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オオカミのもふもふに癒される。

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口移しに、銀のペンダントヘッドをダグラスの喉の奥に突っ込んで。
反撃に備え、すぐさま後ろ向きに飛びのいたんだが。

思っていた反撃はなかった。

それどころか。
ダグラスは悲鳴を上げ、苦しそうに悶絶していた。
苦悶の声を上げ、血反吐を吐きながら。血が吹き出るほど、喉をかきむしって、のた打ち回っていた。

それは予想だにしない大惨事だった。


思わず、呆然としてそれを見ていたら。

相手は凶悪犯罪者だというのに。
あまりに悲惨な光景だったのを見ていられなくなったのだろう。

ダグラスは、ランディが息の根を止めた。


まさか、あんな小さな銀細工に、あそこまでの効果があるとは思ってなかった。
毒だとは聞いていたが。
あれほどまでの即効性があったとは、予想外だった。


2人に、使わなくて良かった。
心からそう思った。


◆◇◆


……腰が抜けた。


念のため、ライアンに、防御の魔法はかけてもらっておいたが。
成功して、良かった……んだよな?

凶悪犯が逃亡したままでは、のびのびと暮らせないからな。
これで国王も、安心して国に帰れるだろう。


しかしまさか、あんなに易々と惑わされるとはな。

凶悪犯といえども、本能には勝てないのか。
俺のこの、罪なる美貌のせいか。

獣人にとって猛毒である銀のにおいもかき消すくらい、俺のフェロモンって凄いのか?
そういえば、ランディとバーンも、取り出して見せるまでは銀の存在に気付かなかったくらいだしな。


俺に対してはずっと無抵抗だった相手を騙したようで、心苦しいが。
もう何人も殺していた凶悪犯罪者だったそうだし。

因果応報、ということで諦めてもらおうか。
成仏しろよ。

亡骸に手を合わせる。


『……父親の仇だった。感謝する』
ランディが呟いて、女神に祈りを捧げていた。

ああ。
先代のロルフを屠った、と言っていたっけ。ランディの父親だったのか。

バーンも、黙祷を捧げていた。


正攻法では、ランディとバーンの2人掛かりでも勝つのが難しいほど、手ごわい相手だったそうだ。
手負いだった上に、俺をかよわい人間だと舐めきっていたからこそ、討伐が成功したのだろう。

女神のご加護かもしれない。


◆◇◆


「まさか、銀が獣人にあれほど効くとは、予想以上だった……」

身体が痺れるとか、苦しむ程度かと思っていた。
それが、あんなことになるなんて。

しばらく、あの光景を夢に見そうだ。


『いや、予想した上でやってたら、かなりこわいぞ?』
ライアンは、まだ震えていた。

ビビリすぎではないのか。
ダグラスに襲われる脅威は去ったし。銀はもう、手元にはないと言っているのに。


眠れないまま、朝になり。

城からお迎えの馬車が来たので、ライアンは帰っていった。
ダグラスの遺体も、回収されたという。

討伐の褒章をくれるといったが。
別に欲しいものはないのでいらないと言った。

しかし異世界人だし、何があるかわからないので。もし子が生まれなくとも罰則はなしにする、と言われた。
ああ、それは助かるかもしれないな。


「ずいぶんフレンドリーな王様だったな?」

フットワーク軽すぎだろう。
あれほど王様の身を心配していた臣下がかわいそうになる。


『いや、やつはアホなんだ』
辛辣である。
『でもあれで、臣下には恵まれてるからな。道を踏み誤ることはないだろう』

ああ、部下が手綱を握ってないとだめなタイプか。


◆◇◆


『……誰に孕ませられると思う? おれはアレフに1テント』
『俺はシリルに1テント』

アレフもシリルも、ライアン直属の騎士らしい。

ああ、ライアンを迎えに来てた騎士か。
心配そうな顔していたっけ。


「ライアン、なのか!?」
『ライオンだが?』
いや、そういう意味じゃなく。

言われてみれば、ライアンにも頬を染めてたし。
か。


今日は一人で寝たくない、とランディが言うので。
仕方ないから添い寝してやることにした。

俺も、あまり夢見が良くなさそうな予感がするし。


『おやすみ』
「おやすみー」
『……むー』

バーンも相当眠そうだった。本来、とっくに寝ている時間だからな。規則正しい生活を送っているのだ。
眠すぎてもはや人語を忘れている。

むーって。可愛いなおい。


ランディは、オオカミの姿になってくれた。俺のふかふかもふもふ!
いい夢が見れそうだ。ありがたい。


……おやすみなさい。


◆◇◆


……はあ。

溜息を吐いたら。
ランディのしっぽが、ぱたぱた動いた。起こしてしまったか?


『……手を下したのは俺だ。ミヅキのせいじゃない。気に病むな』

もふ毛に顔を埋める。
ランディは優しい。あのまま放っておいても死んだだろうに、あえて自分が介錯したのは。俺に、罪悪感を抱かせないためだったんだな。


でも。
あれは、俺が殺したようなものだ。いや、俺が殺したんだ。

死ぬほどの毒だとは思っていなかったとはいえ。
心の底では、別に死んでもかまわないと思っていたかもしれない。

目的のためならいくらでも残酷になれるだろう自分が怖い。


「自分のしたことに、今更怖気づくとか。おかしいよな……」
『ん、おかしくない。色々あって、興奮状態だったんだ』

もふもふ、あたたかい。

『勇者とか。騎士とか。名前だけはかっこいいが。命令で人を殺すこともある』


ああ、そうか。
だから、2人はならなかったのか。

勇者にも、騎士にも。
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