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リヒト

甘い夜が始まる

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『アンリ兄様、クロエを独り占めするなんてずるいです』

アンリと話し込んでいたら、メイベルが腕にしがみついてきた。
拗ねてふくれた顔も可愛らしい。

『メル、クロエは自分の知識をこの国のために役立てたいと思って話しているのだぞ。ありがたいと思いこそすれ、我儘を言って水を差してはいけない』
ルロイ王に注意されて、しゅんとしてる。


「メイベル、こっちの料理やお菓子の話をしてくれないかな? 他にも思い出せるかも」
と言うと。

花がほころぶような笑顔を向けた。

『喜んで! じゃあ、アンリ兄様も来てください。記録係ね!』
アンリの手も引いて。

並んで椅子に座る。


まだまだ子供だな、とルロイ王は言ってるけど。
メイベルも、国のためを思って、頑張ってると思うよ。

子供でいられるのは今のうちだけだし。


もう少し、甘えてもいいんじゃないかな。
外国にお嫁に行く、来年まで。


†‡†‡†


パイとタルトはあるけど、甘くはないのか。
タルトの生地はキッシュに使うとか。

料理長の作ったウサギのミートパイは絶品? それは是非食べてみたい。
今度差し入れてくれるって? 楽しみだ。

「魚のパイ包み焼きも良いけど、アップルパイも美味しいよ」
パイのつぼ焼きとかもいい。

魚は、塩釜焼きとかもあったな。
遠赤外線効果でふっくら焼けて、いい感じに塩味も染みて、美味しくなる。


『どれも美味しそう!』
『フルーツタルトというのも興味深い』

気付けば、周りにみんな集まって話を聞いている状況だった。
聞いてるだけでよだれが出そうとか言ってる。


料理もあらかた食べ尽くした感じだ。
食べきれないような量だったのに。獣人の胃袋ってすごい。


『そろそろ、俺のツガイを返して欲しいんだが?』

声に振り向けば。
ジャンは僕の背後に立っていた。

この中で一番の巨体なのに、音もなく移動するのはやめて欲しい。
驚くじゃないか。


『……今日は、だからな』
その言葉に、頬がカッと熱くなった。


そうだった。
とりあえず、ドニが退院したらって。

じゃあ、今夜は。


†‡†‡†


『約束って?』
小首を傾げたメイベルに。

『騒動がひと段落ついたら、、と約束した』
何で正直に言っちゃうかな!?


『え、お前、まだヤってなかったのかよ!?』
パーシヴァルが叫んだ。

ジャンですら、子供の耳もあるからはっきり言わなかったのに!

それで、どういう意味かを理解したみんなは。
笑っていいのかどう反応していいのか、といった微妙な顔をした。

うっかり訊いてしまったメイベルは、真っ赤になってる。


『で、では私たちは村に帰りますので。お世話になりました!』
唯一わかってないドニの手を引いて。

ドニの両親は慌てて退出し。


『ルイにベルナール、今日は城に泊まって行くがよかろう』
ルロイ王は妙な気の使い方をして。

『は、はい!』
『お言葉に甘えさせていただきます!』
二人はそれに追従した。


アンリは強張った顔で。
動揺しているのか、メモにひたすら謎の線を描いているし。


『後はいいから、もう家に帰ってゆっくり休むといいよ』
デュランは声が完全に笑っていた。


『では、失礼する』
ジャンは僕をひょいと抱き上げて。

悠々と食堂を出たのだった。


†‡†‡†


僕たちこれからエッチなことしまーす! って宣言したようなものじゃないか。
ような、じゃない。

間違いなく、宣言した。


うわあ。
恥ずかしすぎる……!!

『ロイも気が利く。記念すべきこの夜を、二人きりにしてくれるとはな』
ジャンは上機嫌だ。


ずっと我慢させてた訳だし。
実際に嬉しいんだろう。笑みを浮かべている。


でも僕は、今日がいわゆる初夜だって暴露された挙句に。
抱き上げられたまま城から家まで連れてかれて。

むちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!!


玄関から中に入るなり。
もう我慢も限界、といった様子でキスをされた。

「んん、」
雰囲気からして、この場で押し倒されかねない、と怖くなった。

いくら今日は家に誰も居ないからって。
こんな場所じゃいやだ、とジャンの腕を叩く。


「……は、」

名残惜しげに唇が離れて。
額にキスをされる。

階段を段飛ばしする勢いで上っていく。
と思ったら、もう寝室に着いていた。早い。


†‡†‡†


ベッドにそっと寝かされて。
ジャンはむしり取るように自分の服を脱いで、あっという間に全裸になった。

ベッドに乗り上げると。
僕の服は、丁寧に脱がしていく。


今すぐにでも、抱きたいんだろう。
相当興奮しているのは、下半身を見ればわかる。

なのに、手つきはあくまでも優しくて。

愛されてるんだな、と感じられて。
嬉しくなる。


目が合って。
またキスをされて。

じっと見つめられて、目を閉じる。

最初の時の、やり直しだとわかる。
あの時は、訳もわからずにいたけど。今は違う。

僕も、わかった上で、目を閉じたんだ。


ジャンは僕の首筋に、軽く歯を立てた。
途端に背筋を駆け抜けていく、不思議な感覚。

怖気とは違う。痛みとも違う。
これは、何だろう。


『見た目は幼いが。成熟した、甘い果実のような匂いがした』
首や鎖骨に舌を這わされる。

何だかおかしい。
今までとは、何か違う感じだ。


「は、……あ、」
触れられる前から、胸の先が固くなってる。

まさか、もう感じてるのか? まだ、キスされたくらいなのに。


『今は更に、全身から芳香を放っているようだ。……狂おしいほど、甘い』
それって。
ツガイを誘惑するフェロモン?
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