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モノ作りの楽しさにはまる
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あまりの絶賛っぷりに、いやな予感がして訊いてみたら。
手前の工房にあった、生徒さん作だとばかり思ってた正直微妙な出来のオブジェは。
この国の人間国宝的な先代が作った、値段もつけられないような国宝級の素晴らしい作品だったらしい。だから非売品なんだって。
やっぱりそうだったか!
あれだ。
全員、綺麗にできるのが当たり前で。
上手すぎるせいで、逆に歪んだ線が芸術的に見えるんだろう。
芸術家の考えることはよくわかんないな……。
*****
「石、綺麗に入りましたよ。素晴らしい出来上がりですね」
「ありがとう」
ガラニス先生に石を入れてもらって。
完成した指輪を持って、ゼノンの方に行く。
ゼノンは粘土を小さな窯で焼いてるところだった。
「ゼノン、こっち向いて、目ェつぶってて」
素直に目を瞑ったままこっちを振り向いたゼノンの左手を取って。
薬指に指輪を嵌める。
……良かった、ぴったりだ。
さすがに先生がついてるし、そういう間違いはしないか。
「目、開けていいよ」
目を開けたゼノンは、最初に俺の顔を見て。
そのまましばらく視線を動かさないので。
見て欲しいのは俺の顔じゃなくて、こっちだって、手をぺしぺし叩いたら。
やっと視線を自分の手に落とした。
全くもう。
「これは……、この石は、俺とスオウの目の色と同じ……?」
嬉しそうに左手の指輪を見ている。
「うん。最初はゼノンか俺の目の色だけにしようかって思ったんだけど。結婚指輪だし、二人の方がいいかなって」
初めてのプレゼント……といっても代金はゼノンが払うんだけどね!
「ありがとう、とても嬉しい」
ゼノンは幸せそうに笑って。
俺のことをぎゅっと抱き締めた。
……なんか工房の人達から拍手されてるんだけど。
まあいいか。
*****
ゼノンは、狼と子猫の置物を作っていたようだ。
小さいのに、ちゃんとそれだってわかる。
器用だな……。
ゼノンも造形がとても上手だとガラニス先生に褒められてた。
ここ、褒めて伸ばす教育法なのだろうか。
職人って、技は目で盗めとか無茶を言う頑固親父なイメージだったけど、印象が変わるかも。
「結婚の記念に指輪の交換、というのもいい記念になりますね。周囲に広めてもよろしいでしょうか?」
王太子夫婦が始めた習慣だと聞けば、流行るだろうという考えのようだ。
道逢の儀も、贈り物をするのはプロポーズした側だけだし。
結婚式らしさがちょっと足りないんだよな。
お互いに記念になる物があるのはいいかも。
と思って快諾した。
これから、指輪の交換が結婚の時の習慣になったりして。
まだ待ち合わせの時間より早いから、お茶でも飲んでいくか、と喫茶店に入った。
テラス席で紅茶を飲んでいたら。
「……に仙人が来てるそうだぞ」
「素晴らしい……だそうだ」
とか話をしながら歩いてる人がいた。
仙人って。
徳田さんのことだよね?
ゼノンの顔を見たら。
「”水差し”は食器類を製作販売している有名な工房だ。トクダはそこで器を作っているようだな」
今の会話、聞こえてたんだ。耳良いな。
それにしても、”洞窟”といい”水差し”といい、面白い名前をつけるなあ。
徳田さん、何作ってるんだろ?
食器っていっても、大小のお皿にコップに水差し……色々あるしなあ。
*****
「気になるようなら、様子を見に行くか?」
ゼノンが笑いをこらえるような顔をして言った。
かなり耳が動いていて、すごくわかりやすかったようだ。
お茶も飲み終わったので。
徳田さんの様子を見に行くことにした。
「そら、そこを曲がれば”水差し”だ」
ざわざわと、大勢の人の話し声がする。
店の窓の前には、野次馬がいっぱいだった。
美術館で絵を見てる人みたいに列になっていて、それが少しずつ動いて進んでる。
この間の”洞窟”も、こんな感じで野次馬が集まってたのかな。
そりゃ大変だ。
「あ、殿下……?」
一人がゼノンに気づいて。
「ゼノン殿下だ……」
「え、本物!?」
なんか街でアイドル見たような反応だな……。
偽物がいるんかい、と突っ込みたくなる。
「あの、殿下もご見学ですか?」
「ああ、トクダを迎えに来たのだが……」
それなら、と。
人垣がざっと割れて、店までの道を通してくれた。
あちらが噂の王太子妃殿下……、とか聞こえる。
笑顔で手を振ってみたりして。えへへ。
*****
店の中に入ると。
「いらっしゃいませ。……これはこれは。今日はどういった奇跡でしょうか」
作業着姿の男が、大袈裟に手を広げて驚いていた。
「あ、殿下。連絡も入れず申し訳ありません、」
「いや、良い。そのままで」
ゼノンはこっちに来ようとしたノエを制した。
ノエも何か作ってたんだ……。
「おや、すまなかった。もうそんな時間だったかな?」
土の塊を前に真剣な顔をしていた徳田さんが、話し声に気づいて顔を上げた。
「いや、見学に来ただけだ」
徳田さんはこの工房を見つけて、皆の分の湯呑を作ってくれてたんだそうだ。
それがあまりに見事な腕なので思わず見惚れて立ち止まる見物人が増えて行ったとか。
で。店の前で立ち止まって見ているのは邪魔なので、見物人にはちょっとずつ動いてもらうことにしたようだ。
店の中には入って来ないだけ、行儀良いな。
トゥリティにも”仙人”の名前が広まってるとか、徳田さんって有名人なんだなあ。
「ろくろってやったことないけど。面白い?」
「ん? 黒野君もやってみるかね?」
店主もぜひどうぞ、と言ってる。
「いい?」
ゼノンを見ると。こくりと頷いた。
やったあ。
一度やってみたかったんだよな。
*****
最初から湯呑とか徳利とか、上級者用の作品を作ろうだなんて思わない。
お皿なら、何となく平べったいものを作れば。
なんとかなる……よな?
ろくろは魔法でぐるぐる回ってる。
便利だなあ。
手に水をつけて、粘土を中央に置く。
ええと。
確かこうして、形を整えてくんだよな。
なんか楽しいかも!
……何でみんな、笑顔で俺が土弄ってるの見てるわけ?
徳田さんなんか、あからさまに笑いを堪えてるし。
何? 顔に土でもついてるの!?
手前の工房にあった、生徒さん作だとばかり思ってた正直微妙な出来のオブジェは。
この国の人間国宝的な先代が作った、値段もつけられないような国宝級の素晴らしい作品だったらしい。だから非売品なんだって。
やっぱりそうだったか!
あれだ。
全員、綺麗にできるのが当たり前で。
上手すぎるせいで、逆に歪んだ線が芸術的に見えるんだろう。
芸術家の考えることはよくわかんないな……。
*****
「石、綺麗に入りましたよ。素晴らしい出来上がりですね」
「ありがとう」
ガラニス先生に石を入れてもらって。
完成した指輪を持って、ゼノンの方に行く。
ゼノンは粘土を小さな窯で焼いてるところだった。
「ゼノン、こっち向いて、目ェつぶってて」
素直に目を瞑ったままこっちを振り向いたゼノンの左手を取って。
薬指に指輪を嵌める。
……良かった、ぴったりだ。
さすがに先生がついてるし、そういう間違いはしないか。
「目、開けていいよ」
目を開けたゼノンは、最初に俺の顔を見て。
そのまましばらく視線を動かさないので。
見て欲しいのは俺の顔じゃなくて、こっちだって、手をぺしぺし叩いたら。
やっと視線を自分の手に落とした。
全くもう。
「これは……、この石は、俺とスオウの目の色と同じ……?」
嬉しそうに左手の指輪を見ている。
「うん。最初はゼノンか俺の目の色だけにしようかって思ったんだけど。結婚指輪だし、二人の方がいいかなって」
初めてのプレゼント……といっても代金はゼノンが払うんだけどね!
「ありがとう、とても嬉しい」
ゼノンは幸せそうに笑って。
俺のことをぎゅっと抱き締めた。
……なんか工房の人達から拍手されてるんだけど。
まあいいか。
*****
ゼノンは、狼と子猫の置物を作っていたようだ。
小さいのに、ちゃんとそれだってわかる。
器用だな……。
ゼノンも造形がとても上手だとガラニス先生に褒められてた。
ここ、褒めて伸ばす教育法なのだろうか。
職人って、技は目で盗めとか無茶を言う頑固親父なイメージだったけど、印象が変わるかも。
「結婚の記念に指輪の交換、というのもいい記念になりますね。周囲に広めてもよろしいでしょうか?」
王太子夫婦が始めた習慣だと聞けば、流行るだろうという考えのようだ。
道逢の儀も、贈り物をするのはプロポーズした側だけだし。
結婚式らしさがちょっと足りないんだよな。
お互いに記念になる物があるのはいいかも。
と思って快諾した。
これから、指輪の交換が結婚の時の習慣になったりして。
まだ待ち合わせの時間より早いから、お茶でも飲んでいくか、と喫茶店に入った。
テラス席で紅茶を飲んでいたら。
「……に仙人が来てるそうだぞ」
「素晴らしい……だそうだ」
とか話をしながら歩いてる人がいた。
仙人って。
徳田さんのことだよね?
ゼノンの顔を見たら。
「”水差し”は食器類を製作販売している有名な工房だ。トクダはそこで器を作っているようだな」
今の会話、聞こえてたんだ。耳良いな。
それにしても、”洞窟”といい”水差し”といい、面白い名前をつけるなあ。
徳田さん、何作ってるんだろ?
食器っていっても、大小のお皿にコップに水差し……色々あるしなあ。
*****
「気になるようなら、様子を見に行くか?」
ゼノンが笑いをこらえるような顔をして言った。
かなり耳が動いていて、すごくわかりやすかったようだ。
お茶も飲み終わったので。
徳田さんの様子を見に行くことにした。
「そら、そこを曲がれば”水差し”だ」
ざわざわと、大勢の人の話し声がする。
店の窓の前には、野次馬がいっぱいだった。
美術館で絵を見てる人みたいに列になっていて、それが少しずつ動いて進んでる。
この間の”洞窟”も、こんな感じで野次馬が集まってたのかな。
そりゃ大変だ。
「あ、殿下……?」
一人がゼノンに気づいて。
「ゼノン殿下だ……」
「え、本物!?」
なんか街でアイドル見たような反応だな……。
偽物がいるんかい、と突っ込みたくなる。
「あの、殿下もご見学ですか?」
「ああ、トクダを迎えに来たのだが……」
それなら、と。
人垣がざっと割れて、店までの道を通してくれた。
あちらが噂の王太子妃殿下……、とか聞こえる。
笑顔で手を振ってみたりして。えへへ。
*****
店の中に入ると。
「いらっしゃいませ。……これはこれは。今日はどういった奇跡でしょうか」
作業着姿の男が、大袈裟に手を広げて驚いていた。
「あ、殿下。連絡も入れず申し訳ありません、」
「いや、良い。そのままで」
ゼノンはこっちに来ようとしたノエを制した。
ノエも何か作ってたんだ……。
「おや、すまなかった。もうそんな時間だったかな?」
土の塊を前に真剣な顔をしていた徳田さんが、話し声に気づいて顔を上げた。
「いや、見学に来ただけだ」
徳田さんはこの工房を見つけて、皆の分の湯呑を作ってくれてたんだそうだ。
それがあまりに見事な腕なので思わず見惚れて立ち止まる見物人が増えて行ったとか。
で。店の前で立ち止まって見ているのは邪魔なので、見物人にはちょっとずつ動いてもらうことにしたようだ。
店の中には入って来ないだけ、行儀良いな。
トゥリティにも”仙人”の名前が広まってるとか、徳田さんって有名人なんだなあ。
「ろくろってやったことないけど。面白い?」
「ん? 黒野君もやってみるかね?」
店主もぜひどうぞ、と言ってる。
「いい?」
ゼノンを見ると。こくりと頷いた。
やったあ。
一度やってみたかったんだよな。
*****
最初から湯呑とか徳利とか、上級者用の作品を作ろうだなんて思わない。
お皿なら、何となく平べったいものを作れば。
なんとかなる……よな?
ろくろは魔法でぐるぐる回ってる。
便利だなあ。
手に水をつけて、粘土を中央に置く。
ええと。
確かこうして、形を整えてくんだよな。
なんか楽しいかも!
……何でみんな、笑顔で俺が土弄ってるの見てるわけ?
徳田さんなんか、あからさまに笑いを堪えてるし。
何? 顔に土でもついてるの!?
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