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45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、テルマエを満喫する

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「さあて、あんまり熱いカルダリウムに浸かってるとロブスターみたいに茹だっちゃいますぜ。そろそろ上がりましょうや」
ひょい、と騎士長官に持ち上げられて。

部屋の隅にある小さな浴槽から水を汲んで、頭からかぶる。


ぷるぷる身体を振って、水気を飛ばす。
さっぱりした。

けど、控えていた風呂専門の使用人にタオルで更に拭かれて、薔薇の油を塗られてしまった。


ローマのサウナ風呂では、発汗をチェックするため、衣服を着る前にオイルを塗布したんだけど。
何でここでは、風呂上りにオイルを塗るんだろう。

乾燥防止か何か?


でも、騎士長官は塗られてないな。
まあ薔薇の匂いがする騎士長官は、ちょっとイヤだけど。


*****


「ひと汗かいたところで、ジェラートでもいかがです?」

ジェラートもあるんだ。
うん、と頷くと。

騎士長官の肩に乗せられた。
視界が高い。

騎士長官の手つきはエロくないから、安心して掴まっていられるな。
しっぽをモフモフされないし。


「こらオクタ、私の后をどこへ連れて行く」
神祇官を振り切り、ガイウスが追いかけてきた。

「そこの休憩所ですよ?」
騎士長官は、売店がある中庭を指差した。


中庭にはガラス製の天井があって、陽が差していてあたたかい。

貸切なので、兵士達がのんびり日光浴などしている。
見張りは交代制のようだ。


「どれがいいです?」
騎士長官の肩から、ジェラートの並んでいるケースを覗き込む。

電気はないようだけど、魔法があるので、魔法で鉄板を冷やしてアイスを作れるようだ。
どれも美味しそうだ。悩むなあ。

「ミルクのやつ、ください」

「はい坊や」
売店のおばさんが、ワッフルのカップいっぱいに盛ってくれた。
大サービスだ。

「ありがとう」
可愛いって、得なこともあるんだな。

騎士長官がおばさんに可愛い子だね、息子さん? とか聞かれて必死に否定してる。
今日は売店も貸切なので、代金は無料だそうだ。


椅子に座って、舐めてみる。

甘くて美味しい。
牛乳シャーベットって感じだ。

ガイウスは隣に座って、俺と同じミルクのを食べてる。
3口くらいで食べ終わった。

早っ。
ワイルドだな。


騎士長官はチョコレート、神祇官はレモンにしたみたいだ。
そっちも美味しそうだな、と見てたら。

二人ともスプーンで一口掬って、食べさせてくれた。美味しかった。


ガイウスはそれを見て、悔し気に椅子を叩いていた。
食べたいならおかわりすればいいのに。


*****


「ジェラートはもうよろしいですか?」
と訊かれて頷くと。


「よし、いいぞ」
騎士長官が手を上げて合図をすると。

その辺で日光浴していた兵士達が、わっと売店に群がった。

ああ、みんな遠慮して待ってたのか。
皇帝とその連れに神祇官、騎士長官を差し置いては食べられなかったんだな。


城の兵士のほとんどが来ているためか、ジェラートはすぐ売り切れた、というか無くなったようだ。

美味しいもんな。
大人気だ。


売店のおばさんは、上機嫌で店じまいをしている。
どんな大富豪様が貸切にしたのか知らないけど嬉しい、と言って。

俺の隣に居らっしゃる、帝国皇帝陛下でございます。


隣のガイウスを見上げたら、にっこり笑った。
まさか皇帝陛下が半裸で公衆浴場に居るとは思わないようだ。

そりゃそうだ。
ローマの休日みたいだな。違うか。


でも、国民全員が皇帝の顔を知ってる訳でもないんだな。

横顔刻んだ貨幣でも出さないと駄目かなあ。
いよいよローマっぽい。


*****


いい天気だな。

中庭のモザイクタイルも綺麗だ。
在りし日のカラカラ大浴場も、こんなだったのだろうか。


憧れのローマ風呂に入れるなんて、夢のようだ。

ローマではないからあくまでもローマ風、だけど。
神様ありがとう。


それと。

「ありがとう、ガイウス」
見上げてお礼を言ったら、情けないへの字眉になって。

「ひゃっ!?」
ぎゅうっと抱きつかれた。

「私はカナメにあんな酷いことをしたというのに。……私には、そんな風に礼を言われる資格など、ないのに」
耳は伏せてへたれている。

「酷いことをして、すまなかった……」


ガイウス。
一度、謝ったのに。

何でまた、謝るんだろう。

ガイウスのしたことと、憧れの場所に連れて来てくれたことは別の話だ。
やられたことは、許した訳じゃないけど。

嬉しかったから、お礼を言っただけだし。


「すまない」
皇帝で一番偉いのに、そんな何度も謝っちゃうのか。

『私は何をしても許される身ですから』などと言った光源氏はガイウスの爪の垢でも煎じて飲むべき。


「純真なお子様に手を出してしまったことの罪深さに、ようやく気付いたようですね!」
神祇官は生き生きとしていた。

いや、俺、中身はオッサンだぞ……。


*****


ガイウスは顔を上げ。

「しかし、カナメにかけた呪……オマジナイは、解除できないものなのだ。后にするのは確定事項で、もう撤回できない」


……おい。
今、呪いって言い掛けたよな!?

素直に認めろよ、黒魔法でしたって!!


「何ですって!? あれを……『魂結の術』を使ったんですか!? 本人に無許可で!?」
「へ、陛下。まさか、冗談でしょう……!?」

神祇官と騎士長官は、無茶苦茶驚いてる。


そんな有名な術なのか? あれ。
代々皇帝に伝わる秘術の類かと思ってたけど。

「この腕に抱いたら、どうしても、欲しくなって。……気付けばとこに押さえつけて唱えていた」
ガイウスは俯いて、神妙な顔をして言った。

「うわ、最低だ!」

騎士長官もドン引き。
神祇官なんか、言葉も出ないようだ。呆然としてる。

ええ……。
どんなあくどい術だよ。


黒魔術の項目を検索してみるか。
さっき神祇官が言ってた名前でいいのかな?

たとえば『天使の羽』は……。

天使の羽:消費MP100。神聖魔法。
効果:天使の羽が生えて空を飛べる。
方法:呪文を唱える。
有効:集中が解けるまで。翼への集中が必要。

などの注意書きがあった。

なるほど。
だからしっぽをひっぱられたショックで魔法が解けたんだ。

効果とか、ちゃんと読まないと駄目だな。
うっかり空中で集中解けたら真っ逆さま死だったよ。


……ああ、あった。『魂結の術』。

魂結の術:消費MP666。黒魔法。
効果:対象者の魂を術者の魂と永遠に縛り付ける。

うん、そこまではかけられた時にわかった。
ええと、続きは……。

そうそう簡単にはかけられないように、やり方に制約があって。それをしないと掛からない仕様みたいだ。

方法:術者は相手の名を呼び、対象者と互いの手を繋ぎ、目を合わせたまま呪文を唱えること。

……バッチリやってたな。
でもって、どれくらいの期間、有効なんだ?

有効:死ぬか子供が出来るまで。ただし婚姻を結び、毎夜番わねば術者・対象者共に死ぬ。


何だそれ!?
死ぬか子供が出来るまで有効って。

男同士じゃ、死ぬまで無理ってことじゃないか!
その上、毎晩ヤらなきゃ死ぬって。


縛り、厳しくないか!?
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