俺の顔が美しすぎるので異世界の森でオオカミとクマから貞操を狙われて困る。

篠崎笙

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獅子

ライアンは2人の勇者を称える。

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私の名はライアン。
繁栄の女神の守護するルクレティア国の新国王である。

王なのに、民からうやまの気持ちが足らない気がするのは何故なのだろう。
こんなに頑張っているのに。

ランドルフとバーナードが冷たくて悲しい。


ランドルフとバーナードに手紙を送ろうと早馬を用意させたが、何故か馬は私を引っかけたまま暴走してしまい、派手に落馬し、大怪我を負った。確実に骨が折れた。
あまりの激痛に悶絶していたら。

誰かが私にキスをした。
気付けば身体の痛みはすっかり無くなっていた。
どうやら、怪我を治してくれたようだ。彼は体液が薬になる祝福を持っているらしい。

道理で、芳しい香りである。
くらくらして、ゴロゴロしたくなる。いや、ネコではない。私は誇り高きライオンだ。

彼は、私がこの国の王であることも知らずに助けてくれたのだ。

美しく優しいミヅキ。
更に貴重な祝福持ちだ。是非とも嫁に欲しかったが。ランドルフとバーナードの伴侶だというので泣く泣く諦めた。
2人は本気で怒らせたら、ちびりそうになるくらいこわいのだ。

百獣の王? 民あってこその王である。
私自身に大いなる力が備わっているわけではない。

権力をかさにただ威張るだけの王など、王ではない。


ランドルフとバーナードは、私にミヅキを護るようにと言った。
ついでに私も護ってくれるらしい。

何だかんだ言って、優しいのである。


◆◇◆


ミヅキに頼まれて、その肌に守護の魔法をかけた。

これで大抵の攻撃は跳ね返せると思うが。
ダグラスの攻撃を完全に防げるかはわからない、と忠告はした。


ミヅキは言った。
隙を見せたら、ダグラスは絶対に自分を攫うと思う。
どうにか攻撃できるチャンスを作るので、その隙に捕まえて欲しい、と。

無茶な計画である。
相手は、何人もの獣人をその鋭い爪で屠ってきた凶悪犯だというのに。

命知らずにもほどがある。
だが、そうでもしないと、いつまでも膠着状態だろうという。

そうだな。
私も命を狙われるストレスで1金貨オレハゲが出来そうだ。ハゲの単位もゴージャスだな私。


ランドルフとバーナードは最後まで反対したが。
結局折れてミズキの策に乗ることになった。

好きな相手には、弱いのだ。


ミズキの寝巻きのボタンは、通信用の宝石に換えておいた。
これで少々離れても、ミズキの様子は手に取るようにわかるはずである。


◆◇◆


ミヅキの言った通り、ダグラスはミヅキを攫った。

当日の夜に来るとは。
やつは相当焦っているようだ。

報告によれば、手負いだという話だが。それほど傷は深かったのだろうか。


ミズキをさらったダグラスは、泉まで走った。
どうやらダグラスは、ミヅキを傷付ける気はないようだ。ミズキに敵意がないからか、いい匂いがするからか。両方かもしれない。

隙を作る、と言っていたが。
いったい何をするのかと見ていたら。


なんと、ミヅキはダグラスを誘惑しはじめたではないか。

その、妖艶なことといったら。
まさに、かの伝説の”傾国”のごとく。

あれで落ちない獣人など、この世にはいないだろう。


ミヅキがダグラスに口付けた直後。

「な、何だ、……ぐわああああああああっ!!!!」
ダグラスは、苦悶の悲鳴をあげて、のた打ち回ったのだ。


合図の笛を聞きつけ、駆けつけたランドルフとバーナードも、呆然である。

血が吹き出るほど喉をかきむしり、血反吐を吐きながら苦しみ、のた打ち回る様相は、まさに地獄絵図。
私など思わずちびりかけたが、ミズキは平然とした顔で。

「な、何をしたのだ?」
「え、銀のペンダントヘッドを口移しで喉の奥に突っ込んだんだくらいで、他には何も……」
ミヅキはきょとんとした様子で言った。


銀を。

口移しで、喉に。

だと……!?


「う、売ったんじゃないのか? 全部」
どうやら、ミズキは銀を大量に所持していたようだ。それを売ってかなり稼いだというが。

「いや、お前らが俺に無体な真似をしたら使おうかと思って、一つだけとっておいたんだ」
そんな恐ろしいことを、平然と。


ランドルフとバーナードも、一瞬で血の気が引いているのがわかった。


◆◇◆


何という怖ろしいことをするのだ。

獣人は、銀に少しでも触れただけで燃えるような痛みを覚え、皮膚はただれ。二度と元には戻らない。
ましてや、体内に入っては。もはや死を免れない。苦しみに苦しみぬいた末、死に至る。

獣人には決して真似できない、残虐すぎる行為である。


それに。
ダグラスにしてみせた、あの媚態。凄まじい色香。

その気になれば、本当に国を傾けることも可能であろう。
その能力は、充分あった。

……この者は、とてつもなく危険な存在なのではないか?


ランドルフは、武士の情けだと言い、ダグラスの息の根を止めてやっていた。
やはり、優しい男である。

何故、勇者にならなかったのだろうか。


◆◇◆


訊けば、ミヅキは単に、ランドルフとバーナードとの子作りを再開したかったので邪魔者をとっとと追い払いたかっただけだ、という。

ただそれだけの理由で。
あんな残虐な真似をしたというのか……!?


「そうだったか、」
「早く解決して良かった」

いや、ランドルフもバーナードも騙されてはいけない。


かわいらしく頬を染めているが。
この男、凶悪犯をその強烈な色香で手玉に取り、口移しで致死の毒を流し込んだのである。地母神の如き微笑みすら浮かべて。

悪気を微塵も感じないのが、逆に怖すぎる。

私も早々に立ち去らねば。私まで排除されそうでこわい。
美しきサイコキラーと呼ぼう。


「今回の功労者はミヅキだ。褒章は何を望む?」
望む物があればとっとと渡して退散しようと思ったが。

「俺はランディとバーンがいれば別に何もいらないけど。何か欲しいものあるか?」
「ミヅキ……」


地位や名誉は望まないようで、助かったが。

ミヅキがその気になりさえすれば、何でも手に入るだろう。
この国……いや、世界ですら傾けることが可能だろう。それほどの魅力……魔力というべきか、を持っているのだ。


ランドルフとバーナードは、か弱そうなミヅキを護っているつもりなのかもしれないが。

それはこの国を、恐るべき傾国を解き放つ危険から護っているのと同じなのかもしれない。
やはり、2人は真の勇者である。


その素晴らしき勇気を、私は称えたいと思う。
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