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1イカレ王子に捕まりました
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「あーあ、腹減ったなぁ」
俺は無様にも道端で仰向けに横たわり、空を眺めていた。体はもうピクリとも動かない。ここ数ヶ月ずっと森をさまよい、モンスターに襲われ体中かすり傷だらけだった。腹は減って力も出ないし、裸足で走り回ったせいで足の裏はボロボロになっている。
「俺このまま死ぬのかぁ‥一度でいいからふわふわの白いパン食べたかったな…」
この世界には人間と獣人がいる。獣人とは獣耳と尻尾がついている人間のことだ。人間社会ってやつはいつもマジョリティが力を持つ。獣人は人間ほど数が多くないため、ひどい扱いを受けることが多かった。
店で売られたり、殺されても虐殺されても法で裁かれることはない。俺は最低ランクの黒猫の獣人だったからクソみたいな人生を歩んできた。
生まれたときから檻の中でずっと育ち店小屋の中から人間を見てきた。傲慢で自己中心的な人間が大嫌いでいつも反抗してたっけ。
そのせいでよくムチ打ちにされていた。結局10代後半まで売れ残り商品になっていたわけだが、数ヶ月前にようやく買い手が決まった。もう顔なんて覚えてないけど、俺はその貴族を蹴り飛ばして脱走することに成功したんだ。
それで森をさまよって今現在にたどり着く。
こんなところでいつまでも寝そべっていたらすぐにでも森にうじゃうじゃいるモンスターがやってくる。そいつに食われて俺の人生は終わるんだろう。
「はは…」
まだやりたいこといくつかあるのになぁ。皮肉にも空は晴れ晴れしていて心地のいい風が頬をなでた。
その時、遠くの方からガタガタと音がしてきた。馬が走る音もする。商人だろうか。このままだと轢かれる。そうわかっているのに体は全く動かなかった。
騒音はどんどん近くに迫ってきて、やがて馬車は俺の真横で停車した。
「…?」
商人にしては随分と立派な馬車のようだ。するとドアが開き、中から数人男が降りてきた。
足音がする。
やがて足音は頭上でピタリと止まった。
「黒猫の獣人か。ボロボロだね」
横たわる俺を覗き込んできたのはなんとも美しい人間だった。手入れの行き届いたサラサラの銀髪が太陽に透けて煌めいている。
赤い瞳にかかるまつげは長く、鼻はスッと通っていて繊細な顔立ちをしていた。間違いなく俺が今まで見てきたどの人間よりも美しい青年だ。
人間は聞き惚れるような声で続ける。
「逃げてきたの?それとも追い出されたの?」
男は楽しそうに俺をまじまじと観察した。
「関係ねぇだろ。さっさとどっかいけよ」
俺はこの目を知っている。興味、関心、そして蔑みの目だ。できるだけ声を低くして声を荒げると紅の瞳が一瞬揺れた。
ザッと脇で待機していた兵士が剣を抜き、俺に突きつけてくる。
「…」
ごくり。
「やめなさい。へぇ、君僕が怖くないんだ」
男は高そうな服が土で汚れるのも厭わずに、その場に膝をついた。至近距離で視線が交わる。
「は、怖い?女みてぇな顔して、護衛がいないと一人で出歩くこともできないお坊ちゃんなんか怖くねぇよ」
「ふーん…」
彼は俺の瞳をさらに深く覗き込む。
「君、なかなかいい目をしてるね。気に入った。連れて帰ろうか」
「な…っ」
「馬車に乗せて」
「はい!王子」
その瞬間、兵士二人が俺を連行した。軽々と肩に担がれ馬車はあっという間に走り出す。王子?!こいつ今王子って呼ばれてなかったか?どうか聞き間違えであってほしい。舐めた口叩いたせいで最悪の場合殺される可能性だってあるのだから。
これが俺の人生のターニングポイントになるなんてこのときはまだ気づいていなかった。
俺は無様にも道端で仰向けに横たわり、空を眺めていた。体はもうピクリとも動かない。ここ数ヶ月ずっと森をさまよい、モンスターに襲われ体中かすり傷だらけだった。腹は減って力も出ないし、裸足で走り回ったせいで足の裏はボロボロになっている。
「俺このまま死ぬのかぁ‥一度でいいからふわふわの白いパン食べたかったな…」
この世界には人間と獣人がいる。獣人とは獣耳と尻尾がついている人間のことだ。人間社会ってやつはいつもマジョリティが力を持つ。獣人は人間ほど数が多くないため、ひどい扱いを受けることが多かった。
店で売られたり、殺されても虐殺されても法で裁かれることはない。俺は最低ランクの黒猫の獣人だったからクソみたいな人生を歩んできた。
生まれたときから檻の中でずっと育ち店小屋の中から人間を見てきた。傲慢で自己中心的な人間が大嫌いでいつも反抗してたっけ。
そのせいでよくムチ打ちにされていた。結局10代後半まで売れ残り商品になっていたわけだが、数ヶ月前にようやく買い手が決まった。もう顔なんて覚えてないけど、俺はその貴族を蹴り飛ばして脱走することに成功したんだ。
それで森をさまよって今現在にたどり着く。
こんなところでいつまでも寝そべっていたらすぐにでも森にうじゃうじゃいるモンスターがやってくる。そいつに食われて俺の人生は終わるんだろう。
「はは…」
まだやりたいこといくつかあるのになぁ。皮肉にも空は晴れ晴れしていて心地のいい風が頬をなでた。
その時、遠くの方からガタガタと音がしてきた。馬が走る音もする。商人だろうか。このままだと轢かれる。そうわかっているのに体は全く動かなかった。
騒音はどんどん近くに迫ってきて、やがて馬車は俺の真横で停車した。
「…?」
商人にしては随分と立派な馬車のようだ。するとドアが開き、中から数人男が降りてきた。
足音がする。
やがて足音は頭上でピタリと止まった。
「黒猫の獣人か。ボロボロだね」
横たわる俺を覗き込んできたのはなんとも美しい人間だった。手入れの行き届いたサラサラの銀髪が太陽に透けて煌めいている。
赤い瞳にかかるまつげは長く、鼻はスッと通っていて繊細な顔立ちをしていた。間違いなく俺が今まで見てきたどの人間よりも美しい青年だ。
人間は聞き惚れるような声で続ける。
「逃げてきたの?それとも追い出されたの?」
男は楽しそうに俺をまじまじと観察した。
「関係ねぇだろ。さっさとどっかいけよ」
俺はこの目を知っている。興味、関心、そして蔑みの目だ。できるだけ声を低くして声を荒げると紅の瞳が一瞬揺れた。
ザッと脇で待機していた兵士が剣を抜き、俺に突きつけてくる。
「…」
ごくり。
「やめなさい。へぇ、君僕が怖くないんだ」
男は高そうな服が土で汚れるのも厭わずに、その場に膝をついた。至近距離で視線が交わる。
「は、怖い?女みてぇな顔して、護衛がいないと一人で出歩くこともできないお坊ちゃんなんか怖くねぇよ」
「ふーん…」
彼は俺の瞳をさらに深く覗き込む。
「君、なかなかいい目をしてるね。気に入った。連れて帰ろうか」
「な…っ」
「馬車に乗せて」
「はい!王子」
その瞬間、兵士二人が俺を連行した。軽々と肩に担がれ馬車はあっという間に走り出す。王子?!こいつ今王子って呼ばれてなかったか?どうか聞き間違えであってほしい。舐めた口叩いたせいで最悪の場合殺される可能性だってあるのだから。
これが俺の人生のターニングポイントになるなんてこのときはまだ気づいていなかった。
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