オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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J・J

世界を救う者

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ロイに報告するため、城に上がる。

メイベルは踊るような足取りでクロエの隣を歩いている。
後ろには見習いの二人、最後尾にパーシー。

立哨しているゲリエ達も、心なしか誇らしげな面持ちである。


「クロエよ、世を救う大役、ご苦労だった。ジェリーは健勝であったか?」
「なかなか復興が進まないようで憂鬱そうでしたけど健康でした」

「なるほど。こちらからも人員を回すとしよう。……アンリ、」
ロイに呼ばれ、アンリが書類を持ってくる。

ペイ・プリマットの復興がかなり遅れていることは、鳥に手紙を持たせて報せておいた。
その事でアンリと相談し、力自慢の職人を支援に送ることを決めたという。

見習いの二人も、ロイの決断の早さには感心していた。


†‡†‡†


クロエはジェローム王から預かった親書をロイに渡し、ボール・ヴィラージュでのことを話した。

「こちらでも、動物とのは禁止したほうがいい思います……」

「そのような変態はこの国にはいないと思うが。国民にそう伝えておこう」
ロイは頷いてみせた。


ヒトと獣人が結ばれることはあっても、獣と獣人が結ばれることはない。

通常、獣とは言葉が通じないというのもあるが。
獣の姿になろうとも、獣人は獣とは異なる生物である。本能的に、それを忌避する。

ヒトにはそのような禁忌が無かったのか。
言葉も通じない相手を一方的に犯すなど、信じられん蛮行である。


「そこの小鹿ファンを私に紹介してはくれぬのか?」

「あ、親書にも記されてたかと思いますが、診療所へインターンに来たルイとベルナールです」
クロエは自分の後ろで緊張しながら跪いている二人を紹介した。

ふるふると震えているので小鹿か。
成程上手いことを言う。

インターンとは何だ。見習いアプランティの事か?
二人はアンリから、我が国に滞在するための許可証を渡されていた。


「僕はそういうのもらって無いけど。いいのかな?」
おずおずと見上げてきた。

クロエは国王から直々に召喚された救世主なので必要ない。堂々としていればいいのだが。
どうしてこう、自己評価が低いのだろうか。


†‡†‡†


メイベル達も、まだまだ話をし足りないようだったが。

午後の診察があるので、診療所に戻ることになった。
デュランが午後から診察との看板を出しに行ったようだ。

戻ったその日の午後から診察を再開するとは。
クロエは生真面目すぎる。


ボール・ヴィラージュから来た子供、ドニが完治するまで、念のため城には来ないというクロエに、ドニが治ったら宴を開こうとメイベルが誘っていた。

「看病などデュランの殺……魔導人形プーペ・マギカに任せればよいではないか」
ロイは不服そうだ。
危うく口を滑らせそうになっていたが。

デュランの前であれを殺戮人形プーペ・ダバタージュと呼ぶと怒られるぞ。

危険な看病など、病が伝染することのない人形に任せるべきだと思うのは、俺も同感だ。
だが、クロエは人一倍、責任感が強いのだ。

そこもクロエの魅力的なところであるのだが。
危険を顧みないのは困る。

何があっても俺が護るが。一日中目を光らせている訳にもいかない。
クロエも窮屈に思うだろう。


「陛下、子供のような我儘を言ってクロエ殿を困らせてはいけません」
「お前とて、もっと話がしたいと思っているだろうに」

「そうですが。やるべき事を済ませてから仰っていただきたい。さ、今のうちに」
アンリがロイを抑えている間に城を出た。


†‡†‡†


見習いの二人を連れ、診療所に向かう。

「うわ、何これ」

診療所と城の間に立派な館が出来ていたのを見て。
クロエが驚いていた。

ロイが、自宅と診療所が離れていたら通いにくいだろうと、ここに建てさせたらしいが。
本当のところはクロエをできるだけ手元に置いておきたかったからに違いない。

この国を救った救世主の住む家である。
大変な名誉だと、職人達もさぞ張り切ったことだろう。

短期間で建てたようには見えない。やたら凝った造りだ。


診察所の前には。
まだ診察時間前だというのにも関わらず、多数の患者が並んでいた。

「お待たせしました。すぐ開けるので!」
クロエが慌てて診察所に飛び込むと。


「おかえり、。君はこの国じゃなく、世界を救ったよ」
デュランが、弾む声で出迎えた。


†‡†‡†


占いの結果は、時間の経過、占いを聞いた者の行動などによって刻一刻と変わるものである。
荷台を返しに来たグリエから話を聞き。

クロエの行動により、歴史が変わったため。
デュランは未来を占った。

その結果が出たのだ。


「最悪の未来は、回避出来たんだ!」
クロエは嬉しそうにデュランの元へ駆けて行った。

「うん。この国どころか、他の国も。病に倒れる未来はすっかり消え去った。これから未来がどう転ぼうが、これ以上の被害は出ないよ」


死人も、最小限で済んだのだが。
クロエはもっと救えていたかもしれない、と考えているのだろう。

クロエの表情は憂いを見せている。


あの時点でレシフ・ヴィラージュの者まで救うのは、クロエに予知能力があったとしても不可能だっただろう。
この先、病に苦しむはずであった大勢の生き物を死の運命から救えたのだ。

その功績は、胸を張って誇るべきだ。


「そうだ、初めの村で耐性の出来た人の血から作った抗体があるんだ。これ、ドニに打ちたいんだけど」
クロエは硝子ヴェールで出来た筒を取り出した。

「そりゃすごいや。僕の魔導人形でやっておくよ。君は診療所を開きなよ。患者が待ってるんだろ?」

クロエは扉の方を振り向いて、あっ、という顔をした。
「そうだった。ありがとう、デュラン」

「これくらいお安い御用さ」
デュランはドニの処置を終えた後、占いの結果をロイに報告しに行くと言い。


今にも踊り出しそうな足取りで扉に向かった。
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