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異世界の王様、日本へ行く。

急な帰還

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「俺は単に、猫に化けられるから。クレプスクロは、やっと出会えた仲間だと思って、気を許しただけだと思うよ」


俺は、自分の正体が猫だとは言ってないし。なるべく、嘘はつかなかったけど。
何だか騙したみたいで、心苦しかった。

クレプスクロは、あまりに純粋に、仲間と出会えたことを喜んでたから。


「まるで親子みたいに仲睦まじい様子でしたね……」
エリアスがしみじみと言った。

「へえ、そんなでかい猫だったのかい?」
ウィルフレドに訊かれて。

「いや、逆逆。すごく小さかったんだ。このくらい」
俺は手で大きさを示した。

「ええ、とても可愛らしかったですよ」
「え~? 小さい黒猫なんて、気持ち悪いよ。変わってるなあ」
にっこりしてるエリアスに、ウィルフレドはドン引きしてる。


エリアスとウィルフレド。
生まれ育った国が違うと、こうも違うのか……。受けた教育とかでもかなり変わりそうだな。


*****


「そういえば、クレプスクロから、あちこち匂いを嗅がれたけど。バルと、……ええと、夜の営みをしちゃいけなかったのって、”魔王”がこの世界の人間を警戒してるからだったとか?」

でも、最終的にはバルに撫でられても平気そうだったな。
それは単に慣れたからかな? それとも、好意があるかないか?

「ああ、そのこと? ……ごめん、あれ嘘だったんだよね! 何か目標があったほうが必死になってくれるかな~と思って」
ウィルフレドは、全く悪びれない様子で言った。

「何だと……!?」
バルは、ものすごい勢いでウィルフレドを睨んだ。


「そうだった。ちょっとせてねー」

殺気を放ちながら睨むバルをガン無視して。
ウィルフレドは、俺の手を取った。

あたたかい手。
神秘的な紫の瞳と、まっすぐに目が合った。宝石みたいにきらきらしてる。

ウィルフレドは、とても綺麗な顔をしてるけど。こうして近距離で見つめ合っても、バルの時とは違って、ドキドキしない。
やっぱり、バルは特別なんだなあ、と改めて思った。


「……ああ、やっぱりだ。……今回のご褒美かな? ”神の祝福”がついて、の資格が固定されてる」


「ええっ!?」
永世勇者って。どういうことだよ!?

バルとエッチしたら勇者の資格が外れる、っていうのは、ウィルフレドの真っ赤な嘘だったようだけど。
勇者が、千年に一度しか召喚されないってのは本当なんだよな?

で。
勇者としての資格が、永久に固定されてるってことは。


「じゃあ、俺が一旦元の世界に帰ったら、またこっちに戻ってくるのは不可能ってこと!?」


*****


「いや、それは大丈夫。”魔王”が消滅したことで、勇者に対してのそういう禁則とかも全部消えてる」
ウィルフレドは即答した。


何だ。
もったいぶるから、てっきりもう、こっちの世界には戻って来れないのかと思ったじゃないか。
びっくりした。脅かさないで欲しい。


「ただ……、うーん、言っちゃっていいのかなあ」
少し悩んだ様子で。

ウィルフレドはバルの所に行って。バルの耳元で、ぼそぼそ何か言ってる。
……ちょっと。顔、近すぎない?


「……大変喜ばしい事ではないか」
「いや、それは君にとってはかもしれないけど。普通の人は嫌がるんじゃない?」
二人で何か言い合ってるけど。


「ええ、何? 何だよ、俺のことだよね? 教えてくれよ。不安になるだろ!?」

「神により、”不老不死の祝福”を授かっているそうだ」
バルが答えた。

不老不死って。……バルと、同じ?


クレプスクロに。
千年後、目が覚めても自分の側にいてくれるか、と聞かれて。

俺は、答えられなかった。

俺はただの人間だから、千年後には生きてない。
だから。嘘になると思って黙ってた。

クレプスクロに、嘘は言いたくなかったから。
気休めでも、言ってやりたかったけど。言えなかったんだ。

もしかして。
それに気付いたクレプスクロが。善神と一緒になった時に、を与えてくれたのか?


「じゃあ俺、バルと、ずっと一緒にいられるんだ……?」

「そうだ。私達はずっと一緒だ」
ぎゅっと抱き締められる。


「え~……、喜んじゃうんだ? ……引くわー」
「私も一緒なんですけどね……」

ウィルフレドとエリアスが、遠巻きにこっちを見ていたけど。
みんな一緒なのも、嬉しいと思ってるよ。


*****


「で。どうする? 元の世界に戻るの、今、やっとく?」
ウィルフレドが杖を振ってる。

なんか、床に魔方陣みたいのを描いてるけど。
いや、まだ早いよ!?


「フレッド、私も同行したいのだが。優輝のご両親に結婚の挨拶をせねばならんのでな」

「ええっ!?」
バルも一緒に来るの!? うちの親に、挨拶しに!?

「え~、きみも行くの? めんどくさいなあ。まあいいけどさ。割増料金取るからね?」
ウィルフレドはぶつくさ言いながらも、魔方陣を手直ししてる。

へえ、人が増えると、魔法陣の模様が変わるんだ。
見ても全くわかんないけど。

「構わん、必要経費だ。礼は弾もう。……ああ、帰りは座標を覚えれば、自分で帰還出来る。済んだら帰っていいぞ」
バルは笑顔だ。

「ちぇ、大魔道士様はこれだからなあ。……じゃあ、行くよ~」
ウィルフレドは、魔法陣に杖を立てた。

陣が光り出す。


……え? 今、もう、元の世界に帰るの!?
ちょっと待ってってば。

まだ、心の準備が!
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