19 / 23
4
オオカミのもふもふに癒される。
しおりを挟む
口移しに、銀のペンダントヘッドをダグラスの喉の奥に突っ込んで。
反撃に備え、すぐさま後ろ向きに飛びのいたんだが。
思っていた反撃はなかった。
それどころか。
ダグラスは悲鳴を上げ、苦しそうに悶絶していた。
苦悶の声を上げ、血反吐を吐きながら。血が吹き出るほど、喉をかきむしって、のた打ち回っていた。
それは予想だにしない大惨事だった。
思わず、呆然としてそれを見ていたら。
相手は凶悪犯罪者だというのに。
あまりに悲惨な光景だったのを見ていられなくなったのだろう。
ダグラスは、ランディが息の根を止めた。
まさか、あんな小さな銀細工に、あそこまでの効果があるとは思ってなかった。
毒だとは聞いていたが。
あれほどまでの即効性があったとは、予想外だった。
2人に、使わなくて良かった。
心からそう思った。
◆◇◆
……腰が抜けた。
念のため、ライアンに、防御の魔法はかけてもらっておいたが。
成功して、良かった……んだよな?
凶悪犯が逃亡したままでは、のびのびと暮らせないからな。
これで国王も、安心して国に帰れるだろう。
しかしまさか、あんなに易々と惑わされるとはな。
凶悪犯といえども、本能には勝てないのか。
俺のこの、罪なる美貌のせいか。
獣人にとって猛毒である銀のにおいもかき消すくらい、俺のフェロモンって凄いのか?
そういえば、ランディとバーンも、取り出して見せるまでは銀の存在に気付かなかったくらいだしな。
俺に対してはずっと無抵抗だった相手を騙したようで、心苦しいが。
もう何人も殺していた凶悪犯罪者だったそうだし。
因果応報、ということで諦めてもらおうか。
成仏しろよ。
亡骸に手を合わせる。
『……父親の仇だった。感謝する』
ランディが呟いて、女神に祈りを捧げていた。
ああ。
先代のロルフを屠った、と言っていたっけ。ランディの父親だったのか。
バーンも、黙祷を捧げていた。
正攻法では、ランディとバーンの2人掛かりでも勝つのが難しいほど、手ごわい相手だったそうだ。
手負いだった上に、俺をかよわい人間だと舐めきっていたからこそ、討伐が成功したのだろう。
女神のご加護かもしれない。
◆◇◆
「まさか、銀が獣人にあれほど効くとは、予想以上だった……」
身体が痺れるとか、苦しむ程度かと思っていた。
それが、あんなことになるなんて。
しばらく、あの光景を夢に見そうだ。
『いや、予想した上でやってたら、かなりこわいぞ?』
ライアンは、まだ震えていた。
ビビリすぎではないのか。
ダグラスに襲われる脅威は去ったし。銀はもう、手元にはないと言っているのに。
眠れないまま、朝になり。
城からお迎えの馬車が来たので、ライアンは帰っていった。
ダグラスの遺体も、回収されたという。
討伐の褒章をくれるといったが。
別に欲しいものはないのでいらないと言った。
しかし異世界人だし、何があるかわからないので。もし子が生まれなくとも罰則はなしにする、と言われた。
ああ、それは助かるかもしれないな。
「ずいぶんフレンドリーな王様だったな?」
フットワーク軽すぎだろう。
あれほど王様の身を心配していた臣下がかわいそうになる。
『いや、やつはアホなんだ』
辛辣である。
『でもあれで、臣下には恵まれてるからな。道を踏み誤ることはないだろう』
ああ、部下が手綱を握ってないとだめなタイプか。
◆◇◆
『……誰に孕ませられると思う? おれはアレフに1テント』
『俺はシリルに1テント』
アレフもシリルも、ライアン直属の騎士らしい。
ああ、ライアンを迎えに来てた騎士か。
心配そうな顔していたっけ。
「ライアン、ネコなのか!?」
『ライオンだが?』
いや、そういう意味じゃなく。
言われてみれば、ライアンにも頬を染めてたし。
そっちか。
今日は一人で寝たくない、とランディが言うので。
仕方ないから添い寝してやることにした。
俺も、あまり夢見が良くなさそうな予感がするし。
『おやすみ』
「おやすみー」
『……むー』
バーンも相当眠そうだった。本来、とっくに寝ている時間だからな。規則正しい生活を送っているのだ。
眠すぎてもはや人語を忘れている。
むーって。可愛いなおい。
ランディは、オオカミの姿になってくれた。俺のふかふかもふもふ!
いい夢が見れそうだ。ありがたい。
……おやすみなさい。
◆◇◆
……はあ。
溜息を吐いたら。
ランディのしっぽが、ぱたぱた動いた。起こしてしまったか?
『……手を下したのは俺だ。ミヅキのせいじゃない。気に病むな』
もふ毛に顔を埋める。
ランディは優しい。あのまま放っておいても死んだだろうに、あえて自分が介錯したのは。俺に、罪悪感を抱かせないためだったんだな。
でも。
あれは、俺が殺したようなものだ。いや、俺が殺したんだ。
死ぬほどの毒だとは思っていなかったとはいえ。
心の底では、別に死んでもかまわないと思っていたかもしれない。
目的のためならいくらでも残酷になれるだろう自分が怖い。
「自分のしたことに、今更怖気づくとか。おかしいよな……」
『ん、おかしくない。色々あって、興奮状態だったんだ』
もふもふ、あたたかい。
『勇者とか。騎士とか。名前だけはかっこいいが。命令で人を殺すこともある』
ああ、そうか。
だから、2人はならなかったのか。
勇者にも、騎士にも。
反撃に備え、すぐさま後ろ向きに飛びのいたんだが。
思っていた反撃はなかった。
それどころか。
ダグラスは悲鳴を上げ、苦しそうに悶絶していた。
苦悶の声を上げ、血反吐を吐きながら。血が吹き出るほど、喉をかきむしって、のた打ち回っていた。
それは予想だにしない大惨事だった。
思わず、呆然としてそれを見ていたら。
相手は凶悪犯罪者だというのに。
あまりに悲惨な光景だったのを見ていられなくなったのだろう。
ダグラスは、ランディが息の根を止めた。
まさか、あんな小さな銀細工に、あそこまでの効果があるとは思ってなかった。
毒だとは聞いていたが。
あれほどまでの即効性があったとは、予想外だった。
2人に、使わなくて良かった。
心からそう思った。
◆◇◆
……腰が抜けた。
念のため、ライアンに、防御の魔法はかけてもらっておいたが。
成功して、良かった……んだよな?
凶悪犯が逃亡したままでは、のびのびと暮らせないからな。
これで国王も、安心して国に帰れるだろう。
しかしまさか、あんなに易々と惑わされるとはな。
凶悪犯といえども、本能には勝てないのか。
俺のこの、罪なる美貌のせいか。
獣人にとって猛毒である銀のにおいもかき消すくらい、俺のフェロモンって凄いのか?
そういえば、ランディとバーンも、取り出して見せるまでは銀の存在に気付かなかったくらいだしな。
俺に対してはずっと無抵抗だった相手を騙したようで、心苦しいが。
もう何人も殺していた凶悪犯罪者だったそうだし。
因果応報、ということで諦めてもらおうか。
成仏しろよ。
亡骸に手を合わせる。
『……父親の仇だった。感謝する』
ランディが呟いて、女神に祈りを捧げていた。
ああ。
先代のロルフを屠った、と言っていたっけ。ランディの父親だったのか。
バーンも、黙祷を捧げていた。
正攻法では、ランディとバーンの2人掛かりでも勝つのが難しいほど、手ごわい相手だったそうだ。
手負いだった上に、俺をかよわい人間だと舐めきっていたからこそ、討伐が成功したのだろう。
女神のご加護かもしれない。
◆◇◆
「まさか、銀が獣人にあれほど効くとは、予想以上だった……」
身体が痺れるとか、苦しむ程度かと思っていた。
それが、あんなことになるなんて。
しばらく、あの光景を夢に見そうだ。
『いや、予想した上でやってたら、かなりこわいぞ?』
ライアンは、まだ震えていた。
ビビリすぎではないのか。
ダグラスに襲われる脅威は去ったし。銀はもう、手元にはないと言っているのに。
眠れないまま、朝になり。
城からお迎えの馬車が来たので、ライアンは帰っていった。
ダグラスの遺体も、回収されたという。
討伐の褒章をくれるといったが。
別に欲しいものはないのでいらないと言った。
しかし異世界人だし、何があるかわからないので。もし子が生まれなくとも罰則はなしにする、と言われた。
ああ、それは助かるかもしれないな。
「ずいぶんフレンドリーな王様だったな?」
フットワーク軽すぎだろう。
あれほど王様の身を心配していた臣下がかわいそうになる。
『いや、やつはアホなんだ』
辛辣である。
『でもあれで、臣下には恵まれてるからな。道を踏み誤ることはないだろう』
ああ、部下が手綱を握ってないとだめなタイプか。
◆◇◆
『……誰に孕ませられると思う? おれはアレフに1テント』
『俺はシリルに1テント』
アレフもシリルも、ライアン直属の騎士らしい。
ああ、ライアンを迎えに来てた騎士か。
心配そうな顔していたっけ。
「ライアン、ネコなのか!?」
『ライオンだが?』
いや、そういう意味じゃなく。
言われてみれば、ライアンにも頬を染めてたし。
そっちか。
今日は一人で寝たくない、とランディが言うので。
仕方ないから添い寝してやることにした。
俺も、あまり夢見が良くなさそうな予感がするし。
『おやすみ』
「おやすみー」
『……むー』
バーンも相当眠そうだった。本来、とっくに寝ている時間だからな。規則正しい生活を送っているのだ。
眠すぎてもはや人語を忘れている。
むーって。可愛いなおい。
ランディは、オオカミの姿になってくれた。俺のふかふかもふもふ!
いい夢が見れそうだ。ありがたい。
……おやすみなさい。
◆◇◆
……はあ。
溜息を吐いたら。
ランディのしっぽが、ぱたぱた動いた。起こしてしまったか?
『……手を下したのは俺だ。ミヅキのせいじゃない。気に病むな』
もふ毛に顔を埋める。
ランディは優しい。あのまま放っておいても死んだだろうに、あえて自分が介錯したのは。俺に、罪悪感を抱かせないためだったんだな。
でも。
あれは、俺が殺したようなものだ。いや、俺が殺したんだ。
死ぬほどの毒だとは思っていなかったとはいえ。
心の底では、別に死んでもかまわないと思っていたかもしれない。
目的のためならいくらでも残酷になれるだろう自分が怖い。
「自分のしたことに、今更怖気づくとか。おかしいよな……」
『ん、おかしくない。色々あって、興奮状態だったんだ』
もふもふ、あたたかい。
『勇者とか。騎士とか。名前だけはかっこいいが。命令で人を殺すこともある』
ああ、そうか。
だから、2人はならなかったのか。
勇者にも、騎士にも。
11
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
白虎の王子様の番とかありえないからっ!
霧乃ふー 短編
BL
日本在住の一応健康体、性別男として生きていた僕。
異世界物の漫画とかアニメとか好きだった記憶はまあ、ある。
でも自分が異世界に召喚されるなんて思わないじゃないか。
それも、、、……まさか。
同性と強制的に恋人になれって!?
男の僕が異世界の王子様の番とかよく分からないものに強制的にされるなんてありえない。適当に表面的な対応をしながら帰る方法を模索するが成果なし。
僕は日に日に王子様の瞳に宿る熱情が増していくのが怖くてさっさと逃げ出した。
楽しく別の街で生活していた僕。
ある日、様子が少しおかしいギルド員からある話を聞くことに、、、
狼くんは耳と尻尾に視線を感じる
犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。
『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?
サクラギ
BL
【BL18禁】高校生男子、幼馴染も彼女もいる。それなりに楽しい生活をしていたけど、俺には誰にも言えない秘密がある。秘密を抱えているのが苦しくて、大学は地元を離れようと思っていたら、もっと離れた場所に行ってしまったよ? しかも秘密にしていたのに、それが許される世界? しかも俺が美形だと? なんかモテてるんですけど? 美形が俺を誘って来るんですけど、どうしたら良いですか?
(夢で言い寄られる場面を見て書きたくなって書きました。切ない気持ちだったのに、書いたらずいぶん違う感じになってしまいました)
完結済み 全30話
番外編 1話
誤字脱字すみません。お手柔らかにお願いします。
異世界で二人の王子に愛されて、俺は女王になる。
篠崎笙
BL
水無月海瑠は30歳、売れない役者だった。異世界に跳ばされ、黒と白の美しい兄弟王子から見初められ、女王にされてしまうことに。さらに兄弟から自分の子を孕めと迫られ陵辱されるが。海瑠は異世界で自分の役割は女王を演じることだと気付き、皆から愛される女王を目指す。
※はじめは無理矢理ですが愛され系。兄弟から最後までされます。
※「生命」、「それから」にて801妊娠・出産(卵)がありますが詳細な表現はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる