上 下
52 / 65
異世界の王様、日本へ行く。

王様、民家に泊まる

しおりを挟む
「ええと。暑くない? クーラー大丈夫?」
「私は問題ないが。優輝は暑いのか?」

夏に、人とくっついて寝るなんて暑苦しそうだけど。
バルは何かさらっとした感じで、心地いいからか、俺も、暑くはないけど。

……わかってて、わざと聞いてるのかな?


「優輝、」
キスをされそうになって。慌ててバルの口を手で覆った。

「ちょ、あの、ウチは壁が薄くて、隣の部屋の親父のイビキも聞こえるくらいだし。それに、この下は祖母ちゃんの部屋で、」
聞こえたらどうしようって焦ってたら。

頬を撫でられて。
「わかっている。せっかく今まで待ったのだからね。ここでことはしない」


気になって集中できないだろうし、昼までゆっくり睦み合うこともできないだろうから、と。
耳元で囁かれる。

……何か、すごいエロイこと言われてる気がする。
うう。

あっちに戻った時がこわい。


「……おやすみ」
額に、そっとおやすみのキスをされた。

「ん、おやすみ」
俺も返した。


俺が困るから、やめてくれたのに。
何だか物足りなく思ってしまうなんて。我ながら身勝手だなあ。

もし、ウィルフレドが乱入してなくて、ここに戻されてなかったら。

あの夜。
最後までしてたのかな?

……考えるのはやめよう。恥ずかしくなってきた。


*****


目が覚めたら。
バルが至近距離でおはよう、と言って微笑んだ。自宅で、バルの美貌を見るのは、なんか不思議な感じがする。

そんな、じっと俺の顔を見るのやめて欲しい。寝顔もしっかり見られてたのか。
照れる。

「うん、おはよう」
おはようのキスに、俺も応えた。


バルが壁側で、俺はすぐ後ろがベッドの端っこだったから、寝惚けて落ちそうなものなのに。
ずっと支えててくれたのかな。


調べるため、その辺を歩くのにはどのような格好をしたらいいかと聞かれて。
ファッション雑誌を出して、バルに似合いそうな服を選ぶ。

セレブの休日みたいな、品の良さそうなのが似合うと思う。
でも、何を着ても似合いそうなんだよな。


同じベッドに寝てたの、バレてるかもしれないけど。
俺用の布団をわざと乱して、こっちで寝たように工作してみたり。

そんな俺を、バルはにこにこしながら見ていた。


布団を畳んでいたら.
バルは甚平を脱いで、素っ裸になっていた。

甚平を畳もうとして困惑してる。
何か可愛い。

……おいおい、縮んでも大きいな……。


「俺がやっとくから貸して、」
「すまない」

バルから甚平を受け取って、適当に畳んだ。
後で洗うから、適当でいいんだけど。そのがわかんないみたいだ。

だいたい魔法で着替えちゃうし、お手伝いさんがいるからな。


*****


パタパタと、階段を上がってくる音が聞こえた。


「……あんた行ってよ」
「ええっ、気まずいことになってたらどうするんだ」

「たとえでも、男同士なら大丈夫でしょ、」
「そんな、男でも困るよ」

ドアの外から、気まずそうな親父と母ちゃんの声が聞こえた。
それを聞いて、なるほど、とバルが苦笑してる。

全部筒抜けだっての。
まったく。


ノックの音がして。
「えー、そろそろ朝食の時間だが、二人とも起きてるかな……?」

そんな、恐る恐る覗かなくても。
隣と下に家族がいるのに、朝まで全裸で抱き合ってたりする訳ないだろ。

「起きてるよー」
「おはようございます」

バルはもう、セレブの休日風な服に着替えている。
やっぱり似合ってて格好いい。


*****


味噌汁にご飯、焼き魚。だし巻き卵。
朝は、純日本風のご飯だったので、バルが感動していた。納豆は駄目だったけど、豆腐は気に入ったようだ。


朝食を食べた後。
親父と一緒に出ることにした。

「お世話になりました。またしばらくのち、挨拶に伺います」
バルは玄関まで見送りに出た母ちゃんと祖母ちゃんに、日本風のお辞儀をしてみせた。

「いえいえ、何のお構いもできませんで……」
「またいらっしゃいね」

「じゃ、俺もちょっと案内するから。行ってきます」

母ちゃんと祖母ちゃんに手を振って。
三人でバス停に向かった。


夏休みなので、バスは空いている。
バスに乗る時に、親父が一日乗車券を二枚買って渡してくれた。

「あちこち回るなら必要だろう?」

「そっか。ありがと」
俺は今月末まで使える定期があるけど。
そういえばバルはこっちの通貨を持ってなかった。さすが社会人。

「お気遣い、ありがたくいただきます」
バルは親父にお礼を言って。
受け取ったカードを、不思議そうに見ている。

「これを提示すれば、この乗り物に何度も乗れる、というものかな?」
すぐに理解してる。

「うん。何日も乗るなら、全国で使える青春18きっぷとかもあるけど。今日だけでいいの?」

「一日で全てを見ようとは思っていないが。君の暮らした世界を、少しでも知りたいと思ってね」
うわあ、笑顔が眩しい。

バル、キラキラしすぎだよ。
抑えて抑えて。

他の乗客からめちゃくちゃ注目されてるし。


親父は不自然に目を逸らしている。
息子の夫が息子に甘い言葉を囁いているのを目の当たりにしてしまった、その心境はいかに。

思わず心の中で手を合わせる。
ごめんな? バルはこれで通常営業なんだ。これでもまだ、抑えてる方なんだよ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

overdose

水姫
BL
「ほら、今日の分だよ」 いつも通りの私と喜んで受けとる君。 この関係が歪みきっていることなんてとうに分かってたんだ。それでも私は… 5/14、1時間に1話公開します。 6時間後に完結します。 安心してお読みください。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

転生者はめぐりあう(チートスキルで危機に陥ることなく活躍 ストレスを感じさせない王道ストーリー)

佐藤醤油
ファンタジー
アイドルをやってる女生徒を家まで送っている時に車がぶつかってきた。 どうやらストーカーに狙われた事件に巻き込まれ殺されたようだ。 だが運が良いことに女神によって異世界に上級貴族として転生する事になった。 その時に特典として神の眼や沢山の魔法スキルを貰えた。 将来かわいい奥さんとの結婚を夢見て生まれ変わる。 女神から貰った神の眼と言う力は300年前に国を建国した王様と同じ力。 300年ぶりに同じ力を持つ僕は秘匿され、田舎の地で育てられる。 皆の期待を一身に、主人公は自由気ままにすくすくと育つ。 その中で聞こえてくるのは王女様が婚約者、それも母親が超絶美人だと言う噂。 期待に胸を膨らませ、魔法や世の中の仕組みを勉強する。 魔法は成長するに従い勝手にレベルが上がる。 そして、10歳で聖獣を支配し世界最強の人間となっているが本人にはそんな自覚は全くない。 民の暮らしを良くするために邁進し、魔法の研究にふける。 そんな彼の元に、徐々に転生者が集まってくる。 そして成長し、自分の過去を女神に教えられ300年の時を隔て再び少女に出会う。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...