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4 絵本

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翌日。魔王がでかけたところを見計らって俺は絵画を取り出した。

でもやはり真っ白のままだった。そういえば絵本を読んでみるといいっていってたような。

「本棚の一番右上…あった!」
部屋の端には大きな本棚があり、その右上に何やらボロボロの絵本がある。
背伸びをしてそれを取ると、ペラペラとページをめくってみた。

ところどころ破れていてずいぶん古い本のようだった。でも文字はどうにか読める。
それはこんな話だった。

【人魚姫と王子】

昔々あるところにそれはそれは美しい人魚姫がいました。

王子様は海へ出かけたとき、その人魚姫に一目惚れしました。それは彼の初恋でした。

しかし人間と人魚、それぞれ寿命も違えば住む世界も異なります。彼女には足がなく、地上に上がることさえ出来ません。

ある日、王子は悪魔に頼み込み人魚を人間に変える薬を手に入れました。

そしてそれを彼女に無理やり飲ませると、お城へと連れて帰りました。そして城に閉じ込め溺愛したのです。

人魚は突然のことに驚きました。二本の足を手に入れる代わりにしっぽを失ってしまったので、海へは戻れません。これから人間の世界でどう生きればいいのかもわかりません。

人魚姫は海が恋しくて毎晩泣いていました。

王子がいくら慰めても、彼女は彼を拒絶しました。

「私を海へ返してください」

「あぁ、僕は君をこんなに愛しているというのにどうして伝わらないんだ。君に嫌われるぐらいなら死んだ方がマシだ」

王子はそう言って自分の首にナイフを突き刺しました。すると人魚姫にも激痛が走ります。

「でもね。僕がいない世界で君が他の男と幸せになるなんて許せない。だから君も一緒に消えよう」

そう、これは呪いです。永遠になるための呪いでした。人間になるために飲まされた薬は彼と命を共有するというものでした。
王子が死ねば人魚も死ぬのです。

王子は彼女の手を引くとお城の窓から海へと飛び込みました。

そして二人は海の泡になったのです。
こうして王子の初恋は永遠のものとなり、二人は結ばれました。めでたしめでたし。


「な、なんだこれ…」
俺の知っている人魚姫じゃない…。
悪魔の世界ではこんなのが流通してるのか。
俺はその気味悪い絵本を本棚に戻した。






「どうだい?理解できたかな」

目を開けるとそこは真っ白な空間だった。
あれ…。そうだ。確か絵本を読み終わったあと俺寝ちゃったんだった…。
ってことはここは夢の世界か。

案の定目の前にはインキュバスの男が立っていた。

「愛の呪い。絵本だとわかりやすいだろ?」

「えっと…つまり?俺が人魚姫のポジションにいると…」

「そうさ。君は知らず知らずのうちに悪魔にされつつあるんだよ。おでこ見てみなよ」

俺は言われたとおりに額を触ってみた。するとそこにはなにか硬いものが生えていた。

「うわっなにこれ…」

「ツノだよ」

ツノ…。そういえば昨日おでこがすごい痒かったんだよな。

「それから俺が君の夢に入り込めるのも君が魔族に近づいている証拠だよ」

「そんな…。なんでタイガ相談してくれないんだよ…」

「そんなの決まってるじゃん。君を逃さないためだよ」

「…っ」

「人間のほうが寿命は格段に短いからねー魔王様はそれを気にしてるんだよ」

「君はなんなの…なんでそんなこと知ってるんだよ」

「俺は魔王のせいで絵画に閉じ込められてるんだ」

「そう…なの?」

「そうだよー前に魔王の夢に現れて襲おうとしたら怒りをかっちゃってね」

「襲うって…」

「インキュバスだから精力を求めてるんだよ。あの見た目でタチとかまじ聞いてないから」
彼はそうつぶやくと、こちらに視線を移した。

「そういえばいいお知らせがまだだったね」

あぁ、すっかり忘れてた。そういえばそんなこと言ってたような。

「いいお知らせってのはね…」
彼は嬉しそうにこちらに歩み寄ると指先で俺の髪の毛をくるくると触った。

「俺に抱いてもらえるってことさ」


「は?」
何言ってるんだ…。

「俺ずーっとこの何もない空間で退屈だったんだよ。そこに君が現れたってわけ」

「…っ」
俺は一歩後ろへと下がる。抱かれる?冗談じゃない…。

「あー今更そんなに警戒しても遅いよ。見てみて~」
彼が手を振りかざすと真っ白な空間に映像が映し出された。それはいつも俺が生活している部屋で…。

窓の外はもう真っ暗だった。…あれ?魔王がいる。
彼は何かを叫びながらシーツをめくったりお風呂場のドアを開けたり、窓の鉄格子を確認したりとせわしなく動き回っていた。

何やらすごく焦っているみたいだ。

「タイガ!」
声をかけてみるが聞こえていないようだ。

「彼、君が消えたから血眼で探し回ってるんだよ」

「へ?」

「くくくっ。俺がさっき君を絵画の中に引っ張り込んだから、そっちの世界の君は消えたってわけだ」
彼はクスクスと笑いながらそう言った。

「引っ張り込んだって…なんで」

「だーかーら抱くためだって。あの魔王の恋人の君に興味があるんだよ」

「…っ」

「自分の恋人が寝取られたって知ったら、あのきれいな顔がどう歪むのか楽しみだなぁ」

俺は後ろへとまた一歩下がる。
「君がバカ正直に俺の言う事聞いて、絵画を隠してくれたから当分は見つからないだろうね」

そうだ、絵画をベッドの下に隠したままだったんだ。

「ねーねほらほら見てよ。魔王様泣いちゃったよ」

「えぇ…」
画面の方へ目をやると確かにタイガは床にへたりこんでいた。
ポタポタと雫が床を濡らしている。
なんで泣いて…。

「あれは依存だね。君がいなくなっただけであんなになるなんて。あはは」

「元の世界にもどして」

「やだね」

…くそっ。

「タイガ!タイガ!!俺はここにいるよ!!出して!!」

大きな声を上げてもやっぱり聞こえていないみたいだ。

インキュバスは羽を動かし一気に距離を詰めると俺の両手首を掴んだ。

「きゃははっ。誰かが泣いたり絶望したりするのって最高だよね。ほらほらーはやくしよーよ。魔王の前で君を犯したいなぁ」

彼は俺の服を剥ぎ取ると床に突き飛ばした。
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