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リラックス・ティータイム

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徳田さんの家に招かれて、緑茶を頂く。

この香りと味。
日本を離れてからそんなに経ってないのに、懐かしく思う。


この家の家具とか、全体的な雰囲気が田舎のおじいちゃんの家に来たみたいで、心が落ち着くんだよな。

緑茶、依井にも飲ませてやりたいな。
きっと喜ぶだろう。


「この茶葉って、どこから仕入れてるんだろ?」

「ああ、それならゼフテラで栽培している紅茶用の茶葉を、発酵させる前に少し分けてもらってる」
「そうなんだ」


ゼノンが徳田さんの要望で発酵前の茶葉を手に入れて、茶摘みの時期に持ってきてくれるんだそうだ。優しいなあ。
っていうか、ゼノンもおじいちゃんみたいに思ってるのかも。

実家……テタルティの城にいた時よりもリラックスしてる感じだし。


*****


お茶を飲んで一息入れた後。

ゼノンがアナトリコで見つかった異世界人……依井の話をした。
それには徳田さんもびっくりしていた。


「まさか、自分と黒野君以外に、この世界に同郷の者が来ているとは……」
「いや、俺がスオウを連れてこちらに戻る際、彼を巻き込んでしまったようで……」


俺を攫ってったゼノンを追いかけた依井は、時空の歪みで、二年半前のカルデアポリに来てしまった。

アナトリコの奴隷商人に捕まって、農家に売られた依井が酷い扱いを受けたのも、自分のせいだと思って気にしているんだ。

全部が全部ゼノンのせいじゃないのに。
責任感が強すぎるよ。


それから、ノーティオでも見つかった異世界人の話。
それは俺がした。

またしても同じ世界から来たのに驚いて。
当時、イギリスは敵だったからか、ちょっとだけ厳しい顔をしたけど。

その人は保護されて、アドニスに身柄を預けられたと聞いて、それは良かったと安心していた。

かつての敵国民だったからって、相手の不幸を望むほど、徳田さんの心は歪んでない。
だからこそ、みんなから仙人って呼ばれて慕われてるんだろうな。


「しかし、異世界への道というのは、そんな頻繁に開くものなのか……」
うん、それは俺も思った。

「自分は今更日本へ帰りたいとは思わない。国に遺した家族もなく、黒野君に会えて国の様子も聞け、もう思い残すことはない。長年暮らしたこの地に骨を埋めるつもりだ。英国人もそうなるだろう。しかし、依井君はまだ若く家族もいる身か。さぞつらいだろう……」

こっちでも結婚はしなかったし。
儀式に強制参加させられなかったらしい。


徳田さんは、依井が少しでもここで暮らしやすいように、自分も協力したいと言ってくれた。
派遣教師として、家に来てくれるって。


「そしたら、俺も一緒に教わっていいですか?」

「ははは、この老骨が役立つなら喜んで」
徳田さんと握手して。


じゃあまた、とサヴァトを後にした。


*****


「ゼノン、あんまり一人で色々背負いこんじゃ駄目だよ。依井の件は、ゼノンのせいじゃない。俺だってあの時、依井にロミオなんだからジュリエットを助けに来い、とか思ってたし。むしろ俺のせいかも」

「……劇では、ヨリイはスオウの恋の相手役だったのか?」
「そうだけど。あくまでも劇、お芝居だからね?」


ロミオとジュリエットのおおまかな筋を説明した。
ゼノンにも理解不能な内容だったみたいだ。

年若いからといって、迂闊すぎる。何故、報告相談を密にしないのか謎だって。
だよねー。


「成程。それで、スオウに向かって”ジュリエット”と呼びかけていたのか」
「うん。でも結局、劇をやる前に主役二人が行方不明になっちゃったみたいだけどね」

あの後、学校は大騒ぎだっただろうな。
ジュリエットが、突如現れた謎のイヌミミイケメンに求愛されて、チューされて。

どこかに攫われてしまった上に。
二人を追い掛けたロミオまで消えちゃったんだから。

三角関係ミッシング・行方不明事件トライアングルとか言われてたりして。


「そもそも、俺は無理矢理押し付けられたジュリエット役をやりたくなくてさ。中止にならないかなって思ってたくらいなんだ。それならちょうどいいだろ、って神様が思ったのかも」

何であのタイミングで異世界と繋がったのか。
今考えたら、俺の劇をやりたくない気持ちを、神様が尊重してくれちゃったのかもしれない。


*****


「嫌だったのか? ヨリイの相手が」
あからさまに嬉しそうな声を出すなっての。


「っていうか、女装して人前に立つのが嫌だったんだ」

アルギュロスの手綱を握っているゼノンの手が、びくりと揺れた。
見れば、ゼノンは気まずそうな顔をしていた。

「その……、今も、嫌なのか……?」

「そりゃ俺だって男だもん。女の格好させられて嬉しくはないよ。ハイヒールは歩きづらいしさ。でも、俺はゼノンの花嫁として扱われるなら、それなりの格好をしなきゃいけないってことは覚悟してる」

「では、公用でない時は、男性用の動きやすい服を注文しよう」

何で、生きるべきか死ぬべきか的な、苦渋の決断みたいな顔をしてるんだよ。
譲歩しようとしてくれるのは嬉しいけど。


「ゼノンはこういう格好した俺のこと、好きなんだ?」

「スオウはどのような格好でも変わらず美しいが、華麗に着飾った姿を見るのは好きだ」
この男、ツガイを見る目がどうにかしている……。


「男用の服より脱がせやすいし?」
「……ああ、そうだな」

えっろい顔しちゃって。
まだカルデアポリ出たばかりだよ?


「ふたりとも、いちゃいちゃするのはおうちでしてねー」
アルギュロスに注意された。

うう。
聞かれてた……。


ゼノンにアルギュロスが言ったことを通訳したら、じゃあ急いでくれ、だって。
欲望に忠実過ぎる。

本当に飛ぶスピードを上げられても。
ゼノンの力強い腕にぎゅっと抱き締められていたから怖くなかった。


*****


「アナトリコに続いて、ノーティオにも異世界からの客人がいらっしゃったんですか?」
帰りを待ちわびていたタキが、話を聞いて驚いている。


客人、なのかな?
それならイレギュラーな依井はともかく、徳田さんやモンタギューさんにも言葉のサービスをしてあげたっていいと思うけど。

それぞれツガイを見つけて、”ツガイの儀式”をしなくちゃ駄目とか?
俺も、それまでは言葉が通じなかったからなあ。


俺の場合、ゼノンの鼻が良かったから見つかったけど。
基本的に他の国に出ない人が相手だったら、見つけるのは難しいかも……。
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