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ヴァルラム

異世界の叡智

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「ん、僕は男だし。銀狼族は跡取り、どうするのかなって思って……」
健気な発言に。

あまりに愛おしく。
思わず智紀を抱き締めた。


男で、子を産めぬ身体である。
私が獣王で、また珍しき銀狼であるが故に。

智紀はその跡取り問題について悩んでいたのだ。

前に空が曇った時もそうであったが。智紀がその表情を曇らせるのは、私との関係がどうなるか、という悩みだけなのだろうか?
ならば、気にすることはないのだと教えてやらねば。


「そんなことか。心配するな。兄弟が4人いるし、もう子も生まれているので問題はないのだ」
顔を覗き込み、表情を伺う。

「え、兄弟いたの?」
智紀は驚いたように目を瞬かせた。

「ああ。私は三番目だが、魔力が強かったので獣王に選ばれたのだ。式の時にでも紹介しようと思っていたのだが。智紀が思い悩むことを知っていれば、もっと早く教えてたのだが……」


先王……父は、王子らが跡継ぎの件で争わぬよう、子作りは一度だけと決めていたのだ。
それで四人兄弟となった。

しかし、生まれた時点での魔力の強さで次代は私だと決められていたようなものである。
争うこともなかった。


私が獣王となってからも、兄弟からは早く結婚を、跡継ぎを、などとせっつかれていたものだが。
どの道、ツガイが見つからぬ場合は、兄の子に継がせればいいと考えていたのだ。


*****


「そういえば、先代の”聖神”ってどうなったの?」
誰も話してなかったのか。

「神が聖神を求めるのは千年に一度と聞くが。先代はを失ったので国外追放になったと」


「ああ。……獣人の女性と、しちゃったんだっけ。……相手の女性、死罪になったの?」
優しい智紀が心配そうなので、すぐに教えてやる。

「いや、それで長年聖神が不在となったので、以後、聖神の資格を奪う者は死罪、という決まりができた」


先々代聖神は、文献で残っている限りでは寿命まで職務を全うした、ということも話す。
女の身では聖神になることが叶わぬのは、神が女神であるからとも。
女相手だと嫉妬するからであろうと言われている。

「はあ……、」
感心したような顔で。

智紀は意識を他へ飛ばしているようである。
思い悩む智紀も愛らしいが。

こちらを向かせたくなり、射精中の陰茎を、更に押し込んでやる。

「……うわ、」
きゅう、と締め付けられる。

「考え事をしている智紀も愛い。魂も安定したのだ。これからは、安心して抱けるな」


腰を揺する度にくちゅくちゅと音がし。
智紀の頬が朱に染まる。

音を立てると、恥ずかしくなるようだ。

「や、……奥、突きながら、出さないで、」
瘤が邪魔をし、抜き差しができぬ分、ぐいぐいと腰を押し付けるように動かしてやる。


「ん? 嫌か? ここは悦んでいるようだが? 吸い付いてくるぞ」
智紀のはらわたは、私の精を全て搾り取るような動きをする。

「だめ、気持ちよすぎて、頭、おかしくなっちゃ、……ああっ、」
智紀の精が、ぽたぽたと絨毯に落ち。

その香りに、獣欲を煽られる。


「許す、存分におかしくなるがいい。……私はもう、とうに智紀に狂っているのだから」
「はぁん、や、あっ、あ、」

智紀は私の腕の中で可憐に鳴き、よがり狂った。


*****


”揺り籠”は一般的な医療用の寝台とは違い、音声で反応するようにした、特別な装置である。

その機能も最新鋭の技術を使い、高度な魔術が組み込まれており、軽度の怪我なら簡単に治せる。
聖神の為に作られた、唯一無二のものだ。

しかし。
をそのように使用するのは初めて見る」


智紀は揺り籠を風呂にし、水を湯に換えて浸かっている。
心地良さそうであった。

夏場、汗腺が上手く働かない者も多いので、医療用の寝台は火照った身体を冷ます為、通常は水風呂にして使用するものである。
寝床も、冷えた水を湛えたものが通常。

しかし、智紀の世界では、毎日温めた湯に入り、綿や羽毛の布団で眠るのが普通らしい。

温泉ならば、あるのだが。
あれは湯治用で呪医コルドゥーンのイリヤに使用許可を得る必要がある。

私も一度浸かったことはあるが。ひどい匂いであった。


「日本人はお風呂が大好きで、入浴剤とか入れて、一日の終わりにリラックスする時間でもあるんだよ」
智紀は楽しそうにニホンとやらの風呂の話をした。

そんなに好きなものなら、私も共に楽しみたい。

「ふむ。ではそのような施設を作らせよう」
国民にも解放すれば、異世界の知識によって作られた施設に感謝するだろう。

「え、いいよわざわざそんな。これで充分だよ」
智紀は奥ゆかしさ故に遠慮しているのだろうが。

「それでは私も一緒に入れぬではないか。私は智紀と二人で入りたいのだ」


揺り籠は基本、一人用である。
聖神専用であるので、当然だが。これでは共寝も出来ない。


*****


「いいでしょう。建設には私も協力しますよ。智紀様、薬風呂のお話、もう少し詳しく。呪医としても気になります」
イリヤが繭に入ってきた。


「わあ、クラヴァーチベッドアディエージダ!」
智紀は慌てて風呂を寝台に替え、服を着た。

男同士であるし、呪医にみられても構わないだろうと思うのだが。
智紀は他人に肌を見られるのを恥じ、嫌うのだ。

私もなるべく見せたくないので、ありがたい性質である。


智紀の視線で。
私も全裸であったことに気付いた。

「ああ、すまん」
魔術を使い、服を着ても良かったのだが。

面倒なので、獣化する。
私の肌も、他人に見せるのは嫌だというので、可愛いツガイのために肌を隠すことにした。


智紀はイリヤに、異世界の風呂についての知識を語っている。
さすが風呂が好きな国の出身だけあり、知識が驚くほど豊富である。

私も、我が国のことでこれだけ語れる事柄がどれだけあるだろうか、と考えると首を捻らざるを得ない。
智紀の魅力についてなら、語れる自信があるのだが。


イリヤは興奮気味に、智紀の発言を記録している。

温泉玉子や黒玉子とやらは気になる。特に温泉玉子。
とろりとした白身や黄身を出汁でつるりと食べるものだそうだが。話を聞くだに美味そうである。

地獄蒸しプリンとやらも食べてみたいものだ。
こちらのプディングと似たものだろうか?


異世界には、セントーにスーパーセントーという巨大な温泉施設があるようだ。
成程、銭を払う湯殿、で銭湯か。

家にもあるものを、他に金を払ってまで入りたいというのだ。
相当の風呂好き国家なのだろう。

サウナは汗をかくための施設なので、発汗を促すのに最適である。


果物や花、草を湯に入れ、その薬効成分を抽出させる、というのも興味深い。
そう思ったのは、医師であるイリヤだけではなかった。
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