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嫌なことを思い出した。なんとクロはこの国の王子クロッカスだったなんて…。あの頃お忍びで城下町にきていたのだろうか。
もう二度と合うつもりはなかったのにこんなところで再会してしまうとは。

クロは私を強く抱きしめ額にキスをした。


「キイロ捕まえた」





私は森に住んでいること、家にはとても美しい白雪姫がいることを話した。彼の話によると、こんな森の中にいるのは山道を馬車で移動している際に山賊の襲撃にあったからだという。

「今頃俺のことを大人数で捜索しているだろうから迎えが来るまでキイロの家にいてもいいか?」



実際のところあまり会いたくない人ではあるけど、この物語の主要人物であり私達小人族の救世主であることに変わりはない。しかたない過去のことは忘れよう。
あの頃クロのおかげで生き延びることができたのも事実だし。
記憶の中の彼と現在の彼はあまり違っていなかった。今も昔も何を考えているのかわからないところは同じだ。

ちらりと隣を見る。身長は昔よりも随分と伸びている。当たり前だけど体つきも男性らしくしっかり変わっている。
このビジュアルなら白雪姫様も文句ないだろう。






家に到着してドアを開ける。そこで初めて姫と王子は対面したのであった。
まるで一瞬時が止まったようだった。

予想通り姫は目を見開き頬をピンク色に染め王子を凝視している。彼もまた白雪姫のことをじっと見つめている。

やった!これで物語が進むはず!
私達モブの小人はようやく暴君姫から開放されるのだ。王子が私の知り合いであったことは誤算だったけどうまくいくといいな。
私は隠れてアオとその他の小人たちにピースサインをおくった。


「あなたが姫か。申し訳ないが数日、いや数週間私の迎えが来るまでここに滞在させてほしい」
王子がよく通る声でそう言うと姫がより一層頬を染める。

「あぁっええっと!!もちろんです!ああ、あなたは…?」

「私はアルベルト王国の王子 クロッカスだ」

「王子様!」



その日はパーティが行われた。7色の小人と白雪姫、王子様。本当に白雪姫の世界だ。
王子様の前では白雪姫はやさしくてかわいい乙女だった。





 
パーティが終わり外で一人夜空を見上げているクロの横に座る。

「白雪姫様とってもかわいいでしょ」
さぁプレゼンの始まりだ。

「んー、あぁそうだな」

「白雪姫様いつもあんな感じなんだよ 気遣いができて…や、やさしくて 怒ることなんてめったにないよ とてもおすすめ」

「へぇ」

「リーダーシップもあって姫にピッタリ!国をうまくまとめてくれそう」
嘘だ。彼女がこの国の王妃になる日が来たら私は絶対他国に逃げる。なんか税金高くなりそうだし。

「この近くにはお花畑とかきれいな湖とかおすすめのデートスポットたくさんあるんだよ よければ明日にでも教えるよ」

「なぜ俺が姫とデートしなければならない」

あれ、なんか不機嫌だ。そうだよねまだ初対面、デートなんてまだ先の話か…。まだ恋は始まったばかり。
だめだ焦っちゃだめだ確実に二人には恋に落ちてもらわなければ困るのだから。

「キイロ」
ふと彼が私の名前を呼ぶ。そしてゆっくり顔を近づけてきた。彼は強引に口づけをした。

「…っっ!!」

まるで噛みつくようなキスだった。
私は軽くパニックになって彼の肩を力いっぱい押し返す。
すると彼がくすりと笑った。

「照れてるの?昔はたくさんしたのにな」

「て、照れてない!」
びっくりした。なんでいきなり…。

「まぁゆっくりなれていけばいい 毎日すればそのうちなれるだろ」

毎日?!
「冗談じゃな」

「キイロちゃん」

アオがいつの間にか私の後ろに立っていて私の名前を呼びぎゅっと抱きしめてきた。

「パーティの片付け人手が足りないらしいよ 行こ」

そういって私の腕を引く。

「あぁごめん!今行く」

私は王子のほうを振り返らずに歩きだした。

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