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J・J
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一足先に、新しく出来た館に向かう。
万が一でも危険が無いよう、下見をしておかねば。
職人の腕は信用しているが。見落としがある可能性は、ゼロでは無い。
外観は、まるで貴族の住むような屋敷だ。
扉を開けると、広いピロティ、正面に大きな螺旋階段。それを上がると階段は左右に分かれ、両側にいくつかの部屋がある。
踊り場の壁には額縁があり、救世主の肖像画製作中と書かれていた。大作になるので時間がかかるようだ。
帰宅する度に、可愛いクロエに迎えられるのか。悪くない。
階段を上ったので、まずは二階を見て回る。
客間が二つ並び、一部屋が丸ごとプラカルになっていて、沢山の服が下がっていた。夜の森の家に置いていた物まである。わざわざ持って来たのか。
真ん中には居間、奥に俺達の使うだろう寝室、物置。
ここにも家から持って来た荷物がある。
どこの部屋も、今すぐ住めるように整えてあった。
屋根裏部屋もあり、荷物が置けるようになっていた。
大きな天窓もついており、ここでクロエと二人、星を眺めてもいいだろう、と想像する。
一階に降りると、階段の裏には食堂と厨房。応接間、書斎。
書斎の本棚には、新しい魔導書や、毒などについて書かれた書物が並んでいた。恐らくデュランからの贈り物だろう。
浴室にトワレット。
クロエの喜びそうな大きな浴槽だった。何故クロエが風呂好きだと把握している……?
地下には食糧貯蔵庫、湯沸かし機。館全体に湯を送ることが可能なようだ。
使い方が書かれた紙があったので、読んで作動させておく。
†‡†‡†
特に問題なさそうなので一階に戻ると、クロエ達はまだピロティに居た。
「さすがDr.クロエ、素晴らしいお家にお住まいなんですね」
赤髪が興味深そうに見回している。
金髪巻毛は赤髪の背に隠れ、そろそろと覗いていた。
拾われてきたばかりの猫か。
「病室だけでなく、森の家にあった私物もすべて運ばれていた」
「えー……、」
クロエは素早いなあ、と呟いている。
インターンの二人が気を取られている隙に、家の間取りなどを教えておいた。
二人はしばらく生活するのには困らない程度の荷物は持ってきていたので、買い足す必要はなさそうだ。
そのまま客間に案内する。
客間には、トワレットもついており、風呂は無いがドゥシュは浴びられるようだ。
風呂が別なのは助かる。好きな時間に入りたい。
クロエと共に寝室を見に行く。
部屋の中央には大きな天蓋付き寝台が据えてある。
暗すぎず、明るすぎない照明。
窓からは月が良く見える。
まるで月の浮かぶ森が描かれた、幻想的な絵のようだ。
ここに寝室を作った者は、随分と俺の好みを把握している。
†‡†‡†
リン、と呼び鈴の音がした。
クロエは急患かと思ったようで、玄関へ走ったが。この気配は。
「こんばんはー、差し入れ持って来たよ」
デュランが夕飯を持って来たのだ。
「まだ食事とってないだろ? ロイに差し入れしろって言われてさ。僕もまだだから、一緒にいいかな?」
小さな身体に不相応な大きな包みを示す。
デュランは重力操作魔法の使い手でもある。
本気を出せばこの館を持ち上げるくらい、簡単だろう。
攻撃系魔法以外は、占いくらいしか得意ではない。
仲間からも”死を呼ぶ黒兎”の二つ名で呼ばれていたほどである。
自国民からも恐れられ、気難しいと有名なデュランがここまで親しく接するようになるとは意外だった。
クロエが来てからというもの、放つ気配も、かつてないほど柔らかだ。
これもクロエの人柄だろう。
「もちろんだよ。ありがとう」
クロエはデュランを招き入れた。
インターンの二人を呼びに行く。
「デュランが食事を持って来たが、食えるか?」
ちょうど荷物を置き終わり、私服に着替えていたところだった。
食堂まで案内してやると。
クロエとデュランが食卓に食事を並べていた。
ヴァン・ルジュとジュドランジュの瓶に、人数分のタッス。
クロエは未成年だからアルコールは駄目、と言ってインターンの二人のタッスにジュドランジュを注いでいた。
とっくに成人だが、二人はクロエには逆らわなかった。
クロエの居た世界では、20歳までは成人とは認められないので、飲酒をしてはいけないのだそうだ。
「いただきまーす」
クロエが手を合わせているのに、皆従う。
これは、サンドイッチというやつだったな。
インターンの二人は、こんなの見たこともないご馳走だと言い、喜んで食べている。
ペイ・プリマットの村はいくつか見たが。
鶏の卵も簡単には手に入らないのだろう。肉など、滅多に見ないご馳走のようだ。
病に罹った時、栄養状態が悪いと病状が悪化しやすいのだという。
ロイが復興に手を貸すと言った以上、ペイ・プリマット国民の生活が今以上、向上するだろうことは保証できよう。
時間は掛かるだろうが。
†‡†‡†
「二人で住む家にしては、食堂も広いんだけど。この家、誰が設計したの?」
クロエがデュランに訊いた。
「ああ、大まかな指示を出したのはアンリだよ。来客もあるだろうからって余裕を持たせたんだってさ。ちょっと広くしすぎたね。アンリも王族だから、感覚がずれてるんだよね。でも、救世主の家としては地味だよ?」
アンリがもっと豪華にしたいと言っていたのを、クロエはそういうのは好みではないだろう、と皆で止めたという。
それで正解だ。
「……まさか、寝室も?」
「寝室? それは僕だよ。我ながら素敵な寝室になったと思うけど。気に入ってくれた?」
デュランだったのか。
さすが、我が国一番の魔法使い。
「ああ、とても気に入った」
頷いてみせた。
万が一でも危険が無いよう、下見をしておかねば。
職人の腕は信用しているが。見落としがある可能性は、ゼロでは無い。
外観は、まるで貴族の住むような屋敷だ。
扉を開けると、広いピロティ、正面に大きな螺旋階段。それを上がると階段は左右に分かれ、両側にいくつかの部屋がある。
踊り場の壁には額縁があり、救世主の肖像画製作中と書かれていた。大作になるので時間がかかるようだ。
帰宅する度に、可愛いクロエに迎えられるのか。悪くない。
階段を上ったので、まずは二階を見て回る。
客間が二つ並び、一部屋が丸ごとプラカルになっていて、沢山の服が下がっていた。夜の森の家に置いていた物まである。わざわざ持って来たのか。
真ん中には居間、奥に俺達の使うだろう寝室、物置。
ここにも家から持って来た荷物がある。
どこの部屋も、今すぐ住めるように整えてあった。
屋根裏部屋もあり、荷物が置けるようになっていた。
大きな天窓もついており、ここでクロエと二人、星を眺めてもいいだろう、と想像する。
一階に降りると、階段の裏には食堂と厨房。応接間、書斎。
書斎の本棚には、新しい魔導書や、毒などについて書かれた書物が並んでいた。恐らくデュランからの贈り物だろう。
浴室にトワレット。
クロエの喜びそうな大きな浴槽だった。何故クロエが風呂好きだと把握している……?
地下には食糧貯蔵庫、湯沸かし機。館全体に湯を送ることが可能なようだ。
使い方が書かれた紙があったので、読んで作動させておく。
†‡†‡†
特に問題なさそうなので一階に戻ると、クロエ達はまだピロティに居た。
「さすがDr.クロエ、素晴らしいお家にお住まいなんですね」
赤髪が興味深そうに見回している。
金髪巻毛は赤髪の背に隠れ、そろそろと覗いていた。
拾われてきたばかりの猫か。
「病室だけでなく、森の家にあった私物もすべて運ばれていた」
「えー……、」
クロエは素早いなあ、と呟いている。
インターンの二人が気を取られている隙に、家の間取りなどを教えておいた。
二人はしばらく生活するのには困らない程度の荷物は持ってきていたので、買い足す必要はなさそうだ。
そのまま客間に案内する。
客間には、トワレットもついており、風呂は無いがドゥシュは浴びられるようだ。
風呂が別なのは助かる。好きな時間に入りたい。
クロエと共に寝室を見に行く。
部屋の中央には大きな天蓋付き寝台が据えてある。
暗すぎず、明るすぎない照明。
窓からは月が良く見える。
まるで月の浮かぶ森が描かれた、幻想的な絵のようだ。
ここに寝室を作った者は、随分と俺の好みを把握している。
†‡†‡†
リン、と呼び鈴の音がした。
クロエは急患かと思ったようで、玄関へ走ったが。この気配は。
「こんばんはー、差し入れ持って来たよ」
デュランが夕飯を持って来たのだ。
「まだ食事とってないだろ? ロイに差し入れしろって言われてさ。僕もまだだから、一緒にいいかな?」
小さな身体に不相応な大きな包みを示す。
デュランは重力操作魔法の使い手でもある。
本気を出せばこの館を持ち上げるくらい、簡単だろう。
攻撃系魔法以外は、占いくらいしか得意ではない。
仲間からも”死を呼ぶ黒兎”の二つ名で呼ばれていたほどである。
自国民からも恐れられ、気難しいと有名なデュランがここまで親しく接するようになるとは意外だった。
クロエが来てからというもの、放つ気配も、かつてないほど柔らかだ。
これもクロエの人柄だろう。
「もちろんだよ。ありがとう」
クロエはデュランを招き入れた。
インターンの二人を呼びに行く。
「デュランが食事を持って来たが、食えるか?」
ちょうど荷物を置き終わり、私服に着替えていたところだった。
食堂まで案内してやると。
クロエとデュランが食卓に食事を並べていた。
ヴァン・ルジュとジュドランジュの瓶に、人数分のタッス。
クロエは未成年だからアルコールは駄目、と言ってインターンの二人のタッスにジュドランジュを注いでいた。
とっくに成人だが、二人はクロエには逆らわなかった。
クロエの居た世界では、20歳までは成人とは認められないので、飲酒をしてはいけないのだそうだ。
「いただきまーす」
クロエが手を合わせているのに、皆従う。
これは、サンドイッチというやつだったな。
インターンの二人は、こんなの見たこともないご馳走だと言い、喜んで食べている。
ペイ・プリマットの村はいくつか見たが。
鶏の卵も簡単には手に入らないのだろう。肉など、滅多に見ないご馳走のようだ。
病に罹った時、栄養状態が悪いと病状が悪化しやすいのだという。
ロイが復興に手を貸すと言った以上、ペイ・プリマット国民の生活が今以上、向上するだろうことは保証できよう。
時間は掛かるだろうが。
†‡†‡†
「二人で住む家にしては、食堂も広いんだけど。この家、誰が設計したの?」
クロエがデュランに訊いた。
「ああ、大まかな指示を出したのはアンリだよ。来客もあるだろうからって余裕を持たせたんだってさ。ちょっと広くしすぎたね。アンリも王族だから、感覚がずれてるんだよね。でも、救世主の家としては地味だよ?」
アンリがもっと豪華にしたいと言っていたのを、クロエはそういうのは好みではないだろう、と皆で止めたという。
それで正解だ。
「……まさか、寝室も?」
「寝室? それは僕だよ。我ながら素敵な寝室になったと思うけど。気に入ってくれた?」
デュランだったのか。
さすが、我が国一番の魔法使い。
「ああ、とても気に入った」
頷いてみせた。
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