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猫の耳は万能?
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ゼノンは、俺がディティコ王国の王位継承パーティーに参加するのが心配らしい。
でも。
ここに一人置いてかれても困る。
「俺のことは、ゼノンが護ってくれるんだろ? それに、この指輪もあるんだから。大丈夫だってば」
お守り、という名目の。俺が嫌がることをしたらその相手が死ぬ、という呪い掛かった指輪である。
なるべく使う機会が訪れないといいけど。
「俺からは絶対に離れないと約束するなら……、」
「うん、離れないから連れてけ」
腕にしがみついておねだりする。妖怪つれてけ猫って感じ?
*****
しつこくおねだりしたら、ようやく連れて行ってくれる気になったようだ。
ディティコ王国まではカルデアポリを経由しないといけなくて。
馬車で軽く半日くらいかかるので、今日のうちにカルデアポリに行って、一泊してから向かうそうだ。
カルデアポリの向こうにあるノーティオ王国からアドニスがやたら早く来てくれたのは、緊急事態だったので飛竜を飛ばしてくれたからだった。
飛竜はとても貴重な生き物で。
基本一人乗りな上に、かなり気難しいので、訓練しないと危険なんだそうだ。
こことお城に一頭ずついるらしい。後で見せてもらいたいな……。
「飛竜を見たいのか? 見るだけなら、いつでも構わんぞ?」
と、俺を抱き上げて。
城……じゃなかった家の中央にある螺旋階段をすたすた昇っていく。
「……階段くらい昇れるよ?」
「ひと時も離したくないのだ。許せ」
ううう。
危険だからとか、甘やかしてる訳じゃなくて。
単にゼノンが俺のことを離したくないだけだったのかよ!
愛が重すぎだよ!
飛竜の飼育塔に昇って。
飛竜の世話係がゼノンと俺に礼をした。
大きな扉を開けると、その向こうには大きなドラゴンがいた。
全身を覆う、銀色っぽい鱗。
背の羽根やしっぽの形状はレオニダス王と似てる。身体は流線形で、速そう。
天井は網が張ってあって、その向こうは空。
網は、飛ぶ時に外されるようだ。
*****
「わあ、」
俺の上げた声で飛竜が振り返った。
オレンジ色の大きな目がこっちを見た。虹彩には緑色が混じってる。
不思議そうに首を傾げて、俺をじっと見てる。
「この子の名前は?」
世話係の人に訊いてみる。
「アルギュロス、5歳の成体です」
「アルギュロスか、こんにちは。俺は蘇芳だよ。よろしく」
手を出すと。
アルギュロスは目を細めて大きな顔を俺の手のひらに寄せてきた。
すべすべひんやりした触り心地だ。
クルクル鳴いてる。可愛いな。
「気に入った。スオウなら、背に乗せても良いぞ」
あ、言葉を話せるんだ。
「え、背中に乗ってもいいの? ありがとう。っていうか、飛竜って言葉が話せるんだね?」
と、ゼノンを振り返ると。
ゼノンも世話係もびっくりしている。
「スオウは、竜の言葉が理解できるのか……?」
「気難しいアルギュロスが、初対面だというのに、こんなに懐くなんて……」
……え?
*****
半信半疑な二人に。
アルギュロスしか知らないだろう話をいくつか通訳してみせて。
俺が竜の言葉を理解している、という事実が確定した。
世話の仕方を飛竜本人……本竜? からダメ出しされた世話係の人は落ち込んでたけど。
これからはもっとアルギュロスが快適に暮らせるよう頑張ると意気込んでいた。
前向きだ。
「俺にはギャーギャー鳴いているようにしか聞こえんが……」
世話係の人も、鳴き声の調子で判断していたらしい。
何で俺の耳には普通に喋ってるように聞こえるんだろう。
そういえば、徳田さんとゼノンが話してる時も、俺には二人とも日本語で話しているように聞こえてた。
神様のサービスかな? 便利といえば便利かも。
おとぎ話の聞き耳頭巾みたいだ。
でもこんな能力、何に使うんだよ……。
「スオウ、……”赤い色”」
「ん? 赤い色がどうしたって?」
ゼノンは頭痛を堪えるように額を抑えた。
「何ということだ……、暗号までも普通に通訳されて聞こえてしまうのか……」
あ、今の暗号だったんだ?
どんだけチートなんだよ、この耳。猫になったせいか?
「それがわかったら、何かまずいことでもあるの?」
「……この世界にはない知識だけではなく。飛竜の言葉や暗号までも読み解くその耳を、全ての国が求めるだろう」
「うわあ。だったら知られないようにしなきゃ。……あ、」
「どうした?」
「もしかしたらレオニダス王には気づかれちゃったかも。騎士の人と何か話してて、それに反応したら驚いてたから、多分……」
「ああ。共通語だけでなく、竜族の使う独特な言語がある。それでスオウに気づかれないよう、密談しようとしたのかもしれない」
方言みたいなもんかな?
狼族とか獅子族も、それぞれ独特の言葉があって。
他国と交流が全くない場合、共通語を話せない人もいるようだ。
「でもレオニダス王は俺のことを天上人だと思ってるから、言葉くらいはスルーしない……かな?」
「ああ、その件もあって天上人だと確信したのかもしれない。天上人は地上にある全ての言語を理解する、とあるからな。……やはりスオウは天使……」
天使じゃないっての!
ただの異世界人だよ。
何かオマケに色々付け加えられたっぽいけど!
俺が狼じゃなくて猫になったのも、何か理由があったとか?
*****
ディティコ王国に出掛ける支度が整ったらしいので。
馬車に乗った。
カルデアポリからここに来るのに乗ったのと同じ、豪華なやつだ。
王様に挨拶に行くからかな?
正装は明日するから、今日は楽な格好で行くんだそうだ。
タキとノエももちろん一緒だ。
「俺、明日もやっぱり女の格好するの?」
「嫌か?」
嫌かって訊かれたら、そりゃ嫌だけど。
正式に、ヴォーレィオ王国の王太子妃として呼ばれて他の国に行くんだから。
それにふさわしい格好をしなくちゃいけないってことは理解できてるつもりだ。
この微妙な女装姿で本当に良いのか? 髪も短いし、化粧もしてない状態なのに。
いや、積極的にカツラ被って化粧したいってわけじゃない。でも。
「……変じゃない?」
「スオウは綺麗だ。この服も、スオウの為に仕立てさせたものだ。とてもよく似合っている。自信を持って欲しい」
それに、と俺の耳に口を寄せて。
「この方が脱がせやすいし、抱きやすくて俺は好きだ」
そんなエロい理由だったのかよ!
えっち! エロ狼!
でも。
ここに一人置いてかれても困る。
「俺のことは、ゼノンが護ってくれるんだろ? それに、この指輪もあるんだから。大丈夫だってば」
お守り、という名目の。俺が嫌がることをしたらその相手が死ぬ、という呪い掛かった指輪である。
なるべく使う機会が訪れないといいけど。
「俺からは絶対に離れないと約束するなら……、」
「うん、離れないから連れてけ」
腕にしがみついておねだりする。妖怪つれてけ猫って感じ?
*****
しつこくおねだりしたら、ようやく連れて行ってくれる気になったようだ。
ディティコ王国まではカルデアポリを経由しないといけなくて。
馬車で軽く半日くらいかかるので、今日のうちにカルデアポリに行って、一泊してから向かうそうだ。
カルデアポリの向こうにあるノーティオ王国からアドニスがやたら早く来てくれたのは、緊急事態だったので飛竜を飛ばしてくれたからだった。
飛竜はとても貴重な生き物で。
基本一人乗りな上に、かなり気難しいので、訓練しないと危険なんだそうだ。
こことお城に一頭ずついるらしい。後で見せてもらいたいな……。
「飛竜を見たいのか? 見るだけなら、いつでも構わんぞ?」
と、俺を抱き上げて。
城……じゃなかった家の中央にある螺旋階段をすたすた昇っていく。
「……階段くらい昇れるよ?」
「ひと時も離したくないのだ。許せ」
ううう。
危険だからとか、甘やかしてる訳じゃなくて。
単にゼノンが俺のことを離したくないだけだったのかよ!
愛が重すぎだよ!
飛竜の飼育塔に昇って。
飛竜の世話係がゼノンと俺に礼をした。
大きな扉を開けると、その向こうには大きなドラゴンがいた。
全身を覆う、銀色っぽい鱗。
背の羽根やしっぽの形状はレオニダス王と似てる。身体は流線形で、速そう。
天井は網が張ってあって、その向こうは空。
網は、飛ぶ時に外されるようだ。
*****
「わあ、」
俺の上げた声で飛竜が振り返った。
オレンジ色の大きな目がこっちを見た。虹彩には緑色が混じってる。
不思議そうに首を傾げて、俺をじっと見てる。
「この子の名前は?」
世話係の人に訊いてみる。
「アルギュロス、5歳の成体です」
「アルギュロスか、こんにちは。俺は蘇芳だよ。よろしく」
手を出すと。
アルギュロスは目を細めて大きな顔を俺の手のひらに寄せてきた。
すべすべひんやりした触り心地だ。
クルクル鳴いてる。可愛いな。
「気に入った。スオウなら、背に乗せても良いぞ」
あ、言葉を話せるんだ。
「え、背中に乗ってもいいの? ありがとう。っていうか、飛竜って言葉が話せるんだね?」
と、ゼノンを振り返ると。
ゼノンも世話係もびっくりしている。
「スオウは、竜の言葉が理解できるのか……?」
「気難しいアルギュロスが、初対面だというのに、こんなに懐くなんて……」
……え?
*****
半信半疑な二人に。
アルギュロスしか知らないだろう話をいくつか通訳してみせて。
俺が竜の言葉を理解している、という事実が確定した。
世話の仕方を飛竜本人……本竜? からダメ出しされた世話係の人は落ち込んでたけど。
これからはもっとアルギュロスが快適に暮らせるよう頑張ると意気込んでいた。
前向きだ。
「俺にはギャーギャー鳴いているようにしか聞こえんが……」
世話係の人も、鳴き声の調子で判断していたらしい。
何で俺の耳には普通に喋ってるように聞こえるんだろう。
そういえば、徳田さんとゼノンが話してる時も、俺には二人とも日本語で話しているように聞こえてた。
神様のサービスかな? 便利といえば便利かも。
おとぎ話の聞き耳頭巾みたいだ。
でもこんな能力、何に使うんだよ……。
「スオウ、……”赤い色”」
「ん? 赤い色がどうしたって?」
ゼノンは頭痛を堪えるように額を抑えた。
「何ということだ……、暗号までも普通に通訳されて聞こえてしまうのか……」
あ、今の暗号だったんだ?
どんだけチートなんだよ、この耳。猫になったせいか?
「それがわかったら、何かまずいことでもあるの?」
「……この世界にはない知識だけではなく。飛竜の言葉や暗号までも読み解くその耳を、全ての国が求めるだろう」
「うわあ。だったら知られないようにしなきゃ。……あ、」
「どうした?」
「もしかしたらレオニダス王には気づかれちゃったかも。騎士の人と何か話してて、それに反応したら驚いてたから、多分……」
「ああ。共通語だけでなく、竜族の使う独特な言語がある。それでスオウに気づかれないよう、密談しようとしたのかもしれない」
方言みたいなもんかな?
狼族とか獅子族も、それぞれ独特の言葉があって。
他国と交流が全くない場合、共通語を話せない人もいるようだ。
「でもレオニダス王は俺のことを天上人だと思ってるから、言葉くらいはスルーしない……かな?」
「ああ、その件もあって天上人だと確信したのかもしれない。天上人は地上にある全ての言語を理解する、とあるからな。……やはりスオウは天使……」
天使じゃないっての!
ただの異世界人だよ。
何かオマケに色々付け加えられたっぽいけど!
俺が狼じゃなくて猫になったのも、何か理由があったとか?
*****
ディティコ王国に出掛ける支度が整ったらしいので。
馬車に乗った。
カルデアポリからここに来るのに乗ったのと同じ、豪華なやつだ。
王様に挨拶に行くからかな?
正装は明日するから、今日は楽な格好で行くんだそうだ。
タキとノエももちろん一緒だ。
「俺、明日もやっぱり女の格好するの?」
「嫌か?」
嫌かって訊かれたら、そりゃ嫌だけど。
正式に、ヴォーレィオ王国の王太子妃として呼ばれて他の国に行くんだから。
それにふさわしい格好をしなくちゃいけないってことは理解できてるつもりだ。
この微妙な女装姿で本当に良いのか? 髪も短いし、化粧もしてない状態なのに。
いや、積極的にカツラ被って化粧したいってわけじゃない。でも。
「……変じゃない?」
「スオウは綺麗だ。この服も、スオウの為に仕立てさせたものだ。とてもよく似合っている。自信を持って欲しい」
それに、と俺の耳に口を寄せて。
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