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6 残酷なゲーム

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俺は必死に彼の腕にしがみつく。

「だめだって…っ」

「ルフ離して 命令 できないなら君も切る」

「抵抗しないやつを殺すなんて最低だ」
いつもの脅しにも俺は怯まず抵抗した。


しばらくしてタイガがため息をつく。
そして俺に尋ねた。
「君はこの角の価値を知ってる?」

「価値…?」
彼は俺を床に降ろすと、膝をつけ瞳を覗き込んできた。

「ホルンドラゴンにとって角は命みたいなものだよ ドラゴンは上下関係やプライドが強いから角がない時点でこいつは親から見捨てられ、仲間にいじめられる 殺してやるのが優しさなんだよ」
そう淡々と話す彼の目に光はない。

「…」

「僕だったらそう思う」
そして彼は寂しそうな目でドラゴンを見た。

「でも、仲間なんていなくても…」
一人で生きていくことだってできるだろ。そう言おうとした。

「そう思う?」
しかし彼があまりにも悲しそうな目をしたから続けられなかった。

「…」

「だ、だからって殺すことはないだろ 省かれても世界中探したらこいつのこと受け入れてくれる仲間だって絶対できるはず…何なら俺が世話する!だから殺したらだめだ」

俺は涙目になりながら白い怪獣の前で再度手を広げた。ドラゴンはその様子をじっと見ていた。

「仲間…?」

「そうだよ ずっと一人ぼっちなんてこと絶対ない」
俺は彼にはっきりとそう告げた。
この世にドラゴンも人間も魔物もどれだけいると思ってるんだ。全生き物から嫌われるやつなんているわけない。

俺の言葉に彼の瞳は大きく見開かれた。

「でも…」
タイガが何か言いかけたとき


その時だった。天井から大きな雄たけびとともに二匹の大きなドラゴンが舞い降りてきた。

ドスンっと地面に足をつけると
親ドラゴンは子ドラゴンを庇うように俺たちの前に立ちはだかる。キッとこちらをにらみつけ今にも襲いかかってきそうな勢いだった。

「これは…」

「ほら、親ドラゴン帰ってきた 怒ってるよ」

タイガはじっと親ドラゴンを見つめた。
二匹のドラゴンは青い瞳でタイガをしばらく見つめるとくるりと子ドラゴンを振り返る。
そして頬をペロペロ舐めた。
小さなドラゴンは嬉しそうに目を細める。

3匹のドラゴンは再度バサバサと羽を羽ばたかせると天井から飛び立っていった。
洞窟内に砂嵐が起こり俺は顔を腕で覆うが、彼はドラゴンの様子を最後まで呆然と見ていた。

「…」

「子を見捨てなかったんだよ」
天井の先にある青空を眺め俺はそう呟く。
危ない。もう少しで子ドラゴンを倒してしまうところだった。

魔王はまだ遠くを見つめている。そして、

「いいな…僕もドラゴンになりたかった」
彼は自嘲するような笑みを浮かべ、瞼を震わせた。

え、ないてる…?俺が彼の顔を覗き込もうとすると、バッと顔をそらされた。
「ありがとう ルフ…」

「え、あぁ…」
あの鬼畜魔王も泣くのか…。少し驚いた。

さっき俺は彼を責めたけど、よく考えたらゲームでこのドラゴンを何度も殺したんだよなぁ。

「俺も、角の価値とか分からなかったからさタイガのおかげで命について考えるきっかけになったよありがとう」

そうだ。ここはゲームではなく現実なんだと改めて感じさせられた。ゲームの世界なら死んだ人は生き返るけど現実ではそうはいかない。常に命を奪い奪われることを考えないといけない。


魔王は普通の人間として育てられ、ある日突然魔力に目覚めるってストーリーだった気がする。
その過程で親に見捨てられ人間にいじめられ村を追い出されるんだよな。それで人間を憎むようになるって話だった。


『僕もドラゴンになりたかったな』
もしかして自分とドラゴンを重ねてたりするのかな。
さっきあいつがドラゴンを見つめる目はとても悲しそうだった。 

『殺してやるのが優しさなんだよ 僕だったらそう思う』


「タイガ」
俺は少し背伸びすると彼の頭を撫でた。

「ほら、仲間が待ってる 行こ」
魔法師たちを指差すと、彼は俺の手を強く握りしめた。






「そうなんです!悪いドラゴンの角を勇者様は一撃で切り落としたのです!」
屋敷につくと早速角を使った魔術が行われた。回復師は勇者の偉業を屋敷の人たちに話して回った。さすが勇者様だ!とあちらこちらから拍手がおこる。

魔術によって少女はたちまち病が治った。
ニコリと微笑むその顔は天使のようだ。

家主は何度も何度も泣きながら俺たちにお礼を言った。
その姿を見て俺は複雑な気持ちになる。

少女の命の裏にはドラゴンの犠牲があるんだ。
残酷だ。








あの日から俺たちの関係は少し変わった。俺は魔王を恐れなくなった。

前は殺戮を楽しむサイコパス野郎だと思っていたけど実際はいろんなことを考えて行動しているのだと気づいたからだ。それに彼の生い立ちには同情するところもある。

そしてなにより魔王の様子がなんかおかしい。なんというか俺にべったりなんだ。いや、前もベタベタしてはいたんだけど…。

この前だって南へ向かって草原を歩いていたとき、ぷよぷよした魔物と遭遇した。
そいつはとても人懐っこくて薄い黄色で小さくぷにぷにしていてすごく可愛かった。
俺はしゃがんで視線を合わせる。

「お前かわいいなぁ」
ツンツンとつつくとキュッキュッと鳴いた。そして足にすり寄ってくる。

ついニヤけてぷよぷよと戯れていたときだった。いきなり魔王がそのぷよぷよを蹴り飛ばした。

「キューーーーーーっ」
魔物はかなり遠くまで飛ばされ、ポヨンと地面に何回か打ち付けられた後仰向けに倒れてしまった。

「うわっタイガ!なんてことするんだよ」
彼を見上げるとかなり苛立った様子だった。
ポケットに手を突っ込んでムスッとしている。

俺はぷよぷよの元まで駆け寄り様子を確認した。

「大丈夫か…?」
蹴られた衝撃でお腹のところが凹んでる。ぷよぷよはうるうると目を潤ませ俺の首にひっついてきた。
かわいそうに。よしよしと頭をなでていると魔王がこちらにズカズカ歩いてきた。

「そいつ魔物だよね 切り殺していい?」
そう言って剣をふりあげる。どうしてこいつはこう血の気が多いんだよ。
ぷよぷよは俺の後ろに隠れてぶるぶる震えた。

「だ、だめだって」

「もしかしてそいつ気に入ったの?」

「だってかわいいから…」

「飼うの?」

「ううん」

「ならもう行こう そいつ見てると殺したくなる」
魔王は不機嫌そうに俺の手を引き踵をかえした。


俺がごろつきに絡まれたときも、
「殺していい?」

俺が風俗のお姉さんから客引きにあっただけで
「殺していい?」

こんなことが続いていた。前よりベタベタしてくるしなんかイライラしてるし何なんだよ…。

まぁ、昔は気にくわないものは片っ端から切り裂いてきた魔王が許可を取るようになってきたのはある意味成長してるのか?
そして夜も添い寝という名の抱きまくらにされていた。



「ルフ」
今日も彼が両手を広げて名前を呼ぶ。
彼のもとへ行くと心底嬉しそうに強く抱きしめた。

「ルフ…」

ど、どうすればいいんだ。
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