3 / 23
狼と熊
ランドルフとバーナード、王命に困惑する
しおりを挟む
慈母神アナスタシアより生まれし四人の女神。
慈悲の女神エリノア、歓喜の女神レティシア、繫栄の女神ルクレティア、希望の女神ネイディーン。
四人の女神により、この世界はあらゆる脅威から護られている。
現在、この世界には人間の女性は存在しない。
慈悲の女神エリノアが、この世界から女性を消してしまったのだ。
しかし、女神の加護によって、男同士でも子は生せる。
愛し合う2人には、多く精を出されたほうの腹に卵が宿り、卵から赤子が生まれるのである。
それが当たり前になって、千年が経った頃の話。
◆◇◆
ここは繫栄の女神ルクレティアが守護する国、ルクレティア。
女神の名がそのまま国の名前となっている。
ルクレティアは、国土の大半が豊かな森である。国民のほとんどが狩猟など、森の恵みで生活をしている。
この国には獣人も多く存在したが、人と共存し、穏やかに暮らしていた。
獅子の獣人であるルクレティア国王ライアンは、前王の突然の死により、史上最年少の若い王となった。
新王が最初に下した王命はただひとつ。
繁殖せよ、であった。
国内は、大混乱に陥った。
何しろ、王命である。
国民は、早急に従わなければいけない。それがどんな無茶振りであろうとも。
免除されるのは、すでに複数子を生したつがいか、子を生せぬ病気のある者のみ。
命令に反せば軽くて罰金、悪くて投獄。
まだ伴侶のいなかった若い国民は、大慌てで伴侶を探すことになったのである。
大迷惑な初勅であった。
◆◇◆
険しい雪山スノーデンと、王城近い街のクレイトン。
メルヴィルという村はその間にあった。
メルヴィル村に住む若者であるランドルフとバーナードは、森をとぼとぼ歩いていた。
クレイトンの教会で、王命を聞かされた帰りである。
近隣の各町村から若者が呼び出されて。
16歳から30歳の健康な若者は、ただちに繁殖せよ。
期限は次の春まで。
そう命じられたのだ。
ランドルフは灰色の髪に紫色の目をした浅黒い肌の精悍な男で、狼の獣人である。
そしてバーナードは赤茶の髪に緑色の目をした大男で、熊の獣人だった。
どちらも緑色のマントを羽織って、瞳と同じ色の宝石で留めている。
革の手袋に革の長靴、チュニックに革のベルト、中は黒いインナーと厚手のズボンという軽装だ。
どちらも22歳で、顔立ちは整っている。
村の中、いや、国の中でも上位に入るイケメンといえよう。
ただし、2人とも好みが厳しかったためか、相手はいない。
絶賛伴侶募集中であった。
「どうするよ……」
ランドルフは溜め息をついた。
バーナードと並ぶと小柄で細身に見えるが、ランドルフは身長が190cmほどある、鍛えられた身体つきをした青年である。背には弓矢を装備している。その装備の通り、狩猟を得意としている。
「どうするもこうするもねえな。おれとランディじゃ、子供できる気がしねえしなあ」
バーナードは大きな手で顔を覆った。
バーナードは体格がよく、全身は立派な筋肉に覆われ、身長は約230cmと、国内でも大柄な部類であった。背負子と籠を背にしている。こう見えて、狩りではなく採取や物作りを得意としているのだ。
お互い独身であぶれ者だったが。
残念ながらお互いまったく好みとは違っていたため、伴侶には向かないのであった。
「っせーな、それはこっちのセリフだっつの、バーン」
ランドルフはバーナードの尻を容赦なく蹴った。
「だよなあ。困ったなあ」
かなりいい音がしたのだが、何のダメージも受けてない様子でバーナードは頷いた。
◆◇◆
2人は幼馴染である。
お互いのいやなところもいいところも知りすぎていて、今更どうこうなりたいとは思えない。
第一、全く好みじゃないので勃つわけがない。
いくら頑張っても今までの記憶が邪魔をして、萎えてしまうこと必至だろうから、チャレンジしてみようとも思えない。
この世界では、愛し合う2人からしか、子供は出来ないのである。
そこが一番の問題だった。
「いっそ、伴侶探しの旅にでも出るか?」
ランドルフの提案に、バーナードは首を振った。
「今からか? 狩りの時期だってのに、どこもそれどころじゃねえだろ」
冬に備えて、たくさん獲物を狩らなければいけない。
国中、一番忙しい時期なのだ。
新王も、わざわざこんな時期にそんなお触れを出さなくても……と2人は思った。
春ならば、まだ繁殖にも気が乗れたものを。
全く迷惑な王令であった。
「あ~あ、その辺におれ好みの美人、落ちてねえかなぁ」
バーナードはひょいひょいと籠いっぱいに栗を拾いながら言った。大量の薪も、大きな背中いっぱいに軽々と背負っている。
「そんなのその辺に落ちてたら苦労しないよな、……と」
ランドルフは弓を構え、ウサギを仕留めた。百発百中の腕前である。
2人は教会からの帰り道。
食料などを狩りながら、憂鬱な気分で森を歩いていたのだった。
◆◇◆
「……ん?」
森の中ほど。
広場のように開いた花畑の中に、見知らぬ男が戸惑った様子で佇んでいた。
軽装で、旅行者ではなさそうである。
見たこともない服装だ。異国から来たのだろうか?
日の光を反射して、きらきらと輝くような髪。
色白で、美しい顔をしているのが遠目からでもわかった。
小さくて、細い。
しかも、見たこともないような美人である。
2人の好み、ど真ん中であった。
「……あれって、あれだよな?」
「おう。間違いない。あれは、あれだ」
ランドルフとバーナードはお互い視線を交わし、2人にしかわからない会話をして。
競うように、しかし嬉しそうに。
その美しい男のもとへ走ったのだった。
慈悲の女神エリノア、歓喜の女神レティシア、繫栄の女神ルクレティア、希望の女神ネイディーン。
四人の女神により、この世界はあらゆる脅威から護られている。
現在、この世界には人間の女性は存在しない。
慈悲の女神エリノアが、この世界から女性を消してしまったのだ。
しかし、女神の加護によって、男同士でも子は生せる。
愛し合う2人には、多く精を出されたほうの腹に卵が宿り、卵から赤子が生まれるのである。
それが当たり前になって、千年が経った頃の話。
◆◇◆
ここは繫栄の女神ルクレティアが守護する国、ルクレティア。
女神の名がそのまま国の名前となっている。
ルクレティアは、国土の大半が豊かな森である。国民のほとんどが狩猟など、森の恵みで生活をしている。
この国には獣人も多く存在したが、人と共存し、穏やかに暮らしていた。
獅子の獣人であるルクレティア国王ライアンは、前王の突然の死により、史上最年少の若い王となった。
新王が最初に下した王命はただひとつ。
繁殖せよ、であった。
国内は、大混乱に陥った。
何しろ、王命である。
国民は、早急に従わなければいけない。それがどんな無茶振りであろうとも。
免除されるのは、すでに複数子を生したつがいか、子を生せぬ病気のある者のみ。
命令に反せば軽くて罰金、悪くて投獄。
まだ伴侶のいなかった若い国民は、大慌てで伴侶を探すことになったのである。
大迷惑な初勅であった。
◆◇◆
険しい雪山スノーデンと、王城近い街のクレイトン。
メルヴィルという村はその間にあった。
メルヴィル村に住む若者であるランドルフとバーナードは、森をとぼとぼ歩いていた。
クレイトンの教会で、王命を聞かされた帰りである。
近隣の各町村から若者が呼び出されて。
16歳から30歳の健康な若者は、ただちに繁殖せよ。
期限は次の春まで。
そう命じられたのだ。
ランドルフは灰色の髪に紫色の目をした浅黒い肌の精悍な男で、狼の獣人である。
そしてバーナードは赤茶の髪に緑色の目をした大男で、熊の獣人だった。
どちらも緑色のマントを羽織って、瞳と同じ色の宝石で留めている。
革の手袋に革の長靴、チュニックに革のベルト、中は黒いインナーと厚手のズボンという軽装だ。
どちらも22歳で、顔立ちは整っている。
村の中、いや、国の中でも上位に入るイケメンといえよう。
ただし、2人とも好みが厳しかったためか、相手はいない。
絶賛伴侶募集中であった。
「どうするよ……」
ランドルフは溜め息をついた。
バーナードと並ぶと小柄で細身に見えるが、ランドルフは身長が190cmほどある、鍛えられた身体つきをした青年である。背には弓矢を装備している。その装備の通り、狩猟を得意としている。
「どうするもこうするもねえな。おれとランディじゃ、子供できる気がしねえしなあ」
バーナードは大きな手で顔を覆った。
バーナードは体格がよく、全身は立派な筋肉に覆われ、身長は約230cmと、国内でも大柄な部類であった。背負子と籠を背にしている。こう見えて、狩りではなく採取や物作りを得意としているのだ。
お互い独身であぶれ者だったが。
残念ながらお互いまったく好みとは違っていたため、伴侶には向かないのであった。
「っせーな、それはこっちのセリフだっつの、バーン」
ランドルフはバーナードの尻を容赦なく蹴った。
「だよなあ。困ったなあ」
かなりいい音がしたのだが、何のダメージも受けてない様子でバーナードは頷いた。
◆◇◆
2人は幼馴染である。
お互いのいやなところもいいところも知りすぎていて、今更どうこうなりたいとは思えない。
第一、全く好みじゃないので勃つわけがない。
いくら頑張っても今までの記憶が邪魔をして、萎えてしまうこと必至だろうから、チャレンジしてみようとも思えない。
この世界では、愛し合う2人からしか、子供は出来ないのである。
そこが一番の問題だった。
「いっそ、伴侶探しの旅にでも出るか?」
ランドルフの提案に、バーナードは首を振った。
「今からか? 狩りの時期だってのに、どこもそれどころじゃねえだろ」
冬に備えて、たくさん獲物を狩らなければいけない。
国中、一番忙しい時期なのだ。
新王も、わざわざこんな時期にそんなお触れを出さなくても……と2人は思った。
春ならば、まだ繁殖にも気が乗れたものを。
全く迷惑な王令であった。
「あ~あ、その辺におれ好みの美人、落ちてねえかなぁ」
バーナードはひょいひょいと籠いっぱいに栗を拾いながら言った。大量の薪も、大きな背中いっぱいに軽々と背負っている。
「そんなのその辺に落ちてたら苦労しないよな、……と」
ランドルフは弓を構え、ウサギを仕留めた。百発百中の腕前である。
2人は教会からの帰り道。
食料などを狩りながら、憂鬱な気分で森を歩いていたのだった。
◆◇◆
「……ん?」
森の中ほど。
広場のように開いた花畑の中に、見知らぬ男が戸惑った様子で佇んでいた。
軽装で、旅行者ではなさそうである。
見たこともない服装だ。異国から来たのだろうか?
日の光を反射して、きらきらと輝くような髪。
色白で、美しい顔をしているのが遠目からでもわかった。
小さくて、細い。
しかも、見たこともないような美人である。
2人の好み、ど真ん中であった。
「……あれって、あれだよな?」
「おう。間違いない。あれは、あれだ」
ランドルフとバーナードはお互い視線を交わし、2人にしかわからない会話をして。
競うように、しかし嬉しそうに。
その美しい男のもとへ走ったのだった。
0
お気に入りに追加
307
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
白虎の王子様の番とかありえないからっ!
霧乃ふー 短編
BL
日本在住の一応健康体、性別男として生きていた僕。
異世界物の漫画とかアニメとか好きだった記憶はまあ、ある。
でも自分が異世界に召喚されるなんて思わないじゃないか。
それも、、、……まさか。
同性と強制的に恋人になれって!?
男の僕が異世界の王子様の番とかよく分からないものに強制的にされるなんてありえない。適当に表面的な対応をしながら帰る方法を模索するが成果なし。
僕は日に日に王子様の瞳に宿る熱情が増していくのが怖くてさっさと逃げ出した。
楽しく別の街で生活していた僕。
ある日、様子が少しおかしいギルド員からある話を聞くことに、、、
狼くんは耳と尻尾に視線を感じる
犬派だんぜん
BL
俺は狼の獣人で、幼馴染と街で冒険者に登録したばかりの15歳だ。この街にアイテムボックス持ちが来るという噂は俺たちには関係ないことだと思っていたのに、初心者講習で一緒になってしまった。気が弱そうなそいつをほっとけなくて声をかけたけど、俺の耳と尻尾を見られてる気がする。
『世界を越えてもその手は』外伝。「アルとの出会い」「アルとの転機」のキリシュの話です。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。
篠崎笙
BL
斎藤一は平均的日本人顔、ごく普通の高校生だったが、神の戯れで超絶美形だらけの異世界に送られてしまった。その世界でイチは「カワイイ」存在として扱われてしまう。”夏の国”で保護され、国王から寵愛を受け、想いを通じ合ったが、春、冬、秋の国へと飛ばされ、それぞれの王から寵愛を受けることに……。
※子供は出来ますが、妊娠・出産シーンはありません。自然発生。
※複数の攻めと関係あります。(3Pとかはなく、個別イベント)
※「黒の王とスキーに行く」は最後まではしませんが、ザラーム×アブヤドな話になります。
普通の男子高校生ですが異世界転生したらイケメンに口説かれてますが誰を選べば良いですか?
サクラギ
BL
【BL18禁】高校生男子、幼馴染も彼女もいる。それなりに楽しい生活をしていたけど、俺には誰にも言えない秘密がある。秘密を抱えているのが苦しくて、大学は地元を離れようと思っていたら、もっと離れた場所に行ってしまったよ? しかも秘密にしていたのに、それが許される世界? しかも俺が美形だと? なんかモテてるんですけど? 美形が俺を誘って来るんですけど、どうしたら良いですか?
(夢で言い寄られる場面を見て書きたくなって書きました。切ない気持ちだったのに、書いたらずいぶん違う感じになってしまいました)
完結済み 全30話
番外編 1話
誤字脱字すみません。お手柔らかにお願いします。
異世界で二人の王子に愛されて、俺は女王になる。
篠崎笙
BL
水無月海瑠は30歳、売れない役者だった。異世界に跳ばされ、黒と白の美しい兄弟王子から見初められ、女王にされてしまうことに。さらに兄弟から自分の子を孕めと迫られ陵辱されるが。海瑠は異世界で自分の役割は女王を演じることだと気付き、皆から愛される女王を目指す。
※はじめは無理矢理ですが愛され系。兄弟から最後までされます。
※「生命」、「それから」にて801妊娠・出産(卵)がありますが詳細な表現はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる