巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙

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異世界の王様、日本へ行く。

あの日に戻って

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ああ、空が青い。白い雲。
夏の空だ。


心の準備が出来ないうちに、元の世界に帰されてしまったようだ。

それにしても、暑い。
夏真っ盛りな感じで蒸し暑い! あっちが涼しかっただけに、これはきつい。


足元には、俺の鞄。中には通知表が入っている。
……これは見なかったことにしよう。

鞄の中に突っ込んでたスマホを確認してみる。
ええと、時刻は……。

俺が異世界に召喚された、に戻ってる。


何だか通行人の視線が痛いと思ったら。
白い鎧、お化けウサギのマント。勇者の姿のままだった。

目立つはずだ。
ここじゃ、背もでかい方だし。

コスプレイヤーだと思われればまだマシで。
下手すれば通報されてしまう。刃を潰してない剣を持ってるし。


それと、鎧は暑い。
今は7月。夏真っ盛りだ。


*****


試しに、変化の魔法を唱えてみたら。制服……夏服に着替えることができた。
こっちでも魔法、使えるんだ。

これも神様が与えてくれた祝福のひとつなのかな?

しかし、半袖だと両腕のシークロが丸見えだ。
制服には似合わないオシャレアイテムだけど、まあいいか。


「む、私もこの姿では目立つのか」
バルは、自分の格好を見下ろして言った。

身長、3メートル以上あるもんな。
全身真っ黒な騎士姿だし。そりゃ目立つ。


隣にいたバルの背が、この世界に合わせた大きさに縮んだ。
ああ、身体の大きさも変えられるんだ。ドラゴンに変身できるくらいだもんな。

縮んだ、といっても、俺よりも背が高くてスタイルも良かった。
さすがモデル体型。

服は、その辺に歩いていた人の服を参考にしたようだ。
白いシャツに、濃い灰色のスラックス。

ものすごい美形だから、どっちみちめちゃくちゃ目立つんだけどな!


静かの森は一年中涼しいから、この暑さは堪えるんじゃないかな。
と思ったけど。

バルは汗一つかいていないし、涼しげな顔してる。魔法かな?


*****


「あれは、何の木だ?」

バルは電信柱を指差した。
ああ、木だと思ったんだ? あっちにはない物だもんな。

「電信柱って言って、電気とか、電話線が通ってるコンクリート……ええと、石の柱だよ」

電気は、電灯とか、機械を動かすのに使って。
電話は、遠くの人と話すための機械だと説明した。


道路を走ってる自動車は、馬の代わりに機械で走る車だと言った。
馬車はあるからか、それで理解してくれたようだ。

全面ガラスのビルを見て、強度は大丈夫なのか聞かれたり。
まあ強化ガラスでも、震災レベルの地震が来たら大惨事だろうな。でも日本は地震国で、耐震性については強いほうだと思う。

バルはどこまでもまっすぐに整備された道路を見て、感心してたけど。

「車が快適に通るためとはいえ、このように地面を石で覆い固めてしまっては、熱が逃げ場を失い、更に熱くなるだろうに」
「そうなの?」

いや、舗装された道路に文句を言われても。
その辺は俺にはさっぱりわからない。

さすが国王というか。
環境問題についてもいちいち考えてるんだ。立派だなあ。


周りの説明をしながら歩いて。
家の前に着いた。

俺的には、約一年ぶりくらいの我が家である。

まずは大きく深呼吸。
自分の家だっていうのに、やたら緊張する。

この時間じゃ、母ちゃんと祖母ちゃんはいるだろうけど。
親父はまだ仕事中だろうな。


*****


「ここが、優輝の育った家か……」
バルは興味深そうに見ている。

築30年、4LDK。庭なしガレージ付き一軒家でございます。
貧乏なスデステ村の家より狭いけど。こっちでは、五人家族が住むのには普通の家……だと思う。

「確かに、優輝はここでは背が高い方だったのだな」

庇に頭をぶつけないように屈みながら。
納得した風にバルが言った。

「中も低いから、気をつけてね?」
サイズを俺に合わせても、180センチの俺よりも背が高いから、無理な姿勢で腰を痛めそうだ。


「ただいまー。母ちゃん、祖母ちゃんいる?」
扉を開ける。

「はいはい、ご飯ならひやむぎがあるけ、ど…………っ!?」
玄関まで出てきた母ちゃんは。

俺の背後のバルを見て、目を剥いた。


「は、ハロー?」
しばらく固まって。
気を取り直した母ちゃんは、ひっくり返った声で言った。

さすが、俺の母ちゃんだ。
外国人に対する第一声が、ハローしか出ない。

こっちじゃ英語はだいたい世界のあちこちで通じるからいいのか?


*****


「母ちゃん、バル……、この人ちゃんと言葉わかるから、日本語で大丈夫だよ。英語圏の人でもないし」

「ああ、ロシアとか、北欧系の方? ちょっとあんた、お客様が見えるんなら連絡のひとつくらい寄越しなさいよ。まったくもう」
胸を撫でおろしてる。

北欧系……。
ああ、確かに見た目はそれっぽいかも。

ノルウェーの森とか似合いそう。
ノルウェーってどこにあるんだか知らないけど。

今は小さくなってるから、普通の外国人に見えるよな。
普通、っていうには格好良すぎるし、オーラと言うか、風格がありすぎだけど。


「義母上殿、お初にお目に掛かります。私はセントロ王国の王、バルタサール=ウルタードと申します。優輝を私の生涯の伴侶として貰い受けるため、挨拶に参りました」
バルは優雅に礼をしてみせた。

「は、ははうえ? 王様? 貰うって? 伴侶!? 優輝を!?」
あわあわした母ちゃんは、ギロッと俺を睨んだ。


「ちょっと優輝、イチから説明しなさい!」
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