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新国王誕生

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王都に向かう馬車の中。

車窓風景を眺めていたら。
魔法でできた鳥が窓をノックした。


伝言鳥ミニマプリアだ」
ゼノンが窓を開けた。

これが連絡に使ってるっていう伝言鳥? 三羽いるんだけど。

青、緑、オレンジ色の鳥。カラフルだな。
それぞれノーティオ国王、アナトリコ国王、ディティコ王国からの、新国王おめでとうメッセージだった。

王位継承パーティーをやるなら喜んで祝いに行くって内容だ。


みんな、情報仕入れるの早いな。
凄腕エージェントでも潜んでるのかと思ったら。

ゼノンが今年中に急遽王位を継ぐことになったので王城に引っ越すってお報せをみんなに出してたそうだ。

ノーティオはアドニス宛に出したけど、国王が返信したんだな。
ゼノンも仕事が早いな! っていうか義理堅い。


そんなとこも好きだけど。


*****


港町ペンプティ、職人街トゥリティ、中心街キリヤキ。

それぞれの場所に思い出が出来て。
ここが自分の住む国だって意識も強くなった。


これからは、テタルティが家になるのか。
それはまだ実感が無いな。

自分がもうすぐこの国の王妃になるって実感もないや。
王太子妃って実感もあんまり無かったけどな。

行儀作法は一通り習ったけど。
ゼノンに恥をかかせないよう頑張らないと。


今回は、ギリギリ門限までに王都に入ることができた。

閉まっちゃったら、たとえ王様だろうが中に入れないとか厳しすぎる。
実際、門限に遅れた王様が締め出し食らって泣く泣くキリヤキに泊まったことがあったらしい。

本末転倒では?


仕事の引継ぎとか、王位継承の準備や儀式とか慌ただしい日々が過ぎ。

ポセイデオンの25日目、つまり12月の25日。
ほぼ年内ギリギリに王位継承式を行うことができた。


31日は原則労働禁止で。

使用人にも休みを与えないといけない。
おせちみたいな保存食を用意したり、休みのための準備期間も必要なので、外国から賓客を呼ぶのにも25日が本当にリミットだった。

カルデアポリのホテルも閉まるので、徹夜で帰るか野宿させることになっちゃう。


ノーティオ王国からはオーティス王、アドニスとレダさん。モンタギューさん。
アナトリコ王国からはレオニダス王とその近衛騎士デメトリ。
ディティコ王国からはセルジオス王とその近衛騎士ヒュース・アグリオス。
それと、それぞれの国の外交官や護衛の騎士たちが控えている。


全国の王様が、誰一人欠けることなく揃っちゃった。
それにはこの国の大臣たちもびっくりしてた。

セルジオス王の王位継承パーティーの時も、全国から王族が来るのは前代未聞らしかったけど。
それはゼノンとアドニスがセルジオス王と騎士学校の同期だったからだし。

王様や王子様だってわかってたはずなのに。
周りの反応から、みんな雲の上の人的に偉い人だったんだ、って感じた。

今まで普通に喋ってたのに。


あ、でも俺、神様だった。
何か豊穣神の化身みたいに思われてるし。

でもって、今日から王妃になるのだ。


*****


テタルティの城の大ホールに、招待客が集まって。
ゼノン新国王の戴冠式を見届けている。

普段は被ってないけど、王冠もあったんだな。普段被るには重そうだもんな……。


前王が新王に祝福の言葉をかけながら、赤い宝石の嵌まった銀の王冠を新王に被せて。
魔法少女の変身ステッキみたいな形状をした銀色の王笏を授けた。

我ながらたとえがアレだけど。
どう見てもそうなんだからしょうがない。

上の方、翼の生えたハート形で、赤い宝石嵌っててキラキラしてるし。
少女が振り回すには鈍器すぎるけど。

あれは城門の鍵で。
王が鍵に魔力を込めれば、いつでも城を要塞化することが可能だ。


ゼノンは王になっても黒騎士の格好のままでいるようだ。

国で一番強いという証である黒騎士の鎧の上に、赤い王様のローブを羽織って。
頭には王冠を被り、左手に銀の王笏を持ったヴォーレィオ王国の麗しき新王。

何これ。
俺のツガイ、めちゃくちゃ格好良すぎるんだけど!

何で今、ここに。
カメラがないのかなあ!?

今こそクロノスの力で異次元の扉開けて、カメラ持ってくるべきじゃね?


わかってます。
神の力、私用に使っちゃだめだよね……。


*****


当たり前だけど。
皆呆然とした顔で、ゼノンに見惚れてる。


俺のだぞ。

見るなよ、いや、みんなこの晴れ姿を見て目に焼き付けて!
みたいな、複雑な気持ちだ。

ゼノンはみんなに、この忙しい時期に祝いに集まってくれたことを感謝する、と言って。
こっちを見た、と思ったら。


あれ? 俺、いつの間にかゼノンの腕の中にいるんだけど。
何故。

瞬間移動?


運命のツガイゼーヴゴスであるこの王妃スオウと共に。国家間を、種族を越え互いに手を取り合い、更なる繁栄を目指したいと思う」
みんなに向かってそう言って。

幸せそうな微笑みを浮かべて、俺を見た。

わっ、と。
歓声と共に、拍手が沸き上がった。

みんながゼノンの王位継承を祝ってくれている。
幸せだなあ。


あれ、モンタギューさん。
その三脚と、手に持ってらっしゃるレンズのついた大きな箱は。

まさか、銀板写真!?

日光写真ならやったことはあるから仕組みは知ってるけど。
自分でカメラを作ろうなんて思いもしなかった。

すごい。
モンタギューさんてば天才!

後で写真見せてもらおう。


「んにゃ?」
ちゅっ、と口の端にキスされた。

人前で何やってんだよ!
そっちじゃなく、自分を見ろって?


むしろカメラを見ろ!!


*****


立食形式なので、みんなそれぞれ好きな物を選んで食べたり飲んだりしてる。


飲み物は、徳田さんお手製湯呑で提供されている緑茶のコーナーが一番人気だった。
抹茶もある。

あと、徳田さんが切望して、俺も作るのを協力した味噌汁と冷ややっこ。
日本人にはアミノ酸が必要だ。

時間短縮させて味噌と溜まり醤油を作って。
出来上がった醤油を舐めた時、自分が時間神であることを感謝したね。


いつの間にか、徳田さんとモンタギューさんが意気投合してた。
異世界語で会話する日本人と英国人……。

「国を越えて。人種を越えて。時間や異世界の壁をも越えて出逢ったみんながこうして仲良くなるって、凄いことだよね」

「それは全てスオウが皆の間にあった垣根を吹き飛ばしてくれたおかげだ」


「ゼノンのおかげだよ。ここで依井や徳田さんと会えたのも、こうやってみんなと知り合えたのも。ゼノンが色々な場所に連れてってくれたからだし」
「できれば独り占めしておきたかったのだけどね?」
頬ずりされる。


もはやゼノンが俺を抱えてイチャイチャしながら歩いていても、誰も突っ込まない。
当たり前な光景として認識してるようだ。
それもどうかと思うけど。


幸せなら、それでいいよな。
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