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もう元の世界には帰れない、らしい
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「残念ながら、元の世界には戻れない。二度と」
ゼノンは真顔で言った。
「……え?」
「住む世界の違う俺達がこうして出逢えたのは神の意向であることには間違いない。理由はどうあれ、スオウは俺の差し出した贈り物を受け取った。”婚姻の儀式”はそれで成立したのだ。神事である”道逢の儀”での婚姻は、どちらかの死でしか撤回出来ない。ツガイの儀式も済ませた。姿も変わってしまったスオウを、元の世界は受け入れないだろう」
そう言って。
ベッドの脇にあったらしい手鏡を渡してきた。
……え、姿も変わったって?
どういう風に?
死なないと撤回できない、とかいうのも気になったけど。
恐る恐る、渡された手鏡を覗き込んだ。
そこに写っていた俺の姿は。
確かに色々と変わってしまっていた。
*****
「何これ!?」
まず、最初に目に入ったのは瞳の色だった。
黒と焦げ茶だったはずの目の色が、澄んだ水色っぽい青に変わっていた。
コンタクトではないことは確かだ。
目に違和感はないし。
そして。
あるべき場所に耳が無くて。
代わりに、頭から黒い獣耳が生えている。……何か動くんだけど。うわあ。
それにさっきから、お尻の辺りがなんかムズムズすると思ってたら。
お尻の上、尾骨の辺りから黒い毛で覆われたしっぽが生えていた。
これはもしや、猫の尻尾では?
俺、猫なのかよ!?
いや、ワンチャン黒豹の可能性もあるか?
黒豹の方がカッコイイから黒豹を希望したい。
「俺と同じ狼族や犬族ではないだろうとは感じていたが。まさか俺のツガイがこんなに可愛い猫族だとはな。一生大切にして可愛がるから、遠慮なく甘えてくれ」
猫だった。
しかも黒猫だよ。
撫でるのは好きだけど、自分が猫になっても嬉しくもなんともない。
でもってゼノンは犬じゃなくて狼だったんだ……。違いが良くわかんないけど。
ウルフガイか。何か格好良くて羨ま悔しい。
……っていうか。
何で俺まで動物になっちゃってんの!?
狼人間のゼノンとしたから、獣耳やしっぽが生えてきちゃったの!?
伝染するなら、同じ狼じゃないのかよ!?
どうせなるなら、猫より狼の方が良かったんだけど!
*****
しっぽが勝手に動いて、ベッドをたしたしと叩いている。
猫がしっぽで床を叩くのは不満や強いストレスの表れだっけ?
勝手に動くもんだから、他人から目で見て感情が知られちゃうのって、結構不便かも。
ゼノンも、嬉しそうにしっぽバシバシ振ってたし。
丸わかりだったな。
「スオウ、機嫌を直してくれ。不自由な思いはさせない。俺が護る」
ゼノンにも俺のストレスというか、複雑な感情が伝わったらしい。
抱き寄せられて、慰めるように頬ずりされる。
それから鼻と鼻を合わせるようにして。
そういや、動物の挨拶って鼻と鼻を合わせるんだっけ、と思い出す。
半分動物で、半分人間なんだ。
もう元の世界に帰れないというのは、嘘ではないんだろう。
ここは、神様が本当に存在する世界だから。
神様が、俺をゼノンのツガイに決めて、ゼノンを俺がいる世界と繋げたのかな?
運命の相手だって言ってた。
ツガイの匂いというのは、全く結婚する気のなかったゼノンですらその気になってしまうほど、強力なんだろう。
俺にはわからないけど。
諦めるしか、無いのかな?
高校も、もう中退みたいな感じになるんだろうし。
俺には特技とかない。自慢じゃないが何もできない。
この世界のこともよく知らない。
サバイバルとか無理だ。
放り出されたら秒で行き倒れる自信ならある。
ゼノンに頼らなければ、この世界で生きていけないかもしれない。
*****
王子様のツガイってことは、まさしくシンデレラというか、玉の輿で。
喜ぶべきことなんだろうな。普通の女の子だったら。
俺は喜べない……。
高校を卒業したら進学せずに就職して、家を出て一人暮らしをしたい、って願望はあった。
とにかく早く、家を出たかったけど。
こんな風に、出ることになるなんて。
家どころか、世界まで別になりたいとは思ってなかった。
いくら何でも想定外だよ。
神様に引き合わされた結婚で。
絶対にこうなる運命だったとかいうなら、せめて、夢とかでお告げしてくれたっていいじゃないか。
ちゃんと、心構えをさせて欲しかった。
身一つで、全然違う、知ってる人のいない世界に行くなんて。
一日でもいいから。
心の準備をさせて欲しかった。
急すぎるよ。
両親に、お別れも言えてない。
友達とも、もう二度と逢えないんだ……。
この世界で頼れるのは唯一、俺を”運命の相手”だって言ったゼノンだけ。
他に選択肢が無いから選ぶみたいじゃないか。
それって、ゼノンにも失礼じゃないのかな?
ゼノンは顔もいいし、鍛えてるのか力持ちで体つきも立派だ。
でもって王子様な上、優しいし。
理想の男性像の一つだろう。
だからって、結婚相手として好きになれるかというと、別の話で。
身体は繋がったけど。
今のところ、それだけだ。
ただ、嫌悪感は無かった。
普通なら、自分を犯した男なんて殺しても飽き足らないほど憎いもんじゃないか?
ゼノンのことは、好きかと言われたら困るけど。
嫌いだとも思えない。
それも、運命の相手だから?
*****
ゼノンと目が合う。
やっぱり綺麗な目をしてるな、と思う。
「狼族は一途だ。ツガイと決めた相手以外、目に入らない。生涯大切にする。だから、改めて誓おう。……愛している、スオウ。俺を受け入れて、ずっと傍に居て欲しい」
真っ直ぐな告白だ。
言葉が通じなくても。
ゼノンが俺に話しかけてくる言葉はずっと優しかった。
あんなに激しく抱かれたのに身体にダメージが残ってないってことは、無茶なことはされなかったんだろう。
噛まれたけど。
俺のことが大好きだって、全身で表してる。
昨日会ったばかりだけど。嘘を言うような性格じゃないことは理解できた。
大事にするって言葉も、その場限りの嘘じゃないんだろう。
……受け入れるしか、道は無いんだろうな。
神様が引き合わせたくらいだ。
この展開に付いていけてないのは、俺の感情だけで。
「……うん、」
迷いながらも、頷いてみせた。
「ありがとう。とても嬉しい」
嬉しそうにしっぽをバシバシ振ってるゼノンにぎゅっと抱き締められて。
ちょっとかわいいかも、と思ってしまった。
多分、年上なのに。
「んん、」
唇が触れ合って、舌が入ってくる。
分厚い舌だ。
これで、舐められたんだっけ。
すごく気持ち良かった……。
また、アレを、されちゃうのかな。
外、明るいのに。
ゼノンは真顔で言った。
「……え?」
「住む世界の違う俺達がこうして出逢えたのは神の意向であることには間違いない。理由はどうあれ、スオウは俺の差し出した贈り物を受け取った。”婚姻の儀式”はそれで成立したのだ。神事である”道逢の儀”での婚姻は、どちらかの死でしか撤回出来ない。ツガイの儀式も済ませた。姿も変わってしまったスオウを、元の世界は受け入れないだろう」
そう言って。
ベッドの脇にあったらしい手鏡を渡してきた。
……え、姿も変わったって?
どういう風に?
死なないと撤回できない、とかいうのも気になったけど。
恐る恐る、渡された手鏡を覗き込んだ。
そこに写っていた俺の姿は。
確かに色々と変わってしまっていた。
*****
「何これ!?」
まず、最初に目に入ったのは瞳の色だった。
黒と焦げ茶だったはずの目の色が、澄んだ水色っぽい青に変わっていた。
コンタクトではないことは確かだ。
目に違和感はないし。
そして。
あるべき場所に耳が無くて。
代わりに、頭から黒い獣耳が生えている。……何か動くんだけど。うわあ。
それにさっきから、お尻の辺りがなんかムズムズすると思ってたら。
お尻の上、尾骨の辺りから黒い毛で覆われたしっぽが生えていた。
これはもしや、猫の尻尾では?
俺、猫なのかよ!?
いや、ワンチャン黒豹の可能性もあるか?
黒豹の方がカッコイイから黒豹を希望したい。
「俺と同じ狼族や犬族ではないだろうとは感じていたが。まさか俺のツガイがこんなに可愛い猫族だとはな。一生大切にして可愛がるから、遠慮なく甘えてくれ」
猫だった。
しかも黒猫だよ。
撫でるのは好きだけど、自分が猫になっても嬉しくもなんともない。
でもってゼノンは犬じゃなくて狼だったんだ……。違いが良くわかんないけど。
ウルフガイか。何か格好良くて羨ま悔しい。
……っていうか。
何で俺まで動物になっちゃってんの!?
狼人間のゼノンとしたから、獣耳やしっぽが生えてきちゃったの!?
伝染するなら、同じ狼じゃないのかよ!?
どうせなるなら、猫より狼の方が良かったんだけど!
*****
しっぽが勝手に動いて、ベッドをたしたしと叩いている。
猫がしっぽで床を叩くのは不満や強いストレスの表れだっけ?
勝手に動くもんだから、他人から目で見て感情が知られちゃうのって、結構不便かも。
ゼノンも、嬉しそうにしっぽバシバシ振ってたし。
丸わかりだったな。
「スオウ、機嫌を直してくれ。不自由な思いはさせない。俺が護る」
ゼノンにも俺のストレスというか、複雑な感情が伝わったらしい。
抱き寄せられて、慰めるように頬ずりされる。
それから鼻と鼻を合わせるようにして。
そういや、動物の挨拶って鼻と鼻を合わせるんだっけ、と思い出す。
半分動物で、半分人間なんだ。
もう元の世界に帰れないというのは、嘘ではないんだろう。
ここは、神様が本当に存在する世界だから。
神様が、俺をゼノンのツガイに決めて、ゼノンを俺がいる世界と繋げたのかな?
運命の相手だって言ってた。
ツガイの匂いというのは、全く結婚する気のなかったゼノンですらその気になってしまうほど、強力なんだろう。
俺にはわからないけど。
諦めるしか、無いのかな?
高校も、もう中退みたいな感じになるんだろうし。
俺には特技とかない。自慢じゃないが何もできない。
この世界のこともよく知らない。
サバイバルとか無理だ。
放り出されたら秒で行き倒れる自信ならある。
ゼノンに頼らなければ、この世界で生きていけないかもしれない。
*****
王子様のツガイってことは、まさしくシンデレラというか、玉の輿で。
喜ぶべきことなんだろうな。普通の女の子だったら。
俺は喜べない……。
高校を卒業したら進学せずに就職して、家を出て一人暮らしをしたい、って願望はあった。
とにかく早く、家を出たかったけど。
こんな風に、出ることになるなんて。
家どころか、世界まで別になりたいとは思ってなかった。
いくら何でも想定外だよ。
神様に引き合わされた結婚で。
絶対にこうなる運命だったとかいうなら、せめて、夢とかでお告げしてくれたっていいじゃないか。
ちゃんと、心構えをさせて欲しかった。
身一つで、全然違う、知ってる人のいない世界に行くなんて。
一日でもいいから。
心の準備をさせて欲しかった。
急すぎるよ。
両親に、お別れも言えてない。
友達とも、もう二度と逢えないんだ……。
この世界で頼れるのは唯一、俺を”運命の相手”だって言ったゼノンだけ。
他に選択肢が無いから選ぶみたいじゃないか。
それって、ゼノンにも失礼じゃないのかな?
ゼノンは顔もいいし、鍛えてるのか力持ちで体つきも立派だ。
でもって王子様な上、優しいし。
理想の男性像の一つだろう。
だからって、結婚相手として好きになれるかというと、別の話で。
身体は繋がったけど。
今のところ、それだけだ。
ただ、嫌悪感は無かった。
普通なら、自分を犯した男なんて殺しても飽き足らないほど憎いもんじゃないか?
ゼノンのことは、好きかと言われたら困るけど。
嫌いだとも思えない。
それも、運命の相手だから?
*****
ゼノンと目が合う。
やっぱり綺麗な目をしてるな、と思う。
「狼族は一途だ。ツガイと決めた相手以外、目に入らない。生涯大切にする。だから、改めて誓おう。……愛している、スオウ。俺を受け入れて、ずっと傍に居て欲しい」
真っ直ぐな告白だ。
言葉が通じなくても。
ゼノンが俺に話しかけてくる言葉はずっと優しかった。
あんなに激しく抱かれたのに身体にダメージが残ってないってことは、無茶なことはされなかったんだろう。
噛まれたけど。
俺のことが大好きだって、全身で表してる。
昨日会ったばかりだけど。嘘を言うような性格じゃないことは理解できた。
大事にするって言葉も、その場限りの嘘じゃないんだろう。
……受け入れるしか、道は無いんだろうな。
神様が引き合わせたくらいだ。
この展開に付いていけてないのは、俺の感情だけで。
「……うん、」
迷いながらも、頷いてみせた。
「ありがとう。とても嬉しい」
嬉しそうにしっぽをバシバシ振ってるゼノンにぎゅっと抱き締められて。
ちょっとかわいいかも、と思ってしまった。
多分、年上なのに。
「んん、」
唇が触れ合って、舌が入ってくる。
分厚い舌だ。
これで、舐められたんだっけ。
すごく気持ち良かった……。
また、アレを、されちゃうのかな。
外、明るいのに。
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