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J・J
ツガイと森へ
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「も、いい加減、放せってば。今日は森を散策するんだろ」
しばらくはおとなしく口づけを受けていたクロエだったが。
抗議するように、俺の腕をぺしぺしと叩いた。
その可愛らしい仕草に、思わず抱きしめたくなる。
どこまでも罪なツガイである。
「離したくないが。仕方ない」
しつこくして、嫌われたくはないので。
衣装箪笥に着替えを取りに行く。
†‡†‡†
今日は森の探索なので、正装ではなく、脱ぎやすいものを選んだ。
クロエのは貴族が狩猟の時に着る服だ。
何を着ても可愛い。
使用人から朝食と昼食の入ったかごを受け取り、待ち合わせ場所へ向かう。
城門前でパーシーが待機していた。
馬車に二頭の馬を付けているところだった。御者は猫の獣人か。
「今日は世話になる」
挨拶をし、馬車に乗り込む。
朝食用の包みに入っていたのは、昨日クロエがアンリに話した”サンドイッチ”というものらしい。
パンに卵のペーストやジャンボンなどを挟んだ食べ物だ。
これは手軽に食事が摂れるな。素晴らしい。
パーシーは羨ましそうにクロエの手元を見ていた。
お前はもう朝食を済ました後だろうが。
「パーシヴァルってなんか肉食獣……ネコ科っぽいよね。豹とか?」
「うぉ、どうしてわかっちゃったのかな。耳出てた?」
パーシーは慌てて耳を抑えた。
何となく見た感じの印象で言ったというが。
生き物が好きだというだけあって、詳しいのだろう。俺の種族もひと目で言い当てたしな。
「年の功か?」
「そこまでトシじゃないよ、失礼だな」
腹に肘打ちをされたが、自分が痛かったようだ。
拗ねたような顔をして、腹をくすぐってきた。
25歳とは思えない可愛らしさだ。
「ん? どゆこと?」
教えていいか、とクロエを見ると。
こくりと頷いたので。
パーシーにクロエの本当の年齢を教えてやると。
「何だって!? マジで!?」
驚きのあまり、大きな声を上げ。
馬が驚いて、馬車が揺れた。
†‡†‡†
「まったくもう、いきなり大声出さないでください。馬が驚くじゃありませんか」
猫の御者に叱られ、パーシーはぺこぺこと頭を下げていた。
「あーびっくりした。年齢を聞いて驚いたのはデュラン師匠以来だよ」
まだ動悸が収まらないようだ。
驚き過ぎだ。
「師匠? 何でデュランがパーシヴァルの師匠なの?」
クロエには、シュバリエであるパーシーが何故デュランの師匠なのかわからないようで、首を傾げている。
「ええとね。シュバリエになるには、ちょっとだけでも魔法が使えないといけないんだよね。だからここのシュバリエは皆、デュラン師匠の弟子ってわけ」
通常、獣人の国では魔法の才能があること自体が珍しく、貴重である。
魔法はヒトの方が得意なものが多いと聞く。
貴重ではあるが。
使える魔法の種類によって就ける職業が明確に分けられるのだ。
俺には魔法使いになれるほどの才能は無かったが。
医療、動物言語、感知などの魔法が使えるので森林管理人に任命された。他になれる者も居なかった。
デュランには、まるで森林管理人になるために生まれてきたみたいな才能だね、と言われたものだ。
森林管理人になっていなければ、こうしてクロエと出逢えなかったのだから。まさに運命だったのだろう。
「クロエの本は、眩しいほど光っていたぞ」
あの輝きは、皆に見せてやりたいくらいだった。
「そりゃすごい。さすが救世主」
「それは、みんな助かってから言って。って実際呼ばれても困るけど」
まだ何もしてないのに、皆から救世主と呼ばれても困る、という。
魔法の才能があったことだけでも凄いことだが。
持って生まれた才能を鼻にかけたりはしないようだ。
もうすでに、俺は、クロエによって救われているのだが。
†‡†‡†
夜の森の入り口に到着し、馬車が停まる。
御者はここで俺達が戻るまで待機だ。
この辺には馬が食べても大丈夫な草しか生えていないし、今の時間は危険な動物も現れない。
「先日塔から見てもらった通り、城の四方が森に囲まれたこの国は、その方角により生えている植物も棲む生き物も違う。まずはざっと一周するので、だいたいの感じを知って欲しい」
服を脱ぎ、熊の姿になる。
「二人とも、俺の背に乗れ」
クロエが俺の腕などに触れ、どう上がろうか思案している様子だ。
乗せてやってくれ、と頼む前にパーシーはクロエを持ち上げ。
俺の背に乗せ、自分もひらりと飛び乗ってくる。
「……Fonctionnement par gravité」
背から落ちないよう、二人に魔法を掛ける。
過保護だな、というようにパーシーが笑った気配がした。
ツガイに気を遣うのは当然のことだ。
お前はついでだ。
落ちたらクロエが驚くからな。
さすがに全速力で走るのはやめておこう。
何となく様子が見られるくらいの早さで森を駆けることにする。
まずは夜の森をぐるりと周り、雨の森へ向かう。
次は暁の森、輝きの森。
なるべく多くの動物や、植物の生い茂る場所を選ぶ。
森は俺の庭だ。
森の中であれば、俺にわからないことはない。
†‡†‡†
「うん、だいたい把握した……。えっと、まずは暁の森を捜索したいんだけど」
「わかった」
東に向き直り、暁の森へ駆ける。
「え、今ので把握できたの? すごい」
パーシーは感心しているが。
それはクロエを過小評価し過ぎている。
「向こうとあまり系統が変わらなかったから……」
こちらの生態系と変わらないのだと言った。
クロエの住んでいた世界の生き物を、全てこの森に凝縮したような感じらしい。
森を称賛され。
まるで自分が褒められたように嬉しくなった。
夜の森では、茸を採取したかったようだ。
毒茸は、食用のものとは違うかごに入れている。
口を挟まずにいても、危険なものを把握している。
むしろ俺よりも詳しい。
「あ、自信がない、よくわからない茸には手を出さないでね。食用によく似た毒キノコも多いから。胞子が混ざったら全滅だし」
クロエに注意され。
手伝おうとしていたパーシーは驚いてその場で飛び上がった。
しばらくはおとなしく口づけを受けていたクロエだったが。
抗議するように、俺の腕をぺしぺしと叩いた。
その可愛らしい仕草に、思わず抱きしめたくなる。
どこまでも罪なツガイである。
「離したくないが。仕方ない」
しつこくして、嫌われたくはないので。
衣装箪笥に着替えを取りに行く。
†‡†‡†
今日は森の探索なので、正装ではなく、脱ぎやすいものを選んだ。
クロエのは貴族が狩猟の時に着る服だ。
何を着ても可愛い。
使用人から朝食と昼食の入ったかごを受け取り、待ち合わせ場所へ向かう。
城門前でパーシーが待機していた。
馬車に二頭の馬を付けているところだった。御者は猫の獣人か。
「今日は世話になる」
挨拶をし、馬車に乗り込む。
朝食用の包みに入っていたのは、昨日クロエがアンリに話した”サンドイッチ”というものらしい。
パンに卵のペーストやジャンボンなどを挟んだ食べ物だ。
これは手軽に食事が摂れるな。素晴らしい。
パーシーは羨ましそうにクロエの手元を見ていた。
お前はもう朝食を済ました後だろうが。
「パーシヴァルってなんか肉食獣……ネコ科っぽいよね。豹とか?」
「うぉ、どうしてわかっちゃったのかな。耳出てた?」
パーシーは慌てて耳を抑えた。
何となく見た感じの印象で言ったというが。
生き物が好きだというだけあって、詳しいのだろう。俺の種族もひと目で言い当てたしな。
「年の功か?」
「そこまでトシじゃないよ、失礼だな」
腹に肘打ちをされたが、自分が痛かったようだ。
拗ねたような顔をして、腹をくすぐってきた。
25歳とは思えない可愛らしさだ。
「ん? どゆこと?」
教えていいか、とクロエを見ると。
こくりと頷いたので。
パーシーにクロエの本当の年齢を教えてやると。
「何だって!? マジで!?」
驚きのあまり、大きな声を上げ。
馬が驚いて、馬車が揺れた。
†‡†‡†
「まったくもう、いきなり大声出さないでください。馬が驚くじゃありませんか」
猫の御者に叱られ、パーシーはぺこぺこと頭を下げていた。
「あーびっくりした。年齢を聞いて驚いたのはデュラン師匠以来だよ」
まだ動悸が収まらないようだ。
驚き過ぎだ。
「師匠? 何でデュランがパーシヴァルの師匠なの?」
クロエには、シュバリエであるパーシーが何故デュランの師匠なのかわからないようで、首を傾げている。
「ええとね。シュバリエになるには、ちょっとだけでも魔法が使えないといけないんだよね。だからここのシュバリエは皆、デュラン師匠の弟子ってわけ」
通常、獣人の国では魔法の才能があること自体が珍しく、貴重である。
魔法はヒトの方が得意なものが多いと聞く。
貴重ではあるが。
使える魔法の種類によって就ける職業が明確に分けられるのだ。
俺には魔法使いになれるほどの才能は無かったが。
医療、動物言語、感知などの魔法が使えるので森林管理人に任命された。他になれる者も居なかった。
デュランには、まるで森林管理人になるために生まれてきたみたいな才能だね、と言われたものだ。
森林管理人になっていなければ、こうしてクロエと出逢えなかったのだから。まさに運命だったのだろう。
「クロエの本は、眩しいほど光っていたぞ」
あの輝きは、皆に見せてやりたいくらいだった。
「そりゃすごい。さすが救世主」
「それは、みんな助かってから言って。って実際呼ばれても困るけど」
まだ何もしてないのに、皆から救世主と呼ばれても困る、という。
魔法の才能があったことだけでも凄いことだが。
持って生まれた才能を鼻にかけたりはしないようだ。
もうすでに、俺は、クロエによって救われているのだが。
†‡†‡†
夜の森の入り口に到着し、馬車が停まる。
御者はここで俺達が戻るまで待機だ。
この辺には馬が食べても大丈夫な草しか生えていないし、今の時間は危険な動物も現れない。
「先日塔から見てもらった通り、城の四方が森に囲まれたこの国は、その方角により生えている植物も棲む生き物も違う。まずはざっと一周するので、だいたいの感じを知って欲しい」
服を脱ぎ、熊の姿になる。
「二人とも、俺の背に乗れ」
クロエが俺の腕などに触れ、どう上がろうか思案している様子だ。
乗せてやってくれ、と頼む前にパーシーはクロエを持ち上げ。
俺の背に乗せ、自分もひらりと飛び乗ってくる。
「……Fonctionnement par gravité」
背から落ちないよう、二人に魔法を掛ける。
過保護だな、というようにパーシーが笑った気配がした。
ツガイに気を遣うのは当然のことだ。
お前はついでだ。
落ちたらクロエが驚くからな。
さすがに全速力で走るのはやめておこう。
何となく様子が見られるくらいの早さで森を駆けることにする。
まずは夜の森をぐるりと周り、雨の森へ向かう。
次は暁の森、輝きの森。
なるべく多くの動物や、植物の生い茂る場所を選ぶ。
森は俺の庭だ。
森の中であれば、俺にわからないことはない。
†‡†‡†
「うん、だいたい把握した……。えっと、まずは暁の森を捜索したいんだけど」
「わかった」
東に向き直り、暁の森へ駆ける。
「え、今ので把握できたの? すごい」
パーシーは感心しているが。
それはクロエを過小評価し過ぎている。
「向こうとあまり系統が変わらなかったから……」
こちらの生態系と変わらないのだと言った。
クロエの住んでいた世界の生き物を、全てこの森に凝縮したような感じらしい。
森を称賛され。
まるで自分が褒められたように嬉しくなった。
夜の森では、茸を採取したかったようだ。
毒茸は、食用のものとは違うかごに入れている。
口を挟まずにいても、危険なものを把握している。
むしろ俺よりも詳しい。
「あ、自信がない、よくわからない茸には手を出さないでね。食用によく似た毒キノコも多いから。胞子が混ざったら全滅だし」
クロエに注意され。
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