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ありえないはずの再会

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依井よりいをうちで受け入れる下準備もできたし。

そろそろアナトリコへ迎えに行くことにした。
今回はタキとノエも同行だ。


依井を迎えに行って。
その帰りに徳田さんの家に寄って、連れて帰ってくる予定だそうだ。

だから座席に余裕のある、大きな馬車なんだ。


馬車の窓からかっこよく騎馬に跨ってる二人を見ながら、羨ましく思った。
あっちの方が馬車よりも早いし、機動力もあるんだよな。

そりゃ一番早いのは飛竜だけど。

「俺も乗馬、覚えたいかも……」
「俺が乗せる。スオウは軽いから、二人乗りでも大丈夫だ」

自分が馬の乗り方を教えてもいいけど、一人で乗るのは危ないからダメだって。
過保護すぎだってば。


それに、馬に乗ってたら、アルギュロスが妬くだろうって?

確かに。
自分の方が早いのに、って拗ねそうだ。

確かに、一人で乗るなら飛竜のほうずっとが早いな……。


*****


カルデアポリを経由して、アナトリコのお城へ向かう。

初めてここに来た時は、モグラ族に攫われて地下道を通って来たんだっけ。
我ながら、不思議なくらい緊張感ゼロだったな。

もし奴隷商人に連れ攫われて売られたりしたら、どうなってたんだろ。
なんにしろ、ゼノンが絶対助けに来てくれるだろうから、考えても意味無いかな。


めちゃくちゃ愛されてるよな、俺。

昨夜も、他の国に行くからって。
お腹の中いっぱい注がれてしまった。

まだ奥にゼノンがいるみたいだ。


「こら、そんなに色っぽい顔をするんじゃない」
頬にキスをされる。

「ゆうべのこと思い出してただけだよ」

「まだ眠いなら、城までもう少しかかるから眠っていていいぞ」
優しく頭を撫でられて。

「ん、平気」
ゼノンの、広い胸に擦り寄る。


ゼノンは俺を見て、嬉しそうな顔をしている。

こんなに愛されて。
すごく幸せだよね、俺。


*****


想像通り、だめだった。


一応、これだ、とピンときた相手と色々試してみたけど。
どれも失敗に終わってしまったようだ。

俺とゼノンがそうだったからと。
女の人だけじゃなく、男とも試させてみたんだって。

お見合い、結婚、離婚の繰り返しを何度もやったのか。

そりゃ大変だっただろうな。
双方とも。


「悪い、やっぱダメだったわ」
しばらくぶりに見た依井は、げっそりしていた。

「……しないでいい経験しちゃった……。正直、黒野だけ恵まれてていいなって内心羨ましく思ってたんだけど、思い直したわ。悪かった。愚痴を言わないだけで、お前はお前で苦労してたんだよな……」
依井は真顔で言った。


真剣に同情されてしまった。

いったい、どんな目に遭ったんだろう……。
まあ、いきなり異世界に連れ去られて、強引に男に抱かれて、ずっと女装させられてる状況って。客観的に見れば、わりときついよな。

今はそんなに気にしてないけど。


「お手軽ショートラーニングは諦めて、地道に言葉の勉強させてもらうわ……」
「お、おう。そうか。お疲れ……」


*****


「お力になれず、面目ない……」

レオニダス王は申し訳なさそうにしていた。
デメトリまで。


「いえ、俺の友人のために力を尽くしてくださって、ありがとうございます。心から感謝します」

約束の、宇宙の話を少々していくことにする。
それにはゼノンも反対しなかった。


異世界での話なので、もしかしたらここと同じとは限らないですが、とは言ったけど。
それでもいいらしい。

俺の言ってることは理解できるので、天体望遠鏡を持ってた依井は合間に自分の持ってる知識を披露した。
それを通訳したら、レオニダス王は大喜びで。

どうやら依井のことを気に入ったようだ。
言葉を覚えたら研究者としてうちの国に来ないか、とかスカウトしてるし。


「え、マジで? 王様から直接スカウトされるとか、すげえ光栄なんじゃね?」

「そりゃそうだよ。本来、一般人が普通に会えるような身分の人じゃないんだからな?」
そういう俺も一般人だったんだけど。今は王子の嫁だもん。


おやつの時間にケーキとかをご馳走になったりして、楽しく過ごした。
また是非遊びに行きたいって言ったら、喜んで歓迎してくれるって。

やっぱりレオニダス王は優しくて良い王様だなあ。


*****


に戻る前に、依井の先生を拾ってくから。会ったらびっくりするぞ」

「先生? 言葉わかる人他にもいるんだ。っていうか、もう、ゼノンさんちが黒野が帰る”うち”なんだな」

そういえば。
いつの間にか、すっかり自宅みたいな感覚になってた。

使用人を使うことにはまだ慣れてないけど。


「そりゃもう、俺だって王太子妃殿下だし?」
スカートの裾を持ち上げてみせる。

「違和感なさすぎ!」
それはそれで、男としては悲しいんだけどな。


徳田さんは支度を終えて、荷物をまとめて家の前で待っていてくれた。

鞄の中にはお茶の道具も入ってて、休み時間とかに淹れてくれるって。
楽しみだ。

「この人、母方のじいちゃんにそっくりなんだけど!」
挨拶もそこそこに、依井が驚いていた。

いや、そういう意味で驚かれるとは思わなかった。


「戦時中にここに飛ばされた、徳田 六郎太とくだ ろくろうたさんだよ」

「徳田って……。母方の祖父じいちゃんも徳田なんだけど。もしかして、親戚だったり?」
「え?」

依井の発言に、徳田さんもびっくりしていた。


*****


よく話を聞いてみれば。
依井の母方の祖父の父親……曽祖父が徳田さんの実の兄だったようだ。

徳田さんは、戦争で死んだとばかり思っていた兄が生きていたことも、その子孫がここに来たことも驚いていた。


曾祖父ひいじいちゃん、弟はラバウルで亡くなったって言ってたよ。生きてたんだ……。教えてあげたかったな」
「ああ、そういえば兄の面影が少しあるかもしれない。どれ、良くみせてくれないか」


徳田さんと依井は握手をして。
本来、出会うはずのない再会を喜び合った。


とんでもない奇跡だ。
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