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キノコマスター、再び修行する。
歴史の生き証人
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「数多の矢!」
呪文を唱える。
ミゲルの頭上。
直径3メートルほどの範囲から無数の魔法の矢が出現して、ミゲルを襲う。
「ええっ!? 上から? ……エスクード!」
矢は、魔法の盾でほとんど防がれてしまった。
しかし、魔法の盾で弾かれた矢は、桃色の煙になって飛散し、ミゲルにまとわりつく。
無害な目くらましだけど、初見ではわからないだろう。
ミゲルが目くらましの煙に驚いている隙に、次の攻撃魔法を唱える。
「降り注ぐ飛礫!」
防御魔法を出す暇もなく、同じく直径3メートルほどの範囲から雨のように降ってくる石に当たって。
翼が破れてしまったミゲルが、頭から落下してきた。
この様子では、防御魔法を出す暇もなさそうだ。
頭から落ちたら、危ない。
「ブルブハス!」
間一髪。空気の泡でできたクッションが、ミゲルを受け止めた。
……あ、いけね。
こっちにも石、めっちゃ降ってくる。
やばい、俺も危ない。
「……消去、」
あわあわしてたら。
バルが全ての石を消してくれた。
*****
広範囲の魔法は、後先考えて使わないと駄目だな。
危うく自爆するとこだった。
戦闘って、こんなに考えることが必要なんだ。
常に剣と魔法の色々な組み合わせを、リアルタイムで考えながら戦闘しなくちゃいけないのか。頭脳戦じゃん。
難しいなあ。
魔導騎士が少ないのもわかる気がする。
魔法だけの戦闘や、剣だけの戦闘だって、いっぱいいっぱいだったのに。
両方極めろとか。どんな無理ゲーだよ。
第一、俺に頭脳戦なんてできるわけないじゃん。頭悪いし。
「目くらましで相手の意表をつく作戦は良かったが。最後がこれでは、及第点はやれないな」
バルに、しみじみとダメ出しされてしまった。
そうだね……。
自分の魔法でパニックになっちゃダメダメだよな。反省。
「助けるのではなく、追撃するくらいでないと」
真顔で言った。
「え、そっち!?」
いや、いくら治るからって、痛みを感じる相手に遠慮なく攻撃なんて出来ないってば。
憎いわけでも、敵でもないんだから。
*****
バルはもう規格外なので、除くとして。
現在セントロ王国最高戦力である魔導騎士長との戦闘訓練第一戦は。
俺の自爆もあってドロー、という結果に終わったのだった。
初戦敗退じゃなくて良かった……ということにしておこう。
俺的には、よく頑張ったと思う。
「媒介もない上空で魔術を展開させるとか、初めてのことで驚きました。しかも、矢から煙に変化する二段階術式とは。いったい、どのような術式を使用されているのか、よかったらご教授願えませんか?」
ミゲルが、破れたマントを魔法で直しながらこっちに来て、嬉しそうに言った。
そんな、わくわくした顔で聞かれても困る。
何となくイメージで、としか言えない。術式とか、何がなにやらさっぱりです。
どうやら通常は、何もない上空に魔法の矢を発生させることなんて不可能らしい。
媒介になる何らかの物質が存在しないと、魔術を展開できないとか。
俺はもやもやが移動できる範囲なら、どこでも可能なんだけど。
呪文を唱えると現れる、このもやもやの正体なんて俺にはわからないし、これが何で構成された物体だとか、どういう術式なのかの説明もできない。
思わずバルに助けを求める視線を送ると。
「私にも理論が全くわからんのだが。優輝は感覚でそれが出来てしまうそうだ」
何でバルが得意げなの?
「陛下にも……? それは……すごいですね……。さすがは選ばれし勇者様……」
ミゲルに尊敬の目で見られてしまった。
たぶんこれは勇者特有の、なんか特殊な能力に違いない。
そう思っといて……。
*****
どうやらミゲルは真っ直ぐな性格で、バルみたいな嵌め技を使ってこなさそうだ。
複雑なことは考えず、直感で当たった方がいいかな?
本日の戦闘訓練の反省会も終えて。
「では、また明日。午後にお伺いしますので、よろしくお願いします」
ミゲルはびしっと騎士の礼をして。
直したマントを翼に変えて。
城の屋上からグライダーみたいに飛んで、王都へ戻っていった。
泊り込みじゃなく、日帰りなんだ? ここまで出張訓練、ご苦労様でした……。
マントだけ翼に変化するとか、面白い変化魔法だなあ。
今度俺も試してみようかな。まずは低いとこで。
俺は石橋を叩いて渡る慎重派なのだ。
そういえば。
”勇者としての能力”って。どういうのがあるんだろう。
勇者にしかない、魔王を抑える力、だっけ? 星が何とか言ってたけど。
具体的に、どんな感じだろうか。
フォースの力みたいな、目に見えてわかるやつかな?
あっ、そうだ。
千年以上生きてるなら、もしかして。
バルは前の勇者がどんなだったか、リアルタイムで見て知ってる可能性があるかも!
「バルは、千年前の勇者を知ってる?」
聞いてみると。
「ああ、私が子供の頃、2年半にも及ぶ死闘の末、魔王を封じたと聞く。クラテルとの国境辺りで召喚されたとか……」
やっぱり知ってた。
さすがだ。
歴史の生き証人……。
勇者は二年半もの間、ずっと魔王と戦ってたのか。
そこまでの強敵なんだ。頑張らないと。
バルがフォローしてくれるって安心感はあるけど。封じるのは俺の役目なんだし。
呪文を唱える。
ミゲルの頭上。
直径3メートルほどの範囲から無数の魔法の矢が出現して、ミゲルを襲う。
「ええっ!? 上から? ……エスクード!」
矢は、魔法の盾でほとんど防がれてしまった。
しかし、魔法の盾で弾かれた矢は、桃色の煙になって飛散し、ミゲルにまとわりつく。
無害な目くらましだけど、初見ではわからないだろう。
ミゲルが目くらましの煙に驚いている隙に、次の攻撃魔法を唱える。
「降り注ぐ飛礫!」
防御魔法を出す暇もなく、同じく直径3メートルほどの範囲から雨のように降ってくる石に当たって。
翼が破れてしまったミゲルが、頭から落下してきた。
この様子では、防御魔法を出す暇もなさそうだ。
頭から落ちたら、危ない。
「ブルブハス!」
間一髪。空気の泡でできたクッションが、ミゲルを受け止めた。
……あ、いけね。
こっちにも石、めっちゃ降ってくる。
やばい、俺も危ない。
「……消去、」
あわあわしてたら。
バルが全ての石を消してくれた。
*****
広範囲の魔法は、後先考えて使わないと駄目だな。
危うく自爆するとこだった。
戦闘って、こんなに考えることが必要なんだ。
常に剣と魔法の色々な組み合わせを、リアルタイムで考えながら戦闘しなくちゃいけないのか。頭脳戦じゃん。
難しいなあ。
魔導騎士が少ないのもわかる気がする。
魔法だけの戦闘や、剣だけの戦闘だって、いっぱいいっぱいだったのに。
両方極めろとか。どんな無理ゲーだよ。
第一、俺に頭脳戦なんてできるわけないじゃん。頭悪いし。
「目くらましで相手の意表をつく作戦は良かったが。最後がこれでは、及第点はやれないな」
バルに、しみじみとダメ出しされてしまった。
そうだね……。
自分の魔法でパニックになっちゃダメダメだよな。反省。
「助けるのではなく、追撃するくらいでないと」
真顔で言った。
「え、そっち!?」
いや、いくら治るからって、痛みを感じる相手に遠慮なく攻撃なんて出来ないってば。
憎いわけでも、敵でもないんだから。
*****
バルはもう規格外なので、除くとして。
現在セントロ王国最高戦力である魔導騎士長との戦闘訓練第一戦は。
俺の自爆もあってドロー、という結果に終わったのだった。
初戦敗退じゃなくて良かった……ということにしておこう。
俺的には、よく頑張ったと思う。
「媒介もない上空で魔術を展開させるとか、初めてのことで驚きました。しかも、矢から煙に変化する二段階術式とは。いったい、どのような術式を使用されているのか、よかったらご教授願えませんか?」
ミゲルが、破れたマントを魔法で直しながらこっちに来て、嬉しそうに言った。
そんな、わくわくした顔で聞かれても困る。
何となくイメージで、としか言えない。術式とか、何がなにやらさっぱりです。
どうやら通常は、何もない上空に魔法の矢を発生させることなんて不可能らしい。
媒介になる何らかの物質が存在しないと、魔術を展開できないとか。
俺はもやもやが移動できる範囲なら、どこでも可能なんだけど。
呪文を唱えると現れる、このもやもやの正体なんて俺にはわからないし、これが何で構成された物体だとか、どういう術式なのかの説明もできない。
思わずバルに助けを求める視線を送ると。
「私にも理論が全くわからんのだが。優輝は感覚でそれが出来てしまうそうだ」
何でバルが得意げなの?
「陛下にも……? それは……すごいですね……。さすがは選ばれし勇者様……」
ミゲルに尊敬の目で見られてしまった。
たぶんこれは勇者特有の、なんか特殊な能力に違いない。
そう思っといて……。
*****
どうやらミゲルは真っ直ぐな性格で、バルみたいな嵌め技を使ってこなさそうだ。
複雑なことは考えず、直感で当たった方がいいかな?
本日の戦闘訓練の反省会も終えて。
「では、また明日。午後にお伺いしますので、よろしくお願いします」
ミゲルはびしっと騎士の礼をして。
直したマントを翼に変えて。
城の屋上からグライダーみたいに飛んで、王都へ戻っていった。
泊り込みじゃなく、日帰りなんだ? ここまで出張訓練、ご苦労様でした……。
マントだけ翼に変化するとか、面白い変化魔法だなあ。
今度俺も試してみようかな。まずは低いとこで。
俺は石橋を叩いて渡る慎重派なのだ。
そういえば。
”勇者としての能力”って。どういうのがあるんだろう。
勇者にしかない、魔王を抑える力、だっけ? 星が何とか言ってたけど。
具体的に、どんな感じだろうか。
フォースの力みたいな、目に見えてわかるやつかな?
あっ、そうだ。
千年以上生きてるなら、もしかして。
バルは前の勇者がどんなだったか、リアルタイムで見て知ってる可能性があるかも!
「バルは、千年前の勇者を知ってる?」
聞いてみると。
「ああ、私が子供の頃、2年半にも及ぶ死闘の末、魔王を封じたと聞く。クラテルとの国境辺りで召喚されたとか……」
やっぱり知ってた。
さすがだ。
歴史の生き証人……。
勇者は二年半もの間、ずっと魔王と戦ってたのか。
そこまでの強敵なんだ。頑張らないと。
バルがフォローしてくれるって安心感はあるけど。封じるのは俺の役目なんだし。
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