46 / 65
キノコマスター、魔王と対峙する。
神の祝福
しおりを挟む
あの”声”は。
俺だけじゃなく、この世界のみんな……人類全てに聞こえたようだ。
これからはもう、異世界から勇者を召喚して封じなくてもいい。
千年後も、二千年後も、魔王は現れない。
魔王は消えてしまったから。
いなくなってしまった。
可愛くて。なつっこくて。さびしがり屋のクレプスクロ。
嘘だろ。
満足したって?
たった、あれっぽっちのことで?
消えてしまうなら、もっといっぱい遊んでやればよかった。
色々楽しいことを教えてやりたかった。
美味しいものを、もっとたくさん食べさせてやりたかった。
目一杯愛情を込めて、抱き締めてやりたかった。
何千年も、ひとりぼっちで。
ずっと、つらい思いをしてきたのに。
たった一日で、満足しちゃうのかよ。
*****
ボロ泣きした俺の背を、バルは優しく撫でてくれた。
昔、黒猫は不吉だと言われていた時代があって。
黒猫というだけで石を投げられていたんだって、俺に話してくれた。
だから、魔王は黒猫の姿にされたのではないかという。
”不安と不吉なもの”の象徴として。
何で子猫で、サイズが小かったのか、理由はわからないけど。
でも、時代が変わって。
いつの間にか、そんな迷信は、消えた。
何千年も経つうちに、人間の考え方もずいぶん変わったんだ。
バルみたいに、何百年も先のことを考えている人もいることを知ったから。
クレプスクロが、人間の優しさを知ったから。
神が人間を許してくれたんだ、って思っていいんだよな?
「善神ディオスの中に、クレプスクロもまた存在しているのだろう。消え去った訳ではなく、人への希望を得て、あるべき場所へ還ったのだ」
バルはそう言って。
涙の止まらない俺の頬を、舐めた。
猫みたいに。
「だからもう、泣くんじゃない。目がウサギになってしまうぞ」
ペロペロ舐めるもんだから。
くすぐったくて、涙が止まった。……しょっぱかった?
「……クレプスクロは、魔王だったのですか。あんなに無邪気で可愛らしい子猫ちゃんでしたのに……」
ハンカチで目許を拭って。
エリアスは、窓の外を見た。
すっかり日の落ちた、夜の空を。
エリアスは、何の偏見もなく、クレプスクロを”ただの子猫”として可愛がった。
それはそれで良かったんだと思う。
クレプスクロは、自分に向けられる、純粋な愛情を知らなかったから。
*****
「そういえば、私は魔力を持ちませんが。魔王の魔力にあてられなかったのはどうしてでしょう?」
魔力を持たない一般人は、近寄るだけでも危険だと伝わってるそうだ。
「一応、膜みたいなので包んで、魔力を封じ込めてたけど……」
「なに、結界を何重に掛けても封じ切れなかった、あの凄まじい魔力を封じたのは優輝だったのか……」
バルは驚いている。
クレプスクロが自力で魔力を抑えていたものとばかり思ってたらしい。
「今まで魔力を放出してたのには無自覚だったようだけど。クレプスクロも、魔力を封じるのに協力的だったからじゃないかな? 自分のせいで動物が魔物化してしまうことを気にしてたみたいだし……」
魔物化したら、まともに話もできなかったみたいだし。
「ああ、魔物といえば。魔物化した動物は封じてあるのだった。後で戻して、元の棲み処に返してやらなくてはね」
バルは思い出したように言った。
そうか、良かった。
バルは、魔物化した動物を全滅させたわけじゃなくて、可能な限り、封じてたんだ。ほっとした。
いくら凶暴な魔物でも、やっぱり殺すのは良くないと思ってるんだよな?
まだ人を襲ったわけでもなかったし。
「そういえば、バルも動物を魔物化できるんだっけ?」
「ああ。それは元々、魔物化した動物を戻すための研究をしていた時に覚えた」
その研究で、逆に、普通の動物を魔物化させたり。魔物化した動物を元に戻すこともできるようになったんだそうだ。
やっぱりバル、魔王の素質あるんじゃない?
クレプスクロが案内してくれたあの島も。また、動物でいっぱいになるんだろうな。
動物たちの楽園に。
見せたかったな。
……善神の中から、見てくれればいいな。
みんな、しんみりして。
窓の外の星空を見ていたら。
「神の声、聞いたよ! あんなに弱かったのに、魔王を封じるどころか浄化して神に戻すなんてすごいじゃないか! とんでもない大手柄だ! きみは本物の英雄だよ! おめでとう!」
突然、やたらとテンションの高いウィルフレドが現れた。
何で花びらを振りまいてるんだろうか。
「……ん? あんまり嬉しそうじゃないね? どしたの?」
*****
ウィルフレドには、バルが事情を説明してくれた。
「成程。禍々しい黒猫の姿をしていたのか。異世界では恐れられてなかったのかな? だから可愛がられて満足したって感じ?」
不思議そうに首を傾げてる。
ウィルフレドにとっては、黒猫はまだ不吉の象徴なようだ。
生まれ育った国によるのかな?
先代の勇者は言葉が通じなかったけど、どうにか”魔王”をなつかせて眠らせたみたいだ、と聞いて。
手懐けるのに二年半も掛かったのか、と。その努力と執念に敬意を感じたようだ。
俺も感心する。
俺の場合、手懐けるのが早すぎる、と違う意味で感心されたけど。
俺だけじゃなく、この世界のみんな……人類全てに聞こえたようだ。
これからはもう、異世界から勇者を召喚して封じなくてもいい。
千年後も、二千年後も、魔王は現れない。
魔王は消えてしまったから。
いなくなってしまった。
可愛くて。なつっこくて。さびしがり屋のクレプスクロ。
嘘だろ。
満足したって?
たった、あれっぽっちのことで?
消えてしまうなら、もっといっぱい遊んでやればよかった。
色々楽しいことを教えてやりたかった。
美味しいものを、もっとたくさん食べさせてやりたかった。
目一杯愛情を込めて、抱き締めてやりたかった。
何千年も、ひとりぼっちで。
ずっと、つらい思いをしてきたのに。
たった一日で、満足しちゃうのかよ。
*****
ボロ泣きした俺の背を、バルは優しく撫でてくれた。
昔、黒猫は不吉だと言われていた時代があって。
黒猫というだけで石を投げられていたんだって、俺に話してくれた。
だから、魔王は黒猫の姿にされたのではないかという。
”不安と不吉なもの”の象徴として。
何で子猫で、サイズが小かったのか、理由はわからないけど。
でも、時代が変わって。
いつの間にか、そんな迷信は、消えた。
何千年も経つうちに、人間の考え方もずいぶん変わったんだ。
バルみたいに、何百年も先のことを考えている人もいることを知ったから。
クレプスクロが、人間の優しさを知ったから。
神が人間を許してくれたんだ、って思っていいんだよな?
「善神ディオスの中に、クレプスクロもまた存在しているのだろう。消え去った訳ではなく、人への希望を得て、あるべき場所へ還ったのだ」
バルはそう言って。
涙の止まらない俺の頬を、舐めた。
猫みたいに。
「だからもう、泣くんじゃない。目がウサギになってしまうぞ」
ペロペロ舐めるもんだから。
くすぐったくて、涙が止まった。……しょっぱかった?
「……クレプスクロは、魔王だったのですか。あんなに無邪気で可愛らしい子猫ちゃんでしたのに……」
ハンカチで目許を拭って。
エリアスは、窓の外を見た。
すっかり日の落ちた、夜の空を。
エリアスは、何の偏見もなく、クレプスクロを”ただの子猫”として可愛がった。
それはそれで良かったんだと思う。
クレプスクロは、自分に向けられる、純粋な愛情を知らなかったから。
*****
「そういえば、私は魔力を持ちませんが。魔王の魔力にあてられなかったのはどうしてでしょう?」
魔力を持たない一般人は、近寄るだけでも危険だと伝わってるそうだ。
「一応、膜みたいなので包んで、魔力を封じ込めてたけど……」
「なに、結界を何重に掛けても封じ切れなかった、あの凄まじい魔力を封じたのは優輝だったのか……」
バルは驚いている。
クレプスクロが自力で魔力を抑えていたものとばかり思ってたらしい。
「今まで魔力を放出してたのには無自覚だったようだけど。クレプスクロも、魔力を封じるのに協力的だったからじゃないかな? 自分のせいで動物が魔物化してしまうことを気にしてたみたいだし……」
魔物化したら、まともに話もできなかったみたいだし。
「ああ、魔物といえば。魔物化した動物は封じてあるのだった。後で戻して、元の棲み処に返してやらなくてはね」
バルは思い出したように言った。
そうか、良かった。
バルは、魔物化した動物を全滅させたわけじゃなくて、可能な限り、封じてたんだ。ほっとした。
いくら凶暴な魔物でも、やっぱり殺すのは良くないと思ってるんだよな?
まだ人を襲ったわけでもなかったし。
「そういえば、バルも動物を魔物化できるんだっけ?」
「ああ。それは元々、魔物化した動物を戻すための研究をしていた時に覚えた」
その研究で、逆に、普通の動物を魔物化させたり。魔物化した動物を元に戻すこともできるようになったんだそうだ。
やっぱりバル、魔王の素質あるんじゃない?
クレプスクロが案内してくれたあの島も。また、動物でいっぱいになるんだろうな。
動物たちの楽園に。
見せたかったな。
……善神の中から、見てくれればいいな。
みんな、しんみりして。
窓の外の星空を見ていたら。
「神の声、聞いたよ! あんなに弱かったのに、魔王を封じるどころか浄化して神に戻すなんてすごいじゃないか! とんでもない大手柄だ! きみは本物の英雄だよ! おめでとう!」
突然、やたらとテンションの高いウィルフレドが現れた。
何で花びらを振りまいてるんだろうか。
「……ん? あんまり嬉しそうじゃないね? どしたの?」
*****
ウィルフレドには、バルが事情を説明してくれた。
「成程。禍々しい黒猫の姿をしていたのか。異世界では恐れられてなかったのかな? だから可愛がられて満足したって感じ?」
不思議そうに首を傾げてる。
ウィルフレドにとっては、黒猫はまだ不吉の象徴なようだ。
生まれ育った国によるのかな?
先代の勇者は言葉が通じなかったけど、どうにか”魔王”をなつかせて眠らせたみたいだ、と聞いて。
手懐けるのに二年半も掛かったのか、と。その努力と執念に敬意を感じたようだ。
俺も感心する。
俺の場合、手懐けるのが早すぎる、と違う意味で感心されたけど。
6
お気に入りに追加
611
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる