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呪いじゃない、おまじない

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それぞれ、用意されていた席に着いて。

ゼノンの耳がへたれてることに気付いた。
しっぽもしおしおだ。


「どうしたの?」
「……いや、スオウにしてみれば、俺も奴と同じようなことをしていたのだと思い至って、反省している……」

俺にしたことを、自分がセルジオス王にされたら……、と自分の身に置き換えて想像してみたようだ。

まあ、相手に好意を持てなかったら普通に犯罪だったしな。
っていうか実際犯罪だけど。


でも、神様が異なる二つの世界を繋げてまで俺とゼノンを出逢わせたわけだし。
運命の相手らしいし。

今では真っ直ぐに俺しか見てないゼノンのことを好きだと言える。

「最初は強引だって思ったけど、ゼノンなら嫌じゃないよ」
「スオウ……」

へたれていた耳がぴんと立って、しっぽも嬉しそうにぱたぱた動いている。
やっぱり可愛い。


「寛大すぎる!!」
「聞き耳立ててるのがバレバレで恥ずかしいのでせめて反応せず黙ってていただけますか陛下」

ゼノンの席の向こうからレオニダス王と近衛騎士の声が聞こえた。
仲良いんだな。


*****


全招待客と挨拶をし終えたらしいセルジオス王が、ステージっぽい台に上がった。
それに続いて騎士っぽい人と、大臣みたいな人がぞろぞろ上がっていく。

……あの一番偉そうな大臣っぽい人、なんかやたらよろよろしてるなあ。
心労かな?


「本日は私の王位継承を祝いに大勢の方にお越しいただき、心より感謝申し上げる。それぞれ挨拶はもうしたので、大いに飲んで食べて欲しい。では、」
そう言って、台から降りていく。

ずいぶん簡単な挨拶だな。

大臣たちは、苦虫を嚙み潰したような顔をして。
セルジオス王に、もっと威厳を持った態度で、とか注意してる。

無駄に難しい言葉を使ったり、余計な長話をしないだけ、俺は好感を持ったけどな。


ゼノンは料理に毒が入ってないか、いちいち警戒してたけど。
幸い、食事に毒は盛られてなかったようだ。

カレーっぽい味付けのされた鶏肉とか、普通に美味しかった。
タンドリーチキンみたい。


ディティコ王国は、香辛料やそれを使った調味料などが特産品だそうだ。
この味が気に入ったなら、香辛料を取り寄せてくれるって。

やった。カレー、食べたかったんだよな。
どういう料理か料理長に説明して作ってもらおっと。

うきうきしていたら。


「ヴォーレィオ王国のゼノン様、ツガイ様。本日は陛下の招待に応じて頂きありがとうございます」

あのやたら疲れた感じの大臣……ペトロスという名の摂政が挨拶に来た。

茶色の髪に茶色の目で、なんだか陰険そうな顔つきをしたおっさん、という第一印象。
セルジオス王がグリズリーなら、こっちはヒグマっぽい感じ?


「こちらに向かわれる間で、もし何か不具合がございましたら仰ってください」
……ん?

「いや、特に何もなかったが」
ゼノンが淡々と答えたら。

ペトロスが頬をぴくりと引きらせたのが見えた。
その顔を、袖で隠すように礼をして。


「左様でございますか。それでは……、」
よたよたと戻って行った。


*****


……何あれ怪しい。

同じようなことを、レオニダス王にも言って。
レオニダス王も、特に何も無かったって返してた。

アドニスにも声を掛けて。
あちこち聞きまわっても、誰からも望みの答えが返ってこなかったようで。

ペトロスは不機嫌そうだった。


「……もし、妨害にあったって言ったら、新しい王様の評判に傷がついたりする?」
小声で訊いてみると、ゼノンはにやりと笑った。

「ああ、それを狙っている様子だったからな」


そうか。
だからゼノンはここに来るまでに色々な妨害があったことを、ペトロスには言わなかったんだ。

レオニダス王も、アドニスも。国賓みんな。
やるなあ。


「それに、やけに疲れた様子だったからな」
苦笑いしてる。

「え、何?」
確かによろよろしてたけど。それがどうしたんだろ。


「自分でしておいて、気付かなかったのか? 先程俺に回復魔法を掛けた後、しゅを放っただろう。”痛みよ飛んでいけ、罠を張った奴に倍返しで”と」

お陰でひと目で犯人がわかった、と言って。
クックッ、と肩を揺らして笑ってる。


え?
俺、ゼノンに回復魔法掛けたの!? マジで!?

その上、のろいを放ったって?
違うよ、あれは日本に昔からあるおまじないです!!


*****


「さすがは天使殿……。神罰まで行使されるとは」

声のする方を覗いてみたら、レオニダス王がしきりに感心している様子で。
横に控えている近衛騎士が冷たい眼差しで主を見ていた。

声、ひそめてたのに。聞いてたんだ。
耳良いな……。


それじゃあ、せっかくだし。
協力してもらおうかな。

回復魔法ってのが本当か、試してみたいし。



「レオニダス王、首凝ってます?」

「!?」
レオニダス王を睨んでいたゼノンが、凄い顔してこっちを振り向いたけど。

なんか凄い勢いでレオニダス王が首を上下に動かしてるので、脳震盪を起こす前に止めてあげないと。
今ので更に疲れただろうし、丁度いい。


「痛いの痛いの飛んでけ~」
罠張った奴に倍返しで、と言いながら。

レオニダス王の首の辺りを撫でる。


俺の手が届くよう、跪くみたいに頭を下げて縮こまってくれてるので。
何が起こった!? って感じで注目されてしまった。

さすがに王様の背中をよじ登る訳にもいかないしな。


*****


さて。

全然魔法を使った、って感覚は無いんだけど。
どうかな?


「……治りました?」

「もうすっかり。今にも空を飛べそうなほどに爽快極まりない!」
すごくいい笑顔だ。

いや、レオニダス王、普通に飛べるよね? と思ってたら。


「ぐわっ、」
離れた場所で、首を押さえて倒れた人がいた。

床に転がって、もがき苦しんでいるのは。
やっぱりペトロスだった。


本当だったんだ……。

俺、いつの間に回復魔法とのろ……じゃなかったおまじないが使えるようになってたの!?
ゼノンと繋がって、猫になってからかな?

そういえば、俺には使えないだろうし関係ないと思って、今まで魔法について詳しいこと聞いてなかったな。
後で聞いてみよう。


レオニダス王の近衛騎士が「言葉だけであれほど効くとは、凄い威力の呪いですね」とか言ってるけど。

違うから!
呪いじゃないから!

あれはあくまでも、ただのおまじないだから!


っていうか、倍返し程度であんなに転げまわるほど痛かったの我慢してたんだ……。
ゼノンもレオニダス王もポーカーフェイス過ぎる。

それを、セルジオス王のために黙ってたの、すごく格好良いと思う。


ウザそうにしてても、学友だったからかな?
王族ならではの気遣いとか?

優しいな。
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