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異世界の王様、日本へ行く。

王様、都内を巡る

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「優輝は将来、何になりたかったのだ?」
バルは、真剣な顔をしている。

「え、俺? 将来のこととか、何にも考えてなかった。そのまま大学行くかな、程度で。異世界に召喚される運命だったからかな? なんてね」
おどけて言うと。

「……そうか。君が夢を諦めたのでなければ、よかった」
安心したようだ。


俺が将来やりたい仕事とか。
全てを諦めて、異世界に住むのではないかと心配したようだ。

あったとしても、バルの方を優先するに決まってるのに。


*****


パソコンルームとか音楽室とか美術室、食堂とかも案内して。

剣道部と柔道部は剣道場で。野球部はこの暑い中、校庭で練習中だ。
熱中症には気をつけろよ。


体育館では、バレー部とバスケ部が練習中だった。

「あ、小鳥遊パイセンのご家族さんだ!」
後輩が気付いて。

「あの人、駅で見た!」
「え、マジ? ちょーイケメン外人じゃん」

「センパイ、ご家族さん、チャーッス」
みんな、わらわらと寄って来る。


チャーッスはこんにちはって意味だって、バルに教える。
俺にもバルに教えられることがあるんだな。あんまり自慢できない知識だけど。

バレー部は高身長が集まってるが、その輪の中に入ってもバルが一番大きかった。
バルも後輩たちに囲まれて。

「もしかして、何か武術とかやってます? すげー強そうなんですけど!」
「あ、わかる。オーラが違うよな」

おお、やっぱ見てわかるもんなんだ。剣を持ってなくても佇まいがもう達人だよな。
見るからにいい身体してるし。

などと、自分のことのように嬉しくなっちゃったりして。


「てか、小鳥遊先輩ってば、見ない内に、いい感じに締まってないっすか? 筋トレ?」
「え? マジ? どれどれ」
よってたかって、肩を揉まれる。

「あ、ほんとだ。何で部にいる時よりマッチョになってるんすか?」


剣だこは、バルが治したから残ってないけど。
半年くらい棍棒や剣を振ってたからなあ。騎士と模擬戦もしたし。

そりゃ筋肉もつくだろう。
村では、井戸の水汲みもしてたもん。

部活よりもハードな生活だった。


「あれ? 何か寒気が……」
俺の身体の筋肉を確かめていた後輩達が、手を離した。

バル、笑顔のまま殺気を放つのやめて。


*****


学校帰りに俺がよく立ち食いする店とかも紹介しつつ、駅に戻って。
また電車に乗った。


渋谷駅、新宿駅、東京駅の混雑っぷりを見て。
バルを芸能人だと勘違いした若い女の子に囲まれそうになって、すぐに退散したり。

上野の科学博物館では、ざっと地球の歴史とかを見て回って。

巡回バスめぐりんで浅草に行って、雷おこしを味見したり、人形焼やキビダンゴを食べて、お土産屋で着物を見たりした。


そこからまたバスで押上に行って、スカイツリーを下から眺めた。

一日じゃ、東京の名所全部は回りきれないけど。
何となく、俺の育った東京のイメージは伝わったかな?


ソラマチの牛乳スタンドで牛乳を買って、バルに渡した。
テラスの椅子に座って、二人で牛乳を飲む。

乳キノコの方がさっぱりした甘さで美味しいな、と思ってしまう。
あっちは植物性脂肪になるのだろうか。


スカイツリーの明かりがついた。
もう、午後六時か。

今日は青だ。
青は”いき”、紫は”みやび”だっけ? クリスマスとかになると、また色が変わるんだよな。


「これほど大勢の人がいて、更に多種多様な人種もいるのに、争いが起こらないのか……」
バルには、それが不思議に見えたようだ。

「んー、外国ではテロとかあるみたいだけど。ここにいるのはだいたい観光客だし。回ったとこは特に外国人観光客が多い所だったしね。日本は何百年前とかの古い文化も残ってるから、珍しいのかも」

京都が人気なのも、古い町並みが残ってるからだろうし。
着物の舞妓さんもいるからな。


「……こちらの方が、生活するには快適だろう? 君にとって、あちらは不便ではないか?」

移動は電車や自動車、飛行機もある。
お腹が空いたり喉が渇けば、すぐに自販機や店で買える。

スイッチ一つで電気がつく。
掃除機や洗濯機、家事を楽にする家電。

本を買わなくてもネットで情報を集められる。
確かに、便利な世の中だ。


「そうでもないよ。少ししたらあっちの生活にも慣れたし。便利な世の中でも、いいことばっかでもないしね。……イヤだって言ったら、俺のこと置いてくの?」

交通事故は絶えないし。
便利な道具や食べ物だって、お金が無ければ買えない。

殺人や犯罪のニュースは毎日のことだし。

バルの治世のお陰だけど。
あっちの方が、ずっと平和だよね。


*****


「いや、いくら君が嫌だと言おうが、攫っていくつもりだが。確認したかったのだ。……君は相変わらず、欲が無い」
バルは苦笑してる。


そうかなあ?
家族より、周りの色々なことより、バルを選んで。
何もかも捨てても構わないから側にいたいと思うなんて、俺はかなり欲深いと思うけど。


「あ、そういや何かこっちの文化で取り入れたいのとかあった?」

「そうだな。電気は大変便利だと思ったが。その設備には、発電所や変電所の建設が必要だ。その為には、今ある森や山を崩さねばならなくなる。他の方法を考えないと」
バルは肩を竦めた。

バルの場合は魔法で何とかなるけど。一般家庭ではそうはいかないもんな。
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