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思わぬ再会
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「レオニダス王、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。こんなに早くご連絡くださって、ありがとうございます」
足を交差させ、ドレスの裾を少し持ち上げて腰を落とすという、教育係から教わった貴族風の礼をする。
これ、女性がするやつらしいけど。もういいや……。
それに、正式には、王様に対してはレオニダス陛下って呼ぶのが普通らしい。
でも本人がその呼ばれ方が新鮮でいい、と言うので。最初に呼んだ、そのままだ。
陛下だの殿下だの、よくわかんない。
王様に会うの自体、この世界に来て初めてのことだし。
「いえいえ、当然のことです。元気なのは先日天使殿に掛けて頂いた回復魔法のお陰ゆえ、礼を言わねばならぬのはこちらの方です。ああ、どうかリョーニャとお呼びください」
流れるように口説かれている気がする。
いや、一国の王をさすがに愛称では呼べないよ……?
第一、ゼノンが妬くし。
*****
アナトリコの国中を捜索して見つかった、”獣耳の無いヒト”は。
奴隷商人に捕まって、農家に売られて。
言葉が通じないので、亜人と一緒に働かされていたようだ。
そういえば徳田さんも見世物小屋みたいなところに捕まりそうになったとか言ってたなあ。
奴隷商人とかいるのか。
こっちじゃ人権ってどうなってるんだろう……。無さそうだな。
猿人……獣耳の無いヒトは亜人扱いで。
亜人は奴隷という身分なんだ。
城に連れてくる途中も、暴れていたので。
そのまま俺と引き合わせるのも危険だと判断して。
もしものことがないように、地下牢に入れてあるという。
でも。
その人が元々異世界の人だったとすれば、暴れるのもわからなくはないかな。
何をされるかわからなくて、怖かったんじゃないかなあ?
異世界に来たと思ったら、言葉も通じないし。奴隷商人に捕まって。無理やり労働させられて。
働いてたら、いきなり城に連行されたわけだ。
喰われると思ったのかも。
竜族って大きいし、見た目怖いもんな……。
レオニダス王は俺に対して最初から好意的だったから怖くなかったけど。
やっぱり言葉が通じてるっていうのが大きいな。
*****
当然のようにゼノンにひょい、と抱き上げられて。
地下への階段を下りていく。
ハイヒールで石段はヒールが引っかかりそうで危ないから助かるけど。
過保護過ぎだよ。
……あ、何か声が聞こえる。
「ここから出せ、……誰かいないのか?」
牢屋の、扉か何かをガチャガチャ叩いているようだ。
普通に言葉がわかっちゃった。
でも俺、飛竜の言葉も普通に日本語に聞こえるからなあ。
同じ世界の人じゃなくても、言葉が通じるなら。通訳して、助けてあげたい。
「唾や糞など飛ばされないように、下がってください」
近衛騎士がレオニダス王の前に入って、檻の中の人を警戒してる。
おいおい。糞って。ゴリラとか野生の獣扱いだよ。
地下は薄暗いけど、猫の目になってから夜目が効くようになったからよく見える。
檻にしがみついているのは、俺より背の高そうな男で。
日に焼けた肌。黒い髪はぼさぼさで、髭も伸びっぱなし。垢じみた、ぼろぼろの服を着ている。
でもって、かなり怯えてるっぽい。
ちょっと見ただけで。
今まで酷い目に遭わされてたんだろうなってのがわかった。
*****
「うわ、化け物!? 喰わないで!」
レオニダス王と近衛騎士の姿を見て、男は怯えて檻から離れた。
声は意外と若かった。
「大丈夫、この方はここの王様で、あなたを保護して下さった優しい人だよ。食べたりしないから安心して」
檻の向こうの男に声を掛けたら。
「え、今の日本語……? あんた日本語話せるの!?」
日本語、って言った!?
まさか。
徳田さんに続いての日本人!?
嘘だろ。
どんなミラクルな偶然だよ!?
男は、再び檻にしがみついて、俺を凝視している。
「つーかその顔! 黒野蘇芳じゃん! ……おお、会いたかった、我が愛しのジュリエット!」
「誰がいつお前のジュリエットになった!?」
思わずマッハで突っ込んでしまったが。
今。
俺の名前、フルネームで呼んでた?
……あれ? 我が愛しのジュリエット?
今日はジュリエットの衣装でもないのに。
俺を役名で呼ぶってことは。
俺が劇でジュリエット役を演じるはずだったのを知ってるってことだ。
出番の前にゼノンに攫われちゃったから、未遂だし。
……そうだ。
今の、ロミオのセリフじゃないか!
同じ世界の人どころか、同じ学校、同クラだよ!
よくよく顔を見れば、見覚えのある顔……の面影があるような。
でも。俺がここに来て、まだ半年経ってないよな? 人相変わり過ぎじゃないか?
「お前、文化祭の劇でロミオ役だった依井 斗雄琉か? お前何でここにいんの? 何か老けてない?」
それだけ苦労したのか、と同情したら。
「そうそう、同中同高で、あなたのロミオこと、依井 斗雄琉デス。……いや、俺より黒野の変化のほうがびっくりだよ! その猫耳なによ、ちょーエモくね? その目は何なの? カラコン? 何でドレス着てお姫様抱っこされてるの?」
うぐぅ。
「あ、つーかそいつ俺のジュリエットを攫ってったコスプレ野郎じゃん! こいつを追いかけたら、いつの間にか外に出ててさあ。ケモ耳のおっさんにとっ捕まったんだよ!」
俺を抱えてるゼノンを睨んだ。
*****
すごく、わかりやすかった。
つまり、ヒロインを攫われそうになったので、助けようと追いかけたら異世界に来てしまって。
運悪く人買いに捕まってしまった、ってことか。
決して俺のせいじゃない、と言いたいけど。
一応、俺のことを助けようとしてくれてこうなったわけだし。
幾ばくかの責任を感じてしまう。
「……えーと。話せば長くなりそうなんでちょっと待て、ステイ。……レオニダス王、この男、俺の知り合いでしたので、危険はありません。どうか檻から出していただけませんか?」
「ひどっ、知り合いじゃなくて俺達恋人同士じゃん!? ジュリエットぉ~」
うっさい。
ん? レオニダス王に向かって言った言葉も依井に通じてるってことは。
俺がしゃべってる言葉、双方に翻訳されて聞こえてるのかな?
友達との遠慮のない会話を聞かれてしまって、ちょっと恥ずかしい……。
かなり汚れていたので。
王の間へ行く前に、風呂に入って着替えてもらうことになった。
俺は通訳のため、ついてった。
もちろんゼノンも一緒に。
「黒野、何でそいつにずっとお姫様抱っこされてるの……?」
いくら胡乱な目で見られようが、もうこれについては諦めている。
「ハイヒールで転びそうだからかな?」
「愛だ」
……訳さないよ? そんな見詰めても、訳さないからな?
依井は元々俺より背が高かったけど。
更に伸びたような気がする。
かなり筋肉もついてるみたいなのは、きつい肉体労働のせいだろうか。
俺のせいじゃないけど。
なんか、心が痛むな……。
足を交差させ、ドレスの裾を少し持ち上げて腰を落とすという、教育係から教わった貴族風の礼をする。
これ、女性がするやつらしいけど。もういいや……。
それに、正式には、王様に対してはレオニダス陛下って呼ぶのが普通らしい。
でも本人がその呼ばれ方が新鮮でいい、と言うので。最初に呼んだ、そのままだ。
陛下だの殿下だの、よくわかんない。
王様に会うの自体、この世界に来て初めてのことだし。
「いえいえ、当然のことです。元気なのは先日天使殿に掛けて頂いた回復魔法のお陰ゆえ、礼を言わねばならぬのはこちらの方です。ああ、どうかリョーニャとお呼びください」
流れるように口説かれている気がする。
いや、一国の王をさすがに愛称では呼べないよ……?
第一、ゼノンが妬くし。
*****
アナトリコの国中を捜索して見つかった、”獣耳の無いヒト”は。
奴隷商人に捕まって、農家に売られて。
言葉が通じないので、亜人と一緒に働かされていたようだ。
そういえば徳田さんも見世物小屋みたいなところに捕まりそうになったとか言ってたなあ。
奴隷商人とかいるのか。
こっちじゃ人権ってどうなってるんだろう……。無さそうだな。
猿人……獣耳の無いヒトは亜人扱いで。
亜人は奴隷という身分なんだ。
城に連れてくる途中も、暴れていたので。
そのまま俺と引き合わせるのも危険だと判断して。
もしものことがないように、地下牢に入れてあるという。
でも。
その人が元々異世界の人だったとすれば、暴れるのもわからなくはないかな。
何をされるかわからなくて、怖かったんじゃないかなあ?
異世界に来たと思ったら、言葉も通じないし。奴隷商人に捕まって。無理やり労働させられて。
働いてたら、いきなり城に連行されたわけだ。
喰われると思ったのかも。
竜族って大きいし、見た目怖いもんな……。
レオニダス王は俺に対して最初から好意的だったから怖くなかったけど。
やっぱり言葉が通じてるっていうのが大きいな。
*****
当然のようにゼノンにひょい、と抱き上げられて。
地下への階段を下りていく。
ハイヒールで石段はヒールが引っかかりそうで危ないから助かるけど。
過保護過ぎだよ。
……あ、何か声が聞こえる。
「ここから出せ、……誰かいないのか?」
牢屋の、扉か何かをガチャガチャ叩いているようだ。
普通に言葉がわかっちゃった。
でも俺、飛竜の言葉も普通に日本語に聞こえるからなあ。
同じ世界の人じゃなくても、言葉が通じるなら。通訳して、助けてあげたい。
「唾や糞など飛ばされないように、下がってください」
近衛騎士がレオニダス王の前に入って、檻の中の人を警戒してる。
おいおい。糞って。ゴリラとか野生の獣扱いだよ。
地下は薄暗いけど、猫の目になってから夜目が効くようになったからよく見える。
檻にしがみついているのは、俺より背の高そうな男で。
日に焼けた肌。黒い髪はぼさぼさで、髭も伸びっぱなし。垢じみた、ぼろぼろの服を着ている。
でもって、かなり怯えてるっぽい。
ちょっと見ただけで。
今まで酷い目に遭わされてたんだろうなってのがわかった。
*****
「うわ、化け物!? 喰わないで!」
レオニダス王と近衛騎士の姿を見て、男は怯えて檻から離れた。
声は意外と若かった。
「大丈夫、この方はここの王様で、あなたを保護して下さった優しい人だよ。食べたりしないから安心して」
檻の向こうの男に声を掛けたら。
「え、今の日本語……? あんた日本語話せるの!?」
日本語、って言った!?
まさか。
徳田さんに続いての日本人!?
嘘だろ。
どんなミラクルな偶然だよ!?
男は、再び檻にしがみついて、俺を凝視している。
「つーかその顔! 黒野蘇芳じゃん! ……おお、会いたかった、我が愛しのジュリエット!」
「誰がいつお前のジュリエットになった!?」
思わずマッハで突っ込んでしまったが。
今。
俺の名前、フルネームで呼んでた?
……あれ? 我が愛しのジュリエット?
今日はジュリエットの衣装でもないのに。
俺を役名で呼ぶってことは。
俺が劇でジュリエット役を演じるはずだったのを知ってるってことだ。
出番の前にゼノンに攫われちゃったから、未遂だし。
……そうだ。
今の、ロミオのセリフじゃないか!
同じ世界の人どころか、同じ学校、同クラだよ!
よくよく顔を見れば、見覚えのある顔……の面影があるような。
でも。俺がここに来て、まだ半年経ってないよな? 人相変わり過ぎじゃないか?
「お前、文化祭の劇でロミオ役だった依井 斗雄琉か? お前何でここにいんの? 何か老けてない?」
それだけ苦労したのか、と同情したら。
「そうそう、同中同高で、あなたのロミオこと、依井 斗雄琉デス。……いや、俺より黒野の変化のほうがびっくりだよ! その猫耳なによ、ちょーエモくね? その目は何なの? カラコン? 何でドレス着てお姫様抱っこされてるの?」
うぐぅ。
「あ、つーかそいつ俺のジュリエットを攫ってったコスプレ野郎じゃん! こいつを追いかけたら、いつの間にか外に出ててさあ。ケモ耳のおっさんにとっ捕まったんだよ!」
俺を抱えてるゼノンを睨んだ。
*****
すごく、わかりやすかった。
つまり、ヒロインを攫われそうになったので、助けようと追いかけたら異世界に来てしまって。
運悪く人買いに捕まってしまった、ってことか。
決して俺のせいじゃない、と言いたいけど。
一応、俺のことを助けようとしてくれてこうなったわけだし。
幾ばくかの責任を感じてしまう。
「……えーと。話せば長くなりそうなんでちょっと待て、ステイ。……レオニダス王、この男、俺の知り合いでしたので、危険はありません。どうか檻から出していただけませんか?」
「ひどっ、知り合いじゃなくて俺達恋人同士じゃん!? ジュリエットぉ~」
うっさい。
ん? レオニダス王に向かって言った言葉も依井に通じてるってことは。
俺がしゃべってる言葉、双方に翻訳されて聞こえてるのかな?
友達との遠慮のない会話を聞かれてしまって、ちょっと恥ずかしい……。
かなり汚れていたので。
王の間へ行く前に、風呂に入って着替えてもらうことになった。
俺は通訳のため、ついてった。
もちろんゼノンも一緒に。
「黒野、何でそいつにずっとお姫様抱っこされてるの……?」
いくら胡乱な目で見られようが、もうこれについては諦めている。
「ハイヒールで転びそうだからかな?」
「愛だ」
……訳さないよ? そんな見詰めても、訳さないからな?
依井は元々俺より背が高かったけど。
更に伸びたような気がする。
かなり筋肉もついてるみたいなのは、きつい肉体労働のせいだろうか。
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