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11 魔王様お迎えに ★魔王視点

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僕は皆と違うの?悪魔なの?そんなこといきなり言われたって…。
嫌だ。怖いよ。怖い怖い怖い怖い怖い怖い…。
逃げたい。お父さんやめて…っ。

ぎゅっと目を閉じたその瞬間だった。
体に温かいものが広がる。
わけもわからず僕はその場にうずくまった。

しかしいつまで経っても体に痛みはなかった。おそるおそる上を見上げる。するとそこに父親はいなかった。

よかった。きっとこれは夢だったんだ。僕は立ち上がる。そして辺りを見回してその場に立ち尽くした。

何もなかったんだ。

村も村人も家も畑もなにもない。
ただ真っ黒に焦げたなにかが、その場に散らばっていた。

「…っ」

もう何が起こっているのかわからない。

ふと自分の手を見るとそこには黒く長い爪があった。そして背中には黒い翼。
頬をつねったけどすごく痛かった。夢じゃない…?
これは僕がやってしまったのだろうか。


あぁ、これじゃあ本当に化け物じゃないか…。
僕はその場にうずくまった。

人は処理しきれない情報がいきなり押し寄せると案外冷静になれるらしい。

見た目の変化は、村人が言っていたように僕が悪魔であるという現実を突きつけた。
そして焼け野原になった村は僕が人を殺したという事実を容赦なく突きつけた。

ここにいたら頭がおかしくなりそうだ。
いつもの癖で僕は森へと向かった。
おじさんならきっと森にいるはず…。

自然と涙が溢れてくる。
とぼとぼと森をさまよい洞窟へたどり着いた。
おじさんは今日もいた。そうだ。今日じゃがいものスープ持ってくる約束してたんだった。

「少年」

おじさんはツノが生えて爪が尖って翼が生えた僕を見て少し目を見開いた。でも、

「今日からしばらくここで暮らすといい」
それだけ言って詮索もしなかった。

翌日目を覚ましてもツノは生えたままだった。
もしかしたら夢だったんじゃないかと村の様子を見に行ったこともあった。でもそこにはやっぱり何もなかったんだ。

僕はしばらく森で暮らした。こんな姿では森から出られないし唯一の顔見知りはおじさんだけだったから。毎日魚釣りや、きのみ集めをして過ごしていた。

僕は時々森の魔物とコミュニケーションを取るようになった。優しい魔物は俺の魔力に反応しよく懐いてくれた。ふわふわしたホコリのような魔物や動物に似た魔物はとても可愛かった。
人間のときは見かけたこともなかったのに。

友達のいない僕にとって魔物は唯一の友達だった。家族のいない僕にとって老人は唯一の家族だった。


ある日のこと、いつもどおり魔物たちと戯れたあと洞窟に向かうと石の扉が開いていた。
洞窟は魔物の侵入を防ぐために石で蓋をしている。普段ちゃんと閉じられているそこが開いていることに違和感があった。

「おじさん…?」
不審に思いおそるおそる中を覗く。すると洞窟の中は血の海だった。


「あ、あぁああ…」

恐怖で腰を抜かす。
すると背後に誰かの気配を感じた。振り返るとそこには人のようで人ではないもの。魔人がいた。
人間のような見た目をしているのに白目は真っ黒で肌は紫色、尖った牙に大きなツノがあった。

魔物は人の姿に近ければ近いほど知能数が高い。つまり僕の後ろにいる二人はかなり頭がいいのだろう。魔人は一言。

「魔王様、お迎えにあがりました」

そう言った。







おじさんもいなくなって僕は本当に一人になってしまった。

人間も魔物もどちらも嫌いだ。僕の大切なものを奪うやつ、僕を嫌うやつは大嫌い。
僕を排除した村人も、大切なおじさんを殺した魔物も同じだった。
だから気に食わないやつは魔物でも人間でも沢山殺した。

こんな姿では人間界にはいられない。僕は魔物たちの仲間になって、見た目はどんどん魔物のようになっていった。
でもアイツラみたいに野蛮にはなりたくなかったから人間の生活は続けた。寝て食べて喋って本を読む。そんな基本のこと。

でも気づいた。いくら人間のふりをしても僕には優しさなんてもうとっくになくなってたんだ。
ただ殺戮を楽しむ悪魔と同じ存在。やがて自分自身も大嫌いになった。

僕はいつの間にか正真正銘の魔王となり、魔物たちを支配していた。部下もできた。人間を殺すと彼らはとても喜んだ。

でも、どんなに殺しても痛めつけても心が満たされることはなかった。
ただ、思い出すのは昔村で遊んでくれた友達や育ててくれた家族のこと。
帰りたいとそう思うようになった。

そんなある日部下からこんなことを聞いた。勇者が目覚めたと。勇者は魔王の脅威になりうるから殺しておこうと。

言われた通り村を訪れ勇者の偵察を行ったとき、とても羨ましいと思った。
生まれながらにして英雄で、絶対的な正義でありみんなから愛される。

勇者は、僕が欲しい物をすべて持っていた。赤髪の少年は目をキラキラさせていた。自分とは真逆の彼。
羨ましい羨ましい。

気づいたら勇者を殺していた。
そして自分が本物の勇者なのだと名乗ったんだ。

勇者として旅をしたけれど心は満たされなかった。自分に向けられるのは尊敬と畏怖だったから。これでは魔王と変わらない。でも少なくとも勇者でいれば人間でいられた。

僕は人のふりをして生きた。人助けをして
自分は勇者なのだと思いこんで沢山魔物を殺した。自分の中の魔物を消し去るように何度も何度も殺した。

ある日下級悪魔にもうこんなひどいことはやめてくれと泣きつかれた。
魔界では魔王が同類を惨殺しているという噂になっているようだ。なぜ?なぜ僕が悪者になるの。

勇者なのにさ。

その日の夜、パーティメンバーのお世話係と言う名の雑用係の男が僕を殺しに来た。
僕の正体がバレたようだ。
彼は影が薄い存在だったが、この件でとても興味が湧いた。

僕は殺されかけたという事実を盾にして彼を虐めた。
彼の怯えた顔は魔族としての本能を刺激した。初めはただの遊びだった。暇つぶし程度の存在。従順な人間のペットしかも抱き心地もいいからという理由で生かしておいた。

彼への認識が変わったのはドラゴン討伐の際だった。
ルフは、ツノが使い物にならなくなったドラゴンに、世界中探したらこいつのこと受け入れてくれる仲間だって絶対できるはずだとそういった。

そのドラゴンは魔物でありながら人間のふりをする出来損ないの僕とひどく重なった。
だから彼の言葉はぐちゃぐちゃの僕に差し込む一筋の光のように感じられたんだ。

そこで気づいた。彼だけが人間であり魔族である僕を受け入れてくれているのだと。

一緒にいて楽しくて彼はドラゴンのときもそうだったが、僕に人の心を思い出させてくれる存在だった。

初めて失いたくないと思った。
彼を人間から魔物から守らなければならない。
もう二度と失わないように。

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