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45歳童貞、異世界へ行く

俺氏、城に行ってドラゴン召喚す。

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散々モフられて。
いい加減腹立ったので、げしげし蹴っていたら、やっと皇帝は正気に戻ったようだ。


「すまない、私は可愛いものに目がなくて、つい……」
頬を紅潮させて、咳払いをしている。

本気で蹴ってたのに、ノーダメージだし……。

「君は、どうしてここに?」
俺が座っていたのは、どうやらこの皇帝の領地の木だったようだが。

どうしても何も。
「気がついたら、その木の枝に座ってた」

うわ、舌ったらずなしゃべり方になってしまってる。
しかも、愛らしいボーイソプラノ。


「ああ、声も可愛い……!」
身悶えているが。

いくら可愛く見えても、中身は45歳のオッサンである。

女子高生に群がられる、中身オッサンの着ぐるみガワのようなものだろうか。
モテているのは自分じゃなくて、しょせんは。むなしい感じ。

そう、人はガワじゃない。中身なんだ。


生きていく上で、とても大事なことを教わった気がする。
神様ありがとう。


*****


「天から落っこちちゃったのかな?」
にこにこ笑いながら頭を撫でられている。

まあ、似たようなものか。
神様がいるのは天国だろうし。そこから来たのだから。


あんげるすangelusあーらala
背中に羽が生えて、飛べる呪文だ。

そうです、天使だったのです、ということで。

さっさと逃げよう。
このセクハラ皇帝、隙あらば撫でようとしてくるし。男に撫でられても微塵も嬉しくない。


ここ以外に、国はあるのかな?
次は、こういう変態が居ない国がいいな。

ぱたぱたと羽を動かして、飛んで逃げようとしたら。


「ちょ、ちょっと待った!」

「キャイン!?」
犬みたいな声が出た。

しっぽを掴まれたのだ。


魔法が解けて、再び皇帝の腕に落ちた。
そして、逃がさないとばかりに抱き締められた。

思わず涙目で睨んだ。

「し、しっぽ引っ張るな!」
しっぽ、じんじんする。

「す、すまない、痛かったのだな、ごめん。いや、実はお告げがあって、魔術師を探していたところだったんだ」


*****


神様のお告げで、この国に異界から魔術師が召喚されるというので。皆で手分けして、領地中を捜索していたところだったらしい。
魔術師は国で雇い入れ、大切にするように、というお告げだそうだ。

アフターケアも万全とは。神様優しい……。


でも、この皇帝のとこは何かイヤです。
しっぽ掴むし。

ああ、HPが7になってる……。
ダメージ食らってるじゃないか。全くもう。

撫でても治らないし。尻を撫でるのやめろ。


「まさか、こんな可愛らしい魔術師とは……」

てっきり迷子かと思った、と言われた。
ある意味迷子みたいなものだけど。


……いつまで尻を撫でてる。

ぺしぺし手を叩いてたら、やっとやめてくれた。
でも、俺を腕に抱いたままで、離してくれる気配がない。手を離したら飛んで逃げると思われたからだろう。それは正解だ。


皇帝は騎士に合図して。騎士は花火のようなものを打ち上げた。
煙の色は赤だ。信号弾か?

「狐人の子には何を食べさせれば良いのだろう?」
皇帝は騎士に訊いた。
「我々犬人と同じモノでいいのでは?」


え?
俺、キツネだったのか。

そういえば、しっぽの形が犬とは少し違うような気がしていた。

触ってみたら、すべすべもっふもふで気持ちいい。
これなら触りたくなる気持ちもわからないでもないかな……。でも触る前に意志を確認して欲しい。


などと考えている間に、城へ連れて行かれてしまった。


*****


城に行く途中。
通り掛かる皇帝一行を見た女の人たちが、きゃあきゃあ大騒ぎしていた。

半分は、俺を抱っこしている皇帝へのラブコールだった。美青年だもんな。それも皇帝。
そりゃモッテモテだ。


ああ、むなしい……。

俺に向けられるキャーと皇帝に向けられるキャーの違いがわかっているからだ。
俺が欲しかったのは、そっちのキャーだった筈だが。

そっちも、もうどうでもよくなってきた。

モテたとしても、こんな幼児体型じゃ何も出来ないし。
子供の無邪気を装って女の子の胸とか触りたいとも思わない。

そんな勇気があったらとっくに童貞捨てられてる。


城下町の町並みは石造りで、何となく地中海っぽい雰囲気がする。

日本とは空気が違う。
じめっとしてないで、さらっとした空気というのか。

空は目が痛くなるくらい青い。
東京ではこんな空、正月か夏休みで人が少ない時期くらいにしか見られなかったな。それでも、ここまで青くなかったか。

キツネも犬の仲間でいいんだよな?
確か犬って色盲だとか聞いたが、ちゃんと色は判別できる。半分は人だからだろうか。


街には店があって、果物とか花とか売ってる。
お菓子屋もあるようだ。

通貨の値段設定を確かめたいけど。どうすればいいのやら。


こんな時、コミュ障な自分が嫌になる。
何て言ったらいいのかわからない。

可愛くおねだりとか、絶対無理だ。
あわあわしている間に商店街っぽい道を通り過ぎてしまった。


この世界、文明レベルはどのくらいなんだろう?

皇帝と騎士は腰に剣を携えてるけど、儀礼用かもしれないし。
魔法がある世界だ。

神様のお告げで一国の皇帝が動くくらいだからな。
現代日本とは常識が違ったりするかも。

この世界のルールとかもわからないし、しばらく様子見するしかないか。


*****


お城は、石造りの立派なものだった。
文明は中世レベルかな?


城門に入ると。

「おお、お待ちしておりました!」
トーガを頭から被った美形の男が駆け寄ってきた。

トーガはギリシャ彫刻でよく見る、布を巻いたっぽい、あの服だ。

報せの信号弾を見て、いてもたってもいられず、つい飛び出して来てしまいました、と言っている。


ええと、ルキウス・ウァレリウス・メッサラ・カリストゥス。

神祇官ポンティフェクス。神官レベル100。
え、100がMAXじゃないのか?

おお、添え名が”Callistus”。『最も美しい人』だけあって、眩しいほどの美形だ。

巻き毛の金髪に、碧の目。
天使のような美しさ、とはこういう顔の事なんだろうな。

この人が、神様からのお告げを受信した神官長か。

しかし若いな。
偉い人ってジジイばっかなイメージだけど。


神祇官は、輝く笑顔で。
「陛下、お告げの魔術師様はどちらに?」

こちらにいるが。
どうやら俺は彼の視界に入っていないようだ。

「ひゃ、」
「ここだ、ここ。可愛いだろう!」
皇帝は俺の両脇を持って、神祇官の目の前に出した。

モノみたいに持つな。
しっぽで皇帝の手をビシバシ叩いても、喜ぶだけだった。


「え、そのちびっこが……魔術師……? まだ見習いなのでは?」
あ、鼻で笑ったな?


よくも馬鹿にしたな。
目にもの見せてくれるわ! などと魔王っぽいこと考えたり。


何か、あっと驚くような魔法は……、あ、これだ。召喚魔術。派手そう。


*****


いんぶぉかーれinvocareまぎかmagicaどらこdoraco


「…………えっ?」
「今の呪文は……、」

辺り一帯が陰って。
城の上に、馬鹿でかいドラゴンが現れた。


城よりでかいので、降りられないようだ。
上空を旋回している。

ばっさばっさと羽ばたく度に、ぶわあ、と風が巻き起こる。


「ドラゴンを……召喚……? 召喚魔術で、まさか、これほどのものを召喚するのが可能とは……」

神祇官は、あんぐりと口を開けて驚愕している。
美形が台無しだぞ。


「た、大変失礼致しました!!」
最敬礼した。

素直に謝ることができるって偉いな。
その潔さが羨ましい。


よし、許そう。
ええと、退去の呪文は、……これか。

あびーてabīte
ありがとうドラゴン、さよならー。

ドラゴンが消えて。
再び、青空が見える。


「ふふふ、凄いだろう! 先程は、天使の羽を生やしてぱたぱた飛んだのだぞ! その姿は愛らしい天使そのものだったぞ!」
皇帝が俺の脇を持ったまま、何故か自慢げに言った。

天使の羽アンゲルスアーラ、ですか? それは凄い。上級どころじゃなく、特級魔術師じゃないですか!?」
神祇官は興奮で色白の頬を紅潮させた。


上級? 特級?
凄い魔法使い=魔王じゃないのか……。

魔法の王様でいいじゃん。
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