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建国記念日をつくろう。
皇帝:建国記念日とは何ぞや
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「ここって、建国100年祭とかやらないの?」
我がアルバ帝国最高最強の魔術師で私の最愛の后であるカナメが、愛らしい顔をこちらに向けて訊いてきた。
カナメは元々『百目鬼要』という名の異世界人で。
こちらでは魔王が討伐対象だということを知らずに、魔王として転生してきたそうだが。
どうやら強い魔法使い=魔法使いの王様=魔王だと思っていたようである。
大変可愛らしい。
一見、狐人らしく勝気そうな吊り目の美人なのだが。
柳葉のように美しい眉は、常に自信無さげに下がっている。
実際、自己評価が妙に低く、謙虚である。
狐人のほとんどは美しいのだが気位が高く、他種を見下す傾向があるのだ。
その見た目との落差も、たまらなく私の心を惹きつけるのだろうか。
大変物知りなのに、決してそれをひけらかさない。
この世界をも統べることが可能なほどの強大な魔力を持っていても力に溺れず、慎ましいし。
人が困っていると黙って手を差し出すような優しい性格なのである。
その愛らしい性格ゆえか、神にも愛されているカナメは、先日”魔王”から、”魔法使いの王様”という職に変えてもらったようだ。
年齢操作の魔法は魔王専用の魔法だったようで、もう使えないということだ。
子供の時の姿も、天使のよう……いや天使そのもので可愛かったので、少々もったいないとは思うが。
もう魔王でなくなり、カナメが心置きなくここで暮らせるようになったのならば重畳である。
*****
「ちょっと、ガイウス。……聞いてる?」
その濡れた様な、大きな黒目がちの瞳で見詰められると。
抱き締めて、腕の中に閉じ込めてしまいたくなる。
というか、気がつけばすでに抱き締めていることが多い。
「聞いているよ。君の声は天上の妙なる音楽のようで、つい聞き惚れてしまう」
色の白い肌が、ほんのり紅く染まる。
あまり褒めると怒り出すので、この辺にしておこう。
「建国で祭りというのは、普通、何をするものなのだろうか?」
そんな祭りはしたことがない、と答えると。
「うーん、そうだなあ……、」
カナメは小首を傾げ。
しばし、思考の海に潜っているようだ。
恐らく、私にも理解できる言い方で、その催しを教えようと、考えてくれているのだろう。
その心遣いが嬉しい。
カナメは自分のことを頭の回転が遅くて賢くないと言うが。
とんでもない。生まれ育った世界が違うゆえか、常識がかなり異なるだろうと思われるのに、すっかり適応している。
周囲をよく観察し、熟考しているだけだろう。
*****
カナメの住んでいた日本という国は、よく話を聞いてみれば、相当便利なところだったようだ。
”自動車”という車輪のある機械の乗り物で、馬なら二日掛かる道を半日で走ったり。
”飛行機”という空を飛ぶ機械で外国へ行ったり。
道には”自販機”という、小銭を入れれば飲み物や食べ物を吐き出す機械があったり。
昇降機なども人力や魔力でなく、自動で昇り降りするのだとか。
動く階段や動く歩道もあるなど、機械がかなり発展している文明だったという。
それではこちらに来て、さぞや不便であろうと思ったが。
カナメは滅多に不満をもらさない。
それどころか。
公衆浴場に大喜びしたり、排水渠の蓋を見て子供のように彫られた河神の口に手を入れてはしゃいだり。
円形闘技場が好きだったり。
憧れていた場所に似ているし、この国が、この世界が大好きだと言ってくれた。
私と、臣下たちの力で育てたこの国を褒められ、どれだけ嬉しかったことか。
カナメは水精魔法の使い手である故か、水のことにも詳しく。
先日など、長年の懸念であった水不足の問題を解消をしてくれた。
山に降る雨は山を潤すだけでなく、土が水を染み込み、漉して綺麗にし、泉として湧き出てくるという天地の仕組みなど、ここでは誰も知らなかったことである。
半信半疑であった按察官のマルクスの前で、カナメはガラス瓶で小さな『浄水装置』をつくり、水を漉してみせてくれた。
水道橋の仕組みも知っていた。
鉛の水道管だと、毒が染み込むため危険だということも。
そのこともあり、あのマルクスですら、カナメの知識に一目置いて、すっかり心酔している様子である。
カナメのおかげで、今は井戸水も枯渇することなく、国民は快適に水道を使用しているそうだ。
大変な偉業である。
それなのに、それを自分の功績とは思わず。
その上、作業をした隊員たちを激励までしたという。
カナメの警護をしていたオクタウィウスから聞いたのだが。
国民の皆が快適に過ごせるのは、隊員たちの日頃の努力のおかげだ、との激励に、騎士長官だけでなく、マルクスまでも涙していたとか。
水道は国の事業である。
本来、皇帝である私が赴き、彼らをねぎらってやらねばならなかったことである。
カナメは何かあるとすぐに私の外套に隠れてしまうほど、気が優しく引っ込み思案なのに。
よく頑張ってくれた。
話を聞いた私も、子の成長を喜ぶ親の如く、思わず涙ぐんでしまった。
あまりに素晴らしい皇妃すぎて、私もカナメに負けぬよう、きちんとしなければ、と。
身が引き締まる思いだ。
*****
カナメが、思考の海から戻ってきたようだ。
「えーと。建国記念日は、休日になったり、外国では打ち上げ花火を上げたり、パレードとかコンサートとかイベントを開いたり、家ではバーベキューとかピクニックとかして家族や友人と過ごす日で。商店はバーゲンセールをしてた、と思う……」
聞いたことのない言葉ばかりである。
「………………そうか、とにかく祭りなのだな?」
なるほど。
よし。
「神祇官のルキウスと、按察官のマルクスを呼ぼう」
祭事関係はルキウス。
国内の行事のあれこれはだいたいマルクスが担っているのである。
決して、投げたわけではない。
我がアルバ帝国最高最強の魔術師で私の最愛の后であるカナメが、愛らしい顔をこちらに向けて訊いてきた。
カナメは元々『百目鬼要』という名の異世界人で。
こちらでは魔王が討伐対象だということを知らずに、魔王として転生してきたそうだが。
どうやら強い魔法使い=魔法使いの王様=魔王だと思っていたようである。
大変可愛らしい。
一見、狐人らしく勝気そうな吊り目の美人なのだが。
柳葉のように美しい眉は、常に自信無さげに下がっている。
実際、自己評価が妙に低く、謙虚である。
狐人のほとんどは美しいのだが気位が高く、他種を見下す傾向があるのだ。
その見た目との落差も、たまらなく私の心を惹きつけるのだろうか。
大変物知りなのに、決してそれをひけらかさない。
この世界をも統べることが可能なほどの強大な魔力を持っていても力に溺れず、慎ましいし。
人が困っていると黙って手を差し出すような優しい性格なのである。
その愛らしい性格ゆえか、神にも愛されているカナメは、先日”魔王”から、”魔法使いの王様”という職に変えてもらったようだ。
年齢操作の魔法は魔王専用の魔法だったようで、もう使えないということだ。
子供の時の姿も、天使のよう……いや天使そのもので可愛かったので、少々もったいないとは思うが。
もう魔王でなくなり、カナメが心置きなくここで暮らせるようになったのならば重畳である。
*****
「ちょっと、ガイウス。……聞いてる?」
その濡れた様な、大きな黒目がちの瞳で見詰められると。
抱き締めて、腕の中に閉じ込めてしまいたくなる。
というか、気がつけばすでに抱き締めていることが多い。
「聞いているよ。君の声は天上の妙なる音楽のようで、つい聞き惚れてしまう」
色の白い肌が、ほんのり紅く染まる。
あまり褒めると怒り出すので、この辺にしておこう。
「建国で祭りというのは、普通、何をするものなのだろうか?」
そんな祭りはしたことがない、と答えると。
「うーん、そうだなあ……、」
カナメは小首を傾げ。
しばし、思考の海に潜っているようだ。
恐らく、私にも理解できる言い方で、その催しを教えようと、考えてくれているのだろう。
その心遣いが嬉しい。
カナメは自分のことを頭の回転が遅くて賢くないと言うが。
とんでもない。生まれ育った世界が違うゆえか、常識がかなり異なるだろうと思われるのに、すっかり適応している。
周囲をよく観察し、熟考しているだけだろう。
*****
カナメの住んでいた日本という国は、よく話を聞いてみれば、相当便利なところだったようだ。
”自動車”という車輪のある機械の乗り物で、馬なら二日掛かる道を半日で走ったり。
”飛行機”という空を飛ぶ機械で外国へ行ったり。
道には”自販機”という、小銭を入れれば飲み物や食べ物を吐き出す機械があったり。
昇降機なども人力や魔力でなく、自動で昇り降りするのだとか。
動く階段や動く歩道もあるなど、機械がかなり発展している文明だったという。
それではこちらに来て、さぞや不便であろうと思ったが。
カナメは滅多に不満をもらさない。
それどころか。
公衆浴場に大喜びしたり、排水渠の蓋を見て子供のように彫られた河神の口に手を入れてはしゃいだり。
円形闘技場が好きだったり。
憧れていた場所に似ているし、この国が、この世界が大好きだと言ってくれた。
私と、臣下たちの力で育てたこの国を褒められ、どれだけ嬉しかったことか。
カナメは水精魔法の使い手である故か、水のことにも詳しく。
先日など、長年の懸念であった水不足の問題を解消をしてくれた。
山に降る雨は山を潤すだけでなく、土が水を染み込み、漉して綺麗にし、泉として湧き出てくるという天地の仕組みなど、ここでは誰も知らなかったことである。
半信半疑であった按察官のマルクスの前で、カナメはガラス瓶で小さな『浄水装置』をつくり、水を漉してみせてくれた。
水道橋の仕組みも知っていた。
鉛の水道管だと、毒が染み込むため危険だということも。
そのこともあり、あのマルクスですら、カナメの知識に一目置いて、すっかり心酔している様子である。
カナメのおかげで、今は井戸水も枯渇することなく、国民は快適に水道を使用しているそうだ。
大変な偉業である。
それなのに、それを自分の功績とは思わず。
その上、作業をした隊員たちを激励までしたという。
カナメの警護をしていたオクタウィウスから聞いたのだが。
国民の皆が快適に過ごせるのは、隊員たちの日頃の努力のおかげだ、との激励に、騎士長官だけでなく、マルクスまでも涙していたとか。
水道は国の事業である。
本来、皇帝である私が赴き、彼らをねぎらってやらねばならなかったことである。
カナメは何かあるとすぐに私の外套に隠れてしまうほど、気が優しく引っ込み思案なのに。
よく頑張ってくれた。
話を聞いた私も、子の成長を喜ぶ親の如く、思わず涙ぐんでしまった。
あまりに素晴らしい皇妃すぎて、私もカナメに負けぬよう、きちんとしなければ、と。
身が引き締まる思いだ。
*****
カナメが、思考の海から戻ってきたようだ。
「えーと。建国記念日は、休日になったり、外国では打ち上げ花火を上げたり、パレードとかコンサートとかイベントを開いたり、家ではバーベキューとかピクニックとかして家族や友人と過ごす日で。商店はバーゲンセールをしてた、と思う……」
聞いたことのない言葉ばかりである。
「………………そうか、とにかく祭りなのだな?」
なるほど。
よし。
「神祇官のルキウスと、按察官のマルクスを呼ぼう」
祭事関係はルキウス。
国内の行事のあれこれはだいたいマルクスが担っているのである。
決して、投げたわけではない。
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