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指輪を作る

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徳田さんとノエに手を振って別れて。
俺とゼノンとタキは、前にゼノンが指輪を作りに行ったという店に向かった。


レンガ造りの建物の中、白い壁に四角い窓の建物があって。
看板には”洞窟スペライオン”、って書いてある。面白い名前だ。

大きな窓かと思ったのはディスプレイで。
そこには、ここで作られたという作品が飾られていた。


手前に工房があって。
そこで制作させてくれたり、指導もしてもらえるそうだけど。

ここの職人が作った細工品の販売もしてるようだ。

「うわ、すごい! 細工が細かい!」
ゼノンの腕から降ろしてもらって。

思わずディスプレイに釘付けになってしまう。


*****


ここは宝石を使った加工品だけでなく、繊細な銀や白金細工が売りなようだ。
本とかで狼男は銀の弾丸とか銀が苦手だってよく見るけど。

神様の加護があるから、そういうのはないのかな?


それにしてもすごい。
もはや芸術品だ。

まるで機械で作ったのかと思うような精密な模様だったり、これが本当に金属なのかって疑うような、やわらかなデザインのアクセサリーがいっぱいだ。
木の枝に止まった小鳥の置物なんて、今にも動き出しそうだ。


おおう。さすがにお値段もそれなりだな……。
この出来なら、それも納得だけど。

作品がこういった商品になるまでは、失敗作も多くあっただろう。

今日初めてやって、長年努力をしてきた職人にかなうわけがないのはわかってる。
こんな立派なのは俺には作れないだろうけど。

愛情だけはたっぷり込めるから!


っていうか、ゼノンも器用だよな……。
と薬指の指輪をまじまじと見ていると。

「職人の作と比べられるのは恥ずかしいのだが」
そっと左手を握り込まれた。

「何で? すごく上手だよ?」

困ったような照れてるような微妙な顔して。
可愛いなあ。大好き。


*****


「これはこれは、ゼノン殿下。先日は我が工房をお利用いただきまして光栄の至りで……」

慌ただしく出て来たウサギ耳の人がここの店長さんみたいだ。
ふわふわした薄い茶色の髪にふわふわのウサギ耳。目は青だ。緑色のエプロンをつけている。

あちこち煤だらけなのは、作業中だったからかな? 緊張してるせいか、耳がぴるぴるしてて可愛い、とか思ってしまう。
多分年上なのに。

ウサギ耳の男に対して違和感を持たず、可愛いと思うなんて。すっかりこっちの常識に染まってしまった……。
クロノスの記憶を取り戻したせいもあるのかな?


「急ですまないが、我が妻が指輪を作るため、ガラニスに指導を頼みたいのだが。大丈夫か?」
「はっ、はい! 喜んでご協力させていただきます! 只今支度をさせますので、そちらでお待ちください」

店の中を案内された。

中にも作品がいっぱいだ。
値札が無い、生徒さんのかな? ってのもある。

出来に関しては……あえて言うまい。


他の職人さんが、お茶を持ってきてくれる。
奥の工房を開けるとか何とか、ばたばたしてるようだ。

おいおい、この様子だとアポなしで来ちゃったのか王子様。

相手の都合だってあるんだから、予約くらい入れようよ。
まあ俺がいきなり行きたいって言ったせいなんだけど。


「ガラニスの腕は群を抜いている。教わるなら最高の教師が良いだろう?」
店先にあった作品の半分以上はあの人が作ったんだって。

若そうなのに、生徒に教えたりお店を切り盛りしてるとか凄いなあ。


「……ああ見えてガラニスは35歳だぞ」
「ええっ!?」

っていうか、心の中読まないでほしい。


*****


ドアから姿が見えたら人が集まってきちゃうので、奥にある自分の工房を提供してくれるそうだ。

前回、ゼノンが指輪を作った時は見物人が殺到して、大変だったみたいだ。
人気者だなあ。


ゼノンは出来上がるまで見ないでおいて楽しみにしておきたいから、端っこで自分も何か作ってるって。
放置される王子。


初心者なので、最初から凝ったものを作ろうなんて高望みはしませんとも。
シンプルイズベスト。

結婚指輪だしな。
飽きのこないものがいい。


「宝石だけでなく、魔石もご用意できますが」
と、宝石箱を示された。

綺麗に並んでる宝石、これ全部魔石だって?
ああ、俺の指輪についてるやつみたいな、呪いがこもった石のこと?

いや、それは遠慮しておきます。


「あの、こういう石ってあります? 魔石じゃなくていいので」

こういう感じのを作りたいって図を描いたら。
驚いたように目をぱちくりさせていた。

「このデザインだと、細工が難しくなりますね。石の加工だけ、私がお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
笑顔で言われちゃった。

むしろお願いします。


できるだけシンプルにしたつもりなんだけど。
難しいのか……。

俺とゼノンの目の色と同じ勾玉型の石を、互い違いに置いただけのカレッジリングみたいなイメージだったんだけど。


*****


先の細い丸い棒の、ゼノンの指のサイズと同じになる位置で、粘土の輪を作る。
この粘土を焼くと、銀の輪になるそうだ。

後は削って磨くだけ。
……って簡単に思えるけど。

そうは問屋が卸さないのだ。


太さが均一にならないのは何故なのか。
ああ、俺ってこんなに不器用だったんだ……。

でも、絵はわりといい感じに描けてると思うんだ!

プラモやミニ四駆くらいなら組んだことあるけど。結局あれ、ただパーツを組み立てるだけだもんな。
立体物は勝手が違う。

いやいや、少々不格好な仕上がりになっても、愛をしこたま込めればいい話じゃん?


石を嵌めるのは最後なので。
焼きあがった指輪を魔法で冷ましてから研磨する。

そういう時短テクがあって、便利だなこの世界……。

でも、使いたい魔法を必ずしも取得できるとは限らないそうだから。
一長一短かな?


「あの、これでどうですか?」
磨き終えた指輪をガラニス先生に見せる。

後は石を中央の穴に嵌めて。
勾玉の穴をハンダみたいなので留めれば終わり……だと思う。


「……素晴らしい……」

「はい?」
「何と優美かつ繊細な曲線なのでしょう! 図案を見せて頂いた時から思っておりましたが、貴方は千年に一度の逸材です!」

全身をふるふる震わせながら、絶賛されてるんだけど。

俺の目には微妙にいびつな輪にしか見えないこれが。
まさか、こっちの人には優美かつ繊細な芸術作品に見えてたりするのか?


あ、ゼノンの耳がこっち向いてる。

気になってしょうがないんだろうな。
でもまだ出来てから見たい気持ちが勝っているようだ。

可愛い……。
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