
彼が顔を上げ目があった。


…っ。あ、あのはずかしいやつまたやるのか…。
「い、今は大丈夫 多分貧血なだけだから」

「そう?」

「あ、のさ…あと俺考えたんだけど…なにもキスじゃなくていいかなって」

「ほぉ」

「例えば飲み物に唾液入れてもらってそれを俺が飲むとか!…あとは」

「なんかそれ変態みたいだね」
ハハッと笑った。こいつこんなに無邪気に笑ったりするんだ。

「だって…毎回あんなの…」
俺がそう言いかけると突如彼が席から立ち上がる。
そしてそのままベッドに乗り上げ俺の手首を押さえつけてきた。


「あんなの…恥ずかしい?」
サラリと垂れた髪の毛が頬に当たる。くすぐったい。というか顔近い。うわ、睫毛長…っ。
っていやいや、な、なんで俺押し倒されてるの…。俺は軽くパニックになった。



「みず…せ?」
おそるおそる彼に問いかける。表情はよく見えない。


彼は自身のポッケに手を突っ込むと小さな袋を取り出した。
それはレモン飴だった。それを口に放り込むとそのままキスをしてきた。

「ん…っっみ、ずせ」

今度は舌ではなく唾液が重力に従ってどんどん口に流れてくる。
レモンの味がした。

彼が口を離す。
「今度はこぼさないでね」

「げほっ…水瀬っ、…っ」
魔力もどんどん流れ込んできて頭がくらくらした。

「レモン食べたら唾液たくさん出るしこの方が早いよ それとも…。」

「冬は俺と舌を絡めたい?」
熱い舌がゆっくりと俺の唇をなぞる。その感覚にゾクッとした。
首を横に振る。


彼はまた口づけを再開した。口内の温度で飴はどんどん溶けてゆく。
小さくなった飴は俺の口に唾液と一緒に流れ込んだ。

唾液だけを器用に飲み込む。また体の中に熱いものがじわりと広がった。目がトロンと溶ける。気持ちいい…。


「あー、飴そっち行っちゃった 返して」
そう言うとこちらにぺろりと舌を差し出した。
俺が飴を舌の上に乗せ口から出すとそれを器用に絡め取った。
口の外で舌をあわせるのはキスしてる感が強くとても恥ずかしい。

それから飴が完全になくなるまで水瀬はキスに付き合ってくれた。

その頃にはもう体中が魔力でポカポカしていた。

「あ、ありがとう…」

「また明日もあげる」
彼はそう言って俺の額にキスを落とした。
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