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王子様が迎えに来た
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突如、慌ただしい足音が複数聞こえたと思ったら。
いきなり扉が開いた。
ノックもしないなんて、よほど慌ててるのかな?
「陛下、ヴォーレィオ及びノーティオ王国の王太子様が至急、謁見を願うと……!」
「……いけません、まだ許可が……!」
ざわざわと、数人が言い争うような声や音がして。
「スオウ、無事か!?」
「だから落ち着けってば、……あれ?」
兵士を押しのけて。
ゼノンと、何故かアドニスの二人が顔を出した。
あ、タキとノエもいた。
「……これ、どうなっちゃってんの?」
アドニスは、王座に座らされて、レオニダス王に跪かれて甲斐甲斐しくお世話をされている俺を見て、呆れた声を上げた。
ゼノンは呆気にとられたような顔をしている。
だよね。
何が起こったんだ、と思うよね。
俺もそう思う。
*****
レオニダス王により、事の次第を説明されて。
ゼノンは俺を攫ったモグラ族の二人を、殺意を込めた目で睨んだ。
ゼノンとアドニスが、少々強引に入国したことは不問とする。
今回の事は王として不徳の致すところと謝罪するが、実行犯二人の処遇はそちらに任せる、という。
潔い王様だなあ。
理由があっても、一国の王子が他国に不法侵入って、おおごとだろうに。
国際問題にならなくて良かった。
モグラ族の二人はゼノンに睨まれた上、処分されるのを恐れて震えあがっている。
二人をどうするのか冷や冷やして見てたら。
「スオウ、こいつらを恨んでいるか?」
「いや、別に」
二人からも謝られたし。
それだけじゃなく、一国の王であるレオニダス王からも謝罪された。
俺もこうして無事なわけだ。
許してあげて、って視線を送る。
ゼノンは大きな溜息を吐いて。
「……妻は気にしていないようだ。我が妻の寛大さに感謝するがいい。俺も、愛する妻の前ではなるべく殺生したくない。もう二度と、こちらの領土に穴を空けるな。人や物品を盗むな。二度目は無い。禁を破った場合、その命無きものと思え」
モグラ族の二人は震えながら。
涙ながらにもう二度としません、と誓った。
とりあえず、斬り捨て御免にはならなかったので安心した。
*****
「うわあ、ほんとに猫ちゃんになってるー! かっわい~」
アドニスは、ゼノンにしっかりと抱きこまれた俺の顔を覗き込んで。
珍しそうに観察している。
そういえば、アドニスとは猫耳になる前に会ってるから、普通の耳も見られてたっけ。
なのに、態度は変わらない。
アドニスは、”猿人”を馬鹿にするような人じゃないんだ。
だからゼノンと仲が良いのかな?
価値観が似てるから。
「この方は、元から猫族ではなかったというのか?」
レオニダス王はアドニスに訊いた。
アドニスとレオニダス王は顔見知りで、国同士でも国交があったので。
急遽アドニスを呼び出して、王への謁見の申し込みを取り次いでもらったようだ。
さすがにそのまま無為無策に仮想敵国に特攻したりはしないか。
それでも、本来は入国するのに色々手続きが必要なところを、色々すっ飛ばして来たようだ。
ゼノンが我慢できたのは城の前までで。
ツガイの匂いがする、と城に飛び込みそうになったのを、アドニスが必死に止めたらしい。
俺がうっかりしてたせいで、色々な人に迷惑かけちゃったんだな。
ゼノンにも、かなり心配させてしまったようで、申し訳ない。
「そう。ゼノンが異世界から攫ってきたんだって。カルデアポリで見たとき、耳に毛が生えてなかったのは確かだよ。最初は言葉も通じなかったけど、魂まで結ばれたら猫族になってて、言葉も通じるようになったんだって」
「ああ、その話は伺っている。穢れなき天上人を連れ去り手折るとは。何と罪深い……」
「ツガイの匂いがしたので、自分のツガイを迎えに行ったまでだ」
「ほう、天上人で、こちらの仕来りも知らぬのに強引に、か?」
ゼノンとレオニダス王が睨み合ってる。
「あ、やっぱりわかってなかったんだ。きょとんとした顔してたもんね。だから止めたのに。ゼノンてば、ヒトの話も聞かずにどんどん行っちゃうんだもんな」
とアドニスが肩を竦めている。
「こんなに匂いつけちゃってまあ……、」
アドニスはこちらに意味ありげな視線を寄越した。
まだ、そんなに匂うんだ……。
ゼノンのマーキング。
もう半日以上経つだろうに。
ライオンも鼻がいいんだっけ?
*****
「そういえばさ。本来の順番で入ってたら、子猫ちゃんと最初に出逢ってたのは俺だったんじゃない?」
アドニスが笑顔で言った。
「何だと?」
「俺、番号札一番だったのに。二番のゼノンが先に入っちゃったんだよねー?」
「儀式にずるはいかんなあ」
「う……、」
ゼノンが二人掛かりで言い負かされている……。
「ほら、同じ猫仲間だし? 相性も良いはずだよ。俺と結婚し直さない? このカタブツより幸せにするよ?」
ゴロゴロ言いながら寄ってこないで欲しいんだけど。
太い尾は、楽しそうに揺れている。
「お前はちゃんと嫁を貰っただろう。儀式は済んだと聞いたが」
”道逢の儀”によって結ばれた夫婦は、死なない限り離婚できないんだっけ。
「そんなの、食べちゃえばいい」
アドニスは、うっすらと微笑みを浮かべた。
すっ、と部屋の温度が下がったような気がした。
え? 比喩とかじゃなくて?
お嫁さんのこと、リアルで食べちゃう気!?
「やだなあ、冗談だって。そんな怖い顔するなよ」
アドニスは明るい声で、ゼノンの背中をパンパン叩いた。
ゼノンは苦虫を嚙み潰したような顔をしてる。
「お前の冗談は、たまに冗談に聞こえない」
「まあ半分本気だからね?」
ひええ。
*****
「あの、俺、今はゼノン以外考えられないから! ゼノンの事、あ、愛してるし!」
ゼノンは照れて耳をぴるぴるして。
そんなゼノンと俺を交互に見て、アドニスとレオニダス王が笑った。
「ごめんごめん、脅かしちゃったね。子猫ちゃんも魅力的だけど、ちゃんと”道逢の儀”で結婚した今の嫁のこと、愛してるから。安心してよ。ね?」
アドニスが俺に、華麗なウインクをした。
うう。
自信過剰な台詞を口走ってしまったようだ。
だよね。
こんなイケメンが男の俺のこと、本気で嫁に欲しがるはずないよね!
ゼノンだって、ツガイの匂いがしたから惹かれた訳だし。
いきなり扉が開いた。
ノックもしないなんて、よほど慌ててるのかな?
「陛下、ヴォーレィオ及びノーティオ王国の王太子様が至急、謁見を願うと……!」
「……いけません、まだ許可が……!」
ざわざわと、数人が言い争うような声や音がして。
「スオウ、無事か!?」
「だから落ち着けってば、……あれ?」
兵士を押しのけて。
ゼノンと、何故かアドニスの二人が顔を出した。
あ、タキとノエもいた。
「……これ、どうなっちゃってんの?」
アドニスは、王座に座らされて、レオニダス王に跪かれて甲斐甲斐しくお世話をされている俺を見て、呆れた声を上げた。
ゼノンは呆気にとられたような顔をしている。
だよね。
何が起こったんだ、と思うよね。
俺もそう思う。
*****
レオニダス王により、事の次第を説明されて。
ゼノンは俺を攫ったモグラ族の二人を、殺意を込めた目で睨んだ。
ゼノンとアドニスが、少々強引に入国したことは不問とする。
今回の事は王として不徳の致すところと謝罪するが、実行犯二人の処遇はそちらに任せる、という。
潔い王様だなあ。
理由があっても、一国の王子が他国に不法侵入って、おおごとだろうに。
国際問題にならなくて良かった。
モグラ族の二人はゼノンに睨まれた上、処分されるのを恐れて震えあがっている。
二人をどうするのか冷や冷やして見てたら。
「スオウ、こいつらを恨んでいるか?」
「いや、別に」
二人からも謝られたし。
それだけじゃなく、一国の王であるレオニダス王からも謝罪された。
俺もこうして無事なわけだ。
許してあげて、って視線を送る。
ゼノンは大きな溜息を吐いて。
「……妻は気にしていないようだ。我が妻の寛大さに感謝するがいい。俺も、愛する妻の前ではなるべく殺生したくない。もう二度と、こちらの領土に穴を空けるな。人や物品を盗むな。二度目は無い。禁を破った場合、その命無きものと思え」
モグラ族の二人は震えながら。
涙ながらにもう二度としません、と誓った。
とりあえず、斬り捨て御免にはならなかったので安心した。
*****
「うわあ、ほんとに猫ちゃんになってるー! かっわい~」
アドニスは、ゼノンにしっかりと抱きこまれた俺の顔を覗き込んで。
珍しそうに観察している。
そういえば、アドニスとは猫耳になる前に会ってるから、普通の耳も見られてたっけ。
なのに、態度は変わらない。
アドニスは、”猿人”を馬鹿にするような人じゃないんだ。
だからゼノンと仲が良いのかな?
価値観が似てるから。
「この方は、元から猫族ではなかったというのか?」
レオニダス王はアドニスに訊いた。
アドニスとレオニダス王は顔見知りで、国同士でも国交があったので。
急遽アドニスを呼び出して、王への謁見の申し込みを取り次いでもらったようだ。
さすがにそのまま無為無策に仮想敵国に特攻したりはしないか。
それでも、本来は入国するのに色々手続きが必要なところを、色々すっ飛ばして来たようだ。
ゼノンが我慢できたのは城の前までで。
ツガイの匂いがする、と城に飛び込みそうになったのを、アドニスが必死に止めたらしい。
俺がうっかりしてたせいで、色々な人に迷惑かけちゃったんだな。
ゼノンにも、かなり心配させてしまったようで、申し訳ない。
「そう。ゼノンが異世界から攫ってきたんだって。カルデアポリで見たとき、耳に毛が生えてなかったのは確かだよ。最初は言葉も通じなかったけど、魂まで結ばれたら猫族になってて、言葉も通じるようになったんだって」
「ああ、その話は伺っている。穢れなき天上人を連れ去り手折るとは。何と罪深い……」
「ツガイの匂いがしたので、自分のツガイを迎えに行ったまでだ」
「ほう、天上人で、こちらの仕来りも知らぬのに強引に、か?」
ゼノンとレオニダス王が睨み合ってる。
「あ、やっぱりわかってなかったんだ。きょとんとした顔してたもんね。だから止めたのに。ゼノンてば、ヒトの話も聞かずにどんどん行っちゃうんだもんな」
とアドニスが肩を竦めている。
「こんなに匂いつけちゃってまあ……、」
アドニスはこちらに意味ありげな視線を寄越した。
まだ、そんなに匂うんだ……。
ゼノンのマーキング。
もう半日以上経つだろうに。
ライオンも鼻がいいんだっけ?
*****
「そういえばさ。本来の順番で入ってたら、子猫ちゃんと最初に出逢ってたのは俺だったんじゃない?」
アドニスが笑顔で言った。
「何だと?」
「俺、番号札一番だったのに。二番のゼノンが先に入っちゃったんだよねー?」
「儀式にずるはいかんなあ」
「う……、」
ゼノンが二人掛かりで言い負かされている……。
「ほら、同じ猫仲間だし? 相性も良いはずだよ。俺と結婚し直さない? このカタブツより幸せにするよ?」
ゴロゴロ言いながら寄ってこないで欲しいんだけど。
太い尾は、楽しそうに揺れている。
「お前はちゃんと嫁を貰っただろう。儀式は済んだと聞いたが」
”道逢の儀”によって結ばれた夫婦は、死なない限り離婚できないんだっけ。
「そんなの、食べちゃえばいい」
アドニスは、うっすらと微笑みを浮かべた。
すっ、と部屋の温度が下がったような気がした。
え? 比喩とかじゃなくて?
お嫁さんのこと、リアルで食べちゃう気!?
「やだなあ、冗談だって。そんな怖い顔するなよ」
アドニスは明るい声で、ゼノンの背中をパンパン叩いた。
ゼノンは苦虫を嚙み潰したような顔をしてる。
「お前の冗談は、たまに冗談に聞こえない」
「まあ半分本気だからね?」
ひええ。
*****
「あの、俺、今はゼノン以外考えられないから! ゼノンの事、あ、愛してるし!」
ゼノンは照れて耳をぴるぴるして。
そんなゼノンと俺を交互に見て、アドニスとレオニダス王が笑った。
「ごめんごめん、脅かしちゃったね。子猫ちゃんも魅力的だけど、ちゃんと”道逢の儀”で結婚した今の嫁のこと、愛してるから。安心してよ。ね?」
アドニスが俺に、華麗なウインクをした。
うう。
自信過剰な台詞を口走ってしまったようだ。
だよね。
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