上 下
6 / 23

滞在するだけで疲労するとか、異世界おかしい。

しおりを挟む
ここルクレティアは、国土の大半が森であり、獣人が多く存在する国だった。

獣人とは、ケモノにもヒトにもなれる生き物だ。
異世界だからといって、ファンタジックにも程がある。

しかもこの世界、女がいないというのに。大男のケモ耳は、俺の目に優しくない。


獣人は、魔力や力が強く、不死に近いが。
唯一の弱点が、銀だという。

触れば火傷をするし、体内に入ると組織が爛れて死ぬという。

ランディはオオカミで、バーンはクマの獣人だった。
驚いたりすると、つい獣の本性が出てしまうのだと言った。


◆◇◆



「15万オレで売れたぞー」

とんでもない金額で売れてしまったので、小切手で支払われた。
2人からそんな怖ろしいものは持ち歩かないでくれ、と泣いて頼まれたので、銀のウォレットチェーンを売り払ってきたのだ。


この世界では、銀は特に、稀少な金属だった。

鉱山の即戦力である獣人が、銀山では働かないからだそうだ。
いや、体質的に働けない、というべきか。

職業内容的に人間だった金属商は、ほぼ純銀の塊を見て飛び上がらんばかりに驚いていた。
こんな純度の高い銀を見るのは初めてだという。
この世界……いや、この国の文化水準を見るからに、それも納得だ。見たところ、いいとこ中世レベルだろう。銃もないし、移動は馬か馬車で。ほとんどのものが木製か石だからな。


『良かったな。しばらくは生活に困らないぞ』
『それじゃあ買い物再開するか』
銀製品は売ったと思い、2人はほっとしているようだが。


……実は、銀のペンダントヘッドは売ってない。

もし、望まぬ行為を強要された場合。切り札に使おう、と取っておいたのだ。
2人は親切であったが、それは下心があるからだ。自衛のためにこれくらいは持っていてもいいだろう。


生活雑貨は、自分で買うことにした。

なるべく借りは作らないでいたほうがいい。
それを楯に脅すほどゲスなやつらではなさそうだが。人の心は何がきっかけで変わるか、予想が出来ないものだ。

人ではないものなら、なおさら。



◆◇◆


……身体が重い。だるい。


いつもの時間に目が覚めたのだが。
起き上がろうとしても、身体が思うように動かなかった。

まるで重力が何十倍にもなったように、腕が重くて持ち上がらない。
身体も動かせないので、起き上がれない。

疲労感? いや、倦怠感だろうか? 何故か身体が異常にだるいのだ。
どういうことだ。何かの呪いか?


数時間、ベッドで困っていたら。

『おはよう、ミヅキ。そろそろ朝食の時間だが。……まだ寝ているのか?』
ランディが俺を起こしに来てくれた。

……助かった。

「……すまない、どうやら体調を崩したようだ。起き上がれない」
そう告げると。


ランディは頭をかきながら。困ったように眉尻を下げた。

『あー、ごめん。言うの忘れてた』
……何を?


曰く。
異世界の人間がの世界に来た場合。いくら寝ても、体力や魔力は回復しない。

回復する方法は、ただ一つ。
この世界の魔力の強い人間から、精を与えてもらうこと。

精とは、精液のことだという。
異世界人は、魔力の強い人間から、定期的に経口もしくは腸に精液を注がれなければ、衰弱して死んでしまう、だと!?


何だ、その理不尽なルールは!?


◆◇◆


俺に魔力があるのかは知らないが。
この世界にとどまっている限り、体力は減る一方で。一切、回復しないというのだ。
ゲームで例えると、減ったHP及びMPは宿屋で一泊しても回復せず、その上普通に過ごしているだけでも毒沼に入ってるようにじわじわとHPが減っていく状態か。

なんたる理不尽。
なんて不条理な世界なんだ。


何を考えているんだ、この世界の女神とやらは。

本当に存在するというなら、理由を聞いてみたい。
そして文句を言いたい。

何の恨みがあってこの俺を、こんな世界に飛ばしてくれたんだ!? と。


『これ。この緑色のマント。この国で、これを着けてるやつは魔力が高いか、身分が高いかだから。万が一があっては困るから、一応、覚えておいたほうがいいな』
ランディは自分のマントを示して言った。

万が一、自分たちがいない場所でになったら、そいつに頼めとでも?

他の国では、色が違うらしい。
エリノアは赤、レティシアは橙、ネイディーンが青だそうだ。カラフルだな。

そういえば街中でも、マントを着用してるのと、してないのがいたな。
防寒とか、お洒落アイテムではなかったのか。

……つまり、ランディとバーンは、魔力が高いのか?


『俺は誇り高いロルフの一族だから、身分と魔力が高い』
ランディは鼻高々だった。

ロルフとは、オオカミか、人狼のことだろうか?
もとの世界にない言葉だと、変換されないでそのまま聞こえるようだ。

前にも言ってたな。

こちらの世界の言葉を通じるようにする魔術のときだったか。
ロルフに伝わる魔法とやらだったか。


◆◇◆


『……どうしたんだ?』
バーンも来て。

『精気切れだ』
ランディに聞いて、バーンは頷いた。

おいおい。異世界人は体力回復にこちらの男の精が必要だというのは、この世界じゃ一般常識なのか?

『ああ、……早いな? 数ヶ月は平気なのもいると聞いたが』
バーンが不思議そうに首を傾げてる。


異世界人が体力回復せず、魔力の強い人間から定期的に経口もしくは腸に精液を注がれなければ衰弱して死んでしまうのは、この世界では一般常識だったが。
その話は、俺の身体の調子を様子を見つつ、教えてくれるつもりだったようだ。

確かに、突然そんな聞かされても。実際に、こんな風に異常なほど身体が怠くならなければ信じられなかったと思う。


バーンによると。
俺は異常に体力の消費? が早いようだ。

と、いうことは。わりと短期的に精気の補給を必要とする、ということで。
……つまり。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜

琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。 ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが……… ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ…… 世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。 気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。 そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。 ※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。

【BL】完結「異世界に転移したら溺愛された。自分の事を唯一嫌っている人を好きになってしまったぼく」

まほりろ
BL
【完結済み、約60,000文字、全32話】 主人公のハルトはある日気がつくと異世界に転移していた。運良くたどり着いた村で第一村人に話しかけてたら求愛され襲われそうになる。その人から逃げたらまた別の人に求愛され襲われそうになり、それを繰り返しているうちに半裸にされ、体格の良い男に森の中で押し倒されていた。処女喪失の危機を感じたハルトを助けてくれたのは、青い髪の美少年。その少年だけはハルトに興味がないようで。異世界に来てから変態に襲われ続けたハルトは少年の冷たい態度が心地良く、少年を好きになってしまう。 主人公はモブに日常的に襲われますが未遂です。本番は本命としかありません。 攻めは最初主人公に興味がありませんが、徐々に主人公にやさしくなり、最後は主人公を溺愛します。 男性妊娠、男性出産。美少年×普通、魔法使い×神子、ツンデレ×誘い受け、ツン九割のツンデレ、一穴一棒、ハッピーエンド。 性的な描写あり→*、性行為してます→***。 他サイトにも投稿してます。過去作を転載しました。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

【R18】青斗くんは総受けです

もんしろ
BL
BLゲームの悪役をしている中野青斗。 毎日主人公をいじめ 青斗は悪役としての責務を全うしているが 最近攻略対象と主人公の様子がどこかおかしい…?

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

処理中です...