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2 勇者を暗殺するしかない

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どうしようこのままだと魔王に世界が征服されてしまう。
その夜は満月だった。
俺はまた宿で悩んでいた。この村に滞在して二日目になる。

もしかして世界の運命は俺にかけられているのでは?
唯一すべてを知っている俺なら魔王を殺ることもできる。
魔王の弱点は喉元だった気がする。そこを一番ダメージがでかい銀の短剣で突き刺せば…。わ、わんちゃん倒せる?

魔王はたしかに強いがまだ旅を初めて一ヶ月も経っていないし完全体ではないはずだ。人間の姿になっている時点で力をある程度封印していると思うし。
本物の魔王は人の形をとっていたが角が生えていたきがする。

この世界を救えるのは俺しかいない。
もしかしたら俺が前世を思い出したのだってこのためなのでは?

もしも世界が魔族に支配されたらお城で英雄との結婚を待っている超絶かわいいお姫様も殺されてしまう!それはファンとして許せない!






皆が寝静まった夜、俺は意を決して魔王タイガの部屋へ忍び込んだ。
タイガの部屋は俺の部屋の向かい側だ。
こっそり部屋を開けると涼しい風が吹いていた。
どうやら窓を開けて寝ているようだ。ベッド脇の大きな窓から月明かりが差し込んでいる。

俺はベッドまでおそるおそる近付くと彼に乗り上げ、銀の短剣を喉に突きつけた。

「ごめんな…でも…こうするしかないんだ」

タイガとの思い出は一ヶ月に渡ってある。そこまで仲良くはなかったけど一緒に旅した仲間だ。
本当は倒したくない。でも、しかたない…。ここで殺しておかなければ最後に殺られるのは俺たち人間だ。


俺が短剣を振り上げたその時だった。


タイガはゆっくりと瞼を開いた。
真っ赤な瞳と目が合う。



そしてにやりと綺麗に微笑んだ。

「あ…」
俺は恐怖で体を強張らせる。
彼は俺の頬に手を伸ばすと

「そんなに驚かなくても大丈夫だよ 僕に何か用?」

平然とそう言ったんだ…。


「…た…ぃが」
俺は声を絞り出すように名前を呼ぶ。
どうしようどうしよう…。

「僕を殺そうとしてたの?」
彼がうっとりと尋ねる。

「…」

「ねぇ殺さないの?」

「…」
手が震える。体が動かない。
冗談だよなんて言える空気じゃない。
彼は支配者としての風格をひしひしと感じさせている。

「昨日下級悪魔を処分してたところやっぱり見られてたのかな 君は僕が魔族だって気づいたんだね」

「…っぅ」

「敵だとわかった途端仲間を殺そうとするの人間らしくていいね 一人で実行した勇気は素晴らしいよ」
魔王はそう言ってクスクス笑った。
口では笑っていても目が完全に据わっている。

やばい逃げないと…こ、殺される。体を引こうとするが、タイガはゆっくりと短剣をもった俺の手首を掴む。
すると俺の腕を勢いよくひき、その短剣をなんと自身の胸に突き刺した。

「ひぇっ」
俺は悲鳴を上げる。

「…っ銀製の…短剣は結構痛いね ほらだめだよ手離さないで」

とっさに柄から手を離そうとするが魔王がそれ許さない。

「ちゃんと持って、ほら君が今自分の手で僕を刺してるんだよ」
彼の胸から大量の赤い血が吹き出る。

「あ、あぁ…っっ」
俺は恐怖でパニックになっていた。

「ルフはこうしたかったんだよね いいよ僕を殺したいんでしょ もっと体重かけないと殺せないよ」

「…は…っつ」

「ちゃんと教えてあげるから僕を殺してよ ほら殺せよ」

「う、あっ…ああ」
彼から吹き出た血が俺の服を、手を、短剣を真っ赤に染め上げていく。

「震えてるかわいい その恐怖の表情たまらない」
こんなに血が吹き出ているのに彼は顔色一つ変えずに続ける。

「下級悪魔、もう魔物を殺すのはやめてくれませんかって泣きついてきたんだよ」

「勇者が魔物を殺すのは当たり前なのにね それが正義で役目なのに 僕の楽しみ奪おうとしてきたから殺しちゃった」

「ルフ、僕君のことは嫌いじゃないよ 泣きつくんじゃなくて戦おうとする姿勢」
彼は俺の前髪をサラリとなでた。

「ぐちゃぐちゃに潰したくなる」 
そしてうっとりと呟く。

「ルフ、あれ黙っちゃった?もっと抵抗してよ」

魔王は俺の後頭部を掴むと強く引き寄せ口づけをした。
熱い舌が口内に侵入し、舌を絡め取った。
パニックになった俺は頭が真っ白になる。

「勇者はつまらなかった あいつには恐怖って感情がないみたいでさ どんなに痛めつけても」

「怯えたり」
タイガは両手で俺の頬を包み微笑みかける。

「泣いたり」
長い爪が俺の瞼をゆっくりなぞった。

「命乞いしたりしてくれないんだ ルフはしてくれるよね?」
彼は指を俺の口に突っ込むと口の中をぐちゅぐちゅとかき回した。

「う…ぅ」

「勇者は、勇者の剣で刺殺したんだけどルフはどう殺されたい?」

そう言うと彼はいきなり俺をベッドに叩きつけ、押し倒してきた。
さっきと位置が真逆だ。

下から彼を見上げる。月明かりが逆光になっていて顔はよく見えない。

彼は自分の胸に刺さった短剣をゆっくり引き抜く。
短剣が抜けるとそこから大量の血がドバっと吹きだしベッドを赤く染めた。

彼は俺の首に手をかけた。タイガの血が首にべっとりとつく。

「僕男は抱いたことないんだ」

「でも首を絞めて恐怖と絶望で苦しむ君の顔を見ながら抱いたらすごく気持ちよさそう」

魔王は腕にだんだん力を込めていく。
もう体は恐怖で動かなかった。さっきからずっとどうやって逃げればいいのかだけ考えているけど全く思いつかない。多分俺はここでこのサイコパスに殺される。
やばい視界が霞んできた…。
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