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智紀
プロポーズを受けて
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喪男として生まれて、43年。
こんな衆人環視の下。
輝く美貌の王様に跪かれて、熱烈なプロポーズをされるなど、あっていいのだろうか。
女性を差し置いて、冴えない僕が伴侶など、許されるのか。
いや、許されまい。
ヴァルラムに恋する獣人の方々から恨まれること必至で。
王様な上、このような美貌の、しかも狼族の中でも貴重だと言う銀狼である。
そういった女性がいない訳がない。
引きこもりでよかった。
女の恨みは怖いのである。
聖神という役割的に、石とか投げられたりはしないだろうが。
*****
しかし、ヴァルラムはプロポーズの言葉を告げた後。
跪いて目を閉じたまま、動かないでいた。
どういうことかと戸惑っていたら。
「……智紀様、了承する場合は、相手の額に口付けをするのですよ」
小声でイリヤが教えてくれた。
ああ、返事するだけではいけないのか。
ハードル高いな!
そういうことは、先に教えて欲しかった。
そろそろと、ヴァルラムの額に顔を寄せる。
……皆、ガン見するの、やめてくれないだろうか。恥ずかしい。
目測を誤らないように、両頬に手を添えて。
唇が、額に触れる。
そっと、顔を離すと。
ヴァルラムはゆっくりと目を開いて。
嬉しそうに微笑んだ。
うわ。
キュンとしてしまった。
……これが、恋というものだろうか?
今更だが。
キスどころか挿入中出しまでもうとっくにヤられてしまった後ではあるのだが。
今の微笑みにときめいてしまったものは仕方ない。
43年も生きてきて。
こんなに胸が高鳴ったのは、生まれて初めてのことであった。
「おめでとうございます」
「ご成婚、めでたく存じます」
やけに大勢からの祝いの声に周りを見れば。
ユリアーンやイリヤ達だけでなく。
神殿の神官や兵士達まで集まって来ていた。
僕が”繭”からいなくなったとの報せを受け、捜索に出ていた人達であった。
*****
そういう訳で。
ヴァルラムと結婚式を挙げることが決まったのだった。
しかし、余計な心労がかかるのを避けるため、と。
僕は準備などには参加せず。”繭”でゆっくりしていればいい、と言われたので。
ただ、ごろごろするだけの日々である。
まだ、この肉体と魂がしっかり結合されていないので、あちこち動き回るのもやめた方が良いらしい。
魂が落ち着けば。
この、ふわふわしたような気持ちも、落ち着くのだろうか?
僕がここから動けないので、ヴァルラムは繭の中に絨毯を敷いて。
夜になると、そこで銀狼の姿になって寝ていた。
王としての業務の他に、結婚式の準備で忙しいのか。
疲れてすやすや眠っている。
ベッドから出て、もふもふの毛皮に顔を埋めた。
今は銀狼の姿だが。
この美しいヴァルラムが、冴えない僕の伴侶になるのか。
やはりまだ、全然実感がわかないなあ、などと考えながら。
*****
……誰かが僕を呼んでいるような声がする。
夢の中で。
僕は真っ暗な場所にいて。
どこからか、微かに声が聞こえるのだ。
戻って来て、と。
この僕に、どこか戻る場所などあっただろうか?
元の世界には、居場所なんてないはずだ。
……誰も、僕なんて求めていない。
家族はもう、いないし。
漫画家としてだって、唯一無二という訳ではない。
僕レベルの作家は掃いて捨てるほどいる。
すぐに忘れ去られるだろう。
ミャア、という子猫の鳴き声。
ああ、僕が間接的に助けたことになった、あの子猫たちか?
いい飼い主の元に貰われていったのだから、僕に用などないだろう。幸せに暮らせよ。
”お願い、目を覚まして”、だって?
無茶を言わないで欲しい。
夢なのだから。
自分の意志で自由にならないものだ。
*****
突然。
息が苦しくなった。
「……っ、は、」
目を開いたら。
冷たい、コンクリートの感触。胸が痛い。苦しい。
……ここは?
「がはっ、こほ、」
咳き込んで、水を吐いた。
鼻も痛いのは、鼻からも水が入ったせいだろうか。
……どうして、こんな状況に?
苦しくて、めまいがする。
これは、酸欠だろうか?
「良かった、気が付いた……」
この声は。
聞いたようなことがあるような、ないような……。
電信柱の明かりに照らされた、見た事の無い、若い青年達の姿が涙で滲んだ視界に入った。
僕のすぐ側にいた青年は、ほっとしたような顔をしていた。
……誰だ?
知り合いではない、と思う。
良かったなー、と声を掛けてきた他の青年は。
その手に、見覚えのある子猫を抱いていた。
段ボールに入って、流されていた子猫たちである。
……では、あの学生達が助けてくれたのか?
わざわざ戻ってきて?
「あのね、こいつらが妙に鳴いて。戻りたそうにしてたから。虫の知らせっていうの? 感じて、戻ってみたら。溝にはまって溺れてたお兄さんを見つけたんだ。恩人のピンチがわかったのかなあ」
それで、急いでここまで引き上げて。
救急車を待つ間、心臓マッサージや人工呼吸をしてくれていたらしい。
救急車はまだ、到着していないとのことだ。
どうやら、溺れてから、まだ十分も経過していないようだ。
溺れて、幻覚というか、夢を見ていたのか。
夢の中では、二週間くらいは経っていたような感覚だが。
妙に胸が痛むのは、心臓マッサージのせいだろう。
心臓マッサージで骨折する人もいるという。
命には代えられないが。
こんな衆人環視の下。
輝く美貌の王様に跪かれて、熱烈なプロポーズをされるなど、あっていいのだろうか。
女性を差し置いて、冴えない僕が伴侶など、許されるのか。
いや、許されまい。
ヴァルラムに恋する獣人の方々から恨まれること必至で。
王様な上、このような美貌の、しかも狼族の中でも貴重だと言う銀狼である。
そういった女性がいない訳がない。
引きこもりでよかった。
女の恨みは怖いのである。
聖神という役割的に、石とか投げられたりはしないだろうが。
*****
しかし、ヴァルラムはプロポーズの言葉を告げた後。
跪いて目を閉じたまま、動かないでいた。
どういうことかと戸惑っていたら。
「……智紀様、了承する場合は、相手の額に口付けをするのですよ」
小声でイリヤが教えてくれた。
ああ、返事するだけではいけないのか。
ハードル高いな!
そういうことは、先に教えて欲しかった。
そろそろと、ヴァルラムの額に顔を寄せる。
……皆、ガン見するの、やめてくれないだろうか。恥ずかしい。
目測を誤らないように、両頬に手を添えて。
唇が、額に触れる。
そっと、顔を離すと。
ヴァルラムはゆっくりと目を開いて。
嬉しそうに微笑んだ。
うわ。
キュンとしてしまった。
……これが、恋というものだろうか?
今更だが。
キスどころか挿入中出しまでもうとっくにヤられてしまった後ではあるのだが。
今の微笑みにときめいてしまったものは仕方ない。
43年も生きてきて。
こんなに胸が高鳴ったのは、生まれて初めてのことであった。
「おめでとうございます」
「ご成婚、めでたく存じます」
やけに大勢からの祝いの声に周りを見れば。
ユリアーンやイリヤ達だけでなく。
神殿の神官や兵士達まで集まって来ていた。
僕が”繭”からいなくなったとの報せを受け、捜索に出ていた人達であった。
*****
そういう訳で。
ヴァルラムと結婚式を挙げることが決まったのだった。
しかし、余計な心労がかかるのを避けるため、と。
僕は準備などには参加せず。”繭”でゆっくりしていればいい、と言われたので。
ただ、ごろごろするだけの日々である。
まだ、この肉体と魂がしっかり結合されていないので、あちこち動き回るのもやめた方が良いらしい。
魂が落ち着けば。
この、ふわふわしたような気持ちも、落ち着くのだろうか?
僕がここから動けないので、ヴァルラムは繭の中に絨毯を敷いて。
夜になると、そこで銀狼の姿になって寝ていた。
王としての業務の他に、結婚式の準備で忙しいのか。
疲れてすやすや眠っている。
ベッドから出て、もふもふの毛皮に顔を埋めた。
今は銀狼の姿だが。
この美しいヴァルラムが、冴えない僕の伴侶になるのか。
やはりまだ、全然実感がわかないなあ、などと考えながら。
*****
……誰かが僕を呼んでいるような声がする。
夢の中で。
僕は真っ暗な場所にいて。
どこからか、微かに声が聞こえるのだ。
戻って来て、と。
この僕に、どこか戻る場所などあっただろうか?
元の世界には、居場所なんてないはずだ。
……誰も、僕なんて求めていない。
家族はもう、いないし。
漫画家としてだって、唯一無二という訳ではない。
僕レベルの作家は掃いて捨てるほどいる。
すぐに忘れ去られるだろう。
ミャア、という子猫の鳴き声。
ああ、僕が間接的に助けたことになった、あの子猫たちか?
いい飼い主の元に貰われていったのだから、僕に用などないだろう。幸せに暮らせよ。
”お願い、目を覚まして”、だって?
無茶を言わないで欲しい。
夢なのだから。
自分の意志で自由にならないものだ。
*****
突然。
息が苦しくなった。
「……っ、は、」
目を開いたら。
冷たい、コンクリートの感触。胸が痛い。苦しい。
……ここは?
「がはっ、こほ、」
咳き込んで、水を吐いた。
鼻も痛いのは、鼻からも水が入ったせいだろうか。
……どうして、こんな状況に?
苦しくて、めまいがする。
これは、酸欠だろうか?
「良かった、気が付いた……」
この声は。
聞いたようなことがあるような、ないような……。
電信柱の明かりに照らされた、見た事の無い、若い青年達の姿が涙で滲んだ視界に入った。
僕のすぐ側にいた青年は、ほっとしたような顔をしていた。
……誰だ?
知り合いではない、と思う。
良かったなー、と声を掛けてきた他の青年は。
その手に、見覚えのある子猫を抱いていた。
段ボールに入って、流されていた子猫たちである。
……では、あの学生達が助けてくれたのか?
わざわざ戻ってきて?
「あのね、こいつらが妙に鳴いて。戻りたそうにしてたから。虫の知らせっていうの? 感じて、戻ってみたら。溝にはまって溺れてたお兄さんを見つけたんだ。恩人のピンチがわかったのかなあ」
それで、急いでここまで引き上げて。
救急車を待つ間、心臓マッサージや人工呼吸をしてくれていたらしい。
救急車はまだ、到着していないとのことだ。
どうやら、溺れてから、まだ十分も経過していないようだ。
溺れて、幻覚というか、夢を見ていたのか。
夢の中では、二週間くらいは経っていたような感覚だが。
妙に胸が痛むのは、心臓マッサージのせいだろう。
心臓マッサージで骨折する人もいるという。
命には代えられないが。
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