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喪失

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美月を抱いて、春の森を歩いていると。

広間のような、花畑を見つけた。
ここは、確か。

俺がこの世界にはじめて来た時に、居た場所では?


もう、ずいぶん昔のことのような気がする。

毎日学校へ通って。美容に気を遣って。
たまに動画配信とかして。

今考えれば、味気ない日々だった。

だが、今は。
毎日がとても幸せで、元の世界にいた時よりも充実している。


美月と目が合う。
にっこり笑っている。

俺に似て、かわいらしい子だ。似すぎて、将来が心配だけど。


ああ、
俺、幸せだな。


◆◇◆


『ミヅキ、行くな!』


ランディの声。
……行くって、どこへ?

振り返ったと思ったら、ランディに、きつく抱き締められていた。


「ランディ……?」
『驚いた……。ミヅキが、消えるかと思った……』


俺の周りの空間が、ゆらいだように見えたらしい。

だから。
来たときと同じように、消えてしまうかと思った、と。


「消えるわけないだろ。ほら、そんなぎゅっとしたら、美月が潰れちゃうじゃないか、」
と。

俺の腕の中にいた、美月が消えている。


「美月!?」


◆◇◆


辺りをいくら探しても、美月の姿は、どこにもなかった。
においも、ここで途切れているという。


「まさか……美月だけ、元の世界に……?」

送り返されたのか?
何故?


囁きのように。
声がした。


あれはお前の分身。この世界に置けば、災いとなる、と。


「あの子は、俺の分身……? この世界に置けば、災いとなるって……」
『誰が、そんなことを?』

ランディには、今の声が聞こえなかったようだ。


俺は。
この地に留まることを許されたのか?

でも、美月は返された。おそらくは、元の世界へ。

それは、何故?



『ミツキはどうなったんだ?』
「……女神に、元の世界に返された……」

美月の存在は、この国では災いになる、と。


『そんな。どうして、ミツキが!?』

そんなの、俺にだって、わからない。
ランディに抱き締められていたとはいえ、俺だけが残されたのは。

、ということだろうか。

俺と同じ姿でも。中身は違う、ということか?
まさか美月が、この国を傾ける可能性があるとでも?

……あるかもしれない。


俺は、このままここでランディとバーン、その子供たちと一緒におとなしく暮らしていたいし。その気になどならないが。
やろうと思えば、いくらでも可能なのだ。

女神が俺に囁いたのは、美月をこの世界から消したその理由を教えたのは。慈悲なのか?


では。
もし俺が、になったら。

やはり、元の世界に送り返されてしまうのだろうか?


◆◇◆


こうなることを予想していたわけではないが。
ミツキの服には、美月と縫い取りをしてあった。つけていたストラップがお気に入りで、俺のスマホを持っていた。

スマホを充電すれば、持ち主は判明して。俺の子だと思われるだろう。
何しろ、顔がそっくりだ。

……うまく、うちの親に引き取られることを祈ろう。


せめて、そのくらいの加護は期待してもいいだろう?
俺の子を、奪ったのだから。



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