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魔王転生

北の勇者リオン

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『……つけた……ぉうさま……』


ん?
話しかけられた気がして、振り返ると。

妖艶な美女がそこにいた。

これぞファンタジー世界! というようなピンク色の長い髪、紅い瞳。太股までの黒いロングブーツを履き、下着同然の、セクシーすぎる黒い衣装。背中には、蝙蝠っぽい羽の女魔族だ。
サキュバスっぽい見た目だが。……ステータスを確認。あ、まんまサキュバスだった。

確か、男相手だと女の姿で精液を絞り取って、女相手だと男のインキュバスになって孕ませる悪魔だったか。
お、『サキュバス:レベル20』って出てる。MPが切れかけてるな。


こんな町中でも、モンスターとエンカウントするのか……。

誰かが召喚失敗した、はぐれ魔族とかか?
いまいちまだ、世界観がつかめないんだよな。何かのゲームに酷似してればわかりやすいものを。……著作権上の問題か? なんてな。


†††


『魔王様……精気を……分けてくださいませ……』

苦しげな表情。
俺の方へ伸びてきた、しなやかな指先。

あ、いいにおい。とか思った、次の瞬間。


『ギャアアアアアアッ!!!』
「!?」
凄まじい断末魔の悲鳴を上げ、セクシーな美女は、塵になって消えた。

な、なんだ、今の!?


シャキン、と剣を仕舞う音。

斬ったのか。
目にも留まらぬ早業だった。さすが勇者、レベル150。


しかし、勇者は先程の爽やかさとは程遠い、嫌悪の表情を浮かべていた。

「汚らわしい女……下級淫魔風情が私の至宝に触れ、あまつさえその精気を味わおうだと……? 許すまじ、」
怒気と殺気を、ビンビンに放ってる。


俺はドン引きである。

……うわあ。っちまったよ、この勇者。
一切の躊躇なく、容赦もなく、助けを求める弱々しい美女を殺っちまった。

女殺し、千人斬りって。……まさか。文字通りの。


†††


サキュバスちゃんが立っていた場所には、無慈悲にも『討伐報酬:1モッコリ・蝙蝠の羽』の表示が出ていた。
おいおい、サキュバスちゃん、変わり果てた姿になっちまったな……。

報酬の蝙蝠の羽は、忌々しいと言って、勇者が火系の魔法で燃やしてしまった。
いらないというので、1モッコリは俺がいただいた。
蝙蝠の羽って何かの材料にしたり、集めたら売れそうなのに。燃やすのはもったいないんじゃね? とか思うのは。目の前に、さっきの美女の死体がないせいだろうか?

今でも信じられない。
俺の目の前で、たった今、ひとつの命が失われたなんて。


『魔王様』、って言ってたな。

頭からフード被って、目も隠してるのに。何で俺が魔王ってわかったんだろ。気配? 同族だからか?
なんつーか、……勇者、もしかして、女嫌いなのか!?

やっぱり俺、ピンチだったりしねえ?
貞操的な意味で。


だが、勇者が俺に向ける顔は、あくまでも爽やかな好青年で。
二人は和やかに勇者の家(どう見ても城)に戻ったのであった。


……と、そのまま一日が終わっていればよかったんだが。


†††


勇者の家に戻り、ひと風呂浴びて。さて寝よう、とベッドに入ったところで。
ベッドに乗り上げて来るものがいた。

誰だ? って。そんなことするやつは勇者しかいない。
だって、勇者の家だし。


「……ナニやってんだ?」

勇者はバスローブみたいな寝巻き姿だった。
ちらりと見える胸板が立派だ。羨ましくなんかないけどな!

「逸る心を抑えきれず、寝所に忍んだこと、謝罪しよう」

いや、謝罪とかいいから、出てってくれ。
寝かせろ。


しかし、勇者は、ずずいと迫ってくる。
「魔族ならば、ヒトのだけではもの足りないのだろう?」

首を傾げる。

どういうことだ?
夜食とかいらないけどな。夕食は普通に食べたし。別にまだ、腹は減ってない。

「私のを、その身に受け入れて欲しいのだ」


性器? いや、精気か。
精気って。どうやって受け入れるんだ? ドレインの魔法とか、まだ覚えてないぞ。
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